劇団民藝『光の国から僕らのために―金城哲夫伝―』02/10-21紀伊國屋サザンシアター

光の国から僕らのために
光の国から僕らのために

 青森が拠点の劇団渡辺源四郎商店の畑澤聖悟さんが、劇団民藝に脚本を書き下ろす第三弾。「ウルトラマン」の生みの親、金城哲夫(きんじょう・てつお)さんのお話です。演出は民藝の丹野郁弓さん。上演時間は約1時間55分(途中休憩15分を含む)。

 懐かしく、微笑ましく楽しんで観ていましたが、やがて涙、涙でした…。私は畑澤&民藝の『カミサマの恋』『満天の桜』を観ています。この作品はきっと今後、多地域ツアーになるんじゃないでしょうか。同じく渡辺源四郎商店の工藤千夏さんの戯曲『真夜中の太陽』も民藝で上演を重ねており、3月に東京公演があります。

 主役を演じられた齊藤尊史さんがとても良かったです(2013年『夏・南方のローマンス』でも拝見)。ある人物の評伝劇だと考えると、一人語りが上手な俳優に向いている演目だと思いました。

 ⇒CoRich舞台芸術!『光の国から僕らのために―金城哲夫伝―

 ≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
 『カミサマの恋』『満天の桜』につづく畑澤聖悟氏の民藝書き下ろし第3作。日本中の子供たちが“畏敬の念”を抱いた不滅のヒーロー〈ウルトラマン〉。その輝きを創った脚本家・金城哲夫の半生を描く。

 軍政下の沖縄から東京の高校に進学した金城哲夫は、縁あって“特撮の神様”円谷英二率いる円谷プロダクションに入社する。時代はテレビ創成期、金城は20代の若さで「ウルトラQ」の脚本家に抜擢され、「ウルトラマン」「ウルトラセブン」などを世に送り出し、子供たちから絶大な支持を得ていく。
 多忙ながら充実した日々を過ごすが、視聴率に振りまわされ、やがてウルトラマンシリーズは曲がり角にさしかかる。築き上げたシナリオライターとしての名声と地位をあっさり捨てて、金城は沖縄へ帰郷する。時は1969年、沖縄の本土復帰が3年後に迫っていた……
 ≪ここまで≫

 何もない空間に家具やドア枠などの道具を出し入れして、色んな場所に場面転換します。超有名な特撮ヒーローが誕生するエピソードは微笑ましく、脚本家たちの思い悩む様子からは作品創作の現場の苦楽が見て取れて、懐かしさと共感で温かな気持ちになりました。私は再放送で何度もウルトラマン・シリーズを見ていた世代で、ピグモンの姿はよく覚えています。他にはバルタン星人、ゼットン、ジャミラとか。

 テレビ局の横暴に振り回される特撮会社、沖縄国際海洋博覧会(1975年)で東京資本の会社から搾取される島民、そして今、米軍が沖縄で起こす事故、事件…。沖縄およびそこに暮らす人々に対する日本人(本土・ヤマト)のやり方は、非道で、汚いです。東京で暮らす私はその当事者です。辛くて苦しくて、何度も涙が流れました。渡辺源四郎商店『海峡の7姉妹~青函連絡船物語~』でも、国の政策に翻弄される青函連絡船およびその関係者の歴史が描かれていました。

 このお芝居には出てこないですが、沖縄出身の金城さんの脚本から生まれたヒーローと怪獣たちの姿、形をデザインしたのは、青森出身の成田亨さんです。沖縄には米軍基地があり、青森の六ケ所村には使用済み核燃料の再処理工場があります。東京から見て“辺境”と決めつけられた場所の共通点と言えるかもしれません。

