シンポジウムで語られたことをまとめました。メモ程度で、正確性は保証できません。
「「82年生まれ、キム・ジヨン」を読む! 」韓国と日本の俳優二人の朗読の後にシンポジウム。「普通の日常」の暴力を淡々と。悪弊を野放しにしないために私自身の「普通」を更新せねば。日本演劇界のハラスメントには「まず演劇人の足元から変えていくべき」と。心底納得。https://t.co/q71p9zqRiO
— 高野しのぶ(しのぶの演劇レビュー) (@shinorev) November 17, 2019
チラシより「世界経済フォーラムが発表した男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数によると、149カ国中、日本は110位、韓国は118位だった」。
詩森さんが「先進国だけで比較すると、日本は大きく差をつけられて最下位レベル」と補足。— 高野しのぶ(しのぶの演劇レビュー) (@shinorev) November 17, 2019
≪概要≫ http://pafe-gwc.info/kimujiyon.html
世界経済フォーラムが発表した男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数によると、149カ国中、日本は110位、韓国は118位だったそうです。わたしたちはこの事実を真剣に考えなくてはいけません。 日本でも話題の小説、チョ・ナムジュさんの「82年生まれ、キム・ジヨン」(翻訳/斎藤真理子)の一部分を両国の俳優にリーディングしてもらい、そこを起点に考えてみようと思います。リーディングの演出は詩森ろばさんに、お願いしました。 上演後は、詩森ろばさん、韓国より演出家リュ・ジュヨンさんをお招きし、トークセッションを開催します。
≪ここまで≫
熊坂理恵子さんとファン・ジェヒさんによる朗読は1時間弱だったと思います。ファン・ジェヒさんが読む時は舞台奥のスクリーンに日本語字幕が出ました。お二人ともとても落ちついた、確かな演技で、スムーズに理解ができました。日韓の俳優で朗読をするという企画は、フェスティバルディレクターの山田裕幸さんによる発案とのこと。
私は82年生まれの人よりも10歳ぐらい年上ですが、私にとっても「当たり前」で「普通」の女性の人生が淡々と描かれていました。「そうそう、そうなんだよね」とすっかり共感しながら、「今もまだ、あのままなのだ」とショックを受けて、怒りと悔しさがこみ上げました。
ここからネタバレします。
キム・ジヨン氏がワンオペ育児をしている2015年の様子を紹介してから、彼女の生い立ちと2015年にいたるまでを描きます。登場人物は性別に関係なく、氏名の後に「氏」がついた状態で発音されます(たとえばキム・ジヨン氏)。新鮮だな、男女差がなくていいなと思っていたら、後からこの物語の話者が、ジヨン氏を担当する精神科医(たぶん)であることがわかります。ジヨン氏は“産後うつ”らしく、一時的に自分とは別人格の誰かになってしまう症状が出ていました。
≪シンポジウム≫ ※メモしたことのまとめです。正確性は保証できません。
出演:内野儀(学習院女子大学教授)、詩森ろば(劇作家、演出家)、リュ・ジュヨン(演出家) 司会:山田裕幸
詩森:この小説を読み、自分もジェンダーギャップにさらされて生きてきたのだと実感させられた。
内野:キム・ジヨンは家父長制を普通にやってきて、壊れてしまった女性。「普通」「当たり前」をやったら壊れる。
リュ・ジュヨン:MeToo運動で隠蔽されてきた現実が明らかになった。韓国でのMeToo運動は演劇界、映画界で注目され、言論ではゴシップ扱い。政治経済で取り上げられるべき。韓国演劇界で性暴力反対の活動をしているのは若い女性演出家が多い。被害者は全てを失う。加害者は少ししか失わない。被害者は体をなげうって主張することになる。
明日のシンポジウムのため、リュ・ジュヨンさん、来日しました! pic.twitter.com/JEY1vd2afS
— pafe.GWC2019 (@PGwc2019) November 16, 2019
