ホリプロ『ミュージカル「パレード」』05/18-06/04東京芸術劇場プレイハウス

 すっごく良かったです!!!歌って踊ることの意味が大いにある、さすがの森新太郎演出!(観客にもドS!)是非!!約2時間40分(休憩15分含む)。大阪、愛知公演あり!

 東京芸術劇場プレイハウス前↓にて。こういう記念撮影スポットはいいですよね~(自分は写らないけど・笑)

 20170522_parage

 ※レビューは途中ですが、既に長文です。

≪作品紹介≫ 公式サイトより 
1999年トニー賞最優秀作詞作曲賞、最優秀脚本賞を受賞した
愛と感動の秀作、待望の日本初演決定!

20世紀初頭のアメリカを舞台に、
実際にあった冤罪を題材にした愛と感動の人間ドラマ。
ミュージカル界屈指の豪華キャストが集結!
石丸幹二&堀内敬子、17年振りに舞台共演で夫婦を演じる!
≪ここまで≫

≪あらすじ≫ 公式サイトより 
物語の舞台は、1913年アメリカ南部の中心、ジョージア州アトランタ。南北戦争終結から半世紀が過ぎても、南軍戦没者追悼記念日には、南軍の生き残りの老兵が誇り高い表情でパレードに参加し、南部の自由のために戦った男たちの誇りと南部の優位を歌いあげる。
そんな土地で13歳の白人少女の強姦殺人事件が起こる。容疑者として逮捕されたひとりは北部から来たレオ・フランク。実直なユダヤ人で少女が働いていた鉛筆工場の工場長だった。北部出身の彼は南部の風習にどうにも馴染めずにいた。もうひとりの容疑者は鉛筆工場の夜間警備員、黒人のニュート・リー。事件の早期解決を図りたい州検事ヒュー・ドーシーは、レオを犯人へと仕立てあげていく。新聞記者のクレイグはこの特ダネをものにする。無実の罪で起訴されるフランク。そんなフランクを支えたのはジョージア出身の妻ルシール、同じユダヤ人だった。「レオは正直な人だ」と訴えるルシール。裁判が始まり、ユダヤ人を眼の敵にしている活動家のワトソンに煽られ南部の群衆はレオへの憎しみがつのっていく。黒人の鉛筆工場の清掃人ジム・コンリーの偽の証言もあり、レオの訴えもむなしく、陪審員は次々と「有罪!」と声をあげ、判事は「有罪」の判決を下す。
あのパレードの日から一年、夫の帰りを家でただ待っているだけの無垢な女だったルシールは変わっていた。レオの潔白を証明するために夫を有罪に追い込んだ証言を覆すため、アトランタ州現知事のスレイトン邸のパーティーを訪ね、知事に裁判のやり直しを頼む。彼女の熱意が知事の心を動かす。その結果、レオの無実が次々と明らかになっていく。二人の間の絆は、レオの逮捕により強く固く深まっていた。あらためて愛を確かめあう二人。だが、間もなく釈放されるというある日、レオは留置場から南軍の生き残り兵、メアリーの親友フランキーらによって連れ出される。
白人、黒人、ユダヤ人、知事、検察、マスコミ、群衆・・・・それぞれの立場と思惑が交差する中、人種間の妬みと憎しみが事態を思わぬ方向へと導いていく。
そして、また、パレードの日がめぐってくる。「ジョージアの誇りのために!アトランタの町の、故郷のあの赤い丘のために」
≪ここまで≫


 
 ここからネタバレします。

・公式サイトのあらすじの続き

 レオを連れ去ったグループにはレオを処刑したい者と、できれば処刑したくない者がいた。後者が「自分がやったと認めてくれればいい」「そうするだけで戻れる(殺しはしない)」とレオに促す。⇒日本における痴漢の取り調べと同じ。
 レオは「2年間我慢してきたのは嘘をつくためじゃない」と言い、嘘をつくことを拒否したため絞首刑にされる。レオが最後に口にしたのはユダヤ教の祈り(おそらく)だった。

