EPOCH MAN〈エポックマン〉『Brand new OZAWA mermaid!』05/05-20 APOCシアター

 虚構の劇団に所属する俳優の小沢道成さんが作、演出、美術を担当し、プロデュースもされているご自身の一人芝居です。上演時間は約1時間30分弱。

 「CoRich舞台芸術まつり!2018春」への応募時から気になっていた公演です(⇒応募内容)。俳優1人でこんなにまで出来ちゃうなんて…! カーテンコールは拍手が鳴り止まず計3回。私も拍手し続けました。

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≪あらすじ・作品紹介≫ CoRich舞台芸術!より
「人魚姫」の物語をモチーフに、小沢道成が 3 年振りに書き下ろす最新作

 人魚姫を読んでいて、どうしてこんなに悲しい結末になってしまうんだろうってずっと思っていまして、だって、元々夢とか理想とか好きだって気持ちとか、そんなキラキラしたことで胸いっぱいだったはずなのに、いつの間にかそんな辛い日常に巻き込まれてしまっていて、なんとか報われてほしいって思うんですけど、王子様って呼ばれる男は違う女を選んじゃうし、人魚に戻りたいって思っても戻れないし、声でないし、足痛いし、最終的に泡になって消えるだなんて、そんな夢とか恋とか抱いた人の結末がそんなだなんて僕は嫌だし、なんとか幸せになりたいし、なんとか不幸にだけはなりたくないから、だから、描いてみました。演劇で思いっっっっきり遊ぶ、僕なりの人魚姫。
 そして、ここ数年で才能もある発想力もある技もある魔法使いみたいな人たちと出会ってきました。そのクリエイティブチームと一緒に、新作ひとり芝居をお贈りします。上演時間はおそらく75分、このAPOC シアターの劇場でしか実現出来ないことを思いつきました。是非、劇場まで体験しに来てください。

 2018 年、この東京に人魚がやってきます。
≪ここまで≫

 現代の東京が舞台のアダルトな「人魚姫」コメディーで、1人で何役も軽快に演じ分ける面白さに加え、ハイテンションのギャグや気の利いたブラックユーモアが満載です。小さな劇場に建て込まれた美術も照明も贅沢で、衣装もヘアメイクも小道具も工夫が凝らされていて見応えあり。

 APOCシアターの入り口が(私にとって)いつもと違うことにまず驚き、舞台美術の仕掛けが徐々に繰り出されていくことにわくわくしました。なんとパンフレット(千円)もご自身でデザイン、編集されたものだそうです。1年間にわたる創作過程が記録されている充実の内容でした。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 人魚のヒメコは魔女の薬を飲んで両足を得ても、声は失わず、水が不足すると手足が震えるという設定でした。会話ができる方がすれ違いがあらわになって、残酷なお話になるんですねぇ…。

 ヒメコが海で助けた若い男性ヒメジマ(たぶんヒメジマだった気が…間違ってたらすみません)は、甘ったれのボンボンで、女にだらしない今風のクソ野郎でした。ヒメジマの声は録音で、上下(かみしも)と中央にある(たぶん)小さなスピーカーから聞こえてきます。ヒメコもヒメジマ(声のみ)も小沢さんが演じているのが演劇的で面白いです。小沢さんは鼻持ちならない若者を演じるのもお上手(笑)。

 セックスの場面も1人で演じるのですが、下手奥のドラム奏者(マルシェⅡ世)と掛け合い、ラップで表現します。結構ハードな性描写を、自分をさらけ出してやりきってらして、下品にならずコミカルで良かったです。

 ヒメジマの部屋の本棚で見つけた「人魚姫」を読んだヒメコは、「愛が成就しないと自分は泡になる」と思い込み、必死でヒメジマを振り向かせようとしますが、叶いません。部屋を追い出されたヒメコは、彼が最後の最後にドアを開けてくれた(と思い込んだ)後、彼に切実な思いを語ります。

 「広い海の中から2度も私を見つけてくれて(溺れた時とナンパした時)、結ばれたのは奇跡。こんなにあなたを愛してくれる女の子とは二度と出会えないよ」。
 本気で恋をした時は、誰だってこういう風に思うものですよね。本気になれるかどうかが、どんな人生を生きることになるのかを決めるとも思います。

 全身を震わせながら海に向かった(たぶん)ヒメコは、空に鳴り響く大きな音を聞きます。ヒメジマと2人で見に行けなかった花火が上がっていました。ヒメコは驚きと喜びに満ちた笑顔で花火に見とれており、彼女が地上に出たことは無駄ではなかったんだなと思えました。
 オープニングは海の波の音で、エンディングは花火の音でした。深い水底から高い大空へと飛べた心地です。

 海底で暮らすヒメコの姉たちはぬいぐるみでした。小沢さんの首の下にぬいぐるみの胴体を持ってきて、手でぬいぐるみを操りながら、声色を変えて演じ分けます。
 舞台上に置かれている三角のベンチは蓋が開く構造で、中から金色のすだれ(のようなもの)が出てきたのに目を奪われました。すだれの奥からは魔女が登場しました。スカートを脱いで素足を見せた小沢さんが舞台中央奥の梯子を登り、ロフトに上がってハケることで、地上への脱出を表していました。

 手のひらぐらいのサイズの四角いパネルがパッチワークのように編まれた壁は、海底の岩にも、都会のビル群にも見えました。天井を横切る小さな無数の照明が光って星空になったり、パネルの輪郭に沿って細長い紐のような照明が光ったりしたのにも驚かされました。水族館の場面でいくつかのパネルから、魚たちの光る絵が浮かび上がったのも美しかったです。

 回り舞台は小沢さんが手動で回します。まさかAPOCシアターの一人芝居でこれほど建て込まれた美術を見られるとは思っていませんでした。

 個人的に、最初の方で観客と意志疎通する時間を設けてもいいんじゃないかなと思いました。手が届きそうな小さな空間なので、客いじりでなくとも、お互いの存在を確かめ合う時間が少しあれば、もっとリラックスして小沢さんと一緒に旅ができるような気がしました。

作・演出・美術 小沢道成
ドラムパーカッション演奏 マルシェⅡ世(もるつオーケストラ)
楽曲提供 オレノグラフィティ(劇団鹿殺し)
舞台監督 村田明(クロスオーバー) 中瀬古靖(クロスオーバー)
照明 中佐真梨香(空間企画)
音響 堀江潤
衣裳 藤谷香子(FAIFAI)
ヘアメイク 笹川ともか(プランギカシー)
宣伝美術 藤尾勘太郎(犬と串)
写真 moco
照明操作 磯田浩一(やくぶつ)
稽古場代役・演出助手 前田隆成
制作協力 上村幸穂(TiA production) 北澤芙未子 佐藤美絋
企画・製作 EPOCH MAN
【発売日】2018/03/21
前売・当日 ¥3,500
18歳以下 ¥1,800
《一般発売》開始日時:2018年3月21日(水)12:00~
・全席自由席/チケットに記載されています整理番号順のご入場となります。
・CoRich舞台芸術!、演劇パスでご購入のお客様は公演当日に受付順にて整理番号をお渡しします。
・最速チケット即売会、ネット先行販売でチケットをお買い求めのお客様は、チケットに記載の整理番号に従ってご入場ください。
http://epochman.com
http://stage.corich.jp/stage/8982

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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