【体験レポート】池内美奈子×柴田彰彦「俳優とパフォーマーのためのメンテナンス・ワーク」09/15森下スタジオ・Sスタジオ

 拙サイトでご紹介していた、池内美奈子さんと柴田彰彦さんによる1日限りのワークショップに伺いました。見学だけの取材はできないそうで、参加型のレポートとさせていただきました。

 ★次回は10/27(日)実施。めちゃくちゃお薦めです。どうぞ日程を空けておいてくださいませ!

 最初に講師2名の簡単な自己紹介がありました(私のこともご紹介くださいました)。ワークショップでよくある“参加者の名前を覚えるゲーム”などはなく、すぐに、全員でスタジオ内を歩くことから始まりました。池内さんと柴田さんが交互にナビゲートしていきます。

 他者とぶつからないように自由に四角い室内を歩き、池内さんの指示で歩き方を変えていきます。1~5段階の指定の速さで。空間全体を意識して。自分の体の輪郭をはっきり意識して。空間の外を、無限大を意識して。床に縦横の線が入っていると想像し、細かい目盛りの方眼の上を歩く。好きなところで折れ曲がり、他者とぶつからないようにする。誰かを追いかけてもいいし、逃げてもいい。他者との関係が生まれ始める。

 参加者:直線上を歩くと誰かと正面から、または真横からぶつかるのでドラマが生まれる。普段の生活だと、人は曲線を使って他人を回避しがちだと思う。
 参加者:想像する方眼の目盛りが1cm、1mmだったのが新鮮。より細かくイメージができた。

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 「私は美しくて、力があって、優しくて、知的で、クリエイティブで、お金もあり、影響力もある!」という池内さんの言葉通りに想像して、「自分を最高に魅力的な人間だと思って歩く」のは最高の気分でした(笑)。なぜか顔が緩んで、微笑みが止まらない。すれ違う人も皆それぞれが笑顔!空気が弾む~♪

 そして「魅力的な人と目が合ったら倒れる」バージョンに進みます。一人だけ「魅力的な人」を選び、その人と目が合った人は、魅力にやられて床に倒れるのです。声を出してもOK。溜息や悲鳴が響き、次々と色んな方法で人が倒れていくのが楽しい!さすがは俳優、バリエーションが多い!そして「魅力的な人」が他者を目力で殺す(?)方法も面白い!

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 一緒に歩きながら参加者を眺めていた柴田さんが「まるで宇宙みたいだと、ずっと思っていました」とおっしゃり、「人間は60兆個の細胞でできている」と、人体についての解説が始まりました。細胞(物質)を構成するのは原子で、原子は原子核と電子でできており、原子核には陽子と中性子が詰まっていて…と細部へ。つまり人間は素粒子(物質を構成する最小の単位)の集まりであり、それは地球、宇宙と同じだと。概要:http://jintaisuibun.com/aeqtocne.html

 参加者:「一人ひとりが宇宙だ」と言われて、自分を卑下したり、誰かと比べたりする気持ちがなくなった。

 「体は宇宙」という前提から、柴田さんはとても流ちょうに早口で、量子力学や宇宙物理学などの知識を披露していきます。「(人体のなかにもある)電子は波動で、振動数(ヘルツ)が高いほど軽い/低いほど重い」「筋肉の緊張はヘルツの低下を招く」「体の意識を広げていきましょう」という流れから、筋肉のエクササイズへと突入。

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 人間が無意識に動けるのは、体が動きを覚えているから。「自動的に動く」のは便利ですが「体が固まっている」とも言えます。肩こりや猫背などもそうですね。横隔膜をはじめとする体の中の“膜”を意識する呼吸のエクササイズや、神経細胞(ニューロン、情報の伝達と処理を担う細胞)を刺激して、移動させるエクササイズなどで、自分の思い込みや癖がスルリとほどけていきます。私は目が大きく開き、声が出やすくなって、まるで整体を受けた時みたいにスッキリしました!

 首を一方向に無理やり曲げようとして、できないことを確認してから、あるエクササイズをすると、痛みなく曲がりました。筋肉や関節に刺激を入れて骨格のポジションを変えることで、動きを変えていく方法です。「無理やりやっても変わらない」のは人間同士のコミュニケーションにも当てはまります。

 エクササイズから導き出された人間が変わる方法:
 ・優しく、優しくする(無理やりやっても変わらない)
 ・ニューロンを刺激する

 柴田さんの言葉:「自分の体の中に余白を作る」「余裕があると客観的になる」「体と心は一体です」「なるべくリラックスした状態になれるように」「自分で自分をスキャニングする」「どれだけOFFでいられるか/自在にONにできるか」

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 自分の手をもう片方の自分の手で触って、触れる手と触れられる手を交互に意識するワークや、椅子を使うワークで、自分自身と自分を取り巻く“もの”との関係を確かめていきます。自分から椅子と関わって、触れたり、乗ったりすることで、「この椅子のおかげで自分を実感できている」「椅子の存在がありがたい、椅子が愛おしい」という気持ちが湧いてきました。同時に壁や空間への愛着と感謝も生まれます。自分の体と心に優しくすることで、“もの”にも同様に接することができたのだと思います。

