今回の旅行の最大の目的である、竹中香子さん出演の『CERTAINES N’AVAIENT JAMAIS VU LA MER(直訳:海を見たことのない女もいた)』は、日系米国人女性ジュリー・オオツカさんの小説「THE BUDDHA IN THE ATTIC(邦題:屋根裏の仏さま)」の舞台化です。野外公演で上演時間は約2時間。
⇒この旅行のまとめはこちら
「屋根裏の仏さま」は2011年に刊行された英語の小説で、フランスではフェミナ賞外国小説賞を受賞したこともあり、かなり有名だそうです。日本語訳の「屋根裏の仏さま」は2016年に発売されましたが、私は不明にして存じ上げませんでした。今公演は、有名オペラ女優のナタリー・デセイさんの出演も話題だったとか。いずれパリでも上演があるそうです。
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今年のアヴィニョン演劇祭でジュリー・オオツカの小説『屋根裏の仏さま』の舞台版を見た。ヴァランス国立劇場のリシャード・ブリュネル演出。20世紀初頭の日系アメリカ移民一世女性、写真花嫁の悲壮な物語。この小説は日本の演劇人によって舞台化が検討されてもよいのでは。
— 片山 幹生 (@camin) 2018年8月22日
WL記事更新【劇評】片山幹生「夢幻的光景のなかで提示されるリアリズムのねじれ:リシャール・ブリュネル演出『海を見たことがなかった女もいた』(ジュリー・オオツカ『屋根裏の仏さま』より)」@アヴィニョン演劇祭。ナタリー・デセーが女優として出演した舞台です。https://t.co/TKL3b14Jqd
— 観客発信メディア WL (@theatrum_WL) 2018年8月26日
※レビューは2018/09/13に公開。
≪あらすじ≫ 公式サイトより
The story of thousands of Japanese women who believed in a new life in the United States.
≪ここまで≫
物語の概要はこちらに詳しいのでご参考にどうぞ。1900年代初めに写真の交換だけで日本から米国へと嫁いだ、日本人女性とその子孫のお話です。手紙の甘い言葉に乗っかって、はるばる異国にたどり着いたものの、彼女たちは現地の日本人男性にひどい扱いを受け、差別もされて、苦労を重ねます。生まれた子どもたちは“アメリカ人”となり、日本文化を知らずに育って、親の世代との間に分断が生まれます。やがて日本と米国の間で戦争が起こり、日本人は強制収容所に入れられました。母国(アメリカ)への忠誠を誓うため、戦地の前線へと志願する若者も出てきて、収容所内でも、新たな不幸が生じていきます。
フランス語上演で、フランス語以外の言語(日本語、英語など)が語られる時にフランス語字幕が出ます。身体表現やステージング、衣装などで人々の密な関係性とその変化や、時代の変遷を描いていく歴史群像劇です。レイプや強制労働、共同体の中の対立などを、言葉だけでなく群舞などで見せてくれるので、言葉がわからなくても退屈せず、物語を追いながら楽しく拝見できました。
なんといっても、日本人が登場するアメリカが舞台の物語が、フランスの劇場で、フランス語で演じられていることが面白いですし、感動を覚えます。人間は可能性に満ちていますね。
米国の日本人収容所が舞台のお芝居といえば、こまつ座『マンザナ、わが町』という傑作があります。9月に再演されるのでぜひ(⇒メルマガ号外)。同じ題材だとブロードウェイ・ミュージカル『Allegiance(アリージャンス)~忠誠~』を映画館で拝見しました。カナダのバンクーバーにも日本人の強制収容所のことを伝える博物館があります。
ここからネタバレします。
プロセニアムの劇場で、上下(かみしも)と奥には、何枚も吊り下げられたすだれのような白い布が、風に揺れています。銀色(灰色?)のパネルを組み合わせた装置を移動させて場面転換します。壁を回すと裏から部屋が現れたり、壁の奥に黒い手のひらサイズのスポンジの山があったり、変化が多彩です。簡易的な着物を着て、髪を和風に結った女性たちを、シャツにパンツというカジュアルな服装の男性たちがレイプする場面や、全員が黒いスポンジをひたすら集めて掃除をする場面などは、視覚的に訴える力が強く、雄弁で意味も明快です。
パネルには映像も映写され、日本人女性を演じる出演者の顔のアップがプロローグ、エピローグに出てきます。最後には彼女たちの顔が、実際に米国に渡った写真花嫁たちの写真へと変わっていく趣向でした。
たぶん時系列に「Welcome Japanese!」「Parents」「Children」「Disappearance」といった構成だったと記憶しています(間違っている可能性大)。「Disappearance」は日系人が強制収容所に入れられて、いなくなってしまった(消滅した)頃のエピソードが語られます。金髪の白人女性として登場したナタリー・デセイさんが、数十分にわたり独白をするのです。演技は抜群のうまさだと思いましたが、いかんせん、言葉がわからない私には長く感じました。それまでが視覚的に多彩でしたので、あえてギャップを生む演出だったのかもしれません。やっぱりフランス人は言葉の表現がお好きなのでしょうね。
22時開演の野外公演で、幕開けからピカピカと雷の光がすごくて(最初は照明効果かと思ってました・笑)、終盤は雷鳴も頻繁になってきてハラハラでしたが、カーテンコールが終わるなり、土砂降り!もともと上演の真っ只中に雷雨の予報があり、公演中止の可能性もあったそうです。ギリギリに終演できたのは奇跡的でした。会場は古い修道院の中庭で、終演後に雨宿りしていた廊下の一部は1~2cmほど浸水していました。
ナタリー・デセイさんの独白の時に雷鳴が連発。彼女が全くひるまずやり遂げたこともあってか、ブラボーの声が響きわたるカーテンコールは、4回に及びました。私は作品そのものも面白かったです。
出演者12人中、2人だけが日本人。竹中香子(たけなか・きょうこ)さんと外間結香(ほかま・ゆいか)さんです。竹中さんは子供のような無邪気さを天真爛漫に、健康的に披露しつつ、人間の貪欲さ、残酷さもしたたかに表現。いつもながら命そのものの力強さが放射されるようでした。外間さんは高校からフランスでバレエ、ダンスに取り組まれている女性で、沖縄出身。舞台では演技も沖縄の歌も披露されていました。
