藤田俊太郎さんが、私が大好きな米国人劇作家ジョン・パトリック・シャンリィさんの戯曲『ダニーと紺碧の海』を演出されます。上演時間は約1時間40分。↓こんなポスターでした。
『ダニーと紺碧の海』観劇。エネルギーのある心に傷を持った男と女の、切なくも心熱くなる愛の始まりが描かれていました。松岡くんも土井さんの演技もエネルギーがあり、とても素敵でした。 pic.twitter.com/zDksKgiJuo
— ⚡️🍄ふなもも🍄⚡️ (@funamomo3864) 2017年5月18日
↓戯曲本はアマゾンだと高い中古しかないみたいですね。
シャンリィさんご自身が監督して映画化した『ダウト』が有名です。公演パンフレット(1200円)によると、2004年初演でピュリッツァー賞戯曲部門、トニー賞最優秀作品賞、演出賞、主演女優賞、助演女優賞を受賞。⇒過去レビュー(2013年2月にこちらも拝見)
白水社
売り上げランキング: 406,372
売り上げランキング: 76,081
私は映画『月の輝く夜に』が大好き(もう何度も書いてますが)。シャンリィさんは米国アカデミー賞脚本賞を受賞。
売り上げランキング: 236,257
≪あらすじ≫ 公式サイトより
ニューヨーク ブロンクスの深夜のバーで、二人の男女が偶然出会う。
男の名はダニー。
繊細さゆえに傷つきやすく、心の痛みを暴力によって吐き出すため、
他人となかなか理解し合えない孤独な男だ。
女の名はロバータといい、日々の生活に疲れ、また過去に犯した罪を悔やんで、
自分は幸せになれないと心を閉ざしている。
お互いを警戒しながらも、徐々にぎこちない会話を始める二人。
そして互いに共通するものを感じ取ったのか、二人は徐々に近づいていく。
やがてお互いのエネルギーをぶつけ合い、傷をさらけ出し、心の闇を開放していく・・・
≪ここまで≫
最後に二人がたどり着いた、自分の人生を自分で切り開く方法について。信頼している友人に勧められて、まだ読めていない本↓があります。たぶんこのことかなと、思いました(読んでないけど!)。
ダイヤモンド社
売り上げランキング: 149
ここからネタバレします。
・詳しい目のあらすじ(間違ってたらすみません)
ニューヨーク、ブロンクスの深夜のバーで見知らぬ男女が出会います。ダニーは29歳、ロバータは31歳。顔にも手にも傷があるダニーはケンカをしてきたばかり。「俺に近づく奴は殴る」と言い切る乱暴者で、昨晩はあるパーティーで酔っぱらい、隣町から来た二人の男性をやたらと殴って、「もしかしたら殺したかもしれない」と言います。ダニーは母親と暮らしており、父親は亡くなっています。ロバータは18歳の時に妊娠し、父親に無理やり結婚させられ、今は離婚して独身。両親と13歳の中学生になった子供と同居していますが、子供の面倒は母親がみています。ロバータが積極的にダニーに近づき、自分のことを進んで話すので、ダニーも少しずつ彼女との距離を近づけていきます。ロバータの話で特に衝撃的だったのは、彼女が父親に口淫をしたという告白でした。そうすることで酔っぱらって暴力を振るう父親を止めることができたのだと。父親は二度目を求めてきましたがロバータは拒否したので、口淫したのは一度だけです。
ロバータの部屋で二人は結ばれ、心を許したピロートークが始まります。「ロマンティックなことをしよう」というロバータの提案で、二人はお互いに優しい言葉を掛け合います。「お前の名前を言う、お前の唇がきれいだ」とダニー。ロバータは「あなたの耳が好き」と返します。甘酸っぱくてくすぐったい、微笑ましい時間です。やがてダニーはロバータにプロポーズし、最初は本気に取らなかったロバータですが、すぐに承諾。二人は結婚式を夢想し、将来の生活についても話し合います。殺伐とした現実からすっかり抜け出した二人だけの幸せを味わい、ロバータは安らかに眠りに就きます。それを見守るダニー。
朝を迎え、ロバータは「昨日の夜のことは忘れよう、結婚はしない」と言い出します。ショックを受けたダニーが理由を尋ねると、「あなたのような乱暴者とは最初から結婚する気なんてなかった。気分が良かったからOKしただけ。そのおかげで眠れたし」とロバータ。納得できないダニーがもっと追求すると、ロバータは「自分が父親としたことは悪であり、自分の中に悪いものがあるから罰を受けなければならない、自分は結婚なんてできない」と、苦しい胸の内を明かしました。母親は父親と自分との間にあったことを知っているから、自分のことを全く見ない。子供のことも見ようとしない。だから自分だけでなく子供も狂っているし、この家族は壊れている…。このようにロバータは全てが自分のせいだと思っており、家にいることに耐えられなくなって、バーに来た。そして誰でもいいから助けて欲しいと思っていた時に、ダニーが現れたというわけです。
ロバータの深い罪悪感を知ったダニーは、「俺が許す、もうお前の罪は終わったんだ」と優しく言葉を掛けますが、ロバータは喜んでみせるものの、まだ自分を許せません。自分の中の悪を証明するかのごとく、ダニーを罵倒したりもしました。やがて泣き崩れ、床に倒れ込むロバータ。するとダニーはロバータをベッドに引っ張り上げ、彼女のお尻を何度もひっぱたきました。「これが罰だ!もう終わりだ!」とダニー。「許して!許して!」と叫び、ロバータの心はようやくほどけて、ダニーの思いを受け取れるようになるのです。