 「光の国から僕らのために」、飛んで来てくれるウルトラマンは、パンフレットの畑澤さんの言葉にあるように「底抜けにおおらかで、自由で、楽天的で、明るい」です。また畑澤さんは「明るさを貫くには覚悟が要ることが身に染みていた」とも書かれていました。畑澤さんは東日本大震災以降、高校生公演『もしイタ』を被災地などで上演し続けてこられています。井上ひさしさんのおっしゃるとおり、世界は涙の谷です。見渡す限り、怒りと悲しみに満ち満ちています。そんな中で、明るくいること、笑うこと、笑わせることが、どんなに困難で、勇気の要ることか。

金城哲夫 ウルトラマン島唄
上原 正三
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 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 金城さんの盟友、上原正三さん(今もご存命でパンフレットにインタビュー掲載)が、琉球人というだけで家が借りられないことなど、東京で味わった経験を語ります。戦時中に日本軍が沖縄で行った行為(防空壕[洞窟]から一般人を追い出したり、集団自決させたり)を、沖縄の人々は忘れていません。だから金城さんが「沖縄と本土(ウチナンチューとヤマト)の架け橋になりたい」と言う度に、胸が引き裂かれるように感じました。それは理想だけれど、簡単なことではないんですよね。上原さんが「町田に家を建てた。琉球人がヤマトの50坪の土地を占拠したんだ」というセリフも刺さりました。

 「沖縄経済の起爆剤」と言われた海洋博は500万人の動員を見込んだものの350万人しか集まらず、しかも東京資本の企業ばかりが儲けたために、沖縄の人々は損をするばかり(低賃金でこき使われ、漁はできないし、海洋汚染も進む)。2020年の東京オリンピックも「起爆剤ならぬ自爆剤」となるのではないでしょうか。
 ベトナム戦争が起こり、金城さんは「沖縄で作られた毒ガスが撒かれる、沖縄から飛んだ飛行機が人を殺す、悪魔の島と呼ばれる、早く逃げろ!」と叫びます。悲しくて苦しくて…。

 金城さんはアルコール中毒になって入院する前日、さとうきび畑でお酒を飲んだ後に2階から落ちて、37歳という若さで亡くなりました。下手で最後のお酒を飲みながら金城さんが過去を回想する場面で、子供向けテレビ番組の脚本を書き続け、頭髪が白髪交じりになった上原さんが上手に登場。時空を超えて2人が語り合う場面でも涙々…。2016年にはテレビ電話(スマホ)があり、国際宇宙ステーションができたこと聞き、金城さんは「SF精神だ!」と喜びますが、戦争はなくなっていないし、沖縄の基地はなくなるどころか増えている。上原さんが「世界は何も変わっていない」と言います。本当にそのとおりです。
 「とうとうウルトラマンを超えるヒーローを書くことはできなかった」と、上原さん。そういえば「仮面ライダー」やロボットものとはかなり違いますね。最後に主題歌を合唱。客席は手拍子ありの大喝采でした。

【出演】
金城哲夫:齊藤尊史
上原正三:みやざこ夏穂
円谷一:千葉茂則
満田かずほ:岡山甫
金城裕子:桜井明美
ヘリのパイロット(航空自衛隊):平野尚
ディレクター:本廣真吾
少年雑誌の記者: 大中耀洋
カメラマン:大野裕生
他の出演:いまむら小穂、望月香奈、大黒谷まい、榊乃つぐみ、竹本瞳子、岡山甫、細山誉也、平野尚、大中耀洋、本廣真吾、大野裕生、細山誉也、友好珍獣ピグモン(キャラクター協力・円谷プロダクション)
脚本:畑澤聖悟
演出:丹野郁弓
装置:島次郎
照明:前田照夫
衣裳:宮本宣子
効果:岩田直行
舞台監督:中島裕一郎
<全席指定>
一般=6,300円
学生割引=3,150円(劇団のみ取り扱い)
夜チケット=4,200円
http://www.gekidanmingei.co.jp/performance/2016/hikarinokunikarabokuranotameni.html
https://www.kinokuniya.co.jp/c/label/20151123102500.html

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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