【写真レポート】木村早智サマーワークショップ「真実の交流:Truthful Communication」07/18高円寺K’s Studio

 新国立劇場演劇研修所の創設時(2005年)から講師をつとめている木村早智(きむら・さち)さんのワークショップを見学させていただきました。昨年に続き、「真実の交流:Truthful Communication」と「創造的になろう:Be Creative」の2コースが開講しています(告知エントリー⇒2016年2017年)。

 私が拝見したのは「真実の交流」の午後の部の最終日です。13時から17時の予定でしたが、だいたい12:40~17:20までに延長されました。※写真は高円寺K’s Studioより提供(7/15撮影)。

赤いTシャツをお召しの女性が木村早智さんです。
赤いTシャツをお召しの女性が木村早智さんです。

 会場にやってきた参加者は朗らかに挨拶を交し、各自でウォーミングアップを始めます。稽古場全体の空気は清涼感があって明るく、リズミカルに弾むような感触です。参加者は男7人、女9人の計16人でした。

 昨日の続きということで、1人が他の全員の前に立つエクササイズが行われました。1人の俳優が下手から登場し、客席を向いて立って、簡単なセリフ(3個)を言い、再び下手に去る。それだけなのですが、人間のコミュニケーションは言葉だけでなく全身で、空間とともに行われることが、ビシバシと体感できました。ポイントは登場から退場までの間、どれだけ観客とともに居られたか。全員でフィードバックをしてから、舞台に立っている1人に早智さんが「~~をやってみて」と次々に提案していきます。

 早智:(心身の)準備が整ってないところから始めましょう。
 早智:身体全体で意識を飛ばす。(皆に対して)「聞いてるよ」って。そして皆の声も聞く。

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 まず驚いたのは、客席側の俳優たちの観察眼の確かさ、感受性の豊かさです。目の前の1人がどういう状態だったか、どのように変化したかをつぶさに感じ取って、それを言葉にできるのです。そして舞台上の1人は多くの声を正面から受けとめます。双方の信頼関係が築かれている証拠です。4日間のワークショップの最初の3日間に何が行われたのかを、とても知りたくなりました。

 早智さんの質問、提案は俳優の性格や癖、人生の課題などに鋭く迫るもので、1人の人間が熟考の末に何かに気づく姿を見るだけでも、私は小さな奇跡に触れられたように感じました。俳優1人ずつが「今まで誰にも見せたことのない自分」や「自分が過去にやった汚いこと」などを赤裸々に、すすんで披露していくのにも衝撃を受けました。めちゃくちゃ面白いっ! そして感動的!! 私ったらまた涙を流し過ぎてアイメイクが全部落ちました(笑)。

 早智:皆の前に立つエクササイズは、ありのままの自分を見せて、それを使っていくためのもの。
 早智:「愛していいよ」「愛してる」(という2つの意志)を混合させる。

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 「精神論」や「スピリチュアルな何か」ではなく、相手役や観客と本当の意味で交流するために必要な作業であることを、全員が共有しています。早智さんは心の深い部分に関わることについては、「心理学者ではないので、私はそこまでは触れられません」と断った上で、俳優が家に帰って自分でできることを手渡します。たとえば自分の思いをノートに書いてみることなどです。

 早智さんは「自分の中にいる“小さな戦士(ソルジャー)”が、自分が何かをするのを禁止する。それを(自分の意志で)やめさせる」ともおっしゃいました。たとえば「愛されること」を拒ませたり、「愛している」という気持ちを表に出せなくしたり。人間は自分で自分を縛っているものですよね。
 「“ごめんなさい”じゃなくて“ありがとう”と言う」という指導には、私自身もギクっとしました。人間が過剰に恐縮したり、余計な謝罪をしたりするのは、役割から逃げ出して責任を取っていないとも言えるんですよね。早智さんは俳優がそこに陥らず、自律する方向へと導きます。

