『ジハード』『第三世代』に続く、さいたまネクスト・シアター「世界最前線の演劇」の第3弾です。開演までにお手元の用語集を読んでおくといいと思います。
「紛争地域から生まれた演劇」の台本は現時点で全25作あります。紛争や難民、移民問題など現代世界が抱えるテーマをドキュメンタリー演劇、集団創作、実話に基づくフィクションなどでアプローチ。授業などでもぜひ活用してもらえたら、と希望します。興味ある方は遠慮なくご相談下さい。 pic.twitter.com/cGCr17wjkq
— 林英樹 (@forest829) May 26, 2019
≪あらすじ≫ https://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/6666
舞台は武装組織ダーイシュ(※)の支配下にある、中東の架空の町テル・カマフ。この町に住む夫婦、ドゥハー(「朝」の意)とライラクはともに芸術教師をしている。学校は軍事拠点にされ、生徒たちが次々と戦闘に加わり、町が支配の闇に包まれていく中、美しいライラクを手に入れようとする軍司令官と町の長老は、それぞれに非情な選択をドゥハーとライラクに迫る。
※ダーイシュ(Da’ish)とは「イスラーム国」を名乗る組織の他称。「イラク・シャームのイスラーム国(al-Dawla l-Islamiya fi l-Iraq wa sh-Sham)」のアラビア語の頭文字をとった、否定的な響きを持つ蔑称。同組織を支持しないアラブ人やアラビア語メディアは「イスラーム国」ではなく、「ダーイシュ」という呼称を用いることが多い。
≪ここまで≫
ダーイシュ(ISIS、2011年に誕生)に支配された中東のある田舎町では毎日処刑が行われ、若い教師夫婦にも危機が…。2015年に実際に起こった事件を基にした、パレスチナ出身の劇作家によるストレートプレイ。約1時間40分。
スマホがある時代の内戦下の極限状態を写実的な演技で立ち上げる。眞鍋卓嗣さんの演出は直球勝負だった。悲惨さ、理不尽さが際立つリアルな地獄に引き込まれるが、あまりの切迫感が私の日常からかけ離れているためか、かえって安易な没頭を許さない。驚き、恐怖し、感情移入しながらも俯瞰し続けられる。俳優は毎ステージとても大変だと思う。
直球とはいえ回想や劇中劇が挿入されるので、複数の時空が混在する演劇ならではの趣向もある。個人的には、息の詰まる戦場と並行する幸せな夢想の余白を、もう少し濃い目に、多い目に味わいたかった気もする。2017年12月の朗読上演を観たことも影響しているかもしれない。
日本がこうならないように、お前には何ができるのだと何度も問われ、試されているようだった。安倍政権下で警察権力は肥大化し、武器が爆買いされ、司法は信用できなくなっている。本当に恐ろしい。この事実を多くの人に知ってもらいたい。この劇は決して他人事ではないのだ。
これは少なくとも平成の30年間には無かった「事件」です。そういう認識を持っています。不吉な令和の「令」がついに牙を剥きました。国民が沈黙したら終わりますよ。
pic.twitter.com/UWIjk3wvOn— 滑稽新聞🐾胸熱れいわ新選組🍀 (@akasakaromantei) 2019年7月18日
安倍氏の選挙演説中に声を上げた人を警察が排除した事件、非常に深刻に受け止めている。動画も見たけど演説の邪魔にはなってない(聞こえてもいないと思う)。プラカも排除。もっと問題視されるべきだ。これが常態化・エスカレートしたらとんでもないことになる。https://t.co/fNJleX5SXe
— 兎Ⓥ🦐👟🧷 (@Rbrbtz) 2019年7月17日
ここからネタバレします。
舞台はコンクリートの壁の、四角い、やや殺風景な部屋。舞台奥は半透明の幕になっている。その幕の向こうから敵や遠くにいる家族(ライラクの母ハンニ)、今はもういないフムードの恋人ファーティマなどが現れる。フムードは教師夫婦の生徒。
朝になり、互いの手首を切って自殺した2人を発見したフムードは、落胆しながら、武器を床に置いていた。彼は教師夫婦のおかげで、敵地に突進する殉死をやめる決心をしたのかもしれない。それは希望だ。
終演後のトークでプロデューサーが「朗読を観て、日本の皆さんにもっと伝えたいと心底思った」「劇場で働く人間として、このテーマはやらなければと思った」と発言。主人公夫婦は演劇と歌を教える芸術家だ。彼らが子供たち(兵士)に伝える英雄物語や愛の歌は、人間のまばゆい可能性、世界の美しさ、奥深さに満ちてている。
●トーク登壇:ガンナーム・ガンナーム 通訳、眞鍋卓嗣 渡辺弘 ※通訳さんのお名前は失念
ガンナーム:私はパレスチナからヨルダンに亡命した。
ガンナーム:2015年にシリア北部の田舎で、ダーイシュから逃れるために若い夫婦が自殺した事件があった。10か月以上かけて台本を書いた。
渡辺:バイオンリンを壊す場面は象徴的。
ガンナーム:楽器には魂がある。バイオリンを壊すのは、人間を首から捕まえて殺すのと同じ。
真鍋:リーディングの時は“イスラム教信者とキリスト教信者の結婚”だったが、今回はその設定はなくなっていた。
ガンナーム:歌がよかった。アラブ人の誰もがわかる、同じリズムで伝えてくださった。
朝日新聞で劇評を載せて頂きました。
28日まで。チケットまだあるようです。よろしくお願いします!(評・舞台)世界最前線の演劇3「朝のライラック」 悲嘆・痛み、リアリズムで描く:朝日新聞デジタル https://t.co/s7XNpJVgnZ
— 眞鍋卓嗣 (@MNBCK) July 25, 2019
もう今日と明日の14時公演しかないのですが、可能でしたらぜひ。ポストトーク含め、私たちのいるこの社会について考えさせられる公演でした。 眞鍋卓嗣演出『朝のライラック』@さいたま芸術劇場(2019年7月26日) https://t.co/EaCnQnKJhx @MoriokaMさんから
— Miho Morioka 森岡実穂 (@MoriokaM) July 27, 2019
「朝のライラック」についてのあれこれ。#朝のライラック
— 眞鍋卓嗣 (@MNBCK) August 5, 2019
さいたまネクスト・シアター 世界最前線の演劇3 [ヨルダン/パレスチナ]
出演:
ドゥハー:松田慎也 ライラク:占部房子 ハンニ/ファーティマ:茂手木桜子 バルダーウィー長老:手打隆盛 フムード:竪山隼太 アブー・バラー:堀源起 アンマール/セルビー/戦士:中西晶 アブー・サイード/戦士:鈴木真之介
脚本:ガンナーム・ガンナーム 翻訳:渡辺真帆 翻訳監修:ナーヘド・アルメリ 演出:眞鍋卓嗣 美術:伊藤雅子 照明:金英秀 音響:井出比呂之 衣装:山下和美 音楽:鈴木光介(時々自動) 舞台監督:大畑豪次郎 企画コーディネート:林英樹 制作統括:渡辺弘
主催・企画・製作:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
企画協力:公益社団法人国際演劇協会日本センター
【発売日】
<整理番号付自由席>
一般:3,000円
メンバーズ:2,700円
U-25:2,000円
※U-25:公演時25歳以下対象/劇場のみ取扱/入場時に身分証をご提示ください。
*全公演、終演後アフタートークあり
https://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/6666
https://stage.corich.jp/stage/100371
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
便利な無料メルマガ↓も発行しております♪