こまつ座『たいこどんどん』05/05-20紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

 ラサール石井さんが初めてこまつ座で、井上ひさし戯曲を演出されます。初日を拝見。上演時間は約3時間15分、途中休憩20分を含む。

 『たいこどんどん』の主役は落語家の柳家喬太郎さん。ダジャレてんこ盛りの長い語りがさすがの素晴らしさ!
 急病で降板した窪塚俊介さんの代役は江端英久さん。代役だと感じさせない、座組みに溶け込んだ演技を見せてくださいました。ブラボー!

舞台写真左より:武者真由、江端英久、野添義弘、新良エツ子、俵木藤汰、柳家喬太郎、森山栄治 撮影:宮川舞子
舞台写真左より:武者真由、江端英久、野添義弘、新良エツ子、俵木藤汰、柳家喬太郎、森山栄治 撮影:宮川舞子

≪あらすじ・作品紹介≫ 劇場公式サイトより
道楽者の若旦那、連れは気の良いたいこもち。
江戸を飛び出し北の果て、帰郷の思いを心に灯し、
流れ流され9年間。
歌に踊りにお座敷芸。時代を超える大喜劇。
演出家・ラサール石井がついに井上戯曲に挑む!

薬種問屋の跡取り息子と連れ立つ幇間。馴染みの女郎の奪い合い、売って売られた喧嘩の果てに、江戸から北へ流亡の果ての生き地獄。抱腹絶倒・奇想天外・驚天動地――。主従二人が陸奥からめざした先はなつかしきお江戸のはずだったのに…?!
「……桃八、お前とまた旅がしたいよ。」
駆け出し幇間の桃八に稀代の人気噺家・柳家喬太郎、商家の若旦那に窪塚俊介を迎え、こまつ座出演は20年ぶりのあめくみちこ、そして変幻自在の俳優陣が二人の旅路を翻弄する。
監修・出演を経てついにこまつ座初演出、ラサール石井の新演出で23年ぶり初めての再演!
≪ここまで介≫ 

 『たいこどんどん』は1975年初演。こまつ座での初演は1995年で、今回は23年振りの初めての再演になるそうです(パンフレットより)。劇団前進座でよく上演されていて(同