Bunkamura『プレイヤー』08/04-27 Bunkamuraシアターコクーン

 前川知大さんの戯曲を長塚圭史さんが演出する新作です。上演時間は約2時間50分弱(途中休憩15分を含む)。『プレイヤー』は前川さんの劇団イキウメで2006年に上演されており、今回はそのお芝居が稽古場で行われる「劇中劇」になっています。

 公演パンフレットの長塚さんと野田秀樹さんとの対談がとても面白かったです。蜷川幸雄さん亡き後、中劇場であるシアターコクーンで外国人演出家による公演が増えていることや、集客のために有名人が多くキャスティングされる現状についても率直に語られています。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより 
舞台はある地方都市の公共劇場、そのリハーサル室。国民的なスターから地元の大学生まで、様々なキャリアを持つ俳優・スタッフたちが集まり、演劇のリハーサルが行われている。
演目は新作『PLAYER』。幽霊の物語だ。死者の言葉が、生きている人間を通して「再生」されるという、死が生を侵食してくる物語。

<行方不明の女性、天野真(あまのまこと)が遺体で見つかった。死後も意識として存在し続けることに成功した彼女は、友人達の記憶をアクセスポイントとして、友人達の口を借りて発言するようになっていく。事件を追っていた刑事、桜井を前に、天野真を死に導いた環境保護団体代表であり瞑想ワークショップの指導者、時枝は、これは世界を変える第一歩だと臆面もなく語る。死者との共存が、この物質文明を打開するだろうと。カルトとしか思えない時枝の主張に、桜井は次第に飲み込まれてゆく。>

物語は劇中劇と稽古場という二つの人間関係を行き来しながら進んでいく。
死者の言葉を「再生」することと、戯曲に書かれた言葉を「再生」することが重なる。単なる過去の再生ではなく、今を生き始める死者と、戯曲の言葉に引き寄せられ、アドリブで新たな言葉を紡ぎ出す俳優が重なる。
演じることで死者と繋がった俳優達は、戯曲の中の倒錯した死生観に、どこか感覚を狂わされていく。生と死、虚構と現実の境界が曖昧になっていく。時枝の狂った主張は、桜井の選んだ行動は、リハーサル室でどう響くのか。
 ≪ここまで≫

 パイプイスが並ぶごく普通の稽古場が舞台ですが、さすがはシアターコクーンのお芝居、それだけで終わるはずはなく。ただ、長塚さんの演出は俳優の演技でストイックに見せる方向だったと思います。説明的なやりとりが続く場面では少々眠くなっちゃったりもしたのですが、終盤にかけて稽古場の現実と戯曲の虚構が徐々に重なっていき、ホラーな空気も高まってきて、「これ、一体どうやって収束させるの!?」と没頭できました。そして最後には「うふふっ!」と思わず笑みがこぼれてしまいました。ラストを知ってからその前を振り返ってみると、なるほどなぁと頷くことも多いです。

 ここからネタバレします。 セリフ等は正確ではありません。

 戯曲『PLAYER』において、時枝(仲村トオル)は催眠術師でもあり、巧みに信者たちを「向こう側(あの世)」へと導きます。天野真は生前に自分と親しかった人たちをプレイヤー(player)に選んでおき、死後は、彼らの心身を借りて自分の言葉を言わせます。そうして真は肉体という檻から出て、複数の他者の中に生きられるというわけです。プレイヤーたちは自覚なしに真の言葉を話しますが、俳優が「真に心身を乗っとられた演技」をしているようにも見えます(無論、このお芝居ではそれが行われています)。信者たちは基本的に自分から進んで死ぬのですが、部外者からは時枝が次々に信者を殺しているようにしか見えません。この差は現実世界でもよく生じることですよね。

 プレイヤー(player)という言葉には「演技をする者」という意味もありますから、「真と、彼女に選ばれた人々」という関係は「劇作家と、その戯曲に出演する俳優」にも当てはまります。つまり戯曲通りに演じる俳優は、真に操られる人々=プレイヤーと同じなんですね。それは「人間には自由意志などない」「人類は運命のままに生きるしかない」という考えとも一致します。そういう考えが、舞台上で実演されていくのが面白いです。

 演出家(真飛聖)、プロデューサー(峯村リエ)も戯曲の虚構に加担していくので、冷静な演出助手(安井順平)が外側から突っ込みを入れる立場を貫くのがいいですね。部外者である警察役(高橋努)が、時枝たちの行為が本当であると証明するための標的になるという構造も。

 馬場(本折最強さとし)が「向こう側」に行く場面は、その地域のゆるキャラの着ぐるみ(役人:櫻井章喜)が登場し、空想の中で馬場を自殺に追い込みます。可愛いけど怖いのはアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」みたいで、スリルがありました。

 三方を壁に囲まれた稽古場ですが、奥にそびえる壁が舞台奥に並行移動して、上下(かみしも)の袖に抜ける隙間が空きます。そこからラジオ局や、ラジオ・パーソナリティー(村川絵梨)の部屋の個室が、舞台袖から舞台中央に山車のように出てきます。未完成の戯曲を即興で最後まで上演してみるという最後場面では、奥の壁がラジオ局の個室と共に舞台面側へと迫ってきて、並べられていたパイプイスがいくつかなぎ倒されていきました。虚構も現実も、ラジオ局の中で一人立っている桜井(藤原竜也)によって、壊されていくと解釈できました。

 桜井に最後のセリフ「(プロデューサーに向かって)この戯曲、ネットで公開してよね」を語らせたのは、この戯曲を書いた劇作家(の霊)だった、ということになるでしょうか。プロデューサーは“心不全”で亡くなった彼の戯曲をいつか上演したいと願って来ました。演出家の力を借り、俳優の即興によって未完の戯曲に結末が書き加えられ、稽古場で上演に至った。桜井に乗り移った劇作家と、プロデューサーとの会話で終幕したのは、オカルト的だけれど微笑ましく、演劇愛が感じられるものでした。

 ライターの高橋彩子さんのツイート↓で私も考えたのですが、「劇中劇」「入れ子構造」がメインの作品なので、実際の客席、観客を巻き込む仕掛けや演技がもっとプラスされてもいいんじゃないかなと思いました。「売れない小劇場の役者が、売れない小劇場の役者を演じるのってどうよ」というセリフなどもありましたが、もっと直接的に、大胆に、この公演ごと作品にしてしまうような、ドキッとさせられるような…。

※2017/09/16加筆。次の仕掛けがありました。

シアターコクーン・オンレパートリー2017
≪東京、大阪、静岡≫
出演:藤原竜也、仲村トオル、成海璃子、シルビア・グラブ、峯村リエ、高橋努、安井順平、村川絵梨、長井短、大鶴佐助、本折最強さとし、櫻井章喜、木場勝己、真飛聖
脚本:前川知大
演出:長塚圭史
美術:乘峯雅寛 
照明:齋藤茂男 
音響:加藤温 
衣裳:十川ヒロコ 
ヘアメイク:鎌田直樹 
演出助手:須藤黄英 
舞台監督:足立充章
エグゼクティブ・プロデューサー:加藤真規
チーフ・プロデューサー:松井珠美 森田智子
プロデューサー:宇津井信之介
制作助手:青山恵理子 坂井加代子 梶原千晶
票券:岡野昌恵
劇場舞台技術:野中昭二 渋谷ステージセンター
東京公演主催/企画・製作:Bunkamura
【発売日】2017/06/03
S席:¥10,500
A席:¥8,500
コクーンシート:¥5,500
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/17_player/

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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