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 最後にシェイクスピア作『から騒ぎ』(河合祥一郎訳)から、主役の男女の会話を使ったグループ・ワークが行われました。詳細を書くことは控えますが、向かい合って両方の手のひらを合わせた男女が、常にアイコンタクトをした状態で、相手の手を押しながら直接言葉をかけていく、結構ハードな内容です。最終的に、各々の奥にある本物の感情と声(=言葉)がつながり、「真実の交流」を生み出したペアもありました。愛し合う男女が互いを追い詰めて、逃げ場をなくし、心が引き裂かれる様子から目が離せなかったです。

 早智:どちらかが交流を止めると、空白(=抜け)ができて、何が起こっているのかが不明瞭な時間が生まれる。それを観客はつまらないと感じる。
 早智:(自分から積極的に交流せずに)相手に任せるのは(謙虚なのではなく)責任逃れ。
 早智:脚本がつまらなくても、演じる俳優が本当の交流をしたら、それだけで(面白いものが)見せられる。

 「真実の交流」は俳優の演技の基礎であり、その次の段階があります。たとえば告知エントリーでもご紹介した「役が自分(=俳優)を乗っ取って働くこと」。オカルトじみたものではなく、確立されたひとつの手法です。早智さんのワークショップが継続開催され、それを獲得する俳優が増えることを願っています。

 早智:役に自分を預けた状態の俳優が、いつも舞台上に居るような日本の演劇界であって欲しい。

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【感想】

 昨年に続く2回目の開講で、舞台だけでなく映像分野の俳優も参加しており、プロとしての活動歴の長い方々が多かったようです。体も心もまるごと開いてお互いを尊重し合う、自由で柔軟な環境が確保されていました。全員が「ここは安全地帯である」と認識できているんですね。またその状態をキープするために全員が協働します。これはワークショップだけでなく、演劇の創作現場(=稽古場)の理想形ではないでしょうか。

 早智さんの「ツッコミは演劇の敵」という一言にも大いに頷きました。お笑いの技術であるボケ・ツッコミは、「真実の交流」の対極にあると言っていいと思います。また、「3個のセリフを技術でうまく言えても、それが5個、6個と続くと観客は面白いとは思わない」というのにも納得です。技術でやりとりを上手に組み立てても、2~3回は面白く感じられるかもしれませんが、私は飽きちゃいます。

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 プロの俳優指導者によるワークショップが増えて、「俳優指導者」という職業の認知度も上がってきている気がしています。以下で、シアター風姿花伝の支配人であり俳優の那須佐代子さんのfacebookから引用させていただきます。

≪引用≫
 既存の形態を破壊するという形で進んできた日本の演劇。それはそれで面白かったのだと思いますが、スタンダードが育たなかった、というマイナスも。そんな現在、英国式演技術のように長い時間をかけて体系化されてきた訓練法を、短期間であれ体験できるワークショップが、いろんな場で開催されるようになったのは良いことだと思っています。(中略)
 プロデュース公演が主体となってきている昨今、初めて共演する俳優同志がどれくらい共通言語を持っているかが、創作に大きく影響していると思われます。演技の共通言語を身につける、磨きをかける、という場があったら、演劇そのものの質も向上していくのではないでしょうか。(中略)
 ワークショップに参加するのは仕事の無い売れない俳優 ーみたいな雰囲気を打破したいなと思っております。
≪ここまで≫

 最後に参加者2人のご感想を紹介いたします。次は本番の舞台上で雄姿を拝見できますように!

 参加者1:ありのままでいることを許してくれて、認めてくれる。この4日間はすごく幸せだった。生きていていいんだな、役者をやっていていいんだなと思った。
 参加者2:去年「創造的になろう」を受講して、「真実の交流」も受講したいと思った。稽古仲間が増えて嬉しい!共通言語を持った仲間がもっと増えて欲しい。

高円寺K’s Studio「木村早智サマーワークショップ」
「真実の交流:Truthful Communication」07/15-18 参加費:16000円
「創造的になろう:Be Creative」」07/22-25 参加費:22000円
https://www.facebook.com/koenji.ksstudio/photos/a.729147010563952.1073741829.669168253228495/1141881489290500/?type=3&theater
公式PDF:https://goo.gl/pmKXpo
http://stage.corich.jp/bbs/41614

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