『オーファンズ』は1983年初演の米国戯曲で、直訳の意味は“孤児たち(orphans)”。D-BOYSの柳下大さん、劇団プレステージの平埜生成さんという若い俳優と、ベテランの高橋和也さんによる男三人芝居で、演出は宮田慶子さんです。上演時間は約2時間15分(途中15分の休憩を含む)。
言葉と人間関係をじっくり味わうことができました。じーんと体から湧き上がってくるように「いい戯曲だな~」と思えたのは、戯曲そのものの良さはもちろん、演技、演出で世界を緻密に作り上げてくださったからだと思います。
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⇒CoRich舞台芸術!『オーファンズ』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
アメリカ・フィラデルフィアにある老朽化した長屋。そこが彼らの居場所だった。
誰も知らない、閉ざされた世界に暮らす兄弟、利発ながら凶暴的なトリート(柳下大)と天真爛漫なフィリップ(平埜生成)。
親のいない二人は、トリートの盗みで日々の生計を立てていた。
ある日、トリートはバーでハロルド(高橋和也)と出会う。金持ちと思い込み家に監禁、誘拐を目論むが、ハロルドは意に介さず、トリートに自分の仕事を手伝うように持ちかける。
奇妙な共同生活の中で二人に富と理性、教養とともに、生きる道を教えていくハロルド。家から出ようとしなかったフィリップは自分が住む世界を知り、トリートは人との繋がりを感じるようになる。
大きな孤独と小さな温もりを分かち合う三人の孤児たち(オーファンズ)に訪れる、思いもよらない結末とは・・・
≪ここまで≫
初日だったせいもあると思いますが、前半は全体的に空気が固いように感じました。でも後半からは柔軟になり、重みも輝きも出てきて、物語の世界に入り込むことができました。
私の無知および偏見かもしれませんが、ワタナベエンターテインメントという、俳優だけでなくお笑い芸人やアイドルなどをマネジメントされている大会社が、地味と言っていいであろう海外戯曲を取り上げて、しかも小劇場で上演されていることに…驚きます。チケット代は6,800円と安くはないですが、高くはないと思います。採算は取れているのかしら…と勝手に心配しちゃいます…(あ、大会社だから、できるのでしょうか…どちらにしろ的外れかも)。2000年に観た『オーファンズ』の会場はサンシャイン劇場(600席)でした。
インタビューやパンフレットによると柳下さんが宮田さんに直談判し、戯曲選びから取り組まれたそうです。こんなストレートプレイを若い人気者がやりたいと思うのだな、そして愚直に立ち向かって、舞台で体当たりしてくれるのだなと嬉しく思いました。
今日初日『オーファンズ』観てきた。翻訳したが、言葉に新たな生命をたくさん吹き込んでくれていて、新鮮な瞬間たくさん。訳したくせに少し泣いちゃう体たらく。言葉、関係、目的意思をきちんと信じて王道的に煮込むと、こんなに奥行きが味わえる、ストレートプレイを信じさせてくれる作品であった。
— 谷賢一 (@playnote) 2016, 2月 10
ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。
『オーファンズ』は日本でよく上演されているそうです。私は2000年に一度だけ拝見してたんですが(出演:椎名桔平、伊藤高史、根津甚八)、ストーリーはほとんど忘れていて…。でもうっすらとポイントは思い出しました。前半は安っぽいスタジャンを着ていてダサかった椎名桔平さんが、休憩後にキラキラ光る水色の背広に着替えて登場し、別人のようにハンサムだったこととか(笑)。15年以上前だし私自身も年を取ったので、比べても仕方ないかもしれませんが、今回の方がずっと面白く、戯曲も演技も味わえました。前回はちょっと退屈して寝ちゃったせいか、なぜ終わるのかわからない幕切れだったんですよね…(残念ながら)。今回はラストが素晴らしかったです。
パンフレットによると「デッド・エンド」はスラム街で生きる人々を描いた1937年の米国映画で、“デッド・エンド・キッズ”はそこに出てくる不良少年たちの呼び名です。英語の意味は「dead end=袋小路、行き止まり」。ハロルドはバーでトリートを見た瞬間、「自分と同じ孤児だ、“デッド・エンド・キッズ”だ」と気づきます。トリートはハロルドを酔わせて家に連れ込んだ気でいましたが、本当はハロルドの方からトリートに近づいたんですね。
兄のトリートは幼少時から泥棒をして生計を支え、弟のフィリップは文盲(終盤で独学していたことが判明)で引きこもり。2人っきりの閉じた世界に、ハロルドという救世主が現れます。大金持ちの彼は兄弟の衣食住を豊かにし、社会性を獲得するための訓練と教育を与えていきます。兄はブランドもののスーツに身を包んで外見がガラリと変化しますが、癇癪もちで乱暴かつ頑固な性格が変えられません。一方素直な弟は、乾いたスポンジのようにハロルドの言葉を吸収して確実に成長していきます。教育という光が兄弟の主従関係を逆転させるのが皮肉です。
