【レポート】劇団俳優座演劇研究所「「ステージ・ムーブメント」「演技術」(講師:横尾圭亮)」11/20アクト飯倉ビル1Fセンダスタジオ

 劇団俳優座演劇研究所に伺い、横尾圭亮さん(⇒twitter、⇒ブログ)が講師をつとめる「ステージ・ムーブメント」と「演技術」の授業を見学させていただきました(⇒経歴、関連投稿:12)。ちょうど11/20(土)と11/27(土)の夜に授業体験会があるタイミングで、11/27(土)は今も申込受付中です。

 お邪魔したのは13時から16時10分までの約3時間という短時間ですが、私がこれまでに得た俳優養成についての知識や体験を、まとめて思い起こす機会にもなりました。

 立教大学現代心理学部映像身体学科でロシアの「サイコ・フィジカ(精神と身体の技術)」を知った横尾さんは、ロシアに留学して、演劇大学俳優学科を卒業後、演劇大学大学院を修了。プロの俳優として活動しながら俳優・演劇教育指導者の資格を得て、2019年に日本に帰国されました。私は今年の上智大学のシンポジウム(ZOOM)や演劇関係の勉強会(ZOOM)で、横尾さんのお話を拝聴し、ぜひ指導の様子を拝見したいと思っていたのです(初めてお目にかかったのは2017年のセルゲイ・チェルカッスキーさんの講座でした)。コロナ禍に部外者を受け入れて下さった劇団俳優座演劇研究所の皆様に感謝します。

 六本木駅から徒歩数分のスタジオは、換気扇が回しっぱなしで換気は万全。全員がマスク着用で、安心できる空間でした。黒い稽古着姿の男女20人が集まる2年生と3年生の合同授業です。スタニスラフスキー著「俳優の仕事」についてのレポート提出と出欠確認の後、人間の右脳(感性)と左脳(理性)にまつわる雑談を経て、「ステージ・ムーブメント」の授業へ。

 横尾:あそび心をもって理性的にやりましょう。

 横尾さんの指示は「テキパキ」という音が聞えそうなぐらい簡潔かつ率直で、論理的。進行はとてもスピーディーです。
 まずは1人で動くことから。右手と左手で異なる動きをして、そこに足の動きを追加する。さらには声、言葉も足して、同時に多くのタスクを実行する。それらの動作を決まった秒数で終わらせる。横尾さんの言葉で動きを重ねていく様子を見て、オハッド・ナハリンのメソッド「GAGA(ガガ)」と通じるものがありそうだと思いました(⇒竹中香子さんのブログより)。

 横尾:頭の中でしっかりと、ひとつひとつの要素を考えて、自分の動きを結び付けてください。いい加減にやらないように。早くやることが目的じゃない。

 次は何らかのインパクトを受けて、動く段階へ。たとえば横尾さんの拍手を合図に、床に倒れる等。そして、1人でやる一連の動作を、横一列に並んだ6人と同時に行い、決まった秒数に収めます。前にやった動作のニュアンスを残しながら新たな動作をしたり、周囲の人を意識して歩いたり。徐々に空間への意識を広げ、他者との遭遇・協働も始まります。

 横尾:意識的に考えて最後まで気を抜かずにやる。(いつ、どう動くのかを)自分で瞬時に選び取って下さい。
 横尾:「できない」「わからない」は言い訳です。分析して、確認すれば、できる。
 横尾:一度やったことは、できるようにしてください。

 研究生の皆さんが挑戦していることの難易度の高さたるや…。でも、それが当たり前にできてこそ俳優なんですよね。伊藤今人さんが「(梅棒の)稽古の情報量がものすごい」「1曲あたり2回のリハーサルで終わらせていく」とおっしゃるのを、つい先日拝見したばかりです(⇒CoRich舞台芸術!チャンネル『劇トクッ!』/伊藤今人「使いたい役者・ダンサー」)。

 横尾さんから見て下手側に研究生が集められました。3人ずつ、「犬と猿」と名付けられた動作をしながら上手側へと移動し、壁までたどり着いたら部屋の脇を歩いて下手側に戻ります。次は「ワニ」「カンガルー」「オットセイ」…と続きます(私も小学校の体育の授業でやった憶えがある!)。「丸太」は文字通り床を転がるのですが、上手側に着いたら、転がってくる研究生を飛び越えて下手側に戻ります。

