イキウメ『別館カタルシツ「語る室」』09/19-10/04東京芸術劇場シアターイースト

語る室
語る室

 前川知大さんが作・演出される劇団イキウメの新作です。中嶋朋子さんの客演にも注目ですね。上演時間は約1時間50分。

 登場人物それぞれの短いエピソードが交わって、伏線がきれいに回収されていくSFです。しんみり、涙しました…。カーテンコールが終わってしばらくは客席に座ったままでいました。静かに、これまでの約5年間の自分の生活を振り返り、これからの未来を想像しました。

【舞台写真(左より敬称略):中嶋朋子、安井順平 撮影:田中亜紀】
【舞台写真(左より敬称略):中嶋朋子、安井順平 撮影:田中亜紀】

 ⇒CoRich舞台芸術!『カタルシツ「語る室」

 ≪あらすじ・作品紹介≫ 劇団公式サイトと劇場公式サイトより
イキウメ別館カタルシツによる、新作SFミステリー。

口から出まかせ。想像するとは、知らないことを思い出すことだ。

田舎町、ある日の夕方。
人気のない山道で、一人の園児と幼稚園送迎バスの運転手が姿を消した。
バスはエンジンがかかったままで、争った後は無かった。
手掛かりはほとんどなく、
五年経った今も二人の行方は分からないままだ。

消えた子どもの母。その弟の警察官。バス運転手の兄。
そして、三人が出会った人々…。
帰ることのできない未来人。
奇跡を信じて嘘をつき続ける霊媒師。
父の死を知り実家を目指すヒッチハイカー。
父の遺品の中に見つけた免許証を、持ち主に届けようとする娘。

彼らを通じて、奇妙な事件の全貌が見えてくる。
 ≪ここまで≫

 下手奥に交番、上手側にはバーベキュー器具、中央にはテーブルとイス数脚。舞台床面が緑の芝生状になっている美術です。中央に大きな木が生えていますが、枝と幹が分断されており、いかにも抽象的な空間です。パっと見た第一印象は“広場”ですね。色んなイメージが集まる脳の内部という感じもします。

 客席に向かって独白する演技を頻繁に挿入しつつ、各人物のバックグラウンドと大切な家族を失ってからの人生を、会話劇で立体的に伝えてくれます。現代を舞台にしたSFで、バラバラのピースがはまっていく構成が巧みで、さすがだなぁと気持ちよく楽しみました。

 ただこの作品については、私は人間の心を細やかに描いているところが特に素晴らしいと思います。人生を一変させる大事件のせいで、大切なものを失った人々の怒りと悲しみ、そして身近にいる敵との戦い、敗北、その後も続く人生の理不尽と、思いがけない(まだ訪れていない)幸福…。それもくどくど説明するのではなく、短い言葉のやりとりで伝わってくるのが良かったです。

 イキウメ所属の俳優さんの人気が出てきたからでしょうが、岩本幸子さんと伊勢佳世さんと森下創さんが出ていないのが個人的には寂しかったですね。※客演の俳優さんが良くなかったということでは全くないです。

 ここからネタバレします。

 幼稚園の送迎バスから消えた3歳児と運転手は、山の中で起こる超自然現象(?)により、過去にタイムスリップしていました。その失踪事件が起こった時、同時に未来から迷い込んできたバイク乗りの少年(大窪人衛)もいて、いわゆる「タイムマシンもの」のSFの様相を呈していきます。

 このお芝居では、失踪事件が起きた2000年から2005年までの5年間を描きます。私にとって今から約5年前というと、やはり2011年の東日本大震災です。2015年の今になっても、当然ですが亡くなった方は帰って来ません。舞台上で静かに苦しみ、弱弱しい足取りで世間と人生に立ち向かっていく登場人物たちは、数多くの被災者の方々と重なりました。私は被災者ではないですが、あの日から人生は変わりましたので、自分の5年間の断片も思い起こしました。

 息子を失った美和子(中嶋朋子)は運転手を恨んで中傷し、その家族を離散に追い込みます。でもやがて、運転手の兄(盛隆二)と美和子の弟(安井順平)が彼女に歩み寄り、3人は年に一度、失踪事件があった9/22にバーベキューをする仲になります。5年経っても息子(と弟)のことを忘れた日はない、何も変わっていないと、彼らは笑顔で言います。この悲しみの深さたるや。

 3人はバーベキューをしながら「町のお祭りは7~8年前に無くなってしまった」と寂しがりますが、彼らが始めたバーベキューが、今ではその町のお祭りになっていると言えるかもしれません。年中行事というのは何かの記念であり、忘れないために継続していく側面があると思います。でも、無くなったなら、新しく始めればいい。参加したり、目撃したりした人たちの記憶の中に、それは残り続けるだろう。そうやって生まれては消え、消えては生まれる人間の営みのはかなさと豊かさを思いました。そういえば『聖地X』のしめ縄を巻いた大きな石にも、そういう意味がありそうです。

 最後に、好きだった場面をひとつ。美和子の弟で警察官の譲が、美和子と離婚した夫に対して「俺はあの男を許さない」と言ったところ。夫婦仲についての言及は全くありませんでしたが、このセリフだけで何があったのかがわかったような気がしました。

≪東京、大阪≫ ※舞台写真は劇団より頂戴しました。
出演:浜田信也(実家を目指すヒッチハイカー・大輔)、安井順平(奇妙な幻覚に悩む警察官・美和子の弟、譲)、盛隆二(疾走した弟・古橋清武の帰りを待ち続ける兄)、大窪人衛(ガルシア和夫・消えた重要参考人)、木下あかり(ヒッチハイカーの妹)、板垣雄亮(霊媒師)、中嶋朋子(3歳の息子・大輔の失踪から立ち直れない母・警察官の姉の美和子)
脚本・演出:前川知大 ドラマターグ・舞台監督:谷澤拓巳 美術:土岐研一 照明:松本大介 音楽:平本正宏 衣裳:今村あずさ ヘアメイク:西川直子 ステージング:平原慎太郎 演出助手:大澤遊 林田美緒 演出部:渡邉亜沙子 大久保早智恵 音響操作:鈴木三枝子 照明操作:和田東史子 大道具制作:C-COM舞台装置 運搬:(株)マイド 宣伝美術:鈴木成一デザイン室 舞台写真:田中亜紀 制作:湯川麦子 プロデューサー:中島隆裕 主催:イキウメ/エッチビイ 提携:東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)
【休演日】9/24(木)、10/1(木)【発売日】2015/07/25
<全席指定>前売4,500円 当日4,800円
http://www.ikiume.jp/
http://www.geigeki.jp/performance/theater099/

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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