今月のナショナル・シアター・ライヴは1952年初演のテレンス・ラティガン作「深く青い海」。演出はキャリー・クラックネルさんという若い白人女性です。休憩時間に演出家インタビューあり。上演時間は約151分。
7/7(金)公開NTLive「深く青い海」の舞台セットは、まるで主人公の現状を表すがごとく、彼女の居場所自体が深く青い海の中のような印象を与えます。この綺麗な舞台セットも、スクリーンで観る価値ありです。
公開劇場はこちら:https://t.co/4upxXVGm3e pic.twitter.com/eDVxmDiAw7— ナショナル・シアター・ライヴ (@ntlivejapan) 2017年7月5日
素晴らしかった…。“場面転換のための暗転”なんて皆無(休憩前を除く)。てゆーか場面転換こそ演出の見せ場であり、批評性を前面に出せるところではないかと。ナショナル・シアター・ライヴは俳優さんはもちろん、演出家の方々にぜひご覧いただきたいです。
≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
第二次世界大戦後のロンドン。何不自由なく夫と暮らしていたへスターだったが、若い元空軍パイロットのフレディに心を奪われ、駆け落ちしてしまう。しかし、フレディの愛に物足りなさを感じた彼女は――。20世紀イギリスを代表する劇作家テレンス・ラティガンの1952年初演作。過去に二度映画化され、ヴィヴィアン・リーとレイチェル・ワイズといった実力派女優がヒロイン・へスター役を演じてきた。今回同役に挑むのは、ナショナル・シアターによる舞台『メディア』(14年)での熱演が記憶に新しいヘレン・マックロリー。
≪ここまで≫
ラティガン戯曲は自転車キンクリートSTOREで2005年に3作連続公演があり、大ファンになりました(関連エントリー⇒1、2、3、4、5、6、7)。ある夫婦と妻の浮気相手という三角関係からジョン・ハリソン作『休暇 Holidays』を思い出しました。夫が金持ちで妻が絵描きなのも同じでしたね。どちらも実話に基づいています。
会話を状況説明と感じさせないのが本当に巧み。戯曲がいいのが前提ですが、演出も的を射ています。若い女性演出家がここまでできるのか…と感服。
NTLive「深く青い海」で主演ヘレン・マックロリーの相手役を務めるのはトム・バーク。王立演劇学校出身で、今回はパイロットとして輝く時代を経て戦後の平和な時代に自分を持て余している若者をみずみずしく好演。
7/7からTHC 日本橋他https://t.co/4upxXVGm3e pic.twitter.com/K2qTDkkRIQ— ナショナル・シアター・ライヴ (@ntlivejapan) 2017年7月6日
上映中のNTLive「深く青い海」
自分自身または友達のことでも、「なんでこんな男と?」という人と恋に落ちてしまう経験を目の当たりにした人は多くいるはず。
「深く青い海」の主人公を見ると誰もがその言葉を心の中で呟かずにはいられない。https://t.co/4upxXVGm3e pic.twitter.com/bjfyIR3ETV— ナショナル・シアター・ライヴ (@ntlivejapan) 2017年7月7日
上映中NTLive「深く青い海」
でも、元パイロットの恋人と彼女が恋に落ちてしまったのは、戦後という時代背景も影響しているのかもしれない。
でも時代に関わらず、今でもこういう恋をしている人はいますよね。。。
とても身近に感じる話ですhttps://t.co/4upxXVGm3e pic.twitter.com/ddNY6VbxR2— ナショナル・シアター・ライヴ (@ntlivejapan) 2017年7月7日
演出家:準備を十分にしてから稽古に臨んだ。時代背景や人物像、せりふなど、戯曲を徹底的に研究し、どのように演出するかの方針も決めてから。でも結果的に大半は捨てた。稽古場で俳優と創造した。
演出家:私は女性が主人公の戯曲に興味を引かれる(例:『人形の家』)。この戯曲の魅力はヘスターという女性の多面性。彼女は優しいけど怒鳴るし、陽気だけど鬱。ヘスター役のヘレン・マックロリーは、女性が持っているさまざまな性質をすくい上げ、曖昧にせずに一つずつをはっきりと緻密に演じたから、多面的な女性像が生まれた。
ここからネタバレします。 セリフは全く正確ではありません。
三角関係の男女がメインですが、大家さん(女性)、上の階に住む若い夫婦、(偽)医師のミラー氏などの周囲の人々も個性が際立っていて、群像劇としても楽しめました。アパート全体と複数の部屋を想像させる、高さのある舞台美術もめちゃくちゃ良かったですね。壁が透けて外廊下と階段、他の部屋の様子が見えるため、外の世界を常に意識させます。とはいえ風通しが良いというよりは、高い壁に囲まれた(心の)牢獄という印象です。
下手の窓のカーテンが風でほんの少し揺れて、日光が薄く差し込むのがとても効果的でした。上手袖側まではその光は届きません。ヘスターが上手の床にはいつくばって、下手に向かってずるずると体を引きずっていく場面が前半にあったんです。まるで水底(上手)から水面(下手)へと必死で手を伸ばしているようでした。頭の中で空間を90度傾けて味わいました…しびれるカッコよさ! カンパニーデラシネラ『ふしぎの国のアリス』のアリスの落下場面と似てます。
二晩連続で自殺を図ったヘスターを、前科者の元医師のミラー氏が再び助け、彼女に助言します。希望を持ってはいけない。希望の先には絶望が待っているから。希望なんて持たず、ただ生きればいいと。あなたには絵画があるじゃないか、とも。
戻ってきてくれたフレディに、ヘスターは毅然とした態度で接し、自分から別れを告げます。泣きながら、自分で目玉焼きを焼いて、それをパンにのせて食べるヘスターの姿を静かに見せて終幕。
