さいたまゴールド・シアター番外公演『ワレワレのモロモロ ゴールド・シアター2018春』05/10-20彩の国さいたま芸術劇場・NINAGAWA STUDIO(大稽古場)

 「平均年齢78.4歳(2018年1月15日現在)のさいたまゴールド・シアターのメンバーが自身に起きたできごとを台本化し自ら演じる」という企画で、岩井秀人さんが構成・演出を手掛けます。

 素晴らしかった!!はなっから涙ダーダーですよ、もう!

 初日の上演時間は約1時間55分弱。アナウンスは約1時間45分でしたが、前説で遠山陽一さんがおっしゃったとおりブレがありますので、そのおつもりでどうぞ。一般3,500円、U-25は2,500円です。お見逃しなく!
 


 

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 出演者の体験談をもとにした6つの短編で構成されています。もちろんフィクションも含まれていますが、各エピソードの作者は、そのエピソードの主人公であり、役名は実名になっています。今回の出演者は14名です。

 日本人が長寿になったということは、歴史の生き証人が大勢いらっしゃるということ。この作品では、戦争経験者が昔の体験談を語ってくださいます。しかも物語形式のお芝居にして。なんて貴重で、幸運なことでしょうか。そして今の暮らしや、プライベートな思い出についても、赤裸々かつコミカルに演じてくださいます。それぞれが美しくて、愛らしくて、切実で、残酷で…少し滑稽でもあります。

 観劇後に20代の友人と話をしたら、とても好意的に、「“老人の時間”が襲って(=迫って)来た」とおっしゃっていました。たしかに、10人以上の年配の方々のお話をたっぷりと伺う機会って、なかなかないかもしれません。豊かな人生経験を踏まえた体と声、言葉、そして老人ならではの動きとスピードは、独特の身体表現といえるものでもあり、重みと奥行きのある時間と場所の集合体として、迫ってくるのだと思います。

 美術も素晴らしいな~と思ったら、『なむはむだはむ』の山本貴愛さんでした。大きな木枠で組まれた風通しのよい装置で、木と木をつなげる部分が金属でできており(たぶん)、ちょっと古びて、錆びているのです。過去、年輪、経年劣化など、シンプルながら色んな意味を含んでいると思います。スライドさせたり斜めに傾いたり、可動の方法は昔ながらの日本家屋や、手仕事を想像させます。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 遠山陽一さんが長い目の前説をされました。「岩井監督は若いのに立派」などなど、遠山さんにしか言えない内容で、その自由さと包容力にノックアウトされました。なんで前説でこんなに泣いてるんだろ私…(苦笑)。
 幾人かの出演者がそれぞれの持ち場に現れ、幕が開きます。讃美歌のような音楽がかかって、一気に蜷川幸雄さんのお芝居のような空気に。そうだ、ここは蜷川さんの稽古場だ…。そう思うとまた涙がポロポロ流れました。さいたまゴールド・シアターは蜷川さんが作った劇団です。結成から十余年を経た今、岩松了さん、ノゾエ征爾さん、そして岩井さんへとバトンタッチされていってるんですね。

●『わが家の三代日』 作:百元夏繪
百元夏繪:百元夏繪
旧冷蔵庫:髙橋清
夫:竹居正武
電気屋:遠山陽一
冷蔵庫:石井菖子、小林允子、佐藤禮子、森下竜一
新冷蔵庫:益田ひろ子

 故障しかけている冷蔵庫を買い替えようと決意し、夫と電気屋に向かう百元夏繪さん。いつも所作が美しい百元さんは笑顔も素敵。
 旧冷蔵庫を演じるのは杖をつく髙橋清さん。髙橋さんは『荒鷲』で地位の高い軍人役を演じます。買い替えた新冷蔵庫役は益田ひろ子さんで、彼女は『荒鷲』で日本にやってきた米兵を演じていました。古いものを捨てて新しいものを買うという行為に、日本軍から米軍へと乗り換えた終戦直後の日本も表されていたのだと思います。

●『友よ』 作:石井菖子
石井菖子:石井菖子
高良:小林允子
ギャルソン:遠山陽一
カフェのお客:佐藤禮子、森下竜一
野口:竹居正武

劇中劇『棘』
エリザベット:石井菖子
ルシアン:小川喬也
イヴァン:森下竜―
演出家:髙橋清

 石井菖子さんの中学校時代の親友(小林允子)は読書仲間。才能あふれる彼女は18歳で夭逝してしまった…。いつもエレガントな石井さんがフランス語のセリフを語り、悲劇の女優役も。今も石井さんの中に生きている親友の姿が舞台にあり、全く色あせない麗しい思い出を、私も愛で親しむことができたように思います。とてもロマンティックな気分。読書仲間が挙げていく好きな本のラインナップも良かったな~。スタンダール作「赤と黒」など。

