2月のメルマガでご紹介していた『彼らもまた、わが息子』。チケット代が半額という驚きのお得価格の初日に拝見。約2時間40分、15分休憩含む。
【彼らもまた、わが息子】上演時間のお知らせ。
途中15分間の休憩を含む【2時間40分】を予定しております。8日・9日のアフタートークは約40分程予定。
どうぞよろしくお願い致します。 pic.twitter.com/X3einNBmjU— 俳優座劇場 (@haiyuzagekijou) February 7, 2020
※2020/11/21に公開しました。
≪あらすじ≫ http://www.haiyuzagekijou.co.jp/schedule/?ca=2
ジョー・ケラーとケイト夫婦には二人の息子がいた。空軍パイロットだった次男ラリーは終戦後も行方が分からないまま3年がたつ。長男クリスはラリーの恋人だったアンとの結婚を決めるが、ラリーの死を受け入れられない母ケイトは素直に祝福することができない。
一方、アンの父親は戦時中、空軍に戦闘機の部品を納入していたジョーの工場で働いていたが、不良品を出荷して21機の戦闘機が墜落する事故を引き起こした罪で服役中である。
そして突然、初めて父親と面会したアンの兄ジョージがケラー家を訪れると連絡が入り、のどかな空気は一変する……。
≪ここまで≫
NTLiveの記憶が思いのほか、はっきりと残っていたので、比較して楽しむことができました。舞台中継(映画)もいいですが、やっぱりライブ(生)の体験は何にも代えがたいものですね。今、この瞬間にしか存在しないかけがえのない体験です。舞台上の出演者とともに旅ができたように思います。
初日については竪山隼太さんと佐藤玲さんがよかったです。特にアニー役はNTLiveだと行動の根拠がよくわからなかったのですが、今作では最初から芯がスっと通っているように感じました。
ちょうど同じ日に流山児★事務所『コタン虐殺』を観た後だったので、「まともに生きよう」というセリフに深く共感しました。
ここからネタバレします。
劇場に入るなり目に入ったのは照明に照らされ白く光る額縁(プロセニアム・アーチ)と、そのなかに収まる多数の椅子(色は白系統)です。私は『ニュルンベルク裁判』の装置(島次郎)を思い出し、同行者は「『わが町』のグローバーズコーナーズみたい」と言いました。出演者が横一列に並び客席に向かって一礼をしてから開幕し、竪山隼太さん、山本郁子さんが台本を持ってト書きを読み始めたため、どうやら『わが町』は見当外れではなかったようです。休憩後、二幕が始まる時は森永友基さんがト書きを読みました。
牧歌的に始まるかと思いきや、不穏な音とともに、舞台上手側天井から真っ赤なリンゴがドサっと落ちてくる演出に驚かされます。おそらくリンゴも21個、椅子も21脚で、欠陥部品のせいで墜落した兵士たちの人数を表していたのではないかと思いました(未確認)。椅子は3脚だけ舞台中央に残して使い、他は上下(かみしも)分けて舞台を向く角度で置かれ、出番ではない俳優が座って待機していました(俳優は舞台を見つめている)。出演者は9人ですので、10脚ほどが空席のまま舞台上下にあります。終盤ですべてが暴かれる時、上下に控えていた俳優がひとりずつゆっくりと立ち上がり、舞台を見つめました。若い兵士たち(=ジョー・ケラーのせいで死んだ彼の息子たち)だとすると、死者が生者を見つめるという点でも『わが町』ですね。
家屋は複数の窓の絵が描かれた茶色の板で表現し、白い額縁(プロセニアム・アーチ)よりも小さいサイズの額縁が、張り付いています。二重の額縁によって、劇中劇のなかに、さらに劇(虚構、嘘、謎)があることを示したのでしょうか。子役の登場場面が削除されたことも含め、地下、牢獄という重要なキーワードがあまり想像できなくて残念でした。ジョーの自殺も家屋に入ってすぐ左側にある部屋で行われたように見えました(地下ではなく)。
ジョー役の吉見一豊さんは演技の種類が少なかったように感じました。変化の方向性にあまりバリエーションがなかった印象です。
