二兎社『私たちは何も知らない』11/29-12/22東京芸術劇場シアターウエスト

 メルマガ11月号でお薦めベスト3としてご紹介していた公演です。永井愛さんの新作は、平塚らいてうを主軸に、雑誌「青踏」編集部の女性たちが暴れる(笑)群像劇。約2時間40分、休憩15分を含む。作品自体が強烈な現代風刺で、題名が胸にしみました。

≪あらすじ・作品紹介≫ http://nitosha.net/nitosha43/
『ザ・空気』( 2017 )『ザ・空気 ver.2』( 2018 ) と、観客が「今、日本で起きていること」をリアルに体感する話題作を立て続けに発表してきた永井愛が、一転、明治〜大正期に発行された雑誌『青鞜』の編集部を舞台にした青春群像劇を書き下ろします。

平塚らいてうを中心とする「新しい女たち」の手で編集・執筆され、女性の覚醒を目指した『青鞜』は、創刊当初は世の中から歓迎され、らいてうは「スター」のような存在となる。しかし、彼女たちが家父長制的な家制度に反抗し、男性と対等の権利を主張するようになると、逆風やバッシングが激しくなっていく。やがて編集部内部でも様々な軋轢が起こり─
≪ここまで≫

 「青踏」編集部の女性たちの信条、生活との格闘を文字通り若い俳優が演じる群像劇。現代服の衣装が素晴らしい。今の日本人が結婚、堕胎、売春等について議論する場を見つめて涙した。私たちは本当に何も知らないのだ。作品自体が強烈な風刺だと思う(CoRich舞台芸術!に投稿したクチコミより)。
 ※「結婚、堕胎、売春等」は「貞操、堕胎、売春等」と書いた方がよかったかもしれません。すみません。

 ここからネタバレします。

 1911年(明治44年)発刊の「青踏」の巻頭言「元始、女性は太陽であつた~」のラップが流れます。「青踏」の主張は、今だとラッパーが歌にして届けているものに近いと想像できました。抽象美術にいまどきの衣装、そしてラップとの組み合わせで、100年前の実話が現代とストレートに接続します。

 次々に起こる事件を短い会話で簡潔に伝え、どんどことスピーディーに展開していくのが痛快です。「青踏」は1916年に休刊したそうで、活動はたったの5年間だったんですね。そういえばビートルズが誕生して世界のスターになるまで、5年もかからなかったという逸話を聞いたことがあります。退屈なルーチンに追われているようでも、人間の人生は毎日が大きな変化の連続なのだろうと思います。

 劇中の女性たちは妊娠中につわりに苦しみ、出産、育児に追われます。私個人の体験にすぎませんが、1人の子供の妊娠・出産のために私個人の人生は約3~4年間、休止していた気がします。パンフレットに永井愛さんと伊藤詩織さんの対談があり、「女性の身体は誰のものなのか」を議論されていました。最近、献血ポスターに採用されたアニメキャラクターが話題になりましたね。私自身も自分の意見を言うための言葉を見つけなければと思います。

 “若いツバメ”と静養するらいてうは自分たちの死後の未来を夢に見ます。彼女も兵隊を礼賛する文章を書いていたんですね。陶芸家と結婚した紅吉だけが軍国主義に反抗し続けられたとは意外でした。野枝と大杉栄のラブが省略されていたのは新鮮! 野枝は「青踏」の土台を壊す悪者に見えることもありましたが、彼女のおかげで自由闊達な議論の場が生まれたという(らいてうの)指摘もあり、何事も起こってみなければわからないし、時を経てようやく客観的に評価できるものなんだなと思いました。だから、まずは行動、ですよね。有言実行。

 このお芝居のためにキャスティングされた若い俳優さんたちは、登場人物たちと同じような年齢の方々のようです(創刊当時らいてうは25歳、野枝は17歳ごろに参加)。台本に必死でくらいついて、突進するように舞台上で戦う姿はすがすがしいほどでした。でも本当の意味でセリフを咀嚼していない、つまり、まだセリフを言えてないと思いました。重みのある会話劇を期待する観客にとっては残念な点だっただかもしれませんが、私はそれも演出意図だと受け取りました。若者がひたむきだからこそ、とても、美しいし、悲しい。私たちは何も知らないし、無論、わかってもいない。そのまま客席の一人ひとりにも当てはまることだと思います。現代日本人は幼いとも感じました。

 衣裳(竹原典子)を次々に着替えてくれて楽しかった! 冒頭の紅吉がラッパーみたいな恰好で衝撃を受けた(笑)。らいてうの服はヨージ・ヤマモトっぽい。LIMI feu (リミ フゥ)の方が近いかな。野枝がチェックのシャツにジーンズというラフな格好なのも笑えたな~。清のマニキュアが赤いのも良かった。

二兎社公演43
≪埼玉県、東京都2か所、兵庫県、長野県、三重県、愛知県、滋賀県、愛知県、石川県≫
出演:朝倉あき(平塚らいてう)、藤野涼子(伊藤野枝)、大西礼芳(岩野清)、夏子(尾竹紅吉)、富山えり子(保持研)、須藤蓮(奥村博)、枝元萌(山田わか)

脚本・演出:永井愛
美術 ┈大田創
照明 ┈中川隆一
音響 ┈市来邦比古
衣裳 ┈竹原典子
ヘアメイク ┈清水美穂
音楽 ┈熊谷太輔/AZUMA HITOMI
演出助手 ┈白坂恵都子
舞台監督 ┈増田裕幸

宣伝美術 ┈永瀬祐一(BATDESIGN inc.)
宣伝写真 ┈西村淳
宣伝ヘアメイク ┈川村和枝(p.bird)

票券 ┈熊谷由子
制作協力 ┈飯野千恵子
制作 ┈安藤ゆか  弘雅美

助成 ┈芸術文化振興基金
企画・制作 ┈二兎社

【発売日】2019/10/05
一般6,000円
25歳以下3,000円(枚数限定。要証明書。東京芸術劇場ボックスオフィス、チケットぴあにて取扱)
高校生以下1,000円(枚数限定。要証明書。東京芸術劇場ボックスオフィスのみ取扱)
未就学児童入場不可。
アフタートークの予定あり。
http://nitosha.net/nitosha43/
https://stage.corich.jp/stage/102418

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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