 新聞記者に「北部に行くのでしょう?」と聞かれて、喪服姿のルシールは「私はジョージアの女です。ここから出ません」と返答。
 レオとメアリーの事務所での会話がエピローグのように再現される。今回の事件で死んだのはこの2人だ。犯人は見つかっていない。
 まためぐってきた南軍戦没者追悼記念日。市民たちはパレードで浮かれている。上手面側にひっそりと立つルシールは、涙を流しながら歯を食いしばっている。終幕。


 
・感想

■演出全般

 1913年、つまり約100年前の米国南部が舞台です。南北戦争の敗北から約50年が経ったけれど、南部ではまだ黒人差別が根強く、ユダヤ人差別もあります。主人公レオ・フランク(石丸幹二)は北部ニューヨークから来たユダヤ人で、南部のユダヤ人であるルシール(堀内敬子)と結婚し、南部のジョージア州アトランタで鉛筆工場の管理をしています。2人とも白人です。レオが「北部出身のユダヤ人」であることが、冤罪の標的にされる大きな要因でした。

 常に俯瞰する視点を設け、浮かれ騒ぎに終わらせない姿勢が徹底されており、緊迫感が途切れないから独唱、合唱の直後に拍手するすき間も与えません(笑)。森新太郎さんのドS(エス)演出、極まれりという感じ(笑)。
 集団の熱狂が暴力へと姿を変える様が非常に鮮やかです。ミュージカル俳優の鍛えられた肉体、迫力のある声と心を合わせた合唱が、すなわち熱狂であり暴力になり得ることを見せつけました。森さんは今回がミュージカル初演出ということで、なぜ歌うのか、なぜ踊るのかをご自身に厳しく問われたのだと思います。ミュージカル俳優の身体と歌が、この物語をあらわすために必要だと感じました。

 幕開きは赤い照明が舞台奥の白い幕(ホリ幕?)を染め、下手奥にある大木のシルエットが浮かび上がります。大木以外には何もない回り舞台です。南軍の若い兵士(小野田龍之介)の独唱の後、パレードの人々がやってくると、カラフルで大きな紙吹雪が大量に舞い落ちます。パレードを祝福する紙吹雪が、床に敷き詰められるとゴミにも見えました。いつ片づけられるのかしらと思っていたのですが、まさか全編そのままで続くとは。予想外でした。

 ラストも同じ赤い照明に大木のシルエットでしたが、紙吹雪がさらに降り積もっています。累々と連なる死体、海底に降り積もるプランクトンの死骸、つまり積み重なる歴史、または地層と受け取れました。100年経っても問題は山積みのまま、何も片付いていないと想像しました。人類の愚行を大木という自然が見守っているんですね。

 主人公の夫婦以外は誰もが複数役を演じる群像劇で、例えば一人の俳優が為政者も民衆も演じます。勝者が歓喜の声を挙げている時、敗者は怒りと悲しみに打ち震えている。多数に追い詰められた少数は萎縮する。誰もがその両方になり得ることを示していました。
 黒人役は顔を黒塗りにしていましたが、顔面だけで首や手には塗っていないので、いかにもメイクだとわかります。誰かが黒人の仮面を被っているようにも見えるので、これもまた誰にでも当てはまることをあらわしています。


 
■物語

 物語は驚くほど現代に通じており、今、上演する意義が大いにあるものでした。

 新聞記者のクレイグ(武田真治)がネタのためだけに当事者に付きまとい、いつも傍観者で無責任であるのは、今まさに日本でよく指摘されていることです。

 政治活動家トム・ワトソン(新納慎也)が人々に「正義の鉄槌 誰が下す!?」と煽り、誰もが裁判で証言をしたがるように仕向けます。『十二人の怒れる男』に登場する証人(目が悪いと思われる婦人と、事件があった建物に住んでいた老人)と重なりました。人前で目立ちたい、偉そうなことを言いたいという気持ちを盛り立てていくんですね。
 

