世田谷パブリックシアター『お勢登場』02/10-26シアタートラム

 倉持裕さんの脚本、演出で江戸川乱歩の8本の短編小説が1本のお芝居になりました。主演は黒木華さんです。上演時間は約2時間30分、休憩なし。

 衣裳がすっごく素敵です!!

写真:黒木華 撮影:細野晋司
写真:黒木華 撮影:細野晋司

 悲劇喜劇 2017年3月号に戯曲が掲載されています。ロビーで販売中でした。

悲劇喜劇 2017年 3 月号
悲劇喜劇 2017年 3 月号

posted with amazlet at 17.02.15
早川書房 (2017-02-07)

 約200席の小さな劇場にどっしりと装置が建て込まれています。まとめられたのは下記8作品(公式サイトより)。登場人物の性別が変わっていたり、つながりのない作品がつながっていたり。合間に映像もあります。
 ※タイトルのリンクは青空文庫へ。青空文庫にない作品はこちらでも読める(買える)ようです。

<本格推理もの> 
二銭銅貨
『二癈人』
D坂の殺人事件
<怪奇・幻想もの>
『お勢登場』
押絵と旅する男
『木馬は廻る』
赤い部屋
一人二役

 パンフレット(1200円)で水田航生さんが『押絵と旅する男』が一番好きだとおっしゃっていて、共感しました。推理もの、犯罪ものは種明かしを楽しめますが、常識ではあり得ない不思議な出来事を、演劇ならではの手法で立ち上げてくださるのが、やっぱり面白いです。

 出演者では水田航生さんと川口覚さんの若い男性コンビが良かったです。皆さんが複数役を演じる中で、「あの人のこの役がいい」というのもありました。黒木華さんは主演なので、もっと出番が欲しいなと思いました。いや、出番は充分に多いのかもしれませんね。全体的におしとやか過ぎた気も。

 衣装が素晴らしい!大胆な柄の着物のデザインは太田雅公さんによるもので、新国立劇場演劇『天守物語』を思い出しました。お勢が最初に着ているのは人の指、骨を連想させる着物に、血管、心臓、肉のイメージの羽織。かっちょいーーー! 蝶、虫の柄のスカートは誰かに普段から着てほしいっ。

写真左から:黒木華、寺十吾 撮影:細野晋司
写真左から:黒木華、寺十吾 撮影:細野晋司
写真左から:黒木華 撮影:細野晋司
写真左から:黒木華 撮影:細野晋司

 ここからネタバレします。間違いがあったらすみません。

・詳しい目のあらすじ(短編ごとの覚書き程度です)

 2階建ての舞台美術で両端に階段あり。2階に出てくるのは電車の車両と回転木馬。1階部分の奥は引き戸(ふすま)で開閉し、中央床では3つの台が前後(舞台面から奥)に移動します。台の上にソファーセットや大きな長持(ながもち)が乗っています。

 『二銭銅貨』⇒お勢の夫・格太郎(寺十悟)の弟・格二郎(水田航生)と、松村(川口覚)の推理エピソード。「南無阿弥陀仏」の暗号(実は点字)の映像解説がわかりやすい。

 『二癈人』⇒原作から男女の性を変更。温泉宿で偶然知り合った2人の老齢の女性が、互いの辛い人生経験を吐露する。井原(片桐はいり)が夢遊病の時に起こした事件(長屋で盗みを働いた、大家を殺したとでっち上げられる/犯人は同じ長屋に住むお勢/片桐さんのピンク地に緑の羽織が凄い!)を、顔にやけどのある斎藤(千葉雅子)が聞く。斎藤の正体はお勢(黒木華)で、正体を明かしてから、温泉宿の下男(川口覚)に自分に向かってピストルを発砲させる。お勢の胸から流れ出た血は、実は血のり。『押絵と旅する男』の中の美しい人形(黒木華)の、ただの退屈しのぎだったのだ。

 『D坂の殺人事件』⇒松村(明智小五郎ともいえる/川口覚)が長屋の古本屋の女房(片桐はいり)殺人事件の第一発見者に。犯人は同じ長屋の蕎麦屋の亭主(寺十悟)。古本屋の亭主は『木馬は廻る』でお勢にだまされる男(梶原善)で、この2人の男性は『一人二役』に登場し、おでん屋台で会話する。

 『お勢登場』⇒肺病もちで余命僅かの格太郎(寺十悟)は、子供とかくれんぼ中に大きな長持に入ったところ、外から鍵がかかって閉じ込められてしまう。妻のお勢(黒木華)は誰かと不倫中で、一度は夫を助けようとしたものの、気が変わり、蓋の上に乗って彼を窒息死させる。警察の調査では事故死。長持の蓋の裏には「オセイ」と読めるひっかき傷が残っていた。

 『押絵と旅する男』⇒ある男(寺十悟)が浅草の浅雲閣から望遠鏡で探し当てた美しい女は、「覗きからくり」の中の押絵になっている人形(黒木華)だった。男の弟を水田航生さんが演じる。兄が入り込んだ押絵とともに列車で旅をする場面では、男の弟を寺十悟さんが演じる。片桐はいりさん演じる、男の母役が良かった。