二人は舞台中央に移動し、床にうっすらと溜った水の中に足を浸して立ちました。ダニーがロバータを背後から抱きしめて、語り掛けます。「これから結婚式を計画したら、それは実現するだろう。今までと違うのは、それを俺たちが知っているということだ(これまでの人生の出来事は自分たちの意志とは関係なく、もしくは感情と衝動の不可抗力のせいで起こって来たが、今度は自分たちで計画して出来事を起こすのだ)」。互いを受け入れ、励まし合うように立つ二人。舞台奥の黒い幕が上がり、その奥にあった白い幕を青い照明が染め上げ、床の水面の光も反射して、空間が青く柔らかにゆらめきます。終幕。
・感想
開演前の舞台は薄暗く、面側にテーブルとイスが3組並んでいるのが見えます。中央奥に蛇口があり、下にあるバケツに向かって真っすぐに水が流れ落ちています。開演の時、そこに照明が当たり水流がキラキラと輝いて、水が流れる音がだんだんと大きくなります。天井から吊り下げられ、舞台を半分ほど覆っていた大き目のパネルが、徐々に降りてきて水道と水流、バケツを隠し、テーブルの奥の壁としてステージ上に収まりました。客席の照明はまだ明るいままです。舞台に女性が登場し、イスに座りました。やがて下手の劇場通路から男性が登場し、客席を横切ってから上手通路を通って舞台に登場。男女が出会います。ようやく客席が暗くなり、舞台だけに照明が当たって、お芝居が始まりました。幕開きの3分間で観客を異世界といざなうのは演出の藤田俊太郎さんの師匠である故・蜷川幸雄さんのポリシーですよね。手の込んだ、心づくしの演出に唸りました。
ダニーとロバータがバーで衝突したり、すれ違ったりする時、電車が通り過ぎる音が大音量で鳴って、壁にその影を映し出していました。演技スペースが狭くて横移動しかできないので、いいアクセントになっていたと思います。壁はガラス(?)の窓枠が数枚並んだもので、ガラスには新聞か雑誌のページがぎっしり、整然と貼り付けられていました。木製のよくあるテーブル・セットとマッチして、カジュアルで安っぽいバーのイメージが伝わりました。
ロバータの部屋に場面転換する時、バーの壁が斜め上に持ち上がりました。照明は青色で「紺碧の海」を想像させます。ロバータの部屋は彼女が掃除してきれいにした元屋根裏なので、斜めに吊られた壁が屋根(天井)に見えるんですね。
舞台中央床にある溝の水は少しずつ溜まっていき、照明が当たって、水面の揺れる光が天井に反射します。止まっていた蛇口が開いて水が流れ出し、海に到達するイメージは、解放と救済とも受け取れました。バケツと簡素な蛇口は生活必需品で高価なものではありません。どんな家族もどんな人も、自分たちの力で幸せへと一歩一歩近づくことができるのだという、前向きで等身大の希望のイメージもあると思います。そういえば吊り上がった壁が照明に照らされて、貼り付けられた新聞(雑誌?)がクローズアップされる演出がありました。一枚ずつが人間一人ひとりに見えて、ダニーとロバータはニューヨークだけでなく世界中にいるのだと思えました。
ロバータがダニーとの婚約を破棄する急展開以降が、特に面白かったです。ダニー役の松岡昌宏さんは、中盤までは形式ばった演技をされている印象だったので、ロバータに真っ直ぐに思いを伝える朝の場面が良かったです。ロバータ役の土井ケイトさんは体と心の真実味を信じられる演技が多かったです。ただ、冒頭はインテリ女性に見えたので、物語の設定上、もうちょっとおバカさんに見える方がいいのではないかと思いました。
ステージングについては、お二人とも存分に暴れてくださって、肉体とその体温とを感じられました。特にベッドに転がったり、ポンポン跳ねたりすると、リズムが生まれて楽しかったですね。
白水社
売り上げランキング: 1,249,201
↓スピルバーグ製作総指揮、シャンリィ監督の映画
売り上げランキング: 94,828
“Danny and the Deep Blue Sea” by John Patrick Shanley
≪東京、兵庫≫
【出演】ダニー:松岡昌宏、ロバータ:土井ケイト
脚本:ジョン・パトリック・シャンリィ
翻訳:鈴木小百合
演出:藤田俊太郎
美術=松井るみ 照明=日下靖順 音響=藤森直樹 音楽=吉田能 衣裳=小林巨和
ヘアメイク=中原雅子 演出助手=須藤黄英 舞台監督=林和宏
宣伝美術=東學(一八八) 東京公演広報=DIPPS PLANET プロデューサー=尾形真由美 栗原喜美子 東京公演製作=井上肇
東京公演主催=TBS、パルコ 兵庫公演主催=兵庫県、兵庫県立芸術文化センター
企画・製作=パルコ、兵庫県立芸術文化センター
※未就学児のご入場はお断りいたします。
【発売日】2017/03/19
<全席指定>8,500円 ※未就学児のご入場はお断りいたします。
http://www.parco-play.com/web/program/danny/
http://www.parco-play.com/web/play/danny/
http://stage.corich.jp/stage/81914
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
便利な無料メルマガ↓も発行しております♪