川崎市アートセンター・しんゆりシアター 『「桜の園」四幕の喜劇』11/28-12/06川崎市アートセンター・アルテリオ小劇場

 文学座の五戸真理枝さんが安達紀子さんの新翻訳によるチェーホフ作『桜の園』を演出されます。同シリーズの『三人姉妹』が好きだったので楽しみにしていました。現地に伺えないので、アーカイブ映像のオンライン配信を12/19に拝見しました。上演時間は約2時間30分、休憩含む。

≪あらすじ≫ https://kawasaki-ac.jp/th/theater/detail.php?id=000383
人間はこんなにも哀しく、滑稽なものなのか……
チェーホフ最晩年の名作がしんゆりシアターに登場!

19世紀末の農奴解放令後のロシア。
長く外国に滞在していた女主人ラネーフスカヤが生まれ故郷に帰ってきた。
兄のガーエフ、娘のアーニャや養女ワーリャ、そして召使い達は彼女を喜び迎えるが、屋敷の財政は火の車。領地は抵当に入れられていて、利子を払う事もままならない。元農奴で、今はやり手の商人であるロパーヒンは、かつての主家を救おうと、領地を別荘地として売り出すことを提案するが、ラネーフスカヤとガーエフは現実に向き合うことができず、浪費を繰り返すばかり・・・。
家庭教師シャルロッタ、大学生トロフィーモフ、ご近所の領主も交え、渦巻いていく人間模様。
ついに領地〈桜の園〉が競売にかけられる日がやってくる……。

アントン・チェーホフの生涯最後の戯曲『桜の園』は、1904年にモスクワ芸術座で初演、日本では1915年に初演され、世界中で繰り返し上演されてきました。華やかな過去にしがみつく貴族たちと、未来を夢見る新しい世代の人々が繰り広げる「四幕の喜劇」。安達紀子による新訳でお届けします。
ご期待ください。
≪ここまで≫

 『桜の園』を初めて観たのはいつだったかしら…。私は、文庫本で戯曲を読んでも意味がわかっておらず、何度も繰り返し上演を観てようやく全体像がわかってきたタイプの観客です。桜の園とお屋敷の行く末も、オーナー一家の(劇中の)未来も知っているのに、「これからどうなるのかしら…」という気持ちで観ていられるのが、名作の不思議なところ。

 私事ですがこの戯曲を教訓に、自分の人生において大きな決断をした経験があり、私個人にとってとても大切な作品なのです。今回(2020年12月19日に拝見)、時代や年齢にかかわらず、観た時にいつだって学びを得られる作品だと再確認できました。オンライン配信を最初から最後まで見ていられたのは、座組の目指す方向性が自分に合っていたからかもしれません(想像にすぎませんが)。五戸さんの演出作は今後も追いかけたいと思います。

 テレビやパソコン画面で演劇(の動画)を鑑賞する度に感じているのですが、これは「観劇体験」ではありません。この投稿は記録映像鑑賞の感想文です。

 ここからネタバレします。

 舞台上で出演者がかわるがわるチェーホフの書簡(たぶん)を読むという、戯曲の外枠を設ける趣向になっていました。ただしほぼ幕開けだけで、『三人姉妹』や新国立劇場演劇『どん底』ほどではなかったですね。

 白い大道具を俳優が移動させて場面転換します。大道具とは家の形をした白い置物です。一人の人間が両手でかかえられるぐらいの、バービー人形のおうちサイズ。劇が進行するなか、物語を俯瞰する視点を与え続ける効果があります。

 男女のペアで踊る際に流れる音楽が統一されていたのには、ちょっと退屈しました。特に第三幕のパーティーの場面で、(ラネーフスカヤが無理やり呼んだ)楽団が生演奏しているように感じられなかったのは残念でした。あと、パーティーに大勢が集まっている気配が感じられなかったのも。