 横尾:軽やかに、軽快に。雑にやらないで。ヤバいことになりますからね(人を踏んでしまう)。

 「丸太」が終わり、2人1組でやる動作に入った途端、濃密なコミュニケーションが生まれます。向かい合って手をつなだり、背中合わせになったり、言葉ではなく呼吸や動作で意思疎通をして、2人で同時に、動かなければなりません。

 横尾:急がないで。急いで雑にしない。確認して相手を見て。目線と呼吸を合わせる。相手を観ればわかる。いつ何時、誰と組んでもできるように。
 横尾:常に相手とともに考える。自分ひとりでやると破綻しちゃうことが沢山ある。自分の動きでなんとかしようとしない。根性論で進めない。実生活も見直してくださいね。

 約2時間の「ステージ・ムーブメント」の授業が終わり、5分の休憩をはさんで「演技術」へ。椅子を半円形に並べ、全員が座った状態で、短いシアターゲームのような動きを素早く続けます。例えば隣席へと手拍子を送っていく「マシンガン」、誰か1人を指名していく「ジ・ザ・ゾ(「ピン・ポン・パン」に似てる)」など。すべては椅子に座ったまま、言葉を使わずに行われ、アイコンタクトでパートナーを探す(2人1組になる)ゲームも挟まれます。20人全員が集中し続けなければ、途中で止まったり、パートナーが見つからない人が出てきたりします。

 横尾:言葉(声・音)、動き、ベクトルをひとつに合わせて、相手に飛ばす。課題が変わったら、すぐに頭を切り替える。終わった時も気を抜かない。

 単純な動作に「威嚇」「誘惑」といった他者に対する意志が追加されました。自分から相手に渡して、相手からも受け取る双方向の訓練です。秒数や足踏みもプラスされていきます。

 横尾:明確に個人を見つめて、その人のスイッチを見つける。自分のやり方で紋切型にならないように。相手の目線で、相手をよく見て、今、選んだ相手に瞬時に合わせる。自分だけで決めない。自分だけでやらない。
 横尾:ベクトルを明確に。集中して、気を確かに。ひとつやって、(他の)ひとつを忘れることがないように。全てを合わせる。スタニスラフスキーは「毎回、毎回、新しく新鮮に」と言っていた。楽しく遊ぶために、妥協しないで。決まりこそ大事。ルールは守って。

 「椅子から立ち上がり、皆(自分以外の研究生全員)を喜ばせて、座る」というシンプルだけれど難しそうな課題について、横尾さんは「自分自身がプレゼントになり、(周囲に)プレゼントを渡し、座る」と解説されました。これには膝を打ちました。俳優は存在そのものが観客へのプレゼントなんですよね。

 また、「「お願い」は最初の0.1秒でわかる(からやめましょう)」という指摘にも深く納得しました、「お願い」とは「私は演技をしてます、わかってください」という訴えであり、不要であるどころか邪魔にもなりそう。木村早智さんのワークショップでも「お願いします」という言葉は使わないルールになっていました。

 「演技術」の終盤で、2人1組のエチュード(即興)へ。感染対策に充分な距離を取り、演技をする2人だけマスクを外して、対面して椅子に座りました。手拍子と足踏みをリズムに合わせて組み合わせる動きに、相対する思いも加えます。一方は「ここに残りたい」、もう一方は「ここから追い出したい」でした。次の2人は「ここに残りたい」と「ここから連れ出したい」になりました。

 横尾:今までやってきたことを合流させて。足踏み、目線、ベクトル、リズムは変えないで。
 横尾:相手をどうしたい? 毎回同じ行動をしないで。相手の行動に応じて、自分も変わる。感情を掘り出そうとしないこと。

 やがて手拍子と足踏み等のルールが解除され、立ち上がったり、相手に近づいたりしてもOKに。「ここに残りたい」側の研究生が、自分の椅子から立ち上がって相手に近づき、足踏みをしました。観客(横尾さんと研究生たち)に向かって、ポーズ(嘘)をつくって、「ここに残りたい」という思いをアピールをしているみたい…。すかさず横尾さんの指導が入ります。

