『砂漠のクリスマス』は2012年のトニー賞で5部門にノミネートされた米国戯曲で、今回が本邦初演です。上演時間は約2時間20分(途中休憩15分を含む)。
面白い戯曲でした。『砂漠~』は原題の『Other Desert Cities』で、来年7月に熊林弘高さんの演出でも上演予定です。青年座版を観て…比べるのがとても楽しみになりました!
初日はオープニング割引で一般4200円のところ2800円!お得すぎる!俳優座劇場プロデュースのハーフチケット、劇団民藝の夜チケットなど、新劇の公演は早めに賢く買いたいですね♪
劇団青年座の海外現代戯曲シリーズの第4弾、「砂漠のクリスマス」日本初演 https://t.co/YgACjgfRTO pic.twitter.com/BQspfoACtS
— ステージナタリー (@stage_natalie) 2016年11月12日
⇒CoRich舞台芸術!『砂漠のクリスマス』
≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
2004年のカリフォルニア、砂漠都市パームスプリングスにある大豪邸。
クリスマス・イヴの朝、そこで暮らすワイエス家に長女ブルックが6年振りに帰ってきた。
共和党を支持する元映画俳優の父ライマンと元有名シナリオライターの母ポリー、
民主党支持者でアルコール依存症の伯母シルダ。
そして政治には無関心なTVプロデューサーの弟トリップ
久々に家族で過ごすクリスマス休暇に話は弾み、穏やかな時間が流れていた。
しかし、ブルックが“家族のある秘密”が明るみに出てしまう本を出版すると話し始めた途端、
場の空気は一変していく・・・
「わたしたちの。うちの家族に起きたこと全部書いた。
だから、心の準備をしてほしかった。」
封印した過去。ぶつかり合う家族。。
そして・・・ついに語られる衝撃の真実。
海外現代戯曲シリーズ第4弾は本邦初演のアメリカ戯曲。
2012年トニー賞で5部門にノミネートされた話題作が、
2016年クリスマスを前に青年座劇場で幕を開ける。
≪ここまで≫
舞台はゴージャスな家具がしつらえられた居間。大きなクリスマス・ツリーが下手寄り奥に鎮座しており、下手袖ぎりぎりの場所には暖炉があります。いかにもアメリカ人らしい住まいです。
理想に燃えて勢いよく現状に異を唱えるけれど、金持ちの親の庇護のもとにいる若者。その親のお金はどこから出たの…?と考えると、引き裂かれるような心地がします。
私が世界情勢、現代史に疎いせいで、言及されるのがどの時代の何の戦争のことなのかが、正確につかめませんでした。「ジョージ・ブッシュの息子が中東に爆弾を落とすのを云々」というセリフなど、ヒントは沢山あるはずなんですけどね。
出演者の中では母ポリー・ワイエス役の増子倭文江さんが良かったです。増子さんは読売演劇大賞・優秀女優賞を受賞された『ボビー・フィッシャーはパサデナに住んでいる』の印象も強く残っています。そう、ポリーの衣装がとっても素敵でした!透けた生地のドレスが特に。金色の大きなネックレスもインパクト大。何度も着替えてくれて嬉しいです。
ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。内容を間違ってたらすみません!
長女ブルックは東海岸で一人暮らし。うつ病になって食事をすることもできなかった時は、母がつきっきりで看病し、快復しました。伯母シルバはアル中でお金がなく、妹のポリー(母)とその夫ライマン(父)の世話になっています。次男トリップはテレビのプロデューサーで、最も社交性がありバランス感覚がある人物。今風の若者です。
長男(ブルックの兄)ヘンリーが15歳の時に入った反政府組織(過激派左翼)が、軍の施設(?)を爆弾で攻撃し、軍人が1人焼死。長男は家に帰りましたが父になぐられて逃亡し、父が警察に通報したため、シアトルで入水自殺。長女はそのことを伯母から聞き、伯母とともに回想録をまとめました。簡単に書いてしまうと、父母=政府側、長男、長女、伯母=反体制側、次男=中立という家族です。
長女は14歳で行方不明になり、15歳で自殺した兄のことを忘れられないまま、長年生きてきました。兄を失って以来、自分は幸せだったことがないと言うほど兄を愛していたんですね。そして兄を助けなかった両親を恨んでいました。6年かけて書き上げた回想録の内容を知った父母は、大きなショックを受けます。マスコミに騒がれて、穏やかな生活が再びかき乱されることは間違いありません。特にテキサス生まれの頑固な母は長女と激しくぶつかります。信条は反対かもしれませんが、性質は似ているから、またやっかいです(2人とも自分のことはよくわかっていて、頑固)。
