【非公式レポート】セルゲイ・チェルカッスキー講演「世界におけるスタニスラフスキー・システムの流れと実践」08/25世田谷文化芸術情報センター・セミナールーム(5階)

 S-WorkTokyo「実践スタニスラフスキーシステムワークショップ2019」の講師はセルゲイ・チェルカッスキーさんと、その妻・ガリーナ・コンドラショワさん。セルゲイさんの講義を拝聴しました。2年ぶりにお目にかかったセルゲイさんは、いつもどおりパワフル!
 ⇒2017年のレポートもどうぞ。補完し合う内容だと思います。

 12:30~15:00の内容は、前半の1時間半がセルゲイさんによる講演、後半はセルゲイさんが出演したロシア国営放送のテレビ番組「スタニスラフスキーとヨガ」の上映(英語字幕、日本語通訳付き)と質疑応答でした。

 ↓以下は私がメモした内容です。正確性は保証できません。ごめんなさい。セルゲイさんの発言のまとめです。

「世界におけるスタニスラフスキー・システムの流れと実践」
 通訳:上世博及(東京ノーヴイ・レパートリー・シアター)

 スタニスラフスキーは人体の成り立ちを研究し、人間が本来の自然の法則を侵(おか)さずに、舞台に立てる方法を探求した。
 症状の例:緊張する、セリフを忘れる、家の中では楽にしゃべれるのに、舞台上ではガチガチに凝り固まる、等。
 ありのままの素の状態で舞台にいるためには、どうすればいいのか。教育方法には2つの流れがある。

1.客観的に取り組む方法:スタニスラフスキーの研究と実践
 スタニスラフスキー、メイエルホリド、リー・ストラスバーグ、ステラ・アドラー、サンフォード・マイズナー、など

2.形(スタイル)を守る方法:能、歌舞伎、コメディア・デラルテ、京劇、など
 私は日本でもロシアでも上演があれば必ず観に行く。歌舞伎の基本を取り入れたヨーロッパ演劇もある。歌舞伎(の俳優養成方法)は客観的に人間の成り立ちを見る方法ではない。17世紀の型を継承する訓練方法。美学的な1つの形。400年続いている。観客はある条件付きのものとして鑑賞している。何度も観てルールを理解して、楽しめるようになる。

 (「種の起源」を発表した)ダーウィンはいろんな動物を観察した。メンデレーエフも「元素周期表」を作るために、元素全体の科学的違いを見ていた。スタニスラフスキーは人間が自然に創造的な感覚を使うにはどうすればいいのかを研究していた。演技のうまい役者を見ていた。日本の大道芸も観察している。

 「スタニスラフスキーは古い」と言う人は誤解している。スタニスラフスキー・システムはリアリスティックな芝居にだけ通用する俳優の訓練方法ではない。俳優を芝居に向けて調理していく方法であり、バイオリンの調律のようなもの。どんな芝居にも応用できる。私は(どこの国のどの場所の講演でも)必ずこの話をするようにしている。なぜなら私の話を聞いた後でも「やっぱりスタニスラフスキーってもう古いよね」となる人がいるから(苦笑)。

 私は今年、ゴールンデンマスク賞(米国のトニー賞に匹敵するロシアの演劇賞)の審査員になった。2か月間に52本の芝居を観た(疲れた)。ポストドラマ、小・大劇場芝居、身体表現など、いろんな形の作品がある。でも賞を獲るのは、俳優の訓練度が高いものだった(俳優の訓練は今も必要だし、通用している)。

 スタニスラフスキーが演出した芝居は(たしかに)古い。でもシステムは古びない。誤解が生じた理由は2つある。1つは政治的、歴史的原因。スタニスラフスキーの書籍「芸術におけるわが生涯」は最初、1924年に英語で出版された。続いて1926年にロシアで出版。「俳優修業」も最初が英語で、次にロシア語。ちょうどその時期にモスクワ芸術座がアメリカ・ツアーをしていたから。1923年~1924年の2シーズンに、米国で450本上演した。これは演劇史において重要な出来事。1928年に歌舞伎の初のロシア公演がレニングラードであった時(市川左團次が出演していた)、公演期間は1週間だった。モスクワ芸術座のアメリカ公演の規模がいかに大きかったかがわかる。

 でも、その時に持って行っていたのが古い(タイプのリアリズムの)芝居だった。だからスタニスラフスキー・システムはリアリズム演劇にしか使えないと誤解された。※2つ目の理由はメモできませんでした。2017年のレポートに記述あり。

 自分の経験からでもわかる。私は20年間、俳優指導をしている。4年制で1学年は25人。4年間、発声、ムーブメントなども含め、彼らと一緒に研究をする。2年と3年の時に作品を発表し、それがレパートリーになっていく。月2~3回、2本を定期的に上演する。卒業する時には6作品のレパートリーができている。私には(教師として)大きな責任があるので、下手でも責められない(私のせいになるから・笑)。4年間で1つの劇団のようになっていく。

