木野花さんが英国の女性劇作家キャリル・チャーチル作『クラウドナイン』(1979年英国発表)を演出されます。上演時間は約3時間、休憩15分を含む。
やっぱり面白い戯曲でした~♪ 2011年に劇団青年座で観た時とは違う解釈ができたように思います。俳優、演出が違うからだけでなく、時代も自分自身も変わったからでしょうか。性描写も前ほど過激だと感じませんでした。戯画的に描いてくださったからかもしれません。
≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
イギリスの植民地だった時代のアフリカ。
この地を管理するために、本国からやって来たある家族の物語。
家長のクライヴ(髙嶋政宏)は、国家と常識を重んじる男らしい父親。
だけど時折り襲う嵐のような欲望の奴隷。
その妻ベティ(三浦貴大)は、夫を愛する貞淑な妻であろうとするあまり、
夫の友人にも愛情のおすそ分け。
一人息子エドワード(平岩紙)は、父親に認められる強い男になりたい!
と願いつつ、夢中になるのはお人形遊び。
“家族が平和であれ”と、全てを見て見ぬふりの祖母のモード(宍戸美和公)。
そこに隣人の、欲望のままに生きるハガネの女ソンダース夫人(伊勢志摩)、
一見ワイルドなイケメン探検家ハリー(入江雅人)、
男を知らない純情な家庭教師エレン(石橋けい)、
そして、両親をイギリス兵に殺された
従順な召使いジョシュア(正名僕蔵)が加わり‥‥
理想の自分と現実の自分自身。そのギャップに右往左往しながら暗中模索する、
不器用な家族の、バカバカしくも切ない25年間の成長の軌跡。
アフリカの大地に繰り広げられる、破天荒なホームドラマを、どうぞお楽しみに!!
≪ここまで≫
舞台中央から客席に向かって長い演技スペースが取られており、客席通路も使います。ざっくりですが“ 工 ”の形をしたステージです。作り物であることがよくわかる舞台美術で、絵本のように見えたり、“学芸会”っぽさもあったり。
一幕はイギリスの植民地時代のアフリカ。二幕はその100年後のイギリス(現代のロンドン)。演じる人物が変わるだけでなく性別も変化するので、俳優は2本分のお芝居に出演するような感覚かもしれません。演技方法は、その場で役人物として生きるというより、役人物の輪郭を分かりやすく示す方向性のようで、個人的にあまり引き込まれませんでした。でも終盤に近付くにしたがって、舞台上の人々が“人類”のさまざまなひな形のように見えてきました。
モチロンプロデュース『クラウドナイン』(東京芸術劇場シアターイーストで公演中)のパンフレットを編集しました。デザイン・箭内道彦さん、イラスト・五月女ケイ子さんです。表紙はこんな感じ。 pic.twitter.com/i0zyjVbbHR
— 上田智子 (@tomoko_note) 2017年12月5日
ここからネタバレします。
一幕は植民地時代なので男尊女卑、人種差別、年功序列などの身分制度が前提の世界です。クライヴ(髙嶋政宏)のルールに則って、彼のご機嫌さえ損なわなければ、楽に生きていけるんですよね。黒人の召使い(正名僕蔵)がクライヴの妻(三浦貴大)や息子(平岩紙)をバカにするのは、クライヴが作ったルール(男尊女卑と年功序列)に従っただけなんですよね。差別が新たな差別を生んでいくのがよくわかりました。
一幕から二幕にかけて100年経つのですが、登場人物は25年しか年を取りません。2つの時代で同じ名前なのはエドワード(前半は平岩紙、後半は髙嶋政宏)と、ベティ(前半は三浦貴大、後半は伊勢志摩)だったかと思います。
クライヴ役で妻ベティ(三浦貴大)らを威圧していた髙嶋さんが、二幕では、三浦さんが演じるゲイの若者ジェリーの恋人役になり、“一歩下がって夫についていく妻”のようになるなど、地位が逆転します。全ての俳優がドラスティックに変化するので、自然と全体を俯瞰して観られるようになっていきました。
パンフレット(1500円)の松岡和子さんのインタビューにも書かれていたのですが、LGBTの話だけじゃなくて、今も昔も、もしかしたら未来も変わらない人類全般に通じる話なのかな…と考えられました。同性婚が合法になる国も出てきた今でも、「女らしく」「男らしく」といった固定観念は根強くあります。性差別がなくなったとしても、子育てや働き方について、親(親権者)同士の家族観がぶつかることは、なくならなさそうです。人間は安定を好むから、どうしても心地よい枠組みを欲するし、それを保持したいと思っちゃうんですよね。
老いてから経済的にも精神的にも自立したベティが自慰について告白する場面は、イヴ・エンスラー作『ヴァギナ・モノローグス』を思い起こしつつ拝見しました。二幕に一幕の登場人物がちらりと出てくるので、アレクシ・ケイ・キャンベル作『プライド』も思い出しました。少しは成長してるのかも?人類!
■感想
『クラウドナイン』①観終わって何時間も経つけど、心臓周辺がまだぞわぞわと波立っている。遠くまで行くかもと予想はしていたけれど、笑いながら揺さぶられ、はるか深い場所に連れて行かれた。キャリル・チャーチルの戯曲、やっぱり凄い。その凄さを圧縮解凍して俳優にインプットした木野花の演出!