 徐々に他者との共同創作へと進みます。二人一組でポーズを作っていくワークを経て、京都・竜安寺の“石庭”を表現する段階へ。まずは歩く、座る、寝るという動作のみで、この空間の中の位置をうまく取りながら、自分が美しいと思う“石庭”を皆で作っていきます。池内さんの指示は常に、参加者個人がどう感じて、どう思って、どうしたいかに絞られており、それぞれに自主的な行動を促します
 池内:動きはセリフのひとつひとつのように、はっきりしたい。

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 走る、足音を鳴らす、声を出す、感情を出すなど、行動の要素を増やしていき、単純な“石庭”は即興的に動く“アドバンス石庭”へ。最後は“5人でつくる石庭”となり、参加者は自主的に参加/不参加を選びます。“石庭”のイメージのポーズをしたり、他者との遭遇があったり、寝ている人の足を美しく引っ張ったり。自立した俳優たちによる規律と即興が両立する時間であり、スリリングで調和の取れたカオスでした。
 参加者:AIにはできないことをやった気がする。

 最後はオラクルカードのワークの時間。柴田さんが“筋反射(きんはんしゃ)”を使って、参加者全員に対して1枚ずつオラクルカードを選びます。“筋反射”は医療現場でも活用されている“オーリングテスト(O-Ring Test)”と同じ要領の診断方法で、パット見はミラクルですが、実は科学的です。私のカードは「GROUNDING/Go deep;explore your roots(深くまで、自分の根本を探求しなさい)」でした。今の私に必要なのであろう助言とイラストが描かれています。

オラクルカード「GROUNDING」
オラクルカード「GROUNDING」

 二人一組になり、一人が自分のカードの内容をポーズ(一連の短い動き)にしてから、もう一人がそのポーズに参加し、二人のポーズを完成させます。私はちょうど「自分の肩書きを見直して、新しく名付けたい」「自分が何をしたいのかを考えるために、しばらく休みたい」と思っていましたから、カードの内容はジャストフィットでした。その思いを念じながら、自分で自分を抱いていたわるようなポーズを作りました。すると私の相手が、そっと両手で、優しく、私の首を包むように触れたのです。ぐっとこみあげてくるものがあり、涙が出そうになりました。心と動きが一致した演技に、他者のそれが加わり、人と人との間に何かが生まれた瞬間だったと思います。私は一観客として、こういう演技が観たいです。

 ワーク終了後は全員が車座になりフィードバックをしました。それぞれに感想を述べて、今日全員で成し遂げたことを確認していきます。
 参加者:普段は見えないものが見えた。
 参加者:次にこういうことが起きるんじゃないかと想像できた。勘が冴える。

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 私が初めて池内さんのワークショップを見学したのは2004年の夏でした。池内さんはいつもながら朗らかで優しくて、率先して楽しんでくださるので、明るく前向きで柔らかな空気がキープされます。誰もが創造的に考えて、自分から動ける場になるんですよね。俳優が自分の好みや美意識を見つめて肯定し、それらを全身で表現して他者とかかわっていく…。今回は特に俳優の自主性が促されているように思いました。今の日本人に必要なことだとも思います。

 柴田さんによると、たとえば超常現象などと呼ばれてきた不思議な出来事の根拠が、最新の科学で次々と実証されているそうです。ワークショップは複数人で実践して確認・体得できることが魅力であり、主眼だと思います。そこに柴田さんの科学的知見が加わることで俳優の理解が一気に早まり、知識と実践の相乗効果が起きているように感じました。

 専門分野が異なる池内さんと柴田さんのワークショップは、去年から継続開催され、今年初めて一般公開となりました。俳優自身のためのメンテナンスの時間として、非常に豊穣で示唆に富んだ内容です。お時間の許す方はぜひ受講してみてください。

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 ■参加者の自己紹介をしない理由

 池内:社会的な事情や年齢ゆえの上下関係などにフォーカスせず、パフォーマーという生き物同士が出会い、ともにワークをして探求をする時間にするため。その方がより深いところで人と出会い、自分とも深く向き合えると考えている。

 帰り道が一緒だった参加者が「自己紹介がなくてよかった」と言っていました。私も同感です。

 ■ご参考

 ↓池内さんは新国立劇場演劇研修所のヘッドコーチです。同研修所開所時から講師を続けていらっしゃいます。

 ↓同研修所1期修了生の大樹桜さんの推薦コメント

 柴田さんは毎週月曜日(月3回)の夜に「おとな塾《しばた流》」を開講されています。

 ↓柴田さんと高瀬磨理子さん(新国立劇場演劇研修所スタッフ)の対談もどうぞ
 芸術家のくすり箱「私流ヘルスケア・スペシャル対談「俳優をアスリートの感覚で捉えて、ぼくらはそれをサポートする」

 「柴田さんの推薦で読んで面白かった!」と俳優に勧められて、私も読んだ小説がこちら↓ 超お薦めです。

アルケミスト 夢を旅した少年 (角川文庫)
パウロ・コエーリョ
KADOKAWA (1997-02-21)
売り上げランキング: 573

 
※写真は主催者よりご提供いただきました。
日時:9月15日(日)11:00~17:30(昼食休憩一時間含む)
会場:セゾン文化財団の森下スタジオ(Sスタジオ)
対象:俳優&パフォーマー
参加費:¥13,000-
定員:12名
https://www.facebook.com/events/376342089933341/
http://shinobutakano.com/2019/08/24/13351/

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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