名取事務所『ベルリンの東(再演)』07/01-04「劇」小劇場

 『屠殺人 ブッチャー』に続いて名取事務所の現代カナダ演劇・最新作連続公演『ベルリンの東(再演)』を拝見。『ベルリン~』は2007年トロント初演。女性劇作家ハナ・モスコヴィッチさんの長編処女作です。

 6/30まで『屠殺人~』に出演されていた佐川和正さんと森尾舞さんが、7/1から『ベルリン~』に出演されています。再演とはいえ連続出演はすごい!レパートリー・システムみたい!!上演時間は約1時間35分。

 中央にどっしりとした木製のドア。同じデザインの木製の棚が左右に一つずつ。中央にも木製のクラシカルなデスクとイス。ドアの左右には強制収容所のコンクリートの柱と鉄条網が並んでいます。客席方向に三角に突き出したステージは『エレファント・ソング』と同じだったような。

 『ベルリンの東』の「東」とはアウシュヴィッツ強制収容所のこと(公演パンフレットより)。

 こりっちに投稿した感想:父がナチスの親衛隊だったことを知り、人生が激変してしまった青年の語りで進行する三人芝居。ドラマティックで残酷で官能的で、とても面白かった。子供時代の驚き、怒り、葛藤を経て、大人の恋を見せる流れが巧み。観客に話しかける演技と回想場面の切り替えが、ほぼシームレスでわくわく。佐川和正さんと森尾舞さんがセクシー。

 ここからネタバレします。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトのチラシより
アウシュヴィッツ…世紀を超えて現代の我々が、なぜこの惨劇が起こり得たのかを問い続けなければならない負の遺産である。
2015年本邦初演の作品を再演。

パラグアイのある都市で何不自由ない暮らしをしていたドイツ系移民の青年ルディは、ある日友人のヘルマンから、自分たちの父親はナチの残党で当時アウシュヴィッツでユダヤ人を相手に非人道的な医療行為をしていたと知らされる。
その後父親と対立したルディは家を出てドイツへ。ベルリンで医学を学び、一人の女性サラと出会う。二人は恋に落ち、サラはルディの子供を宿すのだが…サラの母親はアウシュヴィッツに収監されたユダヤ人だった。ルディはその事実を知りながら黙っていた。たまたまベルリンにきていたヘルマンがサラに事実を明かしてしまう。ルディの本名はルドルフ。ルディはサラに結婚を申し込むが…サラは受け入れない。絶望したルディは父を戦争犯罪人として密告し…。
 ≪ここまで≫

 ・チラシのあらすじに補足

 青年ルディが観客に話しかける。ここは南米パラグアイ。このドアの向こうに父がいる。

 ルディの家族はパラグライで暮らしている。昔はアルゼンチン、チリ、コロンビアなど南米で引っ越しの連続だったが、1954年ぐらいからパラグアイに定住。追っ手が来なくなったからだ。ルディが17歳の時(父は51歳)に同級生のヘルマンが口を滑らせた。ルディの父はアウシュヴィッツの囚人に人体実験を行っていたと。その時からルディはタバコを吸い、酒を飲み始めた。

 1940年代初頭に父がロシアで負傷したため、母は「安全な収容所で働いてほしい」と懇願。父は嫌々収容所に行くことに。父はアウシュヴィッツでユダヤ人にチフス菌を注射して実験していたが、チフスの研究が進むなら人類のためになると信じていた(今も)。外科手術の経験もないのに、まともな麻酔もせず、ユダヤ人女性の子宮摘出手術もしていた。ユダヤ人を労働キャンプに行かせるかガス室送りにするかも、父が選別していた。父の仕事は「ポーランドでの特殊任務」であり、「辞めたいなどと言ったらベルリンの家族が危ない」と脅されてもいた。

 父はパラグアイで不動産業をしており、ラインハルト財団(元ナチスのための財団)から潤沢なお金をもらっていた。食卓で父に詰問しても、ルディが望むような返答はない。毎日ケンカばかりになり、母は怒りっぱなし。家庭が崩壊してしまった。父がヒットラーの誕生日の祝いで仲間とビールを飲んでいる時(父はクリスマスとヒットラーの誕生日にしか酔っぱらわない)、ルディはヘルマンと父の書斎にいた。やがて男同士で性交にいたると(ルディが「なかなか面白い展開になりますよ」「見どころですよ」などと観客に話しかけるのが最高)、それを父に目撃された。目撃されても二人はやめなかった。父への復讐になるからだ。その日以降、父はルディとしゃべることも、顔を見ることもなくなり、母は泣き暮らすことになった。