※パンフレットの鈴木裕美さんの寄稿によると、最後の「目玉焼きを焼いて食べる」場面は、戯曲にはありません。ヘスターは暖炉のガスのスイッチを入れて火をつけ、フレディの服をソファで畳んでいる…という結末だそうです(意訳)。
上の階に住む若い夫婦の妻は、戯曲では妊娠していないしタバコも吸いません。
ラティガンは同性愛者で、同性の恋人のケニー・モーガンは、ラティガンと別れた直後に自死しました。それがこの戯曲が生まれるきっかけになったとのこと。
■感想ツイート
テレンス・ラティガン作「深く青い海」、当時の英各紙のレヴューは高評価で、丁寧につくられた英国演劇の王道という趣。NTライヴで「スカイライト」などが好きだった人には良いかも。時代を感じさせる部分はあるが、主役のヘスターを細やかに、伸びやかに演じるヘレン・マクローリーの演技が秀逸。
— katsuki (@katsuki_london) 2017年7月4日
ナショナル・シアター・ライヴ『深く青い海』。本来の聡明さと恋に溺れる愚かしさとを行き来するヘスターというヒロインに血を通わせたヘレン・マックロリーの女優力たるや。恋人に去られた朝、目玉焼きをターンオーバーに焼いて、泣き崩れ乍らもパンを齧るその強さに観客も一緒に救われる。 pic.twitter.com/Ja8zdh6kJV
— さざんかQ (@sazankaQ) 2017年7月7日
ナショナル・シアター・ライヴ『深く青い海』。戯曲を書いたラティガンは実際に別れた恋人が自殺していて本作には彼女のエピソードが強く反映されているという。自殺未遂を繰り返すヘスターを思い留まらせようと彼女の深い処へ降りていく(自身も地獄を知っている)無免許医師ミラーの優しさが沁みる。 pic.twitter.com/XOQfyEub2o
— さざんかQ (@sazankaQ) 2017年7月7日
NTL「深く青い海」。人物に深く共感させなくても人生とドラマを確かな手触りで見せることはできると言うけれど、このような作品がその言葉にふさわしいと思った。ト書きにないラストのどうしようもない力強さ。海の底のような光に浮かび上がるセットが美しく、見せる・ぼかす・隠すのグラデも良い。 pic.twitter.com/B9JIS0SJbC
— hato (@hatoincident) 2017年7月8日
NTライヴ「深く青い海」T・ラティガン、カリー・クラクウェル。1952年ロンドン。戦後の荒廃。弁護士の妻(ヘレン・マクロイ=心の動きの表現迫る)、元空軍兵士と同棲し始める。自殺未遂。判事になった夫、まだ愛している。集合住宅の雰囲気。独元医師の仏教的哲学。それでも何とか生きていく。 pic.twitter.com/x5zz7D0n8M
— 結城雅秀 (@GashuYuuki) 2017年7月7日
NTLive『深く青い海』
心を抉る台詞の応酬に圧倒され、心の中で拍手喝采!素晴らしかった!幕間のインタビューで「それ程の男?」って云うのまさにソレ。
「our future?」「no just future」もう戻れない人たち。閉塞感と不可逆性が表現された舞台装置も美しいです。 pic.twitter.com/7mjruJIEDV— mari (@marimari_love) 2017年7月7日
“The Deep Blue Sea” by Terence Rattigan
上映時間:約180分/初演劇場:ナショナル・シアター/作:テレンス・ラティガン/演出:キャリー・クラックネル(『人形の家』、『メディア』)/出演:ヘレン・マックロリー(「ハリー・ポッターと死の秘宝」)、トム・バーク(「マスケティアーズ/三銃士」)
一般3000円
Cast, in order of appearance:ミセス・エルトン(大家さん):マリオン・ベイリー Marion Bailey, フィリップ・ウェルチ(妊婦の夫):ヒューバート・バートン Hubert Burton, アン・ウェルチ(妊婦):ヨランダ・ケトル Yolanda Kettle, ヘスター・コリアー(妻):ヘレン・マックロリー Helen McCrory, ミスター・ミラー(医師):ニック・フレッチャー Nick Fletcher, ウィリアム・コリアー(夫):ピーター・サリヴァン Peter Sullivan, フレディ・ペイジ(元空軍パイロット):トム・バーク Tom Burke, ジャッキー・ジャクソン(フレディの友人):アデミトワ・エドゥン Adetomiwa Edun
演出 Director: キャリー・クラックネル Carrie Cracknell; 美術 Designer: トム・スカット Tom Scutt; 照明 Lighting Designer: ガイ・ホーア Guy Hoare; 音楽 Music: スチュアート・アール Stuart Earl; 振付 Movement Director: ポリー・ベネット Polly Bennett; 音響 Sound Designer: ピーター・ライス Peter Rice; アクション Fight Director: ケイツ・ウォーターズ Kate Waters; ボイスコーチ Company Voice Work: シャーミアン・ホーア Charmian Hoare; スタッフ主任 Staff Director: ローズマリー・マッケナ Rosemary McKenna
http://www.ntlive.jp/thedeepbluesea.html
http://ntlive.nationaltheatre.org.uk/productions/56769-the-deep-blue-sea
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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