ケイト(山本郁子)は保身のために上手に嘘をつき続けます(最終的には白状しますが)。彼女が複数回言う「抜け目なくやらなくては」は印象に残りましたが、もっと腹の奥底から出る、決意の固まったしたたかな声で聞きたかった気もします。
桐山知也演出・水谷八也訳「彼らもまた、わが息子」@俳優座劇場。囲われた世界=庭と過去は日本の話でもある。アーサー・ミラーの重い原作を現代日本の口語になじませる苦労と解釈。プロセニアムのような大きな窓枠(ポーチの枠と呼応)、不在の椅子の群、見えない木と林檎など、舞台美術も興味深い。
— taroigarashi (@taroigarashi) February 8, 2020
開演前7脚x3列の別々デザイン木製椅子が,縁取るような舞台手前の白額縁内整列,両脇から全出演者登場。交代で2人ト書き部分を読み上げ中,他の役者が椅子両脇に寄せ最小限の大道具を出し,倒木と仮定した辺りに天井から実物林檎が降ってきて上演開始。一気に注意を引きつけ面白い。 https://t.co/gLpi2vhCLU
— rosemary (@RosemaryY2miya) February 9, 2020
NTliveのパンフレットで、今回の台本翻訳の水谷八也氏が言及している「彼らもまた,わが息子」2つあるテーマのうち,俳優座の方はより家族の関係,父と息子の関係に焦点が当たっていたように思った。強権発動し続けようとする父,その範疇に留まっていた息子と妻。
— rosemary (@RosemaryY2miya) February 9, 2020
一方,自分はntlive の方では,American Dreamの破綻の方に,関心が引きつけられた。父は学の無い成り上がり。母は盲信的に良き母であろうとし続け,周りの人物も社会からloser と認定されないように,何かで自分を証明identifyすることを社会から常に要求されているよう。
— rosemary (@RosemaryY2miya) February 9, 2020
隣家黒人医師も身なりよく装い,その土地を離れたアンも美女となり,アンの兄も弁護士となって,認められる者となって帰ってくる。父ケリーと,子供ら世代との学歴の差まで,見えてくる。自己の優位な存在証明をし続けなければならない,競争社会の息苦しさを強烈に意識させられた。
— rosemary (@RosemaryY2miya) February 9, 2020
俳優座の方は,そう言った社会背景は排除して,より家族の関係,倫理の問題に注目して,家族の秘密がわかるクライマックスに向けて,台詞に集中できるように整理された演出にされていた。
— rosemary (@RosemaryY2miya) February 9, 2020
【出演】
ジョー・ケラー:吉見一豊、ジョーの妻ケイト:山本郁子、ジョーの長男クリス:竪山隼太、スティーブの長女アニー(アン、クリスの弟ラリーの婚約者):佐藤玲、スティーブの長男ジョージ:逢笠恵祐、医師のジム・ベイリス:斉藤淳、医師の妻スー(看護師):上原奈美、星占い好きのフランク:森永友基、フランクの妻リディア(ジョージの昔の恋人候補):多賀麻美
脚本:アーサー・ミラー 翻訳:水谷八也 演出:桐山知也
美術:伊藤雅子 照明:齋藤茂男 音響:藤平美保子 衣装:加納豊美 舞台監督:泉泰至 演出助手:石内詠子 企画制作:俳優座劇場
全席指定
一般 5800円
ペアチケット(一般2枚) 11000円
グリーンチケット(学生) 2900円
ハーフチケット(2月7日) 2900円
http://www.haiyuzagekijou.co.jp/schedule/?ca=2
https://stage.corich.jp/stage/105970
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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