範宙遊泳『その夜と友達』08/03-13 STスポット

 山本卓卓さんが作・演出される劇団、範宙遊泳の新作は男2人、女1人の三人芝居でした。上演時間は約2時間弱、途中休憩5分を含む。

 時代、場所、設定が会話の最中にくるくると変化するので、演技の切り替えがかなり大変なお芝居だと思います。武谷公雄さんはさすがの機敏さ、技術、そしてサービス精神。大橋一輝さんは真田広之さんに似てるなぁと思いました(なぜなのかわからないんですが、顔が似てるとかだけじゃなく)。武谷さんと大橋さんが対照的なのがいいなと思いました。

 名児耶ゆりさんが超~可愛らしかったです。青い半袖シャツの下からデニムのショートパンツがほんの少しだけ覗くスタイリングで、子供っぽさとセクシーさのバランスがとてもいいです。短いボブのヘアスタイルで、長いイヤリングを右耳だけ付けているのもおしゃれ。カジュアルでありながら洗練されていて、知的なヒロインとしてもばっちりだなと思っていたら、衣装は藤谷香子さん(FAIFAI)でした。さすがですね!

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

≪あらすじ1≫
 田町和範(武谷公雄)は15年前、自分が20歳の大学2年生だった2017年を振り返る。鍋をリュックのように背負って通学する不思議な同級生の三枝夜(大橋一輝)に話しかけて友達になり、バイト先のレンタルビデオ店に新人アルバイトとして入ってきた滝沢あん(名児耶ゆり)と付き合い始めた。2人とも、これ以上ないと言えるほど幸せな時間を過ごした友達だが、今は、もう会っていない。
≪ここまで≫

 舞台中央に2~3人掛けの青いソファと膝の高さのテーブルがあり、その下にはフローリングを想像させる茶色いシートが敷かれています。ただしシートは中央部分だけで、上下(かみしも)の床は黒いリノリウムが露出しています。劇場の壁が白いので、物語の舞台となるマンションの一室らしい空間です。

 開幕すると、下手からテクテク歩いてきた武谷公雄さんが、観客に向かって笑顔を浮かべました。カジュアルな服装の若者が観客に話しかける形式の現代口語劇というと、すぐに思い出すのがチェルフィッチュの『三月の5日間』。ただ、今作はそれほど舞台と観客の境目をなくすものではなく、薄い壁を保った上演だったように見えました。基本的に武谷さん演じる田町が、過去の回想を観客に話しかける構造ですが、夜にもあんにも、そういう演技をする場面はあります。
 
 観客に話しかける演技は、本当に話しかけていないと嘘になりますから、私個人としては、本気で観客に話しかけてもらいたいと思っています。頻繁に出てきた映画ネタ、音楽ネタも、少しは観客に振る部分を作ってもいいんじゃないかなと思いました。ただの会話なら内輪ウケで全く問題ないですが(内輪のことだから)、舞台上の会話は観客(外部)の耳にも入るので。

 会話の最中に時間、場所を超えるのが観ていて楽しいです(演じるのは大変そうですが)。メールの文面が舞台奥の壁に文字映像で表示されたり、流れている楽曲の題名が床に同じく文字映像で流れたり。3人で撮った自主映画も上映され、映画のメイキングに出ている夜(=映像)が、舞台上にいる田町と会話するという工夫もありました。スライドと俳優の演技のコンビネーションが、範宙遊泳の舞台の特徴の1つだったと思いますが、今回はあまりなかったです。私は今回のように俳優の演技に重点が置かれている方が好みですね。

≪あらすじ2≫
 夜は武蔵小杉の高層マンションで一人暮らしをしていて、田町とあんは飲みに行くようになる。田町が酔いつぶれた時、夜はあんにマリファナを勧めたがアンは断った。夜が田町の唇にキスをした時は、酔ってふざけたことにした。何かしらのズレを感じながらも3人の交友関係は続き、皆で撮影した映画を、夜の部屋で鍋をしながら観ることに。夜はなんと女装をしてリビングに入ってきた。その気持ちをくみ取れない2人を前に、彼は苦しみながら自分が同性愛者であると言う。初対面の2017年から2年が経っていた。
≪ここまで≫

