新国立劇場演劇『誤解』10/04-10/21新国立劇場小劇場

 新国立劇場演劇部門の新芸術監督に就任した小川絵梨子さんのシーズンが始まりました!記念すべき第1弾の演出を手掛けるのは文学座の稲葉賀恵さん。取り上げたのはアルベルト・カミュの1944年初演の戯曲『誤解』。翻訳は岩切正一郎さんです。

 新訳の戯曲が悲劇喜劇2018年11月号↓に掲載されています。ロビーで購入しました。別役実さんの新作『ああ、それなのに、それなのに』も載ってますよ!

悲劇喜劇 2018年 11 月号
悲劇喜劇 2018年 11 月号

posted with amazlet at 18.10.04
早川書房 (2018-10-06)

 新国立劇場演劇部門《ギャラリー・プロジェクト》が始まります。以下、メルマガから転載します。
  ・公演ガイドツアー『誤解』
   10月15日(月)13:00~公演終了後、約1時間 於:新国立劇場小劇場
   参加資格:『誤解』公演チケット購入者
   参加費:200円 ※応募者多数の場合は抽選(限定20名様)
   https://www.nntt.jac.go.jp/enjoy/library/exhibition/detail/18_012796.html
  ・トークセッション10月
   「演劇のおしごと」シリーズ Vol.1 ~劇団協議会とは?~
   10月18日(木)17:00~70分を予定 於:新国立劇場小劇場
   出演:西川信廣、古城十忍、小川絵梨子
   無料、要申込
   https://www.nntt.jac.go.jp/enjoy/library/exhibition/detail/18_012795.ht

≪あらすじ≫ 公式サイトより
幸せを夢見て、殺人を繰り返す母娘。不条理文学のカミュが描く、現代の悲劇。

ヨーロッパの田舎の小さなホテルを営むマルタとその母親。今の生活に辟易としているマルタは太陽と海に囲まれた国での生活を夢見て、その資金を手に入れるため、母親と共犯してホテルにやってくる客を殺し、金品を奪っていた。そこに現れる絶好の的である男性客。いつも通り殺人計画を推し進めるマルタと母親だが、しかし、彼には秘密があったのだった……。
≪ここまで≫

 演出の解釈がはっきりと示された、抽象美術のストレート・プレイでした。

 私は今、母と暮しています。それもあってか「自分だったら…」と考える時間が多い、刺激的な観劇になりました。物語に“わかりきった不幸”が用意されているのもいいですね。「あるある」の連続に何度もうなづきつつ(笑)、なぜ、そこに陥ってしまうのか、どうすればそこから逃れられるのかを、脳内でいくつもシミュレーションできます。

 初日は、出演者の声が小さくて聴こえづらいセリフが多かったのが残念でしたが、きっとすぐに改善されることだろうと思います。
 18:30ぴったりの、定刻に開演したのが新鮮!なんだか嬉しかったです。ただ、上演時間が2時間弱なので、19時開演でもよかったんじゃないかな~とは思いました。

 ここからネタバレします。セリフは不正確です。

 20年前に家族を捨てた男(=兄・水橋研二)が、5年前に結婚した妻マリア(深谷美歩)を連れて故郷に戻ってきます。父が死んだと知り、母(原田美枝子)と妹(小島聖)を守る義務があると感じた彼は、まとまった財産も持参しています。ただ、罪悪感は大きいようで、正直に告白しろという妻の助言は聞かずに、偽名を使って母と妹が経営するホテルに1人で宿泊することに。

 妹マルタはいつもどおり、宿泊客(=兄)を殺して金品を奪う計画を進めようとします。母はなぜか「もう疲れた」と頻繁に口にし、やがて「あの男に一晩の猶予をやろうよ」とも言い出します。兄は、母と妹が自分に気づいてくれないことを嘆きながらも、再会を喜び、家族を大切にしたいという思いを強くします。でも妹の不敵な態度も含めホテルの居心地の悪さはハンパなく、宿泊はせず妻のもとに戻り、翌日に告白しようと決心します。

