こまつ座『日の浦姫物語』09/06-09/23紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

 井上ひさしさんが1978年に、文学座とその看板女優・杉村春子のために書いた戯曲を、文学座の鵜山仁さんが初演出。文学座の俳優も多数出演。上演時間は約3時間、途中休憩15分を含む。

≪あらすじ・作品解説≫ https://www.kinokuniya.co.jp/c/label/20190605114500.html
説教聖が語るのは、数奇な宿命を背負った一人の姫の物語。
時は平安、奥州・岩城国の米田庄、主を失った葬式の最中、双子の兄妹、稲若と日の浦姫が仲睦まじく戯れている。無邪気にはしゃぐその声には禁じられた香りがたちこめていた。二人に訪れるたった一度の過ちが永遠の別れへと導くのを知らずに…
日の浦姫に清廉さと妖艶さを兼ね備えて観客を魅了する朝海ひかる、稲若に若手演技派として注目を集める平埜生成、説教聖に井上作品に欠かせないこまつ座の辻萬長、三味線弾きの女にその存在感で舞台を席巻する女優・毬谷友子を迎え、たかお鷹ら文学座の俳優たちも集結。
井上ひさし初期の傑作が、新たに生まれ変わる。
≪ここまで≫

 説教聖(せっきょうひじり)と三味線弾きの女が民衆に語り聞かせる昔話として、『日の浦姫物語』が劇中劇で上演されます。徹底してコメディーとして成立させる選択と手腕に感動しました。鵜山演出すごい!

 格子状の板が複数枚、天井から下がったり上がったりして場面転換します。格子のデザインは時代背景を表すだけでなく、牢獄に見えたりもしました。風通しの良さと閉そく感の、両方を備えた入れ子構造がいいですね。

 ここからネタバレします。

 日の浦姫は美女で聡明、魚名はケンカも強い弓矢の名人。運命のいたずらや夢の奇跡によって再会を果たして、目も見えるようになり、二人の間に生まれた娘ともども報われます。でも、彼らがもし凡人だったなら…と、一庶民の話にしてくれるのが井上作品らしさですよね。

 説教聖と三味線弾きの女は実は兄妹で、欲に駆られて毎夜交わり(日の浦姫と魚名は一度だけだったけど)、子供を作ってしまいました。それで村を追い出され、やむなく諸国行脚の説教聖の振りをして食いつないできたとのこと。

 タブーを冒した人間が汚れた者と烙印を押され、排斥されるのは世の常です。彼らは自分たちと同じ境遇の『日の浦姫物語』を語り継ぐことで罪滅ぼしをしたいと、胸の内を明かします。「他人の不幸や大罪の物語を聞くことは、生きる糧になるはず」とも主張して、施しを求めますが、聴衆は手のひらを返したように2人を毛嫌いし、石を投げつけます。今もよく目にする構図ですよね。

 説教聖がその石を拾い、聴衆の方にふんわりと投げると、拾った者が投げ返し、殺伐としていた雰囲気が穏やかになっていきます。やがて行き来する玉は、石ではなくボール、お手玉、おにぎりにも見えてきました。三味線弾きの女にも笑顔が戻ります。照明の色が変化して劇場が「今ここ」になり、出演者全員が客席を見つめ、終幕。

 際限ない欲と世間体とのバランス、時代や地域社会により変容するタブー(禁忌)との距離感などは、慎重に、しかし臆することなく、向き合っていきたい大きな課題です。また、井上さんの「狂ってはいけない」というメッセージも、常に心に留めておきたいです。朗読劇「少年口伝隊一九四五」でも登場人物が繰り返し発言していました。

 朝海ひかるさんは一人ボケ突っ込み(笑)も成功させて、コメディエンヌとして余裕も貫禄もあって、その上、めちゃくちゃ可愛らしい!10代、30代、50代の演じ分けもスマートで説得力があり、魅力的でした。

 平埜生成さんの青年男性らしい躍動感や、高い身体能力ゆえのきびきびした動きが、見ていてとてもすがすがしかったです。積極的に体を使うアイデアがとっても面白かった!『私はだれでしょう』を振り返ると、俳優としてすごく成長されたんだなと思いました。私が初めて拝見したのは『オーファンズ』だったでしょうか。『誰もいない国』でもセクシーでした。また海外戯曲にも出演してもらいたいなと思います。

 毬谷友子さんの、声色をころころと変化させての演じ分けや、観客と双方向の温かいコミュニケーションは、技術と経験に裏打ちされたものなんだろうな…とありがたく思いました。朝海さんと毬谷さんが2人でいる場面で、毬谷さんが「すみれの花咲く頃」を宝塚風に歌って踊ってくださったのには大笑い♪

 観客に語りかけるのが辻萬長さんであることの安心感が、とても大きかったですね。説教聖として語り部と担いながら、着替えも見せつつ劇中の色んな人物を演じていきます。辻さんと毬谷さんだったから、『日の浦姫物語』を語り終えた後の、説教聖夫婦(実は兄妹)の物語にも入りこめたのだと思います。

 たかお鷹さんは蜘蛛の巣を被る(?)場面の演技はさすがの可笑しさ。18年経った後の、老いた演技も素晴らしかった。蜷川幸雄演出版でも同じ役を演じてらしたんですね(パンフレットより)。

≪東京都、山形県≫
出演:朝海ひかる、平埜生成、石川武、沢田冬樹、櫻井章喜、粟野史浩、木津誠之、川辺邦弘、宮澤和之、越塚学、赤司まり子、名越志保、岡本温子、たかお鷹、毬谷友子、辻萬長
脚本:井上ひさし 演出:鵜山仁 音楽:宇野誠一郎 音楽補:吉田さとる 美術:乘峯雅寛 照明:古宮俊昭 音響:秦大介 衣裳:前田文子 ヘアメイク:鎌田直樹 アクション指導:渥美清 宣伝美術:ささめやゆき 演出助手:生田みゆき 舞台監督:北条孝 宮崎康成 制作統括:井上麻矢 制作:若松潤 松岡渉 立石萌衣 三味線指導:有働智章 方言指導:大原穣子 振付:新海絵理子 かつら:太陽かつら店・奥山光映 かつら製作:斎藤正 デスク:大貫真悠子 票券:村田綾子
【発売日】2019/06/22  <全席指定> 一般:8,500円 U-30(30歳以下):5,000円
http://www.komatsuza.co.jp/program/index.html#330
https://www.kinokuniya.co.jp/c/label/20190605114500.html
https://www.gakushubunka.jp/cgi/event/d_event_view.cgi?ec=10665&dt=2019:09:
https://stage.corich.jp/stage/101592

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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