関西テレビ放送『サメと泳ぐ』09/01-09世田谷パブリックシアター

 1994年のケヴィン・スペイシー主演のハリウッド映画「プロデューサー」をもとに、2007年に英国で舞台化された戯曲の本邦初演。演出・出演は千葉哲也さんです。上演時間は約2時間55分(途中休憩15分を含む)。

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 米国映画界“ハリウッド”で夢をかなえるため、または地位と名声と巨万の富を得るために、嘘をつき、だまし、裏切る“サメ”たちのお話でした。物語も演技も演出もエンターテインメントとして面白く拝見しました。

≪あらすじ≫ 公式サイトより
ハリウッドの大物映画プロデューサー・バディ・アッカーマン(田中哲司)。人間としての評判は最悪だが、数々の作品をヒットさせ、彼のアシスタントは皆映画界で出世すると言われている。脚本家志望のガイ(田中圭)は成功を夢見てバディの元で働き始めた。痛烈な侮辱の言葉に耐えながら無理難題に対応する日々を送る中、新作を売り込みに来た映画プロデューサー・ドーン(野波麻帆)にガイは心を奪われ、やがて恋人関係になる。制作部門のトップへの昇進に命を賭けるバディは、映画会社会長のサイラス(千葉哲也)にアピールするため、ドーンの企画を利用しようと一計を案じてガイにある提案をもちかける。
信頼と懐疑心、名誉と屈辱、希望と失意、それぞれの思惑が入り乱れる中、ある晩、バディとガイの歯車が狂い始める――――
≪ここまで≫

 写実と抽象がバランスよく混在する舞台美術でした。直線の美しさが生きているシャープでクールな空間で、金属、革、透け感のあるパネルなどの素材が、映画業界というビッグビジネスの華美かつ冷酷な雰囲気に合っています。全体的に直線的ですが、中央になぜか岩山のような塊があるのが面白いですね。岩の真ん中にある白い通路が事務所への正面入り口になっていて、出入りがドラマティックです。バディの部屋は上手上部、ドーンの部屋は下手上部です。2人の間をガイが行き来するのですが、彼の定位置は上ではなく下なんですよね。人間関係のヒエラルキーも美術で表されていたように思います。

 LEDの軽薄で鮮やかな明かりも、きらびやかかつ冷ややかな都会のムードにマッチしていました。赤、青、緑といった原色、そして白などを大胆に切り替えて、躍動感が生まれます。トランペットなどの管楽器が元気に響くアップテンポの派手な曲や、シックなバー(BAR)にぴったりのジャズ(たぶん)など、場面をアゲアゲに盛り上げる音楽も楽しかったですね。

 ダークカラーの好戦的なスーツをまとうビジネスマンたちが、これでもかとカッコをつけているのが潔いです。最初はもっさりとしていたガイが少しずつ業界に染まっておしゃれになり、心が汚れていく過程もわかりやすかったですね。出演者は小技を使ったりせず、それぞれの役柄として、真っ向勝負してくださっているように感じました。千葉さんの演出は俳優を魅力的に見せて、会話をスリリングにしてくれるなぁと思いました。

 ここからネタバレします。正確性は保証できません。

 バディが自分を騙していたと気づいたガイは、バディの事務所で待ち伏せて、深夜に戻ってきたバディを銃(バディの護身用)で脅し、椅子に縛り付けて拷問します。そこにドーンが登場。バディはガイに「ドーンは目的のために誰とでも寝る女で、もちろん自分とも関係を持っている」と暴露しますが、ドーンは堂々と否定。彼女は「バディに引導を渡すためにここに来た。映画はステラ(バディのライバルの女性プロデューサー)と撮る。脚本家も説得した」と言い返します。でもガイには、どちらの言葉も信じられないんですよね…当然です。バディに「自分が本当にしたいことを考えろ!」と迫られ、うずくまるガイ。暗転し、一発の銃声が轟きます。