 横尾:「見せる」のではなく、自分に正直にやる。「ここに残りたい」を嘘をつかずにやってみて。自分に嘘をつかない。

 そして研究生が思いのとおりに動いてみたところ、対立する2人の間にスリリングで切実な瞬間が生まれました。「○○したい」と動きが一致している俳優同士の間には、本当の出来事が生じるんですよね。池内美奈子さんと柴田彰彦さんのワークショップで私自身も体験しました。こういう演技こそ観たいのだと常々思っています。横尾さんは振り返って、2人を見ていた研究生に語り掛けました。

 横尾:みんなもわかった?(嘘と本当だと)体の存在領域が違う。みんなもわかるようにしましょう。

 自分がやるだけでなく、他人の演技を見ることからも学べるんですよね。俳優教育はやはり複数人で、実際に試してみることの積み重ねだと思います。

 ローナ・マーシャルさんの講義(2008年)で知った「ミラーニューロン」を思い出しました。「ミラーニューロンというのは他者の行動を見たときに、自分が行動しているときと同じように反応する脳神経細胞のこと」です(横山義志さんのfacebookより)。観客は舞台上の俳優を見て、俳優が感じていることと同じことを、脳内で味わうことになるんですね。これこそが「ライブでしか伝わらないこと」だと思います(ご参考:開一夫さんの講義「Live Interaction:「今性」と「応答性」」)。

 2人1組の即興と振り返りが終わり、「演技術」の授業は終了(ここで私は退出)。5~10分の休憩後に始まる3年生向けの授業では、「コンタクト・インプロヴィゼーション」(⇒ヤン・スンヒによる1dayコンタクトインプロ)の要素もあるアクロバット的な動きをするそうで、次回はぜひそちらも拝見したいと思いました。

 横尾さんはピアノを習っていたそうです。ピアノに「バイエル」「ツェルニー」といった基礎を身につけるための練習曲があるように、演技にはロシアの「サイコ・フィジカ(精神と身体の技術)」があると知り、ロシアに留学されました。

 横尾:自分のマックスを知ること。試してください。「試さないこと」はしないで。ボリショイ劇場の先生は「ちゃんと開脚できないと、狭い足幅で何ができるのかがわからない」と言ってました。自分はプレイヤー(俳優)であると同時に、ピアノ(楽器)でもある。「ド」の音は最後までぐっと押してあげる。「ド」も「ミ」もひとつずつきれいに鳴らすことをおぼえましょう。和音を鳴らすために。

 特定の誰かに向けた視線、明晰な語り掛け、カウントに合わせた複雑な動作など、横尾さんご自身が手本を見せる度に、その精度と美しさ、躍動感に目を見張ります。「プロの現場より苛烈かつ過密」というロシアの俳優教育で、ここまでの技術を身につけられたんですね。

 横尾:授業中にやるだけで、できるようになるわけがない。(ここでやっていることは)家でやる課題です。バイト先でバイトの休み時間にもできる。やれることはやろう。やってないと(授業で姿を見れば)すぐにわかるからね。

 上智大学のシンポジウムで横尾さんは「夜中の3時、4時まで課題やロシア語をやって、7時起き」「舞台動作やバレエを続けていると身体のオーガニズムが変わってきて、さほど寝なくても大丈夫になった」「逆に動かないと気持ち悪い」とおっしゃっていました。俳優指導者の鍬田かおるさんも毎日のトレーニングを欠かさないようです。環境は異なるものの、フランスのコンセルバトワールを卒業された竹中香子さんも、睡眠時間が平均3時間だったとブログに綴られています。新国立劇場演劇研修所5期修了生の梶原航さんも「2年目後期は(略)13本くらいの台本を持ち歩く日々」だったとのこと。

 俳優修行は厳しい…でも、カリキュラムに則って修練すれば技術を獲得できるのだと、横尾さんご自身が証明してくださっています。そういえば目の前でさまざまな挑戦をしてくださった研究生も、2年生より3年生の方が、演技の精度が高かったんですよね。俳優の卵の皆さんは、体系的な俳優養成に期待していいと思います。

 横尾さんは来年4月から、劇団俳優座演劇研究所のカリキュラム・アドバイザー兼講師になられます。劇団俳優座の演出家である眞鍋卓嗣さんも4月から、同研究所の所長に就任されるそうです。⇒「2022本科新人募集のパンフレット」はこちらからダウンロードできます。

 同研究所が新人募集を再開したことも朗報だと思います。本科だけでなく夜間クラスも存在するようなので、ご興味を持たれた方は問い合わせてみてください。

 ↓2021/11/24加筆

 ↓2021/11/25加筆

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