ホリプロ『アンナ・クリスティ』07/13-29よみうり大手町ホール

 栗山民也さん演出による米国劇作家ユージン・オニールの戯曲の上演は、新国立劇場の『夜への長い旅路』『喪服の似合うエレクトラ』『氷屋来たる』に続いて4作目だそうです。

 『アンナ・クリスティ』はオニールの初期作品で、1921年のピューリッツァー賞受賞作です。いや~さすがの面白さで、後半は目が離せなかったです。初日の上演時間は約2時間40分(途中休憩20分を含む)。

 1930年にグレタ・ガルボが主演した米国映画↓があるんですね。

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≪あらすじ≫ 公式サイトより
海のちからが、ひとの運命をかえる-
海と愛と絶望と・・・、その先にあるもの

ニューヨーク市、サウス通り近くの酒場。年老いた石炭船の船長クリス(たかお鷹)は、5歳のときに親戚に預けて以来会っていない娘アンナ(篠原涼子)と15年ぶりに再会する。
虐待を受け転々としたのちに娼婦に身を落とし、身も心も傷ついたアンナは父親のもとで回復したいと願っていたのだ。

アンナが娼婦になっていた事に気づかないまま、父娘が船上の暮らしを始めたある嵐の日、難破船から助け出されたアイルランド人の火夫マット(佐藤隆太)が彼らの前に現れる。

マットとアンナは恋に落ちるが、アンナの過去を知ったマットは失望し、アンナの許から去ってしまう。アンナに幸せは訪れないのだろうか・・・。
≪ここまで≫

 パブ、船、部屋と表情を変えていくシックな舞台装置(二村周作)は、舞台上手のすりガラス状の大きな壁がとても効果的で、たしか『夜への長い旅路』もそういう装置だったなぁ思い出しました。舞台上手の下から下手の上に向かって開くカーテン状の幕も素敵です。

 ↓こちらの劇場写真で、舞台の上手の壁とカーテン状の幕が見えます。

 篠原涼子さん演じるアンナは、子供のころから虐待され、女性らしくなってきたころに男性から暴力を振るわれます。それを当たり前だとする世の中に対して、彼女は異を唱えます。ジャーナリストの伊藤詩織さんが命がけで行ってくださっている、「me too運動」のようだと思いました。1921年、つまり戦前に書かれた戯曲だと思うと、なんとも考えさせられます。

 アンナの父で元水夫長役のたかお鷹さんが、芝居の世界観を支えてくださいました。アンナと恋に落ちる火夫(=船の釜に石炭をくべる人夫)マットを演じた佐藤隆太さんは、脳みそも筋肉でできていそうな(笑)、純朴な若者をパワフルに、可愛らしく表現してくださいました。
 原康義さん、立石涼子さんの出番が少なくてもったいないような気がしましたが、贅沢といえば贅沢ですよね。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 クリスはスウェーデンの船乗りで、海に出たら家に帰ることはほとんどありませんでした。クリスの娘アンナは5歳の頃に母とアメリカのミネソタの農村に移り、母が早死にしてからは奴隷のように働かされていました。16歳の時に農家の末息子にレイプされて家出し、ベビーシッターになりますが、2年後には娼婦に身を落とします。

 なにかと「海は化け物だ」と言い続けるクリスは、アンナが海の男と結婚することには絶対に反対です。初めての恋に胸躍る乱暴者のマットは、クリスと激しく衝突します。「マットとは結婚するな!俺と一緒に居ろ!」と叫ぶクリスも、「これからアンナはお前じゃなくて、俺の言うことを聞くんだ!」と怒鳴るマットも、彼女を人間ではなく、もの扱いしているのです。そのことにアンナは気づいています。

 マットが惚れたのは“堅気”の自分であって、娼婦だと釣り合わないため、アンナは身を引く決心をしています。父クリスのためにも自分がやってきたことを黙っていたかったのですが、どうしても納得しないマットのせいで、言うはめに。アンナが娼婦だったと知ったマットは、彼女をこれ以上ないほどに罵倒し、騙されたと被害者面をします。自分は頻繁に娼婦を買ってきたくせに、ひどい言いがかりです。あんなに2人の結婚に反対していたクリスが「お前(マット)、娘と結婚してくれ」とつぶやくのも最低ですね。

 幾度もどんでん返しが続いた後、最終的にはマットがアンナの愛を信じ、結婚することに。クリスとマットが2人とも、翌日から南アフリカのケープタウン行きの船に乗る契約をしていたのは、笑えるし、皮肉ですね。クリスが「これも海の呪いではないか」と言い出し、3人の将来がこのまま順風満帆とは限らないことを匂わせます。上手の大きな壁が真っ青に光り、3人の姿が黒いシルエットになって終幕。雄大で謎に満ちた自然と、その魅力に対して無力な人類を想像できました。

 クリス、アンナ、マットの3人が出会うのはニューヨーク。クリスとアンナはスウェーデン人で、マットはアイルランド人ですので国際性豊かですね。宗教が異なるのも複雑です。アンナはマットの大切なロザリオに愛を誓いましたが、彼女はカトリックではなかったのです。それを知ったマットがのたうち回るのには笑いました。現代にも通じる戯曲ですね。

 篠原涼子さんはキャットウォークを歩くファッション・モデルや、テレビ&映画「アンフェア」の主人公に見えることがありました。豊満な胸元を強調する衣装が印象的でした。

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≪東京、大阪≫
出演:篠原涼子、佐藤隆太、たかお鷹、立石涼子、原康義、福山康平、俵和也、吉田健悟
脚本:ユージン・オニール 翻訳: 徐賀世子 演出:栗山民也
美術:二村周作
照明:服部基
音響:山本浩一
衣裳:前田文子
ヘアメイク:鎌田直樹
演出助手:坪井彰宏
舞台監督:田中直明
【発売日】2018/04/07
全席指定:9,800円
U-25(25歳以下当日引換券):5,000円
http://hpot.jp/stage/anna2018
http://stage.corich.jp/stage/92739

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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