 どんなに友情を確かめても、恋人同士になっても、相容れないところがある。お互いに超えてはならない一線があり、その一線も人それぞれ。自己と他者の境目を確かめ、お互いを試すような三人の会話がスリリングになってきます。

 あんは背中の腰の部分にタトゥーをしていて(18歳の時に東南アジアの国で入れた)、夜は日本では違法なマリファナ愛好者です。柔軟で友達も多い田町は、そういったことをあまり気に介さず受け入れます。田町に「人間らしくいて」「優しくいて」と言うあんの一連のセリフに説得力を感じました。優しくすることを諦めて、冷たくするように気持ちを切り替えるのは本当に簡単なことですよね。名児耶さんが真剣で、武谷さんがポカンとしているのも良かったのかも。

 カミングアウトした後、比較的安易に理解を示した2人に対して、夜は「3Pしよう」と強引に迫ります。「あんちゃんのことタイプじゃないけど、3Pしたら女とも出来るようになるかもしれないから」とも。あんの上にまたがる夜を田町が押しのけて、男同士の取っ組み合いになりました。このシーンがとても刺激的で、もっと続いて欲しいと思いました。

≪あらすじ3≫
 田町は現在(2032年)、広告関係の会社でCM製作などをしており、あんは田町とは違う男性と結婚して一児(娘)の母に。夜はというと、「ペニスの形の造花を児童に配っていた」と通報されて警察に捕まり、検査の結果マリファナの反応が出た、というニュースが流れていた。
≪ここまで≫

 35歳になった田町はニュースを見て夜のマンションに行きます。「居ないかもしれないけど、居るかもしれない。可能性という言葉はプラスの意味で使うべきだ」といった言葉に素直に共感しました。
 夜は居ました。缶ビールを飲みながら、15年前に戻ったかのように2人で会話をします。夜は彼氏と別れて一人暮らしとのこと(事件のせい/社会的報復)。田町がニュースの話を切り出すと、夜は自分が配った造花を出してきました。虹色に彩色されたバラで、どこからどう見ても男性器には見えません。「ポジティブに活動する同性愛者」というだけで忌み嫌い、抹殺したい、処罰したいと思い行動する顔の見えない人たちがいる。2019年、鍋をしていた時に女装をした夜が話していた、「LGBTパレードの列に車が突っ込んだ」というニュースと同じでした。「夜が起訴されたら裸で街を歩いて抗議する(だったかな?)」と言う田町が微笑ましいです。

 おそらくですが、田町は武蔵小杉(と呼ばれていた街)の高層マンションまでは来たけれど、本当は夜とは会えていないんじゃないでしょうか。夜の部屋に入っていく時、上手奥にある劇場入り口を使っていました(それまで出ハケは下手しか使っていなかった)。叶わなかった再会と和解の幻なのだろうと思いました。

出演:大橋一輝(範宙遊泳)、武谷公雄、名児耶ゆり
脚本・演出:山本卓卓
音楽|涌井智仁 映像|須藤崇規 美術|中村友美 照明|富山貴之 衣裳|藤谷香子(FAIFAI 快快) 舞台監督|櫻井健太郎 演出助手|藤江理沙 大内一生
アートディレクター|たかくらかずき デザイン|金田遼平 広告写真|齊藤翔平
当日運営|田中亜実 制作助手|川口聡 制作|柿木初美 制作統括|坂本もも
協力|プリッシマ FAIFAI ロロ 急な坂スタジオ 森下スタジオ ローソンチケット
共催|STスポット
企画制作・主催|範宙遊泳 さんかくのまど
【発売日】6月17日(土)10:00販売開始
一般|3,000円
学生|2,500円
高校生以下|1,000円(一律 当日清算)
当日|各500円増し
https://www.hanchuyuei2017.com/blank-2

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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