【非公式レポート】新国立劇場情報センター【ギャラリー・プロジェクト】★演劇噺★ Vol.2「フルオーディションの可能性」04/14新国立劇場小劇場

 新国立劇場・小劇場では現在、すべての役をオーディションで選ぶ“フルオーディション”を行った鈴木裕美さん演出の『かもめ』(⇒感想)が上演中です。なんと全席完売とか!素晴らしいですね~!!この試みが続いてほしいので、すごく嬉しいです。

 同劇場の舞台上で、鈴木さんと同作翻訳の小川絵梨子さん(芸術監督)、そして同じくフル・オーディションが実施された2020年4月公演『反応工程』の演出をする千葉哲也さんが登壇されて、ざっくばらんに、率直なお話を聞かせてくださいました。お三方とも胸襟を開いて積極的に話題を提供してくださり、とても楽しい時間になりました。無料とはありがたい!

 以下、メモしたことのまとめです。網羅していませんし、正確性も保証できません。

 ※私は10分ほど遅刻して席に着きました。もしトーク開始時に「内容をインターネット上に公開してはいけない」などの注意があったのでしたら、非公開にしますので、お知らせくださるとありがたいです。

 鈴木:オーディションではプロデューサーの茂木さんと2人で俳優さんたちを見たが、「よかった」と思った俳優さんは、ことごとく同じだった。意見が分かれなかった。良いと思った俳優さんを残す…ということを繰り返した。でも今思うと、(早めの段階から)「落とす」ことをもっと考えた方がよかったかもしれない。
 ※応募総数3396通。その中から850人がオーディションに参加し、6週間を要した。

 鈴木:自分の思い入れがあり、老若男女の役があって、誰もが本を入手できる『かもめ』を選んだけど、幕が開いてから、俳優さんたちに申し訳ないことをした気がした。だって昔、アルカージナやコースチャを演じた俳優と比べられてしまうから。
 千葉:俳優ってそんなもんじゃないかな(気にしなくていいと思う)。『反応工程』は「私が演じられる女役がない」という苦情が来たみたい。男役が大半だから。『反応工程』の本は一瞬、世の中からなくなったらしい(探す俳優が多くて)。オーディションで『反応工程』を読んでないという人がいた。入手しづらい戯曲ですみませんと謝った。
 鈴木:『かもめ』でさえ読んでない人がいたよ(笑)。
 小川:そのへんの本屋さんで売ってるのに!

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 千葉:オーディションでは必ず関係性を作ってもらうようにした(場面を演じてもらった)。初めて会う人たちの中で、自分のプランをぐいぐい進行しようとする人よりも、どうやって他人とジョイントしようかと取り組む人の方がいい。『反応工程』は常に5人ぐらい出ているような群像劇で、モノローグ(独白)はほぼないので、モノローグをやってもらう必要はなかった。

 千葉:映像の仕事をしている人も来てくれたようで、「カメラはどっちですか?」と聞かれた(笑)。一瞬ずっこけたけど「私の目がカメラですね」と答えた。「こっち(演出家)のことは意識しないでいいから」とも伝えた。

 小川:6か月もオーディションをしていると、愛情がわいてくるので、落とすのは大変ですよね?
 千葉:そう。だからこそ「愛着があるから残してしまっているのでは?」と自分を疑うようにした。いい演技をする時もあれば、悪い演技になる時もある。その時に心を鬼にして落とした。
 鈴木:素晴らしい俳優さんばかりだった。『かもめ』が30組ぐらいできるぐらい。もういっそのこと30組やりますよ!と言いたい。

 鈴木:(1つの役のオーディションで)自分が一緒に仕事をしたことのある人がずらりと並んだことがあった。みんなが大好きだから、誰が選ばれてもいいと思って…。むしろ「じゃんけんで決めてほしい」と思った…。

