ナショナル・シアター・ライヴ2017「ヘッダ・ガーブレル Hedda Gabler」12/01-07 TOHOシネマズ日本橋など

 「橋からの眺め」に続くナショナル・シアター・ライヴのイヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出作品です。1月13日から吉祥寺オデオンでも上映あり。上映時間は約210分(途中休憩15分と演出家らのインタビュー含む)。

 予想していたより笑いどころが多く、ガハハと何度も笑わせていただきました。そして『オセロー』と同様に“これ見よがし”な大胆さがかっこ良くて痛快!!NTLiveはやっぱりハズレなし!幸せ~♪

≪あらすじなど≫ 公式サイトより
故ガブラー将軍の娘ヘッダは、美しく勝気な女性。自由奔放な彼女は、研究者のテスマンとの結婚生活に窮屈を感じ、かつての恋人レーヴボルグら自分を取り巻く人々の充実した生活への羨望や嫉妬から、ある行動に出る――。NTLive『橋からの眺め』で、世界に大きな衝撃を与えた鬼才イヴォ・ヴァン・ホーヴェがイプセン劇を演出。過去にイングリッド・バーグマンやイザベル・ユペール、マギー・スミス、ケイト・ブランシェットら名だたる女優たちが演じてきたヒロイン・ヘッダ役を、過去に二度ローレンス・オリヴィエ賞に輝く実力派ルース・ウィルソンが演じる。
≪ここまで≫

 『ヘッダ・ガーブレル』はノルウェーの劇作家イプセンの1980年の戯曲です(⇒百科事典マイペディアの解説)。パトリック・マーバーさんの翻案によって現代的になっており、かなりわかりやすい英語だった気がします。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 休憩後に出演者と演出家のインタビューがありました。ホーヴェさんは『オセロー』の時と同様、「博物館的な作品にする気はない。(古典でも)現代に通じるように描く義務を感じる」といったことをおっしゃっていました。他には「イプセンの最高傑作で、彼自身を描いている」「19世紀末に書かれたことに驚くし、これからも驚かせてくれる戯曲」「社会から疎外された人を描いている」とも。

 ヘッダ役のルース・ウィルソンさんは「ブラインドカーテンを開閉するとその影が壁に移り、まるで牢獄のよう」「ヘッダは自分で牢屋を作り、自分で自分を閉じ込めている」などと発言されました。「ホーヴェ演出では言葉の裏の意味を探らない。言葉のまま、感情を行動で見せる」とも。

 美術は「大都会のロフトとも言える空間」で「舞台上に出入り口はなく、俳優は舞台の端から降りて退場する」。「建築中なのか壊れかけているのか、どっちつかず」のガランとした白い箱です。「ヘッダの心の中」とも言っていましたね(インタビューより)。

 レーヴボルグだけが黒人俳優でした。彼にしかない天性や特異な暴力性がわかりやすく示されたように思います。女中役が下手にずっと待機してるのも面白いです。客観性が保持されるのもいいですね。女中はヘッダの手助けをし続けて、最後は彼女の死を悼んで泣いていました。ヘッダの小さな母性の象徴なのかなと思ったり。

 ヘッダがレーヴボルグに銃を渡した(そのせいでレーヴボルグは死んだ)と踏んだブラック判事が、ヘッダの弱みに付け込んで暴力的に振る舞うのですが、野蛮さが誇張されていて怖いけど楽しい!(笑) トマトジュースを口に含んでヘッダの顔に吹き付けたり、馬乗りのような状態で彼女の体に垂れ流したり。私はゾクゾクしながら、にやけてもいて、「ブラック判事、もっとやれ!!」と言いたくなるような野蛮な気持ちも湧いてきたんですよね~。ああ恐ろしい、人間の野生。

 ヘッダの衣装は下着とも言える白いスリップドレスです。登場人物の中で下着なのは彼女だけでした。そういえばホーヴェ演出オペラ『サロメ』でも、タイトルロールのサロメはスリップドレスを着ていました。2人とも甘えん坊のお子ちゃまだからかしらと想像しました。または純粋、清新、弱さを表しているのかも。

 音楽はわかりやすく印象に残る選曲でしたね。幕と幕の間に流れるのはジョニ・ミッチェルの「Blue」。何度も流れるので耳に残ります。

 そして一度だけ「Hallelujah」が流れます。それはヘッダが歓喜に震える時、つまりレーヴボルグの原稿を焼く場面です。一人の人間に決定的な影響を与えることに成功したからですね。愚かしいことですが。↓この曲ではありませんが「Hallelujah」の例として。

 ヘッダが銃で自殺した後、「(こんな自殺は)人にできることじゃない」というブラック判事のセリフで終幕し、最後の曲は「love me(私を愛して)」と連呼する詞でした。これもまた子供だなぁと。でも彼女は死ぬしかない、死んで当然だと思えたし、即死はできずプルプルと醜く震えてはいましたが、自分の力で望みを達成した、立派な姿に見えました。

※パンフレット(600円)の広田敦郎さんの寄稿によれば、「ハレルヤ」はジェフ・バックリィさんのものだそうです(2017/12/05加筆)。
 Jeff Buckley – Hallelujah (Lyrics In Description)

■感想ツイート

“Hedda Gabler” by Henrik Ibsen, in a new version by Patrick Marber
出演
ヘッダ:ルース・ウィルソン Ruth Wilson
テスマン:カイル・ソラー Kyle Soller
ユリアーネ(テスマンの叔母):ケイト・デュシェーヌ Kate Duchene
エルヴスエテード夫人:シネイド・マシューズ Sinead Matthews
ブラック判事:レイフ・スポール Rafe Spall(『星ノ数ホド』)
レーヴボルグ:チュクディ・イウジ Chukwudi Iwuji
ベルテ(女中):エヴァ・マジャール Eva Magtar
作: ヘンリック・イプセン
脚色: パトリック・マーバー Patrick Marber(『ディーラーズ・チョイス』『クローサー』)
演出:イヴォ・ヴァン・ホーヴェ Ivo Van Hove(『橋からの眺め』『るつぼ』『ラザルス』)
美術・照明:ヤン・ヴァースウェイヴェルド Jan Versweyveld
衣装:アン・デュハウス An D’huys
音響:トム・ギポンズ Tom Gibbons
アクション:ポール・ベンジング Paul Benzing
一般3000円 学生2500円
パンフレットでは上演時間165分(休憩15分含む)。
上映時間:約210分
パンフレットでは上演時間165分(休憩含む)。
初演劇場:ナショナル・シアター/リトルトン(ロンドン)
プレビュー:2016年12月5日~11日
公演:2016年12月12日~2017年3月21日
http://www.ntlive.jp/heddagabler.html
http://www.eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=656
http://eiga.com/movie/86635/
https://filmarks.com/movies/72767

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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