ユマクトプロデュース『リリオム』(2度目)02/02-06恵比寿・エコー劇場

リリオム
リリオム

 土曜日の夜に2度目を拝見したところ(⇒1回目のレビュー ⇒稽古場レポート)、全く別のお芝居になっていました。舞台は進化するんですよね。期待どおりの空気、感覚を味わえました。泣いちゃったりも。

 俳優が作品のために、その場で起こる事件のために、舞台上で生きていました。細やかな工夫があちこちで実を結び、緻密で豊かなコミュニケーションによって、戯曲の世界が立ち上がっていました。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。いつもながら妄想炸裂しています。

 オープニングの歌が良かった~~~。幕開きで完全に異世界に連れて行ってくれました。歌がうまい女優(山﨑薫、横山友香、香織withアコーディオン)の心を合わせた合唱と、勇ましい男たちの群舞の対比がかっこいい。音楽の国広和毅さんは2009年から田中麻衣子さんの劇団MUIBOのメンバーで、串田和美さん、栗山民也さんの作品でも活躍されているアーティストです。長年の共同創作ゆえの高品質ですね。

 出ハケの位置が謎だった悪党ログジートは“悪”の象徴なのだと、2度目でやっと読み取れました。結婚後に自信をなくし不機嫌な日々を送っていたリリオムは、悪(邪念)に取りつかれて、ギャンブルに溺れ、強盗殺人まで実行します(未遂に終わり自殺しますが)。つまりログジートはリリオムが呼び寄せた悪霊で、人間ではないんですよね。だから神出鬼没だし(突然消えるし、出ハケに整合性がない)、強盗未遂して捕まっていても逃げられる。ユリが泣きながら死んだリリオムを抱きかかえる場面で、下手から登場し、ぬけぬけと「コーヒーができたってよ」と言い放つことができる。

 会計係を待っている時、リリオムとログジートは舞台下手あたりで、お金をかけてブラックジャックをしていました。リリオムの手持ちのコインがなくなると、ログジートは「信用貸しだ」と言って、まだ手に入れていない大金をリリオムに賭けさせます。「信用貸しだ」というセリフを言う時、ログジートは下手から、照明が当たっていない上手に移動していました。顔も姿も見えない何者かが、リリオムをそそのかしたのです。この場面が私にとって「ログジートは悪霊である」という解釈の決定打になりました。常に背中が曲がっていて、顔色が悪そうな役作りもそういう意図があったのではないかと。

 田中さんは新国立劇場演劇研修所6期生の朗読劇『ハーメルンの死の舞踏』を演出されていました。街の支配層である金持ちたちが、金貨とネズミとを同時にひりだす「大王ねずみ」を崇める宗教を信じており、街中にネズミがはびこっている…という設定のお話です。そういえばログジートの風貌、動き方はネズミに似ている気もします。
 『ハーメルンの死の舞踏』は、晩年に「お金の正体」について考えていたというヒャエル・エンデの作品で、実は『リリオム』でも同じテーマが描かれていると思いました。「信用貸し」というのは存在しないお金のやりとりで、つまり今の金融にも当てはまります。

 リリオムは結婚後、金を稼げないせいでずっと憂鬱でしたし、生まれる子供のために大金を稼がなければと思い込み、強盗を企んで、命を落としました。ユリは家族3人が暮らせればそれで良かったのに。
 お金持ちになって店も経営するようになったマリとその夫ユゴーは、7人の子供の教育を他人に任せっぱなしにして働いています。マリは社員がサボっていないかどうかを、店で見張っていると言っていました。また、マリはユゴーのことを様をつけて呼ぶようになっており、夫婦の関係も変化しています。対照的なのは、ずっと未亡人のままだったユリとその娘の姿です。貧しい家庭だけれど、娘は母ユリを尊敬しているし、2人は一緒に食事をする幸せを大いに味わっていました。

 死んだリリオムは天の判事によって裁きを受け、「地獄で身を焼き、灰になる」ことになります。地獄って何(何の表象)なんだろう…とずっと思ってたんですが、もしかしたら、「身を粉にして働くこと」や「一心不乱に学業に打ち込むこと」なのかなと思いました。終演後、以下の祝辞をふと思い出したんです。
 ⇒東京大学教養学部長 石井洋二郎「平成26年度 教養学部学位記伝達式 式辞
 「きみは、きみ自身の炎のなかで、自分を焼きつくそうと欲しなくてはならない。きみがまず灰になっていなかったら、どうしてきみは新しくなることができよう!」
 ※そういえば天の判事は、借金苦で自殺した弁護士に「金は関係ない」と、何度も、すかさず言ってましたね。

 リリオムの遺体を挟んで、ユリと女主人ムシュカートが対決する場面が興味深かったです。ムシュカートは「あんたと私だけがリリオムを愛していた、だから今、ここには私たち2人が居るべきだ」と言うのですが、ユリははっきりと否定しました。ムシュカートが「じゃあ、リリオムを愛していたのは私だけ、一番愛していたのは私なんだ」と言って(満足げに)去った後、ユリは初めてリリオム(の遺体)に「愛してる」と言います。人間は誰もが一人っきりの存在で、愛し方も同じであることはあり得ない。その孤独を引き受けたユリの姿がとても美しくて、涙が流れました。

 最後の場面。ユリは目の前にいた物乞いの正体が、リリオムであるとわかった演技をされていて、とても幸福な結末だと思いました。

 リリオム役の野口俊丞さん、ユリ役の山﨑薫さんの演技が素晴らしかったです。宇井晴雄さんの天の判事役もすごく説得力があって面白かったです。

【出演】
野口俊丞(有限会社グルー)
山﨑薫(ワタナベエンターテインメント)
横山友香(テアトル・エコー放送映画部)
扇田森也
田部圭祐
遠山悠介(Me&Herコーポレーション)
日沼さくら(ドッグシュガー)
宇田川はるか(アイティ企画)
渡辺樹里(ワンダー・プロダクション)
池田朋子
宇井晴雄(アイミーマイン)
薄平広樹(プリッシマ)
峰﨑亮介
原一登
林田航平(スペースクラフト)
菊池夏野
香織(スターダス・21)
南名弥(バイ・ザ・ウェイ)
アコーディオン演奏:香織
作:モルナール・フェレンツ
翻訳:池田朋子
演出:田中麻衣子(Theatre MUIBO)
美術:香坂奈奈
照明:北島千尋(舞台照明劇光社)
音楽:国広和毅
音響:宮崎裕之(predawn)
衣装:南名弥
宣伝美術:荒巻まりの
演出助手:竹内香織
舞台監督:村田明(クロスオーバー)
票券:翠-sui-
当日運営:吉乃ルナ
制作:荒巻まりの
制作補佐:窪田壮史
企画:ユマクトプロデュース
後援 駐日ハンガリー大使館
チケット発売開始2016年12月1日
一般 4000円 割引DAY 3700円〈全席自由〉
※当日券は各回500円増
※割引DAYは2日19:30/3日14:00の回
入場は当日ご来場順となります。開演の45分前より受付にて入場整理番号を配布致します。開場時は整理番号順にご入場、その後は受付順でのご入場になります。
http://www.yumact.com/play

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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