 卒業したら、いろんな劇場から呼ばれて(就職して)いく。マールイ・ドラマ劇場、アレクサンドリンスキー劇場、タガンカ劇場、レンコム劇場など。ヴァレリー・フォーキン(アレクサンドリンスキー劇場)は日本のSCOTと交流がある。つまり、全く違うタイプ。訓練をしっかりしていれば、どんなタイプにも適応できる。

テレビ番組より
テレビ番組より

 スタニスラフスキーがつくった第1スタジオは養成所ではなく、劇団とも違う。基本的には俳優芸術の法則を研究する場所。スタニスラフスキー・システムは法則の研究であり、何世紀も研究され続けている。

 観客は嘘を見破る。観客は感情豊かな俳優を見たい。舞台上で、本当に人を愛している人を見たい。本当に人を好きになるにはどうすればいいのか。
 古代ギリシャ:小道具を持ってくる
 スタニスラフスキー:事件を思い出す
 ストラスバーグ:五感を思い出す

 21世紀の今、スタニスラフスキーとストラスバーグの違い(対立?)についての論争はバカげている。二人とも創造的な自己感覚をどうやって活性化するかを研究していた。違いよりも共通点を議論する方が合理的。
 心理とつながるのは情動的記憶。正確に動くことで感情が動く。内面から外面、外面から内面のどちらのアプローチでもいい。人間は(内面も外面も)同時に(動かして)生きているから。俳優はセリフだけを言おうとする(それは間違い)。観客は、俳優のちょっとしたしぐさに正確さがあると、観る気になる。

 メイエルホリドは演出家としては、スタニスラフスキーと似ていない。でも考え方は基本的に同じ。二人とも人間の自然の法則を研究した。たとえば、遅刻しそうな状況で、荷造りをする演技について。
 スタニスラフスキー:与えられた状況から始める
 メイエルホリド:スタニスラフスキーとは逆。例えば駆け出すことから始める。正確なリズムと体の動きで、(遅刻寸前の)おびえる感覚がよみがえる。人間の正確な動きを研究し、ビオメハニカという手法を編み出した。

テレビ番組より
テレビ番組より

 「与えられた状況」「正確な動き」の他に「リズム」も役立つ。1930年代にスタニスラフスキーは、ある俳優に「日常の緊迫した瞬間を思い出して」と指示し、俳優は溺れかけた数分間を思い出した。さらに「そのリズムを思い出して、指揮をして」と指示したら、その俳優は生きるか死ぬかの2分間を、リズムでつかんだ。
 また、英国のヴォイス・アンド・スピーチという方法論は、人類の遺産となるシェイクスピアのセリフに用いられる。こんなに方法がたくさんあると、すべてを学ぶのに80歳までかかる…と思ったのでは?(笑) 自分に一番合う方法を見つけてください。スタニスラフスキーは「自分で自分のシステムを見つけ出さなければならない」と言っている。

 与えられた状況を信じられるようになる方法には、情動や匂いの記憶、身体、リズムなどがある。自分を研究してください。スタニスラフスキー・システムは自然と自分を研究するシステムです。
 坂東玉三郎は幼いころの病気で片足が短い。だから他人を見て研究した。今は人間国宝。女形は、女性以上に女性を研究している。私は2008年に玉三郎を生の舞台で見ています。私は嗅覚が弱い。でも目で見たものは覚えられる。だから絵や写真で役作りをする。どこまで細かく、詳細を研究できるか。

 スタニスラフスキー・システムの訓練方法の40%はヨガを応用している。私はスタニスラフスキーとヨガについての論文を2013年に発表し、ロシアで出版された。2015年に日本語訳、2016年に英語訳、そして2019年にポルトガル語訳が出る。その都度ページが増えている。研究して追加しているから。ロシア国営放送の文化チャンネルで研究の流れについての番組を制作してくれた。⇒テレビ上映へ

【解説(facebookより)】
 貴重なロシアテレビ局制作日本初公開の短編ドキュメンタリーの上映。スタニスラフスキーがヨガの研究を通して俳優の真実の開放を目指した、その軌跡をチェルカッスキー氏がたどり、ロシアの様々な研究者、俳優指導者、一線の俳優、またインドのヨガ研究者などのインタビューを通じて、当時のソビエト連邦の政治的な制限の中、スタニスラフスキーが死の間際にどのように彼の考えを残そうとしたのか。またその大きな中心を占めていたかもしれないヨガの思想をめぐり、スリリングなドキュメントが展開されます。ヨガの中心となる考え方も含め、演技関係者以外の方にパフォーミングアーツ全般のテーマと関わる貴重な時間を、ぜひご堪能ください。

【テレビの内容より、メモしたこと】
 ヨガは自分の内と外をつなぐ。ヨガとは「つなぐ」という意味。
 ポーランドの演出家イェジー・グロトフスキはヨガに傾倒していた。
 スタニスラフスキー・システムはどうやって人間は真実を得られるのかを研究する。ヨガの根本と同じ。
 現役の演出家「スタニスラフスキー・システムはいつだって進化し続けている」
 若い俳優や演出家が日常生活や訓練にヨガを取り入れている様子が流れる。
 ※セルゲイさんはロシアの国立演劇学校で初めて、授業にヨガを取り入れた。