 明転すると、何事もなかったかのようなバディの事務所。ガイは新入りの部下(伊藤公一)と談笑中。バディの部屋からバディと社長、脚本家が出てきて、映画製作は順調に進んでいる様子です。ガイが撃ったのはドーンだったんですね。「ドーンがバディを縛って脅していたのを、偶然、事務所を訪れたガイが助けた」…という筋書きになっていました。男だけのギルドから女が追い出されたような恰好ですね。バディとガイは殺人の共犯者として、死ぬまで離れられない、がんじがらめの関係になったのでしょう。毒を食らわば皿まで、というのか…。脚本家としての成功、そしてプロデューサーという地位を手に入れるためには殺人も厭わない。

 バディは縛られていた時、ガイに「妻がレイプされて殺害された」と言っていたのですが、それも嘘でした。おぞましい…。年を取ったからなのかもしれませんが、私は、嘘は本当にダメだと思いますね。嘘によってもたらされる害悪は、人間をひどく蝕んでいると思います。

 男性が女性に対して“誰とでも寝るアバズレ”とか“公衆便所”とか、とんでもない悪口を浴びせるお話(フィクション)って多いんですよね。そういう男性たちに対して、いつも思うことなんですけど…その“アバズレ”と喜んで寝て、“公衆便所”に気持ちよく“汚物”を流しているのは、お前らだろっ!!! なぜ自分のことを棚に上げて女性をののしることができるのか…怒りを通り越して笑けます。

 1994年の映画ということは、当時からハリウッドでは、女性差別に意義を唱えていたということですよね。それが今のme too運動にもつながっていると思うと、長い戦いです。

 カーテンコールの時に気づいたのですが、床は水色だったんですね。鏡面のようにつるつるで。サメと泳ぐ水中のイメージだったのでしょうか。

≪作品解説≫ 公式サイトより。
映画「SWIMMING WITH SHARKS」(94年/邦題「ザ・プロデューサー」)を元に舞台化、07年にロンドン・ウエストエンドで上演された本作。映画版の脚本を手がけたジョージ・ホアンは、数々の大手映画会社で働いた実体験から着想を得て、この作品を書き下ろした。作中で描かれる、映画界でのし上がるための熾烈なマウンティングは、まさに今、現実のハリウッドで起きている様々なハラスメント問題を想起させる。舞台版では、9・11テロがアメリカの映画産業に与えた影響を背景に織り込み、物語にさらに奥行きが生まれた。権力闘争、夢を人質にとられて味わう不条理、ビジネスでの男女の駆け引き、創作表現と経済行為のせめぎ合い…。華やかに見える世界の裏で、それぞれの価値観が衝突し、人間の本質があぶりだされる傑作戯曲、待望の日本初演!
≪ここまで≫

関西テレビ放送開局60周年記念
≪東京、宮城、兵庫、福岡、愛媛、広島≫
SWIMMING WITH SHARKS By Michael Lesslie Based on the screenplay by George Huang
出演:田中哲司、田中圭、野波麻帆、千葉哲也(社長)、石田佳央(ガイの最初の上司、脚本家?) 伊藤公一(ガイの部下) 小山あずさ(バディの愛人・オックスフォード大卒?)
原作:ジョージ・ホアン 上演台本:マイケル・レスリー
翻訳:徐賀世子 演出:千葉哲也
美術:石原敬 照明:松本大介 音響:藤平美保子 衣裳:髙木阿友子 ヘアメイク:高村マドカ 演出助手:長町多寿子 舞台監督:齋藤英明
宣伝美術:野寺尚子 宣伝写真:HIRO KIMURA 宣伝衣裳:髙木阿友子 宣伝ヘアメイク:ROI 宣伝:ディップス・プラネット
制作:羽根有希乃、千葉文香 票券:石田佳恵、北原ヨリ子
アソシエイト・プロデューサー:坂田佳弘 プロデューサー:水川薫 【企画・製作】関西テレビ放送
【発売日】2018/06/16
<全席指定>8,800円
U-25シート:4,800円
https://www.ktv.jp/event/sharks/
http://stage.corich.jp/stage/93387

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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