— 徳永京子 (@k_tokunaga) 2017年12月5日
『クラウドナイン』②一幕はヴィクトリア朝時代のアフリカ、二幕は100年後のロンドン、でも登場人物は25歳しか年を取っていない。しかも一部の役は演じる俳優の性別と逆──。演劇の自由度を信じるチャーチルの遊び心と知性が戯曲をややこしくしているけど、大丈夫、物語の骨格は実はシンプル。
— 徳永京子 (@k_tokunaga) 2017年12月5日
『クラウドナイン』③40年近く前に書かれた戯曲は、発表当時はコミカルでシニカル(だからこそラディカル)なフェミニズム作品と謳われたろうし、取り上げられた同性愛者の問題は驚異的な先見性も証明したけれど、本当に劇作家が書きたかったのはおそらくそれらではなく、
— 徳永京子 (@k_tokunaga) 2017年12月5日
『クラウドナイン』④自分がいる場所(家、家族、性別、人種、土地、性的嗜好)を愛せず抑圧を感じる時、そこから出ていく、あるいは戻って向き合うために踏み出す一歩についてだ。そしてチャーチルは優しくも、その勇気は自分と向き合うことで、何歳だろうと獲得できると描いている。
— 徳永京子 (@k_tokunaga) 2017年12月5日
『クラウドナイン』⑤伊勢志摩演じる老婆がオナニーを語るシーンは、演劇史上(きっと映画やドラマを含めても)最も美しく幸福なオナニーについての言葉だ。俳優はみんな良く、誰に対しても「ここまで出来る人だったのか」と感じるはず。とりわけ宍戸美和公が覚醒と言っていいレベル。
— 徳永京子 (@k_tokunaga) 2017年12月5日
『クラウドナイン』⑥昔観た時はトリッキーな構造に気を取られたけれど、今回の木野の演出でようやく、誰かを生きづらくする無理解や差別や偏見や欺瞞は時代を超えて存在すること、誰もが加害者であり被害者だと表現するにはこの構造が必要だと気付かされた。東京公演は17日まで。もう1回観たい。
— 徳永京子 (@k_tokunaga) 2017年12月5日
『クラウドナイン』についてまだ考えている。ので追記①一幕の大佐(高嶋政宏、好演!!)、彼はイギリスのメタファーだ。黒人の召使い(正名僕蔵も好演!)=植民地の現地人との関係を思い返すと、そうとしか思えない。周囲(この作品では妻や子ども。裏読みでは他の植民地主義国)に対しては
— 徳永京子 (@k_tokunaga) 2017年12月9日
『クラウドナイン』追記②自分が圧倒的な力で支配していると誇示しつつ、目配せで「ここはひとつ、従う振りをしてくれよ」という当事者同士だけの対等関係をキープ、陰で肉体関係を持ち、内紛が起きても他人事で、無神経ないたわりの言葉をかける──。植民地化ってムチ100%じゃなく、きっとこういう
— 徳永京子 (@k_tokunaga) 2017年12月9日
『クラウドナイン』追記③アメとムチの巧妙な/曖昧な使い分け、そこから生まれる矛盾と、その矛盾に何の責任も取らない、ということなんだろう。この舞台を観てようやく思い至る。キャリル・チャーチル、ありがとう。この作品、他にもこんな仕掛けがまだ隠されているんだろうなぁ。
— 徳永京子 (@k_tokunaga) 2017年12月9日
今更だけどクラウドナインの備忘録を書いておいた。もうホントに備忘録程度。https://t.co/vS84nWuesz
— 米谷 郁子 (@ikometani) 2017年12月27日
土曜日に観劇した『クラウドナイン』のことについて少し。好印象を持った舞台であったのだが、秋に自宅に送られてきたプレスリリースを見て、自分はとても落胆した。下記のように、あまりに言葉に無頓着だと感じたからだ。 https://t.co/LeFMrnpzt9
— 谷岡健彦 (@take_hotspur) 2017年12月18日
≪東京、大阪≫
≪出演≫
クライヴ(英国からアフリカに派遣された紳士)/エドワード(ヴィクトリアの弟・ゲイ):髙嶋政宏
ソンダース夫人(クライヴの愛人で未亡人)/ベティ(クラウヴの妻の未来の姿):伊勢志摩
ベティ(クライヴの妻、ハリー・バグレーに恋)/ジェリー(エドワードの恋人・ゲイ):三浦貴大
ジョシュア(黒人召使い)/キャシー(リンの娘):正名僕蔵
エドワード(クライヴの息子、人形が好き)/リン(レズビアンで一児の母・シングルマザー):平岩紙
モード(ベティの母)/トミー(ヴィクトリアの息子)/リンの弟(軍人・戦死する):宍戸美和公
エレン(クライヴ家の家庭教師、レズビアンでベティが好き)/ヴィクトリア:石橋けい
ハリー・バグレー(クライヴの親友、ゲイで小児性愛者でもある探検家)/マーティン(ヴィクトリアの夫):入江雅人
脚本:キャリル・チャーチル 訳:松岡和子 演出:木野花
劇中歌
「少年の一番の友」作曲:山内総一郎(フジファブリック)
「仮面舞踏会」歌:ROLLY
舞台監督:二瓶剛雄
照明:佐藤啓
音響:内藤勝博
舞台美術:伊藤雅子
衣裳:戸田京子
ヘアメイク:大和田一美
演出助手:大堀光威
演出部:佐藤涼子
マジック指導:顔田顔彦
レコーディングエンジニア:瀧澤大輔
法務アドバイザー:福井健策
宣伝写真:引地信彦
宣伝美術:箭内道彦、平井真央、深瀬美帆
イラスト:五月女ケイ子
宣伝協力:る・ひまわり
Web:斎藤拓
票券:河端ナツキ
制作:北條智子、赤堀あづさ、横山郁美
プロデューサー:長坂まき子
制作協力:大人計画
企画・製作:(有)モチロン
前売・当日:6,800円
ヤング券:3,800円(22歳以下、チケットぴあ前売り販売のみでのお取り扱い)
http://otonakeikaku.jp/2017cloudnine/index.html
http://stage.corich.jp/stage/87530
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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