ナイロン100℃『百年の秘密(再演)』04/07-30本多劇場

 ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが作・演出される劇団ナイロン100℃(ヒャクドシー)の25周年記念公演第1弾は、6年振りの再演です。上演時間は約3時間25分(途中休憩15分を含む)。
 今月のメルマガでもご紹介しましたとおり、2012年の初演は勝手ながらその年の「心に残る作品」に選ばせていただきました。

 3時間半を全く長く感じさせない大河ドラマであり、絵本のようなおとぎ話であり…♪ パンフレットの水谷八也さんの寄稿冒頭の「これ、ブロードウェイでやったら、絶対面白いのに!」という一文に共感しました。ご家族、友人、恋人を誘ってご覧いただきたい娯楽作です。

≪解説≫ 公式サイトより
『百年の秘密』はあの震災の翌年に初演された。二人の女性の奇妙な友情を軸に、彼女達をとりまく人々に訪れた「日常の数十分」をいくつか切り取り、約80年という長いスパンで、但し時系列に添うことなく並べたクロニクル。劇中に震災を想起させるような要素は皆無だが、執筆≠稽古中、ずっと頭にあったのは、幸せとは言えぬ亡くなり方をした方々の、その人生を引っくるめて「悲惨」と称してしまうことへの反発と、そう称されてしまう人生たちへの擁護だった。「終わり良ければ」は人の一生には当てはまらないのではないか。別の言い方をすれば、そもそも悲惨でない人生なんてないんじゃないか。そんな気持ちだった。

「どうしても再演しておきたい公演」というのは滅多にない。「どうしても」となると、劇団での上演に関しては、今やこの作品が唯一。最後の一本だ。再演時に取材をお受けすると、まず「どうしてこれを今再演したかったのでしょう」と聞かれる。そんなこと聞かれても、再演したかったからです、としか言い様がない。どうしても再演したかった。
実は初演時から「絶対再演したい」とプロデューサーに直訴していた。初演の出来が悪かったからとか、観客の評判が良かったからではない。強いて言うなら、作品側から求められていたのだ。
ナイロン25周年に相応しい、決定版再演にします。ぜひとも足をお運び頂きたい。
  
主宰 ケラリーノ・サンドロヴィッチ(本チラシより)
≪ここまで≫

 『百年の秘密』はナイロン100℃という劇団だからこそ生まれた、大人数の登場人物がいて、上演に長時間かかる、とても面白いお芝居です。この機会を逃さず、歴史の生き証人になることをお勧めしたいと思います。語り継がれ、何度も(ナイロン100℃以外でも)上演される可能性も期待できる戯曲ではないでしょうか。
 ※ロビーで戯曲本を購入できます。

ケラリーノ・サンドロヴィッチII 百年の秘密/あれから (ハヤカワ演劇文庫)
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 初演から6年経って、自分がいかに年を取ったかを確認できました。名作を再び観られることは観客の幸運です。人々がにこやかに笑い合う場面ほど、涙がこぼれました。生きることは出会いと別れの連続で、2度と会いたくない人ほど再会します(個人的経験上)。良い意味でも悪い意味でも嘘だらけで、毎日、傷つくことばかりです。だからこそ、一瞬であれ表面的であれ、その場にいる人々が幸せそうな時間を尊いと感じます。

 つい先日、私より10~20歳ぐらい年下の友人たちと話す機会があり、同じ舞台を観ても受け取り方が大いに異なることを確認しました。昔、傑作と言われていた舞台が、若者にとってはつまらないこともあるし、その逆もまた然りです(ごく自然なこととして)。『百年の秘密』は古典がそうであるように、観客が年を取るごとに感情移入する人物や場面が変わっていくお芝居だと思います。色んな世代の観客が繰り返し観て語り合える。そんな豊かな交流を生む、王道の観劇体験になるのではないでしょうか。

 ここからネタバレします。正確性は保証できません。

 父(廣川三憲)の浮気を知ったショックでスポーツ推薦を蹴ってしまう息子(大倉孝二)のエピソードはアーサー・ミラー作『セールスマンの死』、名家が落ちぶれて豪邸を売却することになり、立派な樹木が伐採される(かもしれない)のはチェーホフ作『桜の園』を思い起こさせます。中央にそびえる大木が、私には福島県の(帰宅困難区域にある)桜並木に見えて仕方がなかったです。

 池に投げ捨てられたエラーコイン(やがて高額になる)が見つかるのは、池の水が何度か入れ替えられた後だったと、召使のメアリー(長田奈麻)が語ります。つまり池はなくならなかったわけで、もしかしたら木も切られなかったのかな…と楽観的に想像しました。

 最後は、12歳のティルダ(犬山イヌコ)とコナ(峯村リエ)が、木の根元にカレル(萩原聖人)からアンナ(女性教師・登場しない)宛てのラブ・レターを埋めると決める場面でした。最後の最後は音楽が止まって、中央の木と2人が白く照らし出された後、何もかもを断ち切るように暗転します。決定的な運命の瞬間で、不幸の始まりのようにも感じ、少々説明的な気がしました。牧歌的といえるムードの音楽が流れるまま終演する方が、皮肉で切なさが増して私好みかもしれません。

45th SESSION
≪東京、兵庫、愛知、長野≫
出演:犬山イヌコ、峯村リエ、みのすけ、大倉孝二、松永玲子、村岡希美、長田奈麻、廣川三憲、安澤千草、藤田秀世、猪俣三四郎、菊池明明、小園茉奈、木乃江祐希、伊与勢我無、萩原聖人、泉澤祐希、伊藤梨沙子、山西惇
脚本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
音楽:鈴木光介 美術:BOKETA 照明:関口裕二 音響:水越佳一
映像:上田大樹  衣裳:宮本宣子 ヘアメイク:宮内宏明 ステージング:長田奈麻
演出助手:相田剛志 舞台監督:竹井祐樹 福澤諭志
宣伝美術:榎本太郎 宣伝写真:倭田宏樹  宣伝衣裳:宮本宣子 宣伝ヘアメイク:山本絵里子 浅沼靖
制作:佐々木悠 瀬藤真央子 川上雄一郎 仲谷正資 尾崎裕子 票券:北里美織子 広報宣伝:米田律子
プロデューサー:高橋典子 製作:北牧裕幸 
【発売日】2018/02/17
[料金] 全席指定・税込6,900円 学生割引券3,400円 
※学生割引券はチケットぴあ前売のみ取扱
※学生割引券は当日の開場時間から受付にて学生証提示の上、指定席券と引き換えます。座席はお選びできません。また、学生証のご提示がない場合は一般料金との差額をいただきます。
http://www.cubeinc.co.jp/stage/info/nylon45th.html
http://stage.corich.jp/stage/89829

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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