フォトグラフ51制作実行委員会『フォトグラフ51』04/06-22東京芸術劇場シアターウエスト

 2015年9月に英国でニコール・キッドマン主演で初演されたと知り、戯曲に興味があって拝見しました。上演時間は約1時間45分。休憩時間はありません。

 “「DNAの二重らせん構造」を発見したユダヤ人の女性科学者ロザリンド・フランクリン”のお話です。ロザリンドを演じる板谷由夏さんは初舞台。演出はサラナ・ラパインさんというアメリカ人女性なんですね(⇒SPICEの記事)。

≪あらすじ≫ 公式サイトより。※かなりネタバレしてしいます。
世紀の大発見をしたのは彼女。ノーベル賞をもらったのは彼ら。

女性科学者が殆どいなかった1950年代、ユダヤ系イギリス人女性科学者ロザリンド・フランクリン(板谷由夏)は遺伝学の最先端を誇るロンドンのキングスカレッジに結晶学のスペシャリストとして特別研究員の座を獲得する。当初、彼女は独自の研究を行う予定でキングスのポストを引き受けたのだが、同僚ウィルキンズ(神尾佑)は、出合い頭、彼女を助手として扱う。この雲行きの悪い出合いが、その後彼女等の共同研究のチームワークの歪みを作るきっかけとなる。形式上、DNAの共同研究者となったロザリンドとウィルキンズだが、二人は常に衝突を繰り返す。助手で指導学生ゴスリング(矢崎広)がおどけた調子で2人の橋渡しを図っても一向に効果はない。ぶつかり合いながらも、ウィルキンズはロザリンドに密かな恋心を抱くようになり、幾度も関係の改善を試みるが敢えなく不毛に終わる。ロザリンドが唯一心を許すのは、彼女に憧れを抱く若きユダヤ系アメリカ人科学者キャスパー(橋本淳)である。この事実もウィルキンズにとっては面白くない。子供じみた嫉妬をあらわにするが、ロザリンドにはウィルキンズの秘めた思いは全く通じていない。こんな調子であるから、当然研究も早く進むはずがない。ロザリンドが特殊カメラを駆使して撮影するX線画像は明らかにDNA構造の謎解きの鍵を映し出しているのだが、共同体制を取っていないロザリンド・ウィルキンズチームはその謎の解明に到達できない。そうしている間、野心家のアメリカ人若手科学者ワトソン(宮崎秋人)とウィルキンズの旧友クリック(中村亀鶴)がチームを組み、DNAの謎の解明に挑み始める。ウィルキンズを通じて、ロザリンドのX線解析画像の情報を入手したワトソン・クリックチームは、彼女の写真と論文を元にして、ついにDNA二重らせん構造の発見に成功してしまうのだった…

文: 翻訳・ドラマターグ 芦澤いずみ

※本戯曲はイギリスで実際にあった二重らせんを巡る競争の史実をもとに書かれたフィクションであり、タイムライン、事実、出来事等は劇化の目的のため創作されている。
≪ここまで≫

 主に1950年代のイギリスの研究室が舞台です。いやー…女性差別がすさまじいですね。

 歌舞伎役者さんの語りがいかにも歌舞伎っぽかったり、ウィットに富む会話が成立しなかったり、笑えなかったり…戯曲の重要なポイントやシニカルなやりとりなどが、つぶ立たずに流れて行ってしまうのは、演出家が日本語をご存じじゃないからなのかしら…などと考えながら観ることになってしまいました。

 キャスパー役の橋本淳さんが、いつもながら柔軟でイメージが豊かな演技を見せてくださって、救われました。橋本さんが舞台にいる時は普通に呼吸ができる感じでした。

 ここからネタバレします。

 上手と下手に同じデザインの四角い枠型の出入り口があるシンプルな抽象美術で、舞台中央のみ丸い台状になっていて一段上がっています。舞台中央面側が客席に向かって張り出しており、客席の上下前方ブロックは中央に向かって少し斜めに配置されていました。上手がウィルキンズ、下手がキャスパー、下手奥がワトソンとクリック、中央がロザリンドとゴスリングのスペースです。

 役を演じる時、その人物の過去や人生の目的などを座組み内で研究・考察して明らかにした上で、俳優は各場面での目的を持ち、舞台上で役人物として相手役と観客とともに生きる。そういう演技方法を俳優の訓練場(ワークショップ)で見てきました。今回の上演では、各場面ごとの短いスパンの目的しか持ってなさそうな俳優が多く、発する言葉のイメージも曖昧なため、何のための会話なのか、行動なのかがぼやけていて残念でした。科学的発見を喜んだり、他者を疎んだり、愛したりといった感情の振れ幅も小さかったです。

 シェイクスピア作『冬物語』が引用されます。ロザリンドがハーマイオニー王妃で、ウィルキンズがシチリア王レオンティーズ(ハーマイオニーの夫)に当たるわけですが、残念ながら私にはそういう関係性は見えづらかったです。発見されたDNAのらせん構造が、すなわち彼らの娘パーディタとその夫となるボヘミア王子フロリゼルなんでしょうね。絡み合っても決して交わることのない遺伝子AとBが、ロザリンドとウィルキンズである…などと、色んな想像ができるのかもしれません。

 ロザリンドが撮影した写真を使ったワトソンとクリックがノーベル賞を受賞します。研究者の中にはウィルキンズの名前もありました。(死後の)ロザリンドが言う「私たちは勝利した」の「私たち」には、彼ら全員が含まれるんですよね。世界や歴史に対して、そういう視点を持つことを大切にしたいと思います。

≪東京、大阪≫
【出演】ロザリンド(子宮に2つの悪性腫瘍ができて37歳で死去):板谷由夏 ウィルキンズ(ロザリンドの共同科学者・離婚歴あり・ロザリンドに横恋慕するようになる):神尾佑 ゴスリング:矢崎広(ロザリンドの助手・あまり優秀ではない) ワトソン(生意気な若い科学者):宮崎秋人 キャスパー(ロザリンドの研究を崇拝し、彼女を愛するようになる若い科学者・ロザリンドと同じくユダヤ人):橋本淳 クリック(ワトソンと組む科学者・ノーベル賞を授賞するが妻に去られる):中村亀鶴
作:アナ・ジーグラ
演出:サラナ・ラパイン
翻訳・ドラマターグ:芦澤いずみ
美術:幹子 S.マックアダムス
照明:賀澤礼子
音響:長野朋美
衣裳:小栗菜代子
音楽:五藤舞央
通訳:寺田ゆい
演出助手:岡本寛子
舞台監督:髙橋大輔
宣伝美術:山下浩介
宣伝写真:神ノ川智早
宣伝ヘアメイク:沖山吾一/国府田圭
オフィシャルエアライン:ユナイテッド航空
8,500円(全席指定・税込)
U-25チケット 5,000円(25歳以下対象・要証明・当日指定席引換・税込)
http://www.umegei.com/photograph51/
http://stage.corich.jp/stage/90729

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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