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【質疑応答の時間】

 俳優には意志の力が必要。詩人はアイデアが浮かんだ時に書けばいいが、俳優は19時開演の時に準備ができていなければならない。多くの俳優はうまくいかない。いい俳優でも。スタニスラフスキーは(そういう俳優について)「能力はあるけど、いい俳優とは言えない」と言っていた。気分に振り回されるのではなく、自分でコントロールする。たとえば私は俳優経験があるので、今、話をしている相手を不快に感じる方法を知っている。今、その感情をつくることができる。

 誰でもいい俳優になれるわけではない。たとえばバレエ学校の受験時には解剖学的な身体検査がある。バレエダンサーになれる体つきは決まっている。だから俳優も選ばれた人しかなれない。矛盾したことを要求される職業だから。いつも感情を覚醒させなければならない。私は入試で必ず感情の記憶を試験する。ブリヤート共和国から来た感受性の豊かな学生がいた。でも授業に遅刻する(遅刻の理由は「花に見とれたから」だった)。感情の起伏が大きいのはいいが、時間管理ができないので落第させた。

 スタニスラフスキー・システムは(俳優が)困った時に役に立つもの。モスクワ芸術座がアメリカ公演をしたとき、(今の日本と同様に)アメリカには確立された俳優養成方法がなかった。でもモスクワ芸術座の公演を観たものたちから始まった。アメリカ人俳優は、スタニスラフスキーに毎年来てほしかった(でも叶わなかった)。(モスクワ芸術座の俳優の)リカルド・ボレスラフスキーがアメリカでラボラトリー・シアターを立ち上げて、伝えていった。リー・ストラスバーグ、ステラ・アドラー、サンフォード・マイズナーもそこの出身。学校をつくるべき。

 (「日本人にもスタニスラフスキー・システムは有効ですか?」といった質問に対して)俳優は勉強しなければならない。(時代が変わっても人種が違っても)子供をつくるために男と女がすることは同じですよね。人間の源は同じ。
 18世紀の終わりに血管(血の流れ)が発見された。でも発見前から人間には血が流れている。システムとはそういうもの。うまい俳優は存在する。何も学ばなくてもできる天才はいる。彼らは無意識にスタニスラフスキー・システムを使っている。

 2016年のロシア最優秀図書賞(Theatre部門)を受賞した(私の)著作“Acting: Stanislavsky – Boleslavsky – Strasberg: History, Theory and Practice” は800ページある。ロシア語を勉強して読んでください(笑)。または英語の概略ページもあるのでどうぞ。
 ※私が検索して見つかったのはこちら↓
  https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/20567790.2013.11428597
 Stanislavsky and Yoga By Sergei Tcherkasski
  https://www.taylorfrancis.com/books/9781315624198
 ★セルゲイさんにURL↓を教えていただきました。23ページあり。PDFダウンロード可能。(2019/09/02加筆)
  “The System Becomes the Method: Stanislavsky – Boleslavsky – Strasberg” by Sergei

 最後にセルゲイさんの紹介あり。ロシア国家功労賞(ロシア国家芸術文化発展功労賞?)を受賞されたとのこと。

講師紹介【セルゲイ・チェルカッスキー】
1779年創立のロシア国立サンクトペテルブルグ演劇大学 演技・演出学科主任教授。芸術学博士。スタニスラフスキー・システムの研究・実践の第一人者。これまで17ヵ国40以上の演劇大学・演劇学校で演技指導・ワークショップを開催。日本には2006年以降度々来日。また、イギリス(2007年RADA)、オーストラリア(2010年シドニーのNIDA)、アメリカ、ルーマニアなどで演出もしている。サンクトペテルブルグでの上演も数多い。さらに多くの俳優を育て、卒業生はモスクワ芸術座やタガンカ劇場、サンクトペテルブルグマールイ・ドラマ劇場などロシアの主要な劇場で活躍している。[スタニスラフスキーとヨーガ](未來社/2015年)、[スタニスラフスキー、ボレスラフスキーそしてリー・ストラスバーグ](2016年度ロシア・国家出版賞受賞)など著作多数。2017年には国際スタニスラフスキー賞を受賞。

当日配布資料1
当日配布資料1
当日配布資料2
当日配布資料2

レクチャー@東京【定員70名】
「世界におけるスタニスラフスキー・システムの流れと実践」
<申込み条件>俳優演技に関係ある全ての方、スタニスラフスキー・システムに興味のある一般の方。
日時 8月25日(日)12:30~15:00 ※終了は15:20ぐらいでした。
会場:世田谷文化生活情報センター セミナールーム
受講料3,000円(税込)
事前のお申込みが必要です。定員になり次第締め切ります。
※ワークショップ全日受講の方、シーンスタディ受講の方は無料になります。
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=2332460380406778&id=1832479897071498

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