 何事もなく日常が続くことに耐えられなくなったルディはヘルマンを捨てて、ラインハルト財団の援助でドイツに渡り(財団の金は他のドイツ人が使うより自分が使った方がマシだと思ったから)、オットー・ヘンリックと名乗った。勉強と酒だけの真っ白な三年間を過ごし、成績優秀で医科大学院に進んだが、どうしても人体解剖ができず退学。酒とタバコにおぼれる日々で、強制収容所の資料館で父の名前を探すのが日課になった。資料館でアメリカ人のサラと出会ったのは、彼女も実母の記録を探していたから。サラの母はユダヤ人でアウシュヴィッツに収監されていたが、1945年の解放の時に米国兵士だった父に見初められ、アメリカに移住。だが精神を病み、父を置いて自殺してしまった。彼女はニューヨークの大学生で夏休みにドイツに来ていたのだ。

 ドイツ人とユダヤ人であることに大いに戸惑いつつも、恋に落ちた二人は(ルディがサラをコンサートに誘う場面、ときめく~♪)、一緒にアウシュヴィッツを訪れる。駐車場でルディがサラに求婚。サラは妊娠を告げる。ドイツに戻っても口論が絶えなない。ルディは結婚したくてたまらないが、サラは父が絶対に反対するからと断る。またサラは、「ルディが自分を好きなのはユダヤ人だからであって、本当の愛ではない」と思うからだ。ルディの必死の愛の告白でサラは折れ、アメリカの父に婚約の報告の電話をするが、当然、父は大反対。結婚式の1週間前にサラのおばとともにドイツに来てはくれたものの、父はサラとは口を利かないし、ルディとは面会もしなかった。

 ルディの中で自分とサラ、そしてお腹の子供が自分の本当の家族であるという思いが膨らんでいく。初めてのデートの時に父のことを言おうとしたが、タイミングがなくて言えず(サラに抱きつかれて言えなかった)、そのまま父は死んだことになっていて、親戚はドイツの地方都市にいるという嘘までついてしまっていた。結婚式の2日前、ルディの不在中にヘルマンが訪れ、サラにルディの父親がナチス親衛隊だったこと、そして今もパラグアイで生きていることを言ってしまう。サラはショックを受けて「今すぐ父とアメリカに帰国する、子供は堕胎する」と言う。ルディは「父を通報したら許してくれる?1週間待ってほしい」と伝える。サラは泣きながら「わからない」と答えて去る。

 そして冒頭の場面に戻る。父のことをモサドに(?)通報したが逮捕するまでには1年、いや3年かかることがわかった。「家族になるには、もうこれしかない」とピストルを握ってドアを開け、父を殺すかと思いきや、ルディは自分の頭に銃を向ける。終幕。

 ※冒頭で「1969年 パラグアイ」という字幕が出る。ルディが5~6年のドイツ滞在を経て帰ってきた年。

■『ベルリンの東』再演について 七字英輔 (抜粋)

 A級戦犯だった男がその後、首相となり、その孫が後を継いで祖父が懸案とした「憲法改正」を行おうとし、圧倒的な支持率の下、再び戦争ができる国への道筋をつけている、そういう国に私たちは生きている。すべてをなかったことにすることなどできない。その罪は半永久的に次世代に引き継がれるべきものなのだ。『ベルリンの東』も『屠殺人 ブッチャー』もそのことを語っている。

出演 ルディ:佐川和正、サラ:森尾舞、ヘルマン:西山聖了
作:ハナ・モスコヴィッチ 翻訳:吉原豊司 演出:小笠原響 美術:内山勉 照明:桜井真澄 音響:井出比呂之 衣裳:樋口藍 演出助手:杉林健生 舞台監督:村田明 制作担当:栗原暢隆 松井伸子 著作権:Catalyst TCM inc. プロデューサー:名取敏行 製作:名取事務所
(全席指定)
【発売日】
入場料(全席指定)
前売4,000円 当日4,500円 
シニア3,000円(70歳以上)
学生1,000円
「屠殺人 ブッチャー」とのセット券7,000円
(シニア・学生・セット券は名取事務所のみ取り扱い)
未就学児童の入場はお断りしております。
http://www.nato.jp/topics.html#topi_2
http://www.nato.jp/prof/prof_2017_berlin.html

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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