 『木馬は廻る』⇒回転木馬で働く古本屋の主人、昭夫(梶原善)は、同じ職場の若い女性、お勢(黒木華)に癒される。妻の須磨(片桐はいり)がマゾヒストで夜の生活が上手くいっていないせいもある(『D坂の殺人事件』)。回転木馬に来た客(川口覚)がお勢のスカートのポケットに封筒を入れるのを目撃した昭夫は、ポケットから封筒をこっそり奪う。ラブ・レターかと思ったら誰かの給与袋だった。あの客はスリだったのだ。昭夫は迷った末に、その金でお勢が欲しがっていたストールなどを買ってやる。実はすべてがお勢の計画だったのかも。

 『赤い部屋』⇒火事場で子供を探す母親に、「子供が火の中に」と嘘をつくエピソード、ひねくれ者の盲目の男性(あんま・梶原善)に「右の穴があるよ」と正直に伝えて、穴に落とさせるエピソード。

 『一人二役』⇒間男の振りをして自分の女房(千葉雅子)の寝床に(何もせず)通い続けたら、女房がその間男に惚れてしまい、変装した張本人である夫(寺十悟)は苦悩する。でも女房は全てお見通しだった。夫(寺十悟)は『D坂の殺人事件』の古本屋の亭主(梶原善)と、おでん屋台で会話する。2人とも長屋の住人。

・感想

 パンフレットによると乱歩は「お勢を明智小五郎のライバルに仕立てようと構想していた」とのこと。黒蜥蜴ほど有名ではないお勢に光を当てるのは、とてもいいアイデアだと思った。

 お勢役の黒木華さんとその他の方々の演技の方法が違っているため、黒木さんが地味に見えてしまったのではないか。たとえば梶原善さん、片桐はいりさんは戯画的な役作りが得意で、登場する度にその造形をわかりやすく、前面に出している。しかし黒木さんは自然に役人物として舞台上に居るスタイルなので、かみ合いづらい。黒木さんは空間に沁み込んで、そっと光るような存在感が魅力だし、その技術は確かだと思う。

 独立した短編をつなげることによる面白さはあるが、無理につなげなくてもいいのではと思うこともあった。厳密さを求めるのは正解ではないかもしれないし、原作を知らないので偉そうなことは言えないのだけれど。
 例えば、夫の格太郎が長持の中で呼吸困難を経て窒息死し、彼の家とお金を相続したお勢が(『お勢登場』)、子供と一緒に長屋に住んでいる(『二癈人』)のは不思議。お勢は『押絵と旅する男』の押絵の人形なのだから、年齢不詳(不老不死)、神出鬼没でOKということか。

 マゾの古本屋の女房(片桐はいり)が、同じ長屋に暮らす浮気性の蕎麦屋の主人(寺十吾)に、望んで殺される『D坂の殺人事件』と、同じ蕎麦屋の主人が変装して妻(千葉雅子)に迫る『一人二役』。蕎麦屋の主人が自首した後(戯曲によると事件から約1月後)、その妻と古本屋の女房の夫(梶原善)がおでん屋台で語る場面がある。殺人犯の妻とその被害者女性の夫が、回転木馬で働く若い女(お勢)のことを話すのだが、その会話の雰囲気が少々軽すぎる気がした。

 『押絵と旅する男』で映像と俳優が重なるのは、実体の不確かさが伝わる効果的な演出だったと思う。大きく一場、二場、三場に分かれていて、その合間に映像が流れる時間があるが(2階部分に映写される)、それは特に必要だとは思わなかった。上演時間が長いので休憩にはなった。俳優の顔のアップが多く、前のシーンの振り返りの役割もあったのかもしれない。でも、最終的には全てがゆるやかにつながるから、分け目を明確につけなくても良かった気がする。

 分け目といえば舞台前後に移動する3つの台の境目が、場面や空間の切れ目としてはっきりし過ぎているように感じた。異なるエピソードが混じり合うのが魅力の作品だと思うので、個人的にはもっと曖昧に、ミステリアスにして欲しかった。大胆に横断する遊びもたまにあったけれど、もっとあっていいと思った。
 乱歩関連の舞台だと1月に観たCHAiroiPLIN『peeeeep~踊る小説2~』の方が私好みだった。

写真左から:水田航生、川口覚 撮影:細野晋司
写真左から:水田航生、川口覚 撮影:細野晋司
写真左から:黒木華、粕谷吉洋 撮影:細野晋司
写真左から:黒木華、粕谷吉洋 撮影:細野晋司
写真左から:千葉雅子、片桐はいり 撮影:細野晋司
写真左から:千葉雅子、片桐はいり 撮影:細野晋司
写真左から:梶原善、川口覚、黒木華 撮影:細野晋司
写真左から:梶原善、川口覚、黒木華 撮影:細野晋司

※舞台写真は主催者よりご提供いただきました。写真のクレジットは敬称略。
≪東京、福岡、大阪≫
出演:黒木華、片桐はいり、水田航生、川口覚、粕谷吉洋、千葉雅子、寺十吾、梶原善
原作:江戸川乱歩 脚本・演出:倉持裕
【美術】 二村周作
【照明】 杉本公亮
【音響】 高塩顕
【衣裳】 太田雅公
【ヘアメイク】 宮内宏明
【演出助手】 相田剛志
【舞台監督】 橋本加奈子
一般:6,800円 高校生以下:3,400円 U24:3,400円
友の会会員割引:6,300円 ※未就学児童入場不可
https://setagaya-pt.jp/performances/201702osei.html

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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