串田和美さんが演出・美術、木ノ下裕一さんが補綴を担当されたコクーン歌舞伎『切られの与三(きられのよさ)』を拝見。上演時間は約3時間5分、途中10分、15分の休憩含む。
はぁ…七之助さん…カッコいいし可愛いしで、もう、たまりません!
≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名を追加)
江戸の大店の息子、与三郎(中村七之助)は木更津の浜で美しいお富(中村梅枝)と出会い、互いに一目で恋に落ちる。しかし、お富は囲われ者、逢瀬の現場を押さえられ、与三郎は顔も身体もめった斬りにされ、お富は海へ飛び込んでしまう……。
3年後、お富は溺れた自分を助けてくれた男の世話になっている。そこへ蝙蝠安(こうもりやす・笹野高史)と強請に来たのは、刀傷を売りにする小悪党に変貌した与三郎だった。一度は夫婦になるものの、またまた引き裂かれてしまう二人。ふとした恋が運命を狂わせていく、その先は……。
与三郎に中村七之助、お富にコクーン歌舞伎初出演の中村梅枝という清心な配役で、同じく初出演となる中村萬太郎に、コクーン歌舞伎を支えてきた片岡亀蔵、笹野高史、そして中村扇雀の出演により、名作『与話情浮名横櫛』の真実の姿を浮き彫りにする、コクーン歌舞伎、待望の最新作、『切られの与三』が幕を開けます!
≪ここまで≫
ガランとした空間で木製と思われる大道具を移動させて場面転換します。客席側の上下(かみしも)ではジャズの生演奏。語り部が観客に説明する趣向で、出演者は語り部にもなり、役も演じます。主人公の与三郎の物語には色んなバージョンや解釈がある様子。一幕(序幕)、二幕とも似た演出でシンプルな印象でしたが、三幕(大詰め)になってその意図がわかったような気がしました。
木ノ下歌舞伎の木ノ下裕一さんが補綴としてかかわっていらっしゃることが感慨深いです。木ノ下歌舞伎『黒塚』は「CoRich舞台芸術まつり!2013春」でグランプリを受賞。『黒塚』の出演者で同催事の演技賞受賞者の武谷公雄さんが、いい役を演じていらしたのも嬉しいです。
児玉竜一氏 コクーン歌舞伎「切られの与三」評。
(評・舞台)コクーン歌舞伎「切られの与三」 流浪の2人、漂う疾走感:朝日新聞デジタル / https://t.co/1NgWefuQyK
— 六条亭 (@rokujoutei) 2018年5月19日
ここからネタバレします。
殺人罪で警察につかまり島流しになった与三郎は、海に飛び込んで島抜け(脱獄)し、江戸にたどり着きます(多分いかだに乗って)。幸運すぎ!さすが歌舞伎!と心の中でツッコミましたが、なぜだか江戸が不思議な感じ。橋の奥にビル群が見えたり、往来の人々が突然倒れたり。もしかしたら海で死んだ与三郎の夢なのでは…とも想像。ここ以降は、どんなセリフも夢か嘘のような気がして面白かったです。
落ちぶれた赤間源左衛門(とおぼしき誰か)を殺した与三郎は、下男忠助(笹野高史)と再会。実家に帰るも父に門前払いされ、お富(中村梅枝)を訪ねたら彼女はまた結婚していました。今度は兄ではなく観音久次(中村扇雀)との正式な結婚です。与三郎を歓待しておきながら、久次はお富に与三郎を殺すよう指示。不本意ながら夫に従い、お富が与三郎を殺そうと刀を抜いたところ、なぜか久次がその刀を取り上げて自分に刺しました。展開謎過ぎ!
島流しになっていた時に与三郎に出会った久次は、自分が世話になった人の息子だと気づいて恩返ししようと考えていたとのこと。ある毒薬と自分の生き血を飲めばどんな傷も治ると言います(一幕、二幕で毒薬のエピソードあり)。与三郎がそれを飲んで傷が全快する…という結末もあるそうですが、今作では与三郎は「自分の人生をなかったことにはしたくない」と言って拒むのです。生き血と毒薬を捨てた与三郎は再び走り始めます。ずっとずっと逃げ続け、過去を背負って生き続けるんですね。
与三郎がたどり着いたのは別天地なのか天国なのか。ただ夢を見続けているのかもしれません。そもそもお芝居は夢(=虚構)ですし、誰の人生だってその人の夢に過ぎないとも言えると思います。安直な夢落ちにならず、考えさせられる作品になったのは、与三郎が人生を捨てなかったからではないかと思いました。過去は決して消せないと主張しつつ、そもそも全ては夢かもしれないことも示します。私自身が嘘と本当が混ざった世界に生きていて、生きている内にやったことは、なかったことにはできないのだと受け取りました。
≪東京、長野≫
出演:中村七之助、中村梅枝、中村萬太郎、中村歌女之丞、中村鶴松、真那胡敬二、笹野高史、片岡亀蔵、中村扇雀、中村勘之丞、中村山左衛門、中村小三郎、澤村國久、中村かなめ、中村いてう、小西康久、大月秀幸、内田紳一郎、武谷公雄、中村仲之助、中村仲四郎、中村仲助、中村仲弥、中村仲侍、中村扇十郎、中村竹蝶、土橋慶一、近藤隼、細川貴司、草光純太
作:瀬川如皐「与話情浮名横櫛」より
補綴:木ノ下裕一
演出・美術:串田和美
照明:齋藤茂男 音楽:Dr.kyOn 音響:武田安記 映像:栗山聡之
技術監督:櫻綴 狂言作者:竹柴徳太朗 舞台監督:横沢紅太郎
[主催]松竹株式会社/Bunkamura
[製作]松竹株式会社/Bunkamura
【発売日】2018/03/31
1等席 13,500円
2等席 8,000円
3等席 4,000円
立見A(当日券のみ) 3,500円
立見B(当日券のみ) 2,500円
※当日券は、劇場窓口にて、各公演の開演1時間前より販売します。
※立見Bは立見A完売後に販売します。
※3等席は特にご覧になりにくいお席です。ご了承のうえ、ご購入ください。
※1等席~3等席はすべて椅子席です。
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/18_kabuki/
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/other/play/559
http://stage.corich.jp/stage/91241
https://natalie.mu/stage/news/264608
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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