 衣装が全体的にみすぼらしい印象で「予算が少なかったんだろうな…」などと邪推してしまいました。“貴族と農奴”といった戯曲の前提となる身分制度は敢えて目に入らないようにし、そういう枠組みから自由になって、現代の日本人の物語として捉え直す体験にする…という演出意図なのかなと思いました。あと題名にもあるとおり「喜劇(≒戯画化)」であることもきっと重視していますよね。個人的には“安上り”という印象を与えない工夫がほしかったです。特にラネーフスカヤは着替えもあったので気になりました。

 安達紀子さんによる新訳の役割は大きかったのではないかと思います。たとえばガーエフ(真那胡敬二)のビリヤードにまつわる口癖に違和感がなかったのは初めてです。もちろん真那胡さんの演技のおかげでもあると思います。

 ヤーシャ(草彅智文)を一方的に恋するドゥニャーシャ(小川碧水)の行動は、はたから見ると(観客視点だと)「ありえねー!」と叫びたくなるほど愚かです。でも今作では「そうだよね、恋は盲目だよね…」と呆れつつ納得できました。役人物が一見“異常”に映る言動をしても、演じる俳優が動機をしっかりと持ち続けて表現してくれれば、観客は破綻を感じずに、見つめていられます。これが、私が五戸演出作を信頼できる根拠なのだろうと思います。

 老執事フィールスの独白で終演した後、カーテンコールではフィールスの人形がソファーの上に置かれていました。オープニングはチェーホフの手紙で劇中劇であることを示し、エンディングで人形を見せることで劇中劇を締めくくったのかなと思いました。

<出演者> ※キャスト表はこちらから部分引用いたしました。ありがとうございました!
ラネーフスカヤ:山本郁子
ガーエフ(ラネーフスカヤの兄):真那胡敬二
ワーリャ(ラネーフスカヤの養女):前東美菜子
アーニャ(ラネーフスカヤの娘・17歳):横山友香
ロパーヒン:堀文明
シャルロッタ(女性手品師):千田美智子
トロフィーモフ(貧乏学生):齊藤尊史  
ピーシク(金を借りに来る):内田紳一郎
エピホードフ(22の不幸):南里双六(長本批呂士あらため)
ドゥニャーシャ(小間使い):小川碧水
ヤーシャ(パリに行きたい男性使用人):草彅智文
駅長/通りがかりの男:岡部雄馬
フィルス(老執事):名取幸政

<スタッフ>
作:アントン・チェーホフ
翻訳:安達紀子(新訳)
演出:五戸真理枝
美術:池田ともゆき
衣裳:岩男海史
照明:阪口美和
音響:鏑木知宏
舞台監督:仲里良
演出助手:橋本佳奈
主催・企画・製作:川崎市アートセンター
<助成>
文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
神奈川県文化芸術活動再開加速化事業補助金
<発売日>
2020年10月19日(月)
<料金>
一般 4,000円/学生 2,500円(全席指定・税込)
※未就学児童のご入場はご遠慮ください。
※学生チケットのお客様は公演日に学生証を確認させて頂く場合がございます。
※車いすでご来場のお客様は、当日のスムーズなご案内のために、川崎市アートセンター(044-955-0107)までご連絡ください。
★本公演を、より多くのお客様にお楽しみいただきたく、12月5日(土)14:00の回を通常上演に加え、LIVE配信を行います。
<LIVE配信日時>
12月5日(土)14:00開演
<アーカイブ視聴期限>
12月19日(土)14:00まで
<料金>
LIVE配信:1,500円
※チケットは12月18日(金)23:59までお買い求めいただけます。
<チケット購入ページ>
https://v2.kan-geki.com/live-streaming/ticket/151
※11月10日9:00より販売開始致します。
※オンライン観劇サービス「観劇三昧」の会員登録(無料)が必要になります。
https://kawasaki-ac.jp/th/theater/detail.php?id=000383
https://natalie.mu/stage/news/404464

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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