ハイバイ『夫婦』01/24-02/04東京芸術劇場シアターイースト

夫婦
夫婦

 岩井秀人さんが作・演出・出演される劇団ハイバイの新作です。今月のメルマガでご紹介していました。上演時間は約1時間55分(休憩なし)。前売りは完売。当日券は開演の40分前から販売開始。2月に北九州公演あり。

 岩井さんは代表作『』などで、ご自身の人生を演劇にしてこられました。今回の題材はなんと、一昨年に亡くなったばかりの実のお父様のこと。岩井さんの連載コラムに書かれている通り、今回も観た後に自分の家族について話したくなる作品でした。

 ⇒ローチケHMV「【インタビュー】ハイバイ「夫婦」岩井秀人
 ⇒FILT「人生を切り売りして、人生を変える僕」(岩井秀人)
 ⇒週刊文春「大嫌いだった父を亡くして 岩井秀人 (劇作家)
 ⇒CoRich舞台芸術!『夫婦

 ≪あらすじ≫
 母から電話がかかってきた。肺がんで入院中の父の容体が悪化したらしい。手術も含めて10日間ほどで退院できると聞いていたのに、入院してもう4か月になるのだ。
 ≪ここまで≫

 テーブル、ちゃぶ台など、色んな種類の机がランダムに並べられている以外には、ほぼ何もない空間。天井からは和紙製シェードの大きなペンダントライトが3つほど吊り下がっています。テーブルが病院のベッドにもなりますし、食卓にも、イスにもなります。

 岩井さん役の菅原永二さんが「岩井です」と前置きした上で客席に向かって語り掛けます。役者さんはかわるがわる複数の役を演じ、違う役になる瞬間(衣装を変えるなど)もそのまま見せる演出です。過去と現在、お芝居と現実が抵抗なく同居していて、岩井さんがプライベートなことを開けっぴろげにしてくださっていることも含め、とても風通しがいいです。

 あまりの滑稽さにワハハと声に出して笑った途端、「ああ、他人を笑うなんて、私ってひどい!」と我に返って複雑な心境に。でもそういう心の動きを自分自身が客観的に観察し、自覚もしている状態でした。舞台と一緒に自分の中でも、自分が主人公の劇中劇が繰り広げられるような体験でした。

 ある人が亡くなるまでの具体的な経緯という、まず他人は知ることはできないプライベートな事柄を、当事者の体験として赤裸々かつコミカルに描いてくださいます。岩井さん、強いなぁ…と思いました。「俺はこんなに苦労したんだ!」などと叫ぶのでは決してなく、笑いにしているのが凄い。そして『ヒッキー・ソトニデテミターノ』や小説「ヒッキー・カンクーントルネード」でも感じたことですが、岩井さんの観察眼はものすごく鋭い。そしてとても、とても繊細だから、私などには見えない世界が見えているのだろうと思いました。

ヒッキー・カンクーントルネード
岩井 秀人
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 岩井秀人役の菅原永二さんが、岩井さんにそっくり!!岩井さんも他の役で出演されていますが、時々、菅原さんを岩井さんに見間違えるほどでした。
 母役の山内圭哉さんがさりげなく笑いを生み出す演技をされていて、これ見よがしでないのが良かったです。山内さんは父役の猪股俊明さんよりも体格が大きいけれど、気が弱くて優しい母役なので、外見と内面のアンバランスさが面白かったです。

 ここからネタバレします。

 子供たちに暴力を振るう父のエピソードは、何度観ても息苦しくなります。長男が乳児のころ、妻(=母)に対して「釣った魚に餌をやる奴があるか」と言ってのける父…恐ろしくて体が固まりました。

 父がまだ生きている時の病室での家族の会話は、私も経験したことがあるためか、非常に生々しく感じました。手術の内容、術後の処置などをめぐり、家族(=遺族)が医師たちと話し合う場面の、あの医師たちのひょうひょうとした態度も既視感があり、入院というシステムの理不尽さをありありと思い出しました。私の家族は………と、こうやって、自分のことを話したくなっちゃう!!(やめておきます!)

 入院中のベッドにはやせ細ったお婆さんのようになった父の人形が寝かせられており、過去や死後のエピソードが披露される時もそのままになっていました。やがてその人形は秀人(菅原永二)に託され、父役の猪股俊明さんがベッドに横たわるようになります。猪股さんが「えへへ」と笑いながら何度もベッドから起き上がろうとするのを、何人もの医者たちが優しく寝かせて、ずっとベッドにしばりつけておくのです。この優しい素振りの裏にあるのは保身で、それが(お互いの)敵なのだよなぁ…と思います。

 そもそも母はなぜ父と結婚したのか、そしてあんなにひどい目に遭わされてきたのに、なぜ仲直り(?)したのか。岩井さんがお母様から聴き出したのであろうエピソード(入院中の父を母が見舞った時に糸の結び方を2人で練習する場面、がんから快復した母を、自分の肺がんを見つけた父が外食に誘う場面)は、言葉にならない思いが行き交い、触れ合うのが目に見えるようで、涙が流れました。

 俳優のマネージャーさんと岩井さんが電話で話す場面。あれだけ失礼なことを言っておきながら、すぐに謝るという厚かましさ。本当に嫌ですね。下品です。「岩井さん、よくぞ書いて下さった!」と思う方も多いんじゃないでしょうか。

≪東京、福岡≫
出演:山内圭哉、岩井秀人、平原テツ、川面千晶、鄭亜美、田村健太郎、高橋周平、猪股俊明、菅原永二
脚本・演出:岩井秀人
舞台監督/谷澤拓巳 舞台美術/秋山光洋 照明/松本大介 音響/中村嘉宏
衣裳/髙木阿友子 演出助手/池田亮 演出部/渡邉亜沙子
記録映像/トーキョースタイル WEB /斎藤拓 宣伝美術/土谷朋子(citron works)
宣伝写真/平岩享 宣伝コピー/久世英之
票券/冨永直子(quinada) 制作/藤木やよい(quinada) 坂田厚子(quinada) 
プロデューサー/三好佐智子(quinada)
【一般】前売(前半割):3,300円 当日(前半割) 3,800円
前売:3,500円 当日:4,000円
【学生】前売・当日共:2,500円
【高校生】前売・当日共:1,000円
http://hi-bye.net/plays/fufu
http://www.geigeki.jp/performance/theater113/

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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