 千葉:残っている俳優の顔写真をずらっと壁に貼って選考してた、まるでFBIみたいだよね(笑)。オーディションは最終的にバランスで選ばざるを得ない(背格好、年齢など)。
 鈴木:私は全体のバランスは考えなかった。最後の最後には多少はあったかもしれないけど。

 千葉:演出をやるようになってから、演出家に嫌われ始めた。面倒な奴だと思われてる(笑)。
 鈴木:うん、たしかに少し面倒かも(笑)。
 千葉:でも海外の演出家が「日本の俳優はなぜ教えてくれって聞きに来るの?」って言ってて。俳優は表現者なんだから、自分がやりたいことをやってくれればいいのにって。教わろうとしてくるのは気持ち悪いって。
 鈴木:(私自身もたまに)そう感じることはある。

 千葉:自分は俳優と演出家の二足のわらじを履いている。だから両方の気持ちがわかる。俳優同士で「今、面白いものができたね」と確認しあえることがある。でもそれは演出家には見えないレベルで。
 千葉:演出家と俳優の立場は真逆。演出は観る方で、俳優は演じる方だから。今、上演中の『BLUE/ORANGE』で俺は演出と俳優の両方をやっていて、演出家から俳優に変わると温度が違う(それぐらい役割、立場が違う)。

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 鈴木:『かもめ』は多くの場合、メインの4役に有名俳優が選ばれる。でも今回はオーディションなので、そうする必要がない。誰もが対等。垣根がない。風通しがいい。すごく健全。
 千葉:芝居ってもともとそうあるべきだよね。
 鈴木:だけどその状態をキープすることがプレッシャーになって、稽古場でテンパった俳優がいて、驚いた。有名俳優と同等で、同じように居なきゃいけないプレッシャーで緊張して、挙動がおかしくなる。そんなことが起きるなんて思い至らなかった。
 千葉:俳優に向いてないんじゃないの?
 鈴木:その俳優は(あなたと違って)繊細なの!
 千葉:オーディションなんだから、自分から手を挙げたんでしょ。
 鈴木:でもオファーされたわけじゃないから(自信が保てないのかもしれない)。
 千葉:演出家と俳優のどちらが好きかとよく聞かれるんだけど、俺は俳優が好き。だって責任取らなくていいから。キャスティングしたのはあなた方でしょ?と言える。

 鈴木:超人気アイドルが受けに来て、受かったら大変なことになる…という危惧はあった。一般の人がチケットを買えなくなる可能性があったから。
 千葉:『反応工程』は誰も有名な人が出ていない。半分以上が事務所にも入っていない。連絡も個人にしてる。事務所に入っていないと仕事ができないと思っている俳優がいるけど、俺はそんなことないと思ってる。

 ~~~観客との質疑応答など~~~

 鈴木:希望する役と違う役の演技を見せてもらうこともあった。
 鈴木:料理人と小間使いについてはオーディションはしていない。
 鈴木:『かもめ』の出演者のギャランティーは役ごとに決めた。たとえばアルカージナ役は〇万円とか。だからいつもより安いギャラになった人も、高いギャラになった人もいると思う。※俳優の知名度や人気などを考慮していない。

 小川:アメリカではオーディションが一般的。俳優は毎日のように受けるので、「今日は何のオーディションだったっけ…」と忘れることもあるぐらい。だから落ちるのも日常茶飯事で、そんなに傷つかない。オーディションの形式はだいたい決まっていて、1次はモノローグ、2次はダイアローグ(誰かと演技をする)。
 鈴木:アメリカではオーディション対策の本もいっぱい売ってる。

 千葉:演劇って人と出会ってなんぼだと思ってる。誰と出会って、どうなっていくか。
 小川:オーディションはその出会いのきっかけということですよね。

出演:鈴木裕美(2019年4月『かもめ』演出家) 千葉哲也(2020年4月『反応工程』演出家) 小川絵梨子
参加費:無料・要予約
https://www.nntt.jac.go.jp/enjoy/library/exhibition/detail/18_014412.html

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