父は長女の新作を読もうとせず、とにかく出版は自分たちが死んだ後にして欲しいと主張します。でも長女は来年2月にはニューヨーク・タイムズに載ると言うのです。とうとう父母は長らく秘密にしていた長男のことを話さざるを得なくなりました。
長男はセックスとドラッグに溺れ、堕落した者たちが集まる不潔極まりない環境にいました。爆破事件が起きた直後、長男は一人で実家に来て、父母に「自分は関係ない」と助けを求めました。父が「人間が一人死んでいるのだから、自首しなさい」とたしなめると、長男が「ベトナムではもっと多くの人が死んでいる!」などと怒鳴ったため、父は思わず長男を殴ってしまいます。すぐに逃げ出した長男を必死で探したけれど、見つからず、父母は無事に保護されてほしいとの思いで警察に通報しました。
しばらく経ち、母がボランティアで朗読を行っていた会場に、長男は現れました。実家に来た時よりもさらに薄汚れて、異臭を放っていた長男を、母は3日間、車に乗せてかくまい、きれいにしていきます。散髪して、ヒゲを剃って、新しい服を着せて…。父母は長男に遺書を書かせて、ボロボロの衣類も用意し、入水自殺に見せかけて、長男を逃がしました。3人はシアトルで今生の別れをしたのです。
長男の遺体が発見されていないため、今も事件は捜査中で、警察による父母への毎年の聞き取りも続いています。回想録が出て再び世間が騒ぎ始めると、長男が発見され、父母は容疑者を逃がした罪で捕まるかもしれない…。それでも長女は出版するのか? この場面は長女が回想録の紙の束を宙に放り投げて終わりました。
このお芝居は、舞台全体を覆う薄くて白いカーテンを長女が開けて、本格的に始まります。最後は長女が聴衆の前で、家族のことを書いた小説を朗読するシーンで終わりました。小説の内容は、父の死後、母と一緒に暮らした日々のことなど。家族が和解したように受け取れます。そして聴衆の中に長男の姿が…?と匂わせて終幕。朗読をした場所は長男が入水自殺した(と見せかけた)シアトルでした。
カーテンコールで長女と、聴衆の1人として客席にいた弟が2人で礼をした後、幕開けと同様、長女がカーテンを開けると、ソファに父母、伯母の3人が座っています。最後は5人全員が立って並んで礼をして終了。長女が家族の秘密を暴く=幕(カーテン)を開けるんですね。
長男が助けを求めてシルダに電話をしてきた時、彼女は飲んだくれていたのだと母が明かします。シルダはそのことを長女に伝えずに、父母(ライマンとポリー)を悪く言っていました。人は自分に都合の悪いことは隠すものです。
長男の事件のせいで父母は窮地に陥りますが、頼れる友人が開いてくれた食事会で、母が涙ながらに演説をして挽回します。そして父はロナルド・レーガンのスポークスマンに任命されました(たぶん)。戦争賛成という政府の意志を表明することが、父の仕事で…それをシナリオライタ―の母が支えて…その収入で子供たちは育って…今は伯母も…。
最後の長女は何歳だったのかしら。父母が亡くなってるので10年は経ってるんじゃないかと想像。ピンク色のエレガントなワンピースにネックレスが美しかったですが、頭髪にちょっと白髪を入れるなどして、年月の経過を示すと尚いいんじゃないかな~などと考えました。
ポリーがシルダに言った「いかにもエミリオ・プッチなデザインのワンピースだけど、14ドルなわけないでしょ(それ偽物よ)」というセリフ、笑っちゃったな~(笑)。すっごく可愛いしお似合いでした。
“Other Desert Cities” by Jon Robin Baitz
[出演]ブルック・ワイエス(作家)=安藤瞳
ポリー・ワイエス(その母)=増子倭文江
ライマン・ワイエス(その父)=長克巳
シルダ・グローマン(その伯母。母の姉でシナリオライターの片腕だった)=山本与志恵
トリップ・ワイエス(その弟)=久留飛雄己
脚本:ジョン・ロビン・ベイツ
翻訳:高橋知伽江
演出:須藤黄英
美術=伊藤雅子
照明=中川隆一
音響=中島正人
衣裳=西原梨恵
舞台監督=今村智宏
製作=川上英四郎
宣伝美術=村松丈彦
ユース会員先行予約開始 10月18日(火)11:00~ 青年座でのみ取扱い
一般前売開始:11月1日(火)11:00~
一般=4,200円 オープニング割引(16日のみ)=2,800円
※U-25割引(25歳以下)=3,000円
※SCPセット=16,000円(同一日5枚のチケット+プレゼント)
http://seinenza.com/performance/public/224.html
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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