 母は、妹が持ってくる睡眠薬入りの紅茶を飲まないよう、男(=兄)に伝えようとしますが、時すでに遅し。女2人で協力して水が満ちた水路に眠った男を運んで沈めてしまいます…。こうなることは最初からわかっているのに、ドキドキさせられました。お芝居の王道ですね。

写真左から原田美枝子、小島聖 撮影:引地信彦
写真左から原田美枝子、小島聖 撮影:引地信彦

 年老いた使用人(小林勝也)は無言で、母と妹の計画に手を貸すそぶりを見せています。彼の衣裳は水色がかっていて、舞台装置の色合いと似ています。部屋、家、街、社会…といった周囲の環境が人間の行動を決めていくものですよね。また人間は、自分の強い思い込みからはなかなか逃れられません。使用人は神、運命、社会といった大きな力の表象でしょうか。人間の弱さを可視化する存在…ぐらいに受け取るのが、私にはフィットしました。小林勝也さんの足取りが軽やかで、いつも愉快そうに見えるのがツボ。

 男を葬った妹は上機嫌。彼の鞄から大量の金品が見つかったし、とうとう母と新しい人生を始められるからです。しかし使用人の手から男のパスポートを受け取ると、事態は一変します。息子を殺したと知った母は、自分がどれほど息子を愛していたかを吐露し、家を出て行きます。妹は、20年もの間ずっと一緒に暮らしていたのに、母が愛していたのは不在の兄だったと思い知らされ、ついには棄てられてしまいました。彼女が欲していたのは母の愛だったとわかるのが切ないです。そうだ、使用人が母の椅子を持ってきて上手手前の定位置に置くところから、このお芝居は始まりました。母が退場した直後、使用人がその椅子を下手にハケていましたね。

 朝になっても夫ジャンが来ないので、マリアはホテルを訪れます。するとマルタ(=妹)は「私と母が兄を水死させた。母も水中で彼と一緒だろう」と告白。当然、マリアは取り乱しますが、マルタは全く動じず、さらに残酷な言葉を冷静に浴びせます。…この場面は強烈でした。マルタはつまらない人生に終止符を打つ決心が出来たことを喜んでいるようです。彼女が去った後、マリアは「助けてください!」などと叫びます。「お呼びですか?」とやってきた使用人に「私を哀れんでください!」と懇願するマリア。しかし使用人の返事は「嫌です」でした。終幕。
 …うおおおおお!これで終わりなのか!!しかもエンディングの音楽が、牧歌的でありながらカラっと乾いた感触で、全体的にマイナーな音階のものだったんです。カーテンコールは不思議な感触で、おどけた空気も感じられました。突き放す感じがイイですね(笑)!

写真左から小島聖、原田美枝子 撮影:引地信彦
写真左から小島聖、原田美枝子 撮影:引地信彦

 茶色い板が貼られた床は、上下の端と舞台奥に向かって水色のグラデーションになっており、海や水路を思わせます。中央の長いす(ベッド兼用)に懸けられた大きな布が、天井から吊り下げられて壁になります。舞台を覆うほどの布が風で膨らんだり、照明が当てられることで、船の帆や胸いっぱいに広がる期待など、さまざまに想像できました。マルタの心の変化と布が呼応するのがよかったですね。

 マルタが着る黒いワンピースの裾の下からは、白いスカートが見えていました。本心を隠し、喪に服しているようでした。最後には一枚脱いで、白いノースリーブのワンピース姿になります。でも(だから?)死んでしまうんですよね…。

 ■チラシが好評!

※舞台写真は主催者よりご提供いただきました。
新国立劇場 2017/2018シーズン演劇公演
出演:原田美枝子、小島聖、水橋研二、深谷美歩、小林勝也
脚本:アルベール・カミュ 翻訳:岩切正一郎 演出:稲葉賀恵
美術:乘峯雅寛
照明:服部基
音響:加藤温
衣裳:原まさみ
ヘアメイク:川端富生
演出助手:髙野玲
舞台監督:村岡晋
制作助手:朝倉エリ
制作:永田聖子
プロデューサー:三崎力
芸術監督:小川絵梨子
A席:6,480円 B席:3,240円 Z席(当日券):1,620円
※就学前のお子様のご同伴・ご入場はご遠慮ください。
https://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/16_011666.html

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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