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 メアリーの遺体の第一発見者の黒人ニュート・リー(鉛筆工場の夜間警備員/安崎求)にドーシー検事(石川禅)が自白の強要をするのは、残念ながら今の日本でもあることです。例えば痴漢の取り調べなど。ドーシー検事は犯人をレオと定め、「目を見ればわかる、汗が証拠」とまで言い、部下に証言を集めるように指示します。日本の冤罪だと横浜事件、志布志事件、袴田事件などが思い浮かびます。映画「それでもボクはやってない」も実話がもとになっています。↓ショッキングな映画です。未見の方は是非ご覧ください。

 
 そして無理やりに集めたが証言が嘘ばかり。嬉しそうに噓の証言をする鉛筆工場で働く少女たちは、アーサー・ミラー作『るつぼ』と同じですね。レオ役の石丸幹二さんも被告人席から飛び出して、少女たちと一緒に踊るのが怖いです。彼女たちに入れ知恵したのはドーシー検事でした。

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 この後、レオとルシールのもとで三年間働いていたメイドの黒人(飯野めぐみ)も嘘をつくのですが、実は彼女もドーシー検事に脅されており、ジム・コンリー(坂元健児)という屈強な黒人も同様でした(彼は「刑期を終える前に脱獄してる」とドーシー検事に指摘された)。ジムは「メアリーの死体を目撃した」とも証言したため、共犯の罪で収監され、後ほど塀の中の場面で登場します。

 被害者の母(未来優希)の証言は際立った存在感でした。「娘はあなたを赦すだろう、だから私も赦します…」と、ここまでは彼女の寛大さに心を動かされるのですが、最後に「このユダヤ人を!」と憎しみを込めて叫びました。彼女もまたレオがユダヤ人だから憎んでいるんですね。

 ドーシー検事(石川禅)は、メアリーが死んだ時に来ていたワンピースを証拠品として見せびらかすなどして、話術巧みに誘導します。状況証拠しかないのに、陪審員らはレオを有罪とし、判決は絞首刑。
 2016年に日本で導入されてしまった、匿名承認制度を思い出しました。どこの誰だかわからない人が匿名証人として出廷し、証言すると、それが証拠として扱わるのです。


 
 休憩後、二幕は黒人の男女の歌で始まりました。彼らは「レオの死刑判決に異を唱える北部の白人が、大勢押し寄せて、ホテルがいっぱいだ」と言います。そして「白人となると騒ぐ(黒人だったら問題にならない)」と。
 スレイトン知事(岡本健一):ヘンリー・フォード、エジソンや、他の知事たちも反対してる。

 ローン判事(藤木孝)と次期知事の座を狙うドーシー検事が、釣りをしながら悪だくみする場面の歌詞がなんともリアルです。
 2人:早すぎず 遅すぎず 風向きを見守る

 スレイトン知事はルシールに「あなたは馬鹿か臆病者かどちらかね!」とも言われ、再調査に乗り出します。その結果、知事の座を失うことを覚悟して、レオの絞首刑を終身刑に変えると演説します。そこで、今だとばかりにドーシー検事と政治活動家トム・ワトソンが、民衆を煽っていくという流れでした。

 針のむしろにされ、追い詰められていくレオを、ルーシーが献身的に支え、その思いにレオが応えていく。事件の前まではすれ違いが多かった2人ですが、ようやく夫婦に、伴侶になったわけです。人間が育んだ愛の息の根を止めるのもまた、人間なんですね。


 
■美術・照明

 前述のとおり大木以外何もない回り舞台で、床には紙吹雪が積もっています。山車のようなパネルの上に家具が載っていて、上下(かみしも)から色んな部屋がスライドして登場するスタイルです。レオとメアリーが出会う事務室は、背の高い台の上でした。紙吹雪の中にイスを置いて床がそのまま部屋になることもあります。知事(岡本健一)のパーティー会場は、高い柱がいくつか置かれ、舞台が回転しました。回り舞台もあまり使い過ぎないのが良かったです。

