ホリプロ『渦が森団地の眠れない子たち』10/04-10/20新国立劇場・中劇場

 蓬莱竜太さんが新作を書き下ろし演出された、藤原竜也さんと鈴木亮平さんのダブル主演のお芝居です。公式によると上演時間は約2時間35分(15分休憩含む)。初日に拝見しました。

 大人が子供を演じる“茶番劇”風のしつらえで、元気いっぱいの演技で笑いを生みながら、子供たちの世界を揺るがす大人の事情、社会のひずみを可視化していくストレート・プレイでした。

 主演のお二人を対立させ、戦わせるという設定が功を奏していたように思います(パンフレットの座談会より)。劇場が大きいせいか怒鳴り声でセリフを言う俳優が多く、私には少々聞き取りづらかったのですが、達者な俳優がそろっているので意味の理解に不都合はありませんでした。藤原さんの声が不安でしたが、全編通して、さすがはプロのエンターティナーだなと思わせられました。お話の内容としては、小さな空間で上演される方がよさそうな気はしました。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 人類が生きるこの世界の縮図としての団地が舞台でした。抽象空間で、大人になった圭一郎(鈴木亮平)が過去を振り返ります。

 子供は自分の住む場所、家を自由に選べるわけではありません。メインとなる家族は“大きな地震”のせいで仕方なく団地に避難してきています。団地では大人同士が互いに助け合えますし、子供たちはすぐに集まって一緒に遊べます。でも監視され、陰口が広まるような息苦しさもあります。

 舞台では余震が複数回起こりました。また圭一郎には、体育館に並んだ遺体をこっそり見に行って、眠れなくなった経験があります。全国ツアーのある商業演劇で、蓬莱さんが津波を含む震災を描いてくださったことをありがたく思いました。
 ↓東日本大震災の津波で亡くなった方々の遺体安置所を描いた映画があります。

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 キングと呼ばれる鉄志(藤原竜也)がやたらめったらに煽るせいもあるのですが、子供たちは頻繁に、空気銃の打ち合いや、取っ組み合いのけんかをします。団地で猫を殺した犯人は圭一郎でした(鉄志だけにバレる)。圭一郎は「身近な生き物を殺すことで遺体を見たショックから快復していった」と鉄志に告白します。大人が作り出した社会の理不尽なしわ寄せが、子供たちの暴力という形で現れるんですね。団地の自治会長(木場勝己)は彼らのケンカを止められないと吐露していました。

 圭一郎の妹(月子、キッコ:青山美郷)が自分から信号無視をして、自転車に乗って道路に突っ込んでいったのは衝撃的でした。彼女は陸上選手だったのに車いす生活になります。そういえばキッズモデル(太田緑ロランス)も親からネグレクトされていて、非行に走っていましたね(ほぼギャグとして描かれていました)。暴力は他者に対してだけでなく、自身にも向けられます。
 ものものしい要素ばかりを書き出してしまいましたが、笑いを誘う演技が多々あり、深刻さに酔うような作品ではありませんでした。

 鉄志の母と圭一郎の母は姉妹で、姉が一方的に妹を妬み、恨んでいます。その二役を奥貫薫さんがお一人で演じていました。母を演じる俳優が一人だけだったことで、「母」という存在、役割を相対的にとらえられてよかったです。人間の多面性、集団の多様性も受け止めやすかったように思います。

≪東京都、佐賀県、大阪府、愛知県、広島県、宮城県≫
出演:藤原竜也、鈴木亮平、奥貫薫、木場勝己、岩瀬亮、蒲野紳之助、辰巳智秋、林大貴、宮崎敏行、青山美郷、伊東沙保、太田緑ロランス、田原靖子、傳田うに
脚本・演出:蓬莱竜太
音楽 : 国広和毅
美術 : 松井るみ
照明 : 佐々木真喜子
音響 : 山本浩一
映像 : 大鹿奈穂
衣裳 : 前田文子
ヘアメイク : 大和田一美(APREA)
演出助手 : 松倉良子
舞台監督 : 榎太郎 広瀬泰久
【発売日】2019/06/15
<全席指定>10,800円
Yシート:2,000円(※20歳以下対象・当日引換券・要証明書)
https://horipro-stage.jp/stage/uzugamori2019/
https://stage.corich.jp/stage/102265

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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