●『無言』 作:田村律子
田村律子:田村律子
警官:竹居正武、遠山陽一
近所の人:石井菖子、小林允子、百元夏繪、益田ひろ子

 12年前にさいたまゴールド・シアターに入団してから、ワンルームに一人住まいの田村律子さん。役をゲットすると飛び上がって喜び、必死でセリフの練習をします。役者アルアルですよね♪
 セリフを大声で言い続けたので近所の人や警察が来てしまい、慌てる田村さん…。小さな部屋にずらりと並ぶ出演者が、田村さんにいろんな命令をしていくというコミカルな演出でした。
 

●『パミーとのはなし』 作:大串三和子
大串三和子:大串三和子
実:小川喬也
母:神尾冨美子
妹:益田ひろ子
獣医:遠山陽一

 大串三和子さんは出会ってすぐにプロポーズしてくれた夫と50歳で結婚。でも優しい夫は1年で死去。人生のご褒美のような1年間でした。自宅にやってきた野良ネコを、「パパ(夫)の身代わり」を意味する「パミー」と名付けて、飼うことに。18年連れ添ったパミーも老衰で亡くなります。今はパミーにそっくりな猫のぬいぐるみといつも一緒です。
 もー…ダダ泣きですよ……。旦那さんへの愛情も、パミーへの愛情も、全く曇りのない、温かいものに感じて、ぬいぐるみの猫から息遣いが聴こえてきそうでした。

●『荒鷲』 作:森下竜一 脚本:池田亮
森下竜一:森下竜一
父:髙橋清
母/米兵:益田ひろ子
予科練生:佐藤禮子、遠山陽一
教官/先輩:竹居正武

 父に命令され、母に「立派に死んで来い」と言われて予科練に入った森下竜一さん。パイロットの訓練をするはずが、腹を空かせたまま肉体労働をさせられるばかり。上官に「日本が勝っても負けても英語は大事」と言われ、英語を身につけたのであろう森下さんは戦後、米兵のもとで働いたり、米兵に連れられて船乗りになったりして、生き延びてこられました。
 とにかくお腹が空いていたということを、皆さんで伝えてくださいます。同じ戦争のエピソードを扱った『その日、3才4ヶ月』と重なります。庶民にとっての戦争の現実が、コミカルかつリアルに描かれました。

●『その日、3才4ヶ月』 作:谷川美枝
谷川美枝:谷川美枝
母:小林允子
長姉:百元夏繪
長兄:竹居正武
次姉:石井菖子

 谷川美枝さんが、原爆を投下された瞬間の広島の自宅の様子を語ります。『その日、3才4ヶ月』という題名なので、谷川さんが3才の時の記憶なのでしょうね。
 私は新国立劇場演劇研修所の朗読劇『少年口伝隊一九四五』を何度も観て、原爆投下時の広島の様子を疑似体験させてもらってきました(※今年の夏、上演されます)。『少年口伝隊一九四五』は若い研修生による朗読ですが、この作品は当事者ご本人が、目の前で、肉声で、伝えてくださいます。この説得力、そして現前性は、何にも替えられないものだと思います。
 「しっくいの壁がくずれ、柱が倒れ、ほこりが舞い上がる。まぶたが明けられない。母が抱いてくれたおかげで安心して涙が流れた。それで目を開けることができた。空が見える」など、ご本人でなければ語れない、生々しい証言です。

 最後は『わが家の三代日』の結末が描かれ、終幕しました。

出演:さいたまゴールド・シアター(石井菖子、大串三和子、神尾冨美子、小林允子、佐藤禮子、谷川美枝、田村律子、百元夏繪、益田ひろ子、小川喬也、高橋清、竹居正武、遠山陽一、森下竜一)
構成・演出:岩井秀人
美術:山本貴愛
照明:岩品武顕(彩の国さいたま芸術劇場)
音響:中村嘉宏
衣装:紅林美帆
ドラマターグ:谷澤拓巳
記録映像:久世英之
演出助手:池田亮 石川佳代(さいたまゴールド・シアター) 佐藤蛍(さいたまネクスト・シアター)
舞台監督:山田潤一(彩の国さいたま芸術劇場)
制作:田中美樹 高木達也 久保田翔子
制作統括:渡辺弘
技術統括:岩品武顕
営業:鶴貝典久 松井哲
票券:本郷充子 鈴木優子
主催・企画・製作:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
【発売日】2018/02/17
【全席自由】整理番号付
一般 3,500円/メンバーズ 3,200円/U-25 2,500円
http://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/4874
http://stage.corich.jp/stage/91195

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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