売れっこ若手劇作家の長田育恵さんの新作です。2012年に上演されたてがみ座(⇒公式ツイッター)『青のはて』の続編に位置づけられる新作で、宮沢賢治晩年の評伝劇でした。私が観た11/11(土)夜の上演時間は約2時間強(途中休憩なし)。
配布される用語集などが充実しています。開演前に読まれると良いと思います。私が賢治に詳しくないので、とても助かりました。
小劇場に舞台美術(杉山至)がしっかり建て込まれており、愛知公演もあります。劇団としての継続活動が個人的には嬉しく、ありがたいです。演出は昨年、長田戯曲を演出した田中圭介さん。てがみ座での演出は初めてです。色んな演出家を迎える体制も独特かもしれません。
長田育恵インタビュー~てがみ座新作『風紋』「私にできるのは宮沢賢治からのバトンを受け取って、伝えていくこと」 | SPICE – エンタメ特化型情報メディア ス… https://t.co/rlshMQgBo0
— 長田育恵@てがみ座 (@tegamiza) 2017年11月7日
【Confetti11月号】てがみ座(@tegamiza_PR)『風紋 ~青のはて2017~』より、長田育恵さん(@tegamiza)・石村みかさん(@sorano87)にインタビュー!詳細は⇒【https://t.co/3kZZxQ6pUp】#カンフェティ
— カンフェティ 演劇・ミュージカル (@confetti_web) 2017年10月6日
長田さんの新作戯曲は12月に劇団民藝『「仕事クラブ」の女優達』(演出:丹野郁弓)があり、2018年は宮崎県立芸術劇場の2月公演『神舞の庭』(演出:永山智行)、劇団青年座の3月公演(演出:宮田慶子)、そして6月のてがみ座第15回・紀伊國屋ホール公演と続きます。凄い!
人間宮沢賢治と「あいまいな喪失」――てがみ座公演『風紋--青のはて2017』/野田学 https://t.co/3Sg7eysCRJ @Theatre_Artsさんから
— シアターアーツ編集部 (@Theatre_Arts) 2017年11月15日
≪あらすじ≫ 公式サイトより
もしもこの道がほんとうでないなら
いま、まっすぐに知らせてくれ。
昭和6年9月20日「再ビ 東京ニテ 発熱」
宮澤賢治は、東北砕石工場のセールスマンとして上京中、病に倒れ、死の淵を彷徨う。
病身を引き摺りながら帰郷のため、最後の旅に出る。
死という極限の状況に際し、思い出す。かつて亡き人と約束を交わした旅のことを。
――大正12年7月31日、花巻発。
賢治は北へ向かう列車に乗り込んだ。当時の日本の北限を目指して。
それは、前年に亡くした妹トシの魂の行方をもとめる旅だった。
賢治は、最後の生命を賭けて問いかける。
かつて抱いた青い希望は虚しく潰えた。病んだ躰は更なる歩みを拒んでいる。
そして夜の終わり、彼が目指す〈終着駅〉とは?
≪ここまで≫
舞台は1933年の岩手県、千人峠にある木造の駅舎兼旅籠(はたご)。建物も家財道具なども具象で凝っていますが、上手と下手の袖に抜け感をつくって抽象性を確保しているので、嵐で人々が閉じ込められる設定でありながら、風通しも良いです。弦楽器(チェロ演奏・編曲:佐藤翔)の音楽が心地よく、世界観にフィットしていました。
登場人物たちは風雨によって無理やり社会から隔離されるわけですが、旅籠滞在はふいに訪れた人生の休み時間のようでもあり、見知らぬ人同士がともに支え合うユートピアであるとも受け取りました。
1933年の昭和三陸地震も題材になっており、2011年の東日本大震災発生時の情景がすぐによみがえりました。ぽっかりと浮かび上がった虚構の空間だから、愛について、死について、率直な言葉で語れるし、観客もそれを素直に受け止められるのだと思います。
賢治役は劇作家、演出家でもある山田百次さん。旅籠の主人役の佐藤誓さんとともに東北の方言を話されます。厚身のある、柔らかい方言が素晴らしかったです(方言指導:佐藤誓)。工藤(峰﨑亮介)と踊り子(福田温子)のカップルのムードが私好みでした。
てがみ座の『風紋』を観る。主宰の長田育恵が全登場人物の台詞を一点一画まで疎かにせずに書いた力作。自分は本作を宮沢賢治の話というより、思いがけずも宮沢賢治に「宿泊されてしまった」宿の女将(石村みか)の話として観た。すると、賢治がまるで『風の又三郎』のようにも見えてくる。