バスでイスを広く陣取っている黒人に対して、どういう態度を取るべきなのか。実際は腹を立てて銃を向けてしまった兄のために、ハロルドと弟が一緒になって疑似演習をする劇中劇がありました。ハロルドが傷痍軍人、弟が黒人を演じ、兄が四苦八苦します。“男の子がふざけて楽しんでやるコント”として成立していたのが凄いと思いました。なかなか笑えるところまで作れないと思うんですよね。
【演劇ニュース】柳下大&平埜生成&高橋和也出演×宮田慶子演出『オーファンズ』が開幕 https://t.co/zEfxnR9WM2 pic.twitter.com/rmdXDZOemN
— シアターガイド (@theaterguide) 2016, 2月 12
「怒りがこみあげたら10秒数えて冷静になれ」とか「寒さ対策のために腹と背中に巻いた新聞までも売ってしまった新聞配達仲間は、高熱を出し肺の病で死んだ。節度を守れ」とか。ハロルドのアドバイスは真っ当で説得力があります。彼も孤児であり、脛に傷持つ身であることを、少ないヒントで匂わせるのもいいですね。
ハロルドが弟にフィラデルフィアの地図を渡す場面は特に感動的です。銀河の、太陽系の、地球の、北アメリカ大陸の、フィラデルフィアの…と、世界の中の自分の場所を確かめるのは、ワイルダー作『わが町』と同じですよね。小さな穴ぐらのような部屋の中だけだった弟の世界が、瞬時に宇宙サイズへと広がります。「自分の感性を信じろ」というストレートな励ましも素敵。
また、ハロルドが作ったブイヤベースの話にもハっとさせられました。彼は弟に「今、お前の腹の中で奇跡が起こっている」と優しく語り掛けます。一千万年、一億年という単位の年数をかけて、エビ、タコといった個体へとそれぞれに進化してきた生き物が、胃の中で分解され、その進化の歴史を逆行する。そして小さな物体になったものたちは、お前(=弟)になるのだと。ハロルドが「胃液がエビを攻撃しているんだ」と言った時、弟がサっと食卓から離れて「僕はもういらない。食べない。僕は戦わない」と言うのも面白かったですね。戦うことしか知らない兄と対照的です。
「男同士は肩を抱いて励まし合うんだ」と言うハロルド。弟は素直に身を任せ、スキンシップで愛を受け取って自信を付けていきますが、兄は弟以外の誰にも、自分に触れることを許しません。ハロルドが手を伸ばすと大げさなぐらい後ずさりして、離れます。どうやらおびえている様子。もしかしたら両親から虐待されていたのかも…と、兄の心身の傷を想像しました。後から兄は、家に侵入しようとした乱暴者に噛みついて追い出したエピソードを語ります。彼はあらゆる他者に敵対し、刃物を振り回して、弟を守って生き延びてきたのだとわかりました。
もともと誰かに追われて故郷のシカゴから逃げ出していたハロルドは、弟との夜の散歩の後、シカゴからの追手と思われる何者かに襲われて帰宅し、ソファに座って腹部から血を流して、兄弟の目の前で死に絶えます。兄は自分からハロルドの手を取りました。死んでからやっと触れたんですね。まだ死後硬直していない温かくて柔らかい手に触れて、兄は自分の胸に抗いがたい痛みを感じ、「痛い、苦しい、嫌だ」と叫び出します。これまで徹底的に押し殺していた感情があふれ出てしまい、1人でもがき、暴れる兄。それを弟が背中から抱きとめようとします。ハロルドが自分にしてくれたように、兄の肩を抱いて、励まそうとするんですね。最初は弟の腕も払いのけようとしていた兄ですが、徐々に受け入れ、自分から弟の腕に振れ、2人は床に座った体勢で抱き合いました。私は涙しながら、心身ともにのたうち回る兄弟を見つめました。焦らず、投げ出さず、じっくりと見せ切ってくれた名場面だと思いました。
3人の孤児たちは母の愛に飢え、母を一途に思い続けていました。また、悲しいことに、罪を犯さなければ生き延びられないことも共通しており、ハロルドの死は兄弟の将来も暗示しているようでした。
絶賛開幕中の舞台「オーファンズ」🎉
男臭さ満載のひりつくような舞台のレポですーー👊
むっちゃカッコいいーー😍https://t.co/NxRyCNcybk#柳下大 #平埜生成 #劇プレ #高橋和也 pic.twitter.com/Cy583L8VR7— ローチケHMV (@lt_hmv) 2016, 2月 12
セリフの一つひとつに込められた意味や背景について、細かく、丁寧に演出が施されていると思いました。ただ、場面転換で暗転(溶暗)を使うことについては、他の方法はないのかな~と思いました(私には対案はないんですが)。徐々に暗くなって次の場面に移るせいで、リアルな空気が途切れるように感じました。
家具や小道具などをはじめ基本的に美術は具象ですが、部屋の壁に切れ目が入っていて、2階への階段や窓などがパーツごとに独立していました。すき間があることで、閉塞感とともに寂寥感も出ているように思いました。ただ、いつか動くのかもと想像して、動き出すのを待ってしまいました(笑)。いえ、全く動かなくてもいいんですけど!