WL記事更新【インタビュー】外間結香・竹中香子 ─ アヴィニョン演劇祭2018の公式プログラムに出演した二人の日本人女優。アヴィニョンの演目についての他、15歳で単身、沖縄からフランスに渡った外間結香さんの舞踊・演劇人生についても聞きました。波瀾万丈です。https://t.co/F7woDv08pG
— 観客発信メディア WL (@theatrum_WL) 2018年8月26日
外間さんの記事↓
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-697059.html
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/237153
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/236894
≪解説≫ 公式サイトより
In the early 1920s, thousands of Japanese women left for the United States, where they were reunited with their husbands and dreamt of an idyllic life in the country of the Gold Rush. But those hopes were quickly dashed… The novel by Japanese-American writer Julie Otsuka is about those arrivals, and the disappointments that ensued. From the everyday details of those “new poor lives,” the writer weaves a story that ties together two continents until the Second World War, and tells of the stigmatisation of an entire community, which turned invisible in response. Director Richard Brunel, moved by this tragedy, decided to adapt this text for the theatre. To give voice to those diverse stories brought together by their similar outcome, he has surrounded himself with actresses and actors, with all their differences, and leads them on the way to becoming a collective “we” to better highlight those successive disappearances, both individual and collective, and to explore an American landscape which absorbs as much as it rejects. Starting from a little-known piece of History, The Buddha in the Attic presents us with the fates of women who dared to believe in a new life somewhere else.
≪ここまで≫
Distribution:
With Simon Alopé, Mélanie Bourgeois, Youjin Choi, Natalie Dessay, Yuika Hokama, Mike Nguyen, Ely Penh,
Linh-Dan Pham, Chloé Réjon, Alyzée Soudet,
Kyoko Takenaka, Haïni Wang
Text:Julie Otsuka
Translation:Carine Chichereau
Adaptation and direction:Richard Brunel
Dramaturgiy:Catherine Ailloud-Nicolas
Stage design:Anouk Dell’Aiera
Costumes:Benjamin Moreau
Sound:Antoine Richard
Lights:Laurent Castaingt
Video:Jérémie Scheidler
Assistant direction:Pauline Ringeade
Production
Production La Comédie de Valence Centre dramatique national Drôme-Ardèche
Coproduction Festival d’Avignon, Théâtre des Quartiers d’Ivry Centre dramatique national du Val-de-Marne
With the support of l’école du Nord et pour la 72e édition du Festival d’Avignon : Adami, Spedidam, Fondation Raze
In partnership with France Médias Monde
http://www.festival-avignon.com/en/shows/2018/the-buddha-in-the-attic
http://www.festival-avignon.com/fr/spectacles/2018/certaines-n-avaient-jamais-vu-la-mer
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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