 下手の下から、上手の上に向かって斜めに照明を当てて、レオがいる牢屋だけが光るのが良かったです。暗い空間を照明で区切るのがいいですね。最後の絞首刑の場面もそうでした。下手からのスポットライトでレオの肩から上だけを横から照らし、下半身は暗くて見えません。フランキーがレオの足元の箱を蹴る動作をすると、レオがくるりと180度回転して客席に背中を向け、首が吊られた状態を表現しました。本当に蹴るのではないし、体がぶら下がるのでもありません。見立てによる効果ですね。

 舞台からオケピの上を通って客席通路に通じる橋が、上下(かみしも)にありました。ドーシー検事(石川禅)と政治活動家トム・ワトソン(新納慎也)が、その橋を渡って客席に降りてきて、客席通路を歩いて煽る場面では、客席全体も白く照らされました。「払わせろ!洪水の代償!」と。怖かった…。

■演技

 大勢の人々が集まるメアリーの葬儀の場面では、深い悲しみが猛烈な怒りに変わる瞬間をとても丁寧に、鮮やかに見せてくれました。俳優は当事者のその時の気持ちをストレートに表現しており、裏や先を読ませるような、説明的な演技は排除しています。だから喜怒哀楽がくっきりして、話が展開するごとに驚かされ、ずっと新鮮な気持ちに観ることが出来たのだと思います。

 公演パンフレットのインタビューで堀内敬子さんが、演出の森さんにポロっと「ルシール、辛気臭い」と言われたとおっしゃっています。そういえばルシールは、レオが家に戻ってくると本気で信じており、未来への希望を体現したような人物でした。つまり本番では辛気臭くない演技をされていた、物語の結末を匂わせるような説明的な演技をしなかったということです。

【加筆予定】

■観客のツイート

■参考映画

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■2016年春、盗聴拡大、司法取引と匿名証人制度が導入された

≪東京、大阪、愛知≫
<出演>
石丸幹二・・・レオ・フランク(鉛筆工場の工場長、北部出身のユダヤ人)
堀内敬子・・・ルシール・フランク(フランクの妻、南部出身のユダヤ人) 
武田真治・・・ブリット・クレイグ(新聞記者)ほか
新納慎也・・・トム・ワトソン(政治活動家)ほか
安崎求・・・ニュート・リー(鉛筆工場の夜間警備員、黒人)ほか
未来優希・・・ミセス・フェイガン(メアリーの母)ほか 
小野田龍之介・・・フランキー・エップス(メアリーの親友)ほか
坂元健児・・・ジム・コンリー(鉛筆工場の清掃人、黒人)ほか
藤木孝・・・ローン判事(担当判事) ほか
石川禅・・・ヒュー・ドーシー(ジョージア州検事)ほか
岡本健一・・・スレイトン知事(ジョージア州知事)ほか 
宮川浩・・・ルーサー・ロッサー(弁護士)ほか
秋園美緒・・・サリー・スレイトン(スレイトン知事の妻)ほか
飯野めぐみ・・・ミニー・マックナイト(フランク家のメイド、黒人)ほか  
莉奈・・・メアリー・フェイガン(殺された鉛筆工場の女工)ほか
アンサンブル:石井雅登、杉山有大、当銀大輔、中山昇、水野貴以、横岡沙季、吉田萌美
作:アルフレッド・ウーリー 
作詞・作曲:ジェイソン・ロバート・ブラウン 
共同構想およびブロードウェイ版演出:ハロルド・プリンス
演出:森新太郎 翻訳:常田景子 訳詞:高橋亜子  
振付:森山開次 音楽監督:前嶋康明 
美術:二村周作 照明:勝柴次朗 音響:山本浩一 衣裳:有村淳 ヘアメイク:鎌田直樹
歌唱指導:亜久里夏代 稽古ピアノ:村井一帆 演出助手:河合範子 舞台監督:中村貴彦 技術監督:小林清隆
S席:¥13,000
サイドシート:¥8,500
※一部シーンが見えにくい可能性のあるお席となっております。
U-25席(25歳以下当日引換券):¥5,000
一般発売日:2月11日(土)
http://hpot.jp/stage/parade

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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