兄役の柳下大さん。トリートは一幕では安っぽいチンピラですが、二幕で美しいスーツ姿に変身し、ヘアスタイルもかっこ良く決まるのがいいですね。ラストの「嫌だ…!」と苦しむところが特に良かったです。背負うものがとても多い役で、どこまで突っ張り続けたらいいのか、どこまで(どこで)本来の無邪気さを出していいのか、バランスが難しそうだなと思いました。
弟役の平埜生成さんは変化に素直で、繊細な心の動きがよく見える演技で、引き込まれました。裏を読まないし、下心がないから、愛らしいおバカさんにも見えて、内面の美しさ、聡明さも伝わってきます。後から感じたことなんですが、地図を得るまで、いや、ハロルドに会うまでは部屋の中だけが彼の世界だったのだから、前半はもっと楽しそうに、満足して部屋で過ごしている演技をしてもいいんじゃないかなと思いました。
高橋和也さん演じるハロルドは、悪人か善人なのかが最後までわからない人物で、謎のままでいたのが良かったです。ただ、もっと演技に変化は欲しかったかも。たとえば「いい未亡人がいるんだ」と、恋人の存在を匂わせる場面。最後にシカゴの敵から襲われて(撃たれたor刺された)腹部を血に染めた彼は、ふらふらの足取りで、自分でアタッシュケースを持って、その未亡人のもとへ行こうとします。それほど彼女のことが好きだったんですよね。だったら彼女のことを話す時は、別人のような表情や声にしてもいいんじゃないかしら。一瞬だけ見せる素の部分が、ハロルドをより魅力的に見せる気がします。そうだ、「キ○タ○が痛い」と叫ぶ傷痍軍人役、良かったです(笑)!
@kinarichan こちらこそありがとうございました。素直で透明感のある演技のおかげで、私もフィリップたちが見ている景色を共有し、ワイルダー作「わが町」の名場面と重ねたりできました。どうぞお怪我のないよう、東京、神戸のツアーで、のびやかかつ厚みのある舞台を届けてくださいませ!
— 高野しのぶ (@shinorev) 2016, 2月 10
@yanagishita0603 こちらこそありがとうございました。幼少期から兄が抱えてきた傷みが徐々に表に出てきて、最後は圧巻でした。椎名桔平さんもそうだったんですが、兄がパっと変貌するのは素敵ですね。どうぞお怪我のないよう、兵庫千秋楽まで舞台上で苦しんで(笑)くださいませ!
— 高野しのぶ (@shinorev) 2016, 2月 11
孤独な兄弟の運命を変えた物語。柳下大、平埜生成、高橋和也の3人芝居『オーファンズ』【ゲネプロ動画】記事はこちら→ https://t.co/ojZRNWHWvf #オーファンズ #柳下大 #平埜生成 #高橋和也 #シアタークリップ pic.twitter.com/byKzZhlFDa
— シアタークリップ (@theaterclip) 2016, 2月 13
【オーファンズ】本日は翻訳の谷賢一さんと以前「オーファンズ」を手掛けたこともある演出・翻訳家の小川絵梨子さんの対談取材!公演パンフレット、たのしみにしていてくださいね。
チケットは→https://t.co/pRT3IgI3HF pic.twitter.com/4NvlW1s1T1— WE演劇公式 (@watanabe_engeki) 2016年1月21日
≪東京、兵庫≫
出演:柳下大、平埜生成、高橋和也
脚本:ライル・ケスラー(1983年初演)
翻訳:谷賢一
演出:宮田慶子
美術:土岐研一
照明:中川隆一
音響:長野朋美
衣裳:高木阿友子
ヘアメイク:武井優子
演出助手:渡邊千穂
舞台監督:福本伸生
宣伝美術:山下浩介
宣伝写真:神ノ川智早
宣伝衣裳:手塚陽介
宣伝ヘアメイク:武井優子
宣伝:櫻井麻綾
制作:加藤美秋
制作デスク:西川陽子
プロデューサー:仲村和生(NAPPOS UNITED)/加藤康介
総合プロデューサー:渡辺ミキ
協賛:サカゼン・ゼンモール
主催・企画・製作:ワタナベエンターテインメント
【休演日】2月15日(月)【発売日】2015/11/28 S席:6,800円(全席指定・税込) 高校生以下:4,000円(全席指定・税込)数量限定
※未就学児入場不可
http://orphans.westage.jp/
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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