詩森:私のフェミニズム的な視点での創作は最近になってから。性自認が何であれ、それぞれが色んな範囲で生きて、それぞれに尊重されるべき。でも今の家父長制では男も女も生きづらい。私は演劇人で、自分であることを諦めずに済む職業に就いた。でもこれからの女性のために、自分ができることをしなければと思った。
山田:つい最近のこと。女子学生が女性の先生に「男性に、無理やり男性器を見せられたから、追いかけた」と言っていた。その先生は「危ないから追いかけるのはやめなさい」と言っていた。この小説でも描かれていたこと。まさに日常。
詩森:女性にとって男性による痴漢行為は日常的(デイリー)なこと。男性が思っているより、男性による女性に対する性暴力の数はものすごく多い。
内野:経済的な停滞が続き、日本は保守化している。家父長制がより強固に打ち出されている。伝統的、制度的家族が前面に出てきている。逆戻り。日本の劇団は任意団体だから、権威的な人間関係が温存されがち(その方がうまくいくから)。
内野:日本はマスメディアが極めて保守的。男女の役割分担など、あらゆるテレビ番組で男女の主従が決まっている。幼稚園、小学校から男女が分かれて整列するなど、日々、システムで刷り込まれている。私は「女優」という言葉は使わない。
詩森:若い人のためにも年寄り(自分)が動かなきゃと思うし、声を上げようと思うが、今までの方法で(主張なり、運動なりをして)、若い人に嫌われて終わりだと意味がない。一緒に世界をデザインしていく。二分化せずに会話をしていくこと。年配者の責任だと思う。
山田:大きなことではなく、小さなことから変わらないといけない。
リュ・ジュヨン:(観客に向けて)これからも演劇を観てほしい。文化的な刺激を積極的に探していってほしい。(自分から探していかなければ、人間は)偏見を持ったまま生きていくことになる。
昨日から稽古開始しました!自作をリーディングしてもらったときも思ったけど、韓国の俳優さんは上手ね。シンプルに全体像がわかる演出なので原作未読の方も楽しめます。読んでる方はああそこ抜粋したのね、という楽しみ方もできますよ!! https://t.co/SBQi686Mj8
— 詩森ろば (@shimorix) November 16, 2019
質問:日本演劇界のハラスメントについて具体的に何をすればいいか。
リュ・ジュヨン:韓国の演劇界では何十年も前から男性による女性への性暴力があった。たった一人の女性演出家が声を上げた。一人の女性が発言して、変わった。でも被害者は、自分のことを全て失うことになる。彼女はバッシングを受けたし、大変な時期を過ごしたと思う。でも今は演出家としてうまく仕事を続けている。私が知らない苦労もあるかもしれないが。声を上げると、困難がやってくる。でもネガティブを恐れてはだめ。
詩森:演劇人は、まず自分の足元から新しいデザインの集団づくりと、ものづくりをするべき。他人を責める前に自分の足元から。左翼的な思想の芝居を作っている現場が、男性上位の権威主義だったりする。たとえば年配者が若手にお酒を注がせるなども。そういうところから改善を。
出演:熊坂理恵子、ファン・ジェヒ
原作:チョ・ナムジュ著「82年生まれ、キム・ジヨン」(翻訳/斎藤真理子)
構成・演出:詩森ろば(serial number)
スタッフ:古市裕貴 田島亮
コーディネイト:洪明花
通訳:シム・ヂヨン
オーディション協力:キム・ソンテ
協力:筑摩書房、日本ユニ・エージェンシー
渉外、プロデュース:山田裕幸
pafe.GWC 2019 実行委員会
実行委員長:内野儀
プログラムディレクター:山田裕幸
制作進行:一般社団法人ユニークポイント
当日運営:国際文化交流演習(演劇)履修者
主催:学習院女子大学
【発売日】2019/09/29
一般 1000円
25歳以下 無料
http://pafe-gwc.info/kimujiyon.html
https://stage.corich.jp/stage/101295
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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