新国立劇場演劇研修所&マンチェスター・メトロポリタン大学演劇学校『怪物/The Monster』08/03-08/05新国立劇場小劇場

 稽古場レポートを執筆した公演を拝見しました。2005年開所の新国立劇場演劇研修所が、初めての国際共同制作として発表した作品です。上演時間は1時間10分ほどだったかと。

≪あらすじ≫ https://www.nntt.jac.go.jp/play/the_monster/
この世界のあるところに、ある日、怪物が出現した。
大きなおぞましい怪物。
人肉を食べて肥え太っていく怪物に、住民たちはなぜか好意を持ち始める。
若者ノブはひとりで戦いつづけるが……。
≪ここまで≫

 稽古場で拝見したのは一部分でしたので、本番で初めて全編を観られました。台本に変更も加えられていました。
 突然巨大な怪物が現れて人類が絶体絶命の危機に陥るのは、先日KAATで上演された『ビビを見た!』に少し似ていますね。

 生演奏にあわせて歌う歌がとてもよかったです。特に英国人女性の独唱、合唱には聴きほれました。
 効果的だったかどうかはわかりませんが、紙製の衣装のカシャカシャという音が耳に残りました。まだらの色合いは味があっていいなと思いました。

 ここからネタバレします。

 舞台には登場しない怪物が発する香しい匂いを嗅ぐと、人間は何もかも忘れ、幸福になります。それは怪物のしかける罠で、ふらふらと近づいていった人間は、怪物の餌食になってしまいます。怪物の好物は人間で、人間を食べることで巨大化します。人間が住む集落をも奪われるほどに。それを防ぐため、主人公のノブは怪物に近づこうとする人間を次々に射殺していきます。とうとう自分を除く最後の一人まで殺してしまい(ノブの指導者だった長老は老衰死)、ノブこそが「怪物」になってしまった…という結末でした。

 異なる種族の生存争いなんですよね。人間はどうすればよかったんでしょう…。怪物の匂いはいわば麻薬で、人間が人間であることを放棄してしまう毒です。殺されるのは嫌だし死にたくもないはずだけど、幸福の絶頂で死ねるならいいですよね。とはいえ生きる場所を奪われるのも、人類滅亡も困ります。共存の道を探さないといけなかったのかな…。どこかで折り合いをつける知恵を絞りだす努力が足りなかったのでしょうか。教育が不足していたのかも…などと考えました。

 日本語&英語上演で、日本語&英語の字幕付きです。基本的に日本人が日本語、英国人が英語を話しますが、入れ替わることもあります。1人の登場人物を日本人、英国人が演じ、セリフを重複して話すこともありました。字幕で意味がわかっていることもあり、異なる言語で同じ場面がすぐに繰り返されるのは、少々退屈に感じました。

 出演は同研修所の2年生(14期生)と、英国マンチェスター・メトロポリタン大学演劇学校の2年生です。冒頭に、彼ら自身の思いを伝える演出が加わっていました。「自分にとって怪物とは何か」など。とてもいい演出だったと思います。
 でも、その時点で演技力の差が見えていたような気がします。稽古場レポートにも書きましたとおり、「英国人出演者は2年分のカリキュラムを終えたばかり」「日本人出演者は2年生になってまだ3か月」なんですよね。仕方ないと思います。

 3年制の同研修所は通常、3年生にならないと公演には出演できません(研修中は基本的に外部出演も禁止)。稽古場取材をさせていただくと3年生が3年次の1年間で驚くほど成長することがわかります。教育を受ける若い俳優は1年で様変わりするんですよね。14期生の本格的な舞台出演は来年4月以降です。その時を楽しみに待ちたいと思います。

●稽古場レポートを公式アカウントでご紹介いただきました。

●公式facebook

日英演劇アカデミー国際交流公演
新国立劇場演劇研修所 & マンチェスター・メトロポリタン大学演劇学校
出演:
 新国立劇場演劇研修所第14期生(五十嵐遥佳、伊藤麗、加部茜、星初音、前田夏実、渡邉清楓、今井公平、大西遵、佐藤勇輝、田畑祐馬、仁木祥太郎、濵田千弥)
 マンチェスター・メトロポリタン大学演劇学校2年生 Students of Manchester School of Theatre(Bailey Brook、Hannah Brownlie、Georgiana Casbarra、Garion Frith、Tommy Garside、Kieron Jackson、Gina Jamieson、Izzy McKenty、Lori Nicholson、Paddy Stafford)
配役(一部分):
 ノブ:大西遵、Garion Frith
 ティム:今井公平
 長老:星初音、Gina Jamieson
 リル:伊藤麗、Lori Nicholson
パーカッション:鈴木佑 チューバ:東方洸介
【脚本】アゴタ・クリストフ (Agota Kristof 1935年10月30日- 2011年7月27日)
【翻訳】堀茂樹 バート・スメット
【演出】田中麻衣子(新国立劇場演劇研修所コーチ)
【美術】伊藤雅子
【照明】中川隆一
【音楽】国広和毅
【音響】黒野尚
【ステージング】篠崎芽美
【衣裳】西原梨恵
【ヘアメイク】川端富生
【演出助手】菅井新菜
【舞台監督】野村久美子
【演技指導(英国)】デイヴィッド・ソルター David Salter
【ムーヴメント指導(英国)】エマ・ポニッチ Emma Bonnici
【通訳】近藤聡子
【修了生スタッフ】チラシデザイン:荒巻まりの(8期生) 字幕作成:池田朋子(6期生) 字幕操作:菊池夏野(5期生) 通訳:岩澤乃雅(2期生) クリスタル真希(4期生)
【演劇研修所長】宮田慶子
【主催】新国立劇場
【協力】マンチェスター・メトロポリタン大学演劇学校
【後援】ブリティッシュ・カウンシル
【日本語英語上演/日本語英語字幕付】
【発売日】2019/06/19
A席:3,240円
B席:2,700円
学生:1,000円
Z席:1,620円
就学前のお子様のご同伴・ご入場はご遠慮ください。お子様も1人1枚チケットをお求めください。
https://www.nntt.jac.go.jp/play/the_monster/
https://stage.corich.jp/stage/100600

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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