— 谷岡健彦 (@take_hotspur) 2017年11月9日
てがみ座「風紋」演出の田中圭介さんは音大の声楽科ご出身。今夜の音響打ち合わせでは声楽家としての顔も見えて面白かった。用語や音大時代の修行のエピソードも出てきたり。私とは戯曲セミナーの同期。お互いいろんな道を通りながら戯曲セミナーで交叉し、今また新たに出会い直しているんだなぁと。
— 長田育恵@てがみ座 (@tegamiza) 2017年10月30日
ここからネタバレします。セリフは戯曲本より(ロビーで販売中)。
病床の賢治の夢の中に、早世した妹とし(瀬戸さおり)や親友の嘉内(箱田暁史)が登場するので、事件がいくつも起こる印象を受けますが、実はたった3日間のお話なんですね。
としが教師と恋愛関係にあった(しかも地元でゴシップになった)事実は知りませんでした。賢治から嘉内への手紙も実物からの引用で、童話作家というより一人の人間、男性としての賢治像が生々しく、力強く生み出されました。ほぼ最後の場面で賢治の原稿を読んだ女将(石村みか)の「宮澤さん、あなたは作家だったのね」というセリフが効いています。
終盤で旅籠の主人(佐藤誓)が、自分の息子(女将の夫)は海上で他人の身代わりになったのだと語ります。「目の前に困っている人がいたから、自分を顧みずに助けた」という、この上なく美しく、悲しいエピソードです。1932年に発表された童話「グスコーブドリの伝記」(⇒青空文庫)も自己犠牲の物語ですよね。“感動的な美談”として片づけられず、胸にズシンと響くのは、緻密に作り上げられた虚構のおかげだと思います。
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そういえば先日観た『坂の上の家』でも両親を亡くした三兄妹が、原爆症を発症したと思われる若い女性を家族に迎え入れる決心をしていました。常軌を逸した嘘と醜い開き直り、弱者切り捨てが蔓延する今、人間のあるべき姿とは、善く生きるとはどういうことなのかと、自分(=私)に厳しく問う必要があると思います。また、人目に触れない、ニュースにはならない声なき人の声と行いを想像し、希望を持ってもいいのではないか…とも思いました。女将の夫のような人間は、実際にもいたはずだと。
田中さんの演出は登場人物の背景、心情、関係性を丁寧に描き出す方向性でした。照明が暗い目でストイックなストレートプレイです。濃厚な2時間のお芝居なので、空気が何かしら尖ったり、緩んだり、はじけたりするような、娯楽的趣向をもう少し増やしても(目立たせても)いいのかも。病に伏せる賢治が見る夢の場面が、旅籠での生活とシームレスに演じられるのがとても良かったです。
第14回公演
≪東京、愛知≫
【出演】踊り子(工藤の恋人?):福田温子、宮沢賢治の親友・保坂嘉内(ほさか・かない):箱田暁史、旅籠の女将(主人の息子の嫁):石村みか、運び屋:岸野健太、旅籠の主人:佐藤誓、とし(宮沢賢治の妹):瀬戸さおり、宮沢賢治(36歳、死の2ヵ月前):山田百次(劇団野の上/青年団リンクホエイ)、マグロ漁の漁師:実近順次、工藤(失業者、実は特高警察):峰﨑亮介、キミ(貧村から売られた少女):神保有輝美(劇団民藝)
脚本:長田育恵 演出:田中圭介
美術:杉山至 / 照明:黒太剛亮(黒猿) / 音響:近藤達史 / 衣裳:阿部美千代(MIHYプロデュース) / 演出助手:大野裕明(花組芝居)、日置浩輔 / 舞台監督:森下紀彦 / 方言指導:佐藤誓 / チェロ演奏・編曲:佐藤翔 / 墨絵:茂本ヒデキチ / 宣伝美術:鈴木勝(FORM) / 制作:有本佳子(プリエール)、和田幸子(プリエール) / 票券:新居朋子(プリエール)、飯塚なな子((劇)ヤリナゲ) 助成:芸術文化振興基金 芸術文化振興基金: / 主催:てがみ座
【発売日】2017年9月29日(金)
前売:4,200円 当日:4,500円
25歳以下:3,000円(前売のみ取扱い/入場時身分証提示)
※未就学児入場不可
http://tegamiza.net/take18/
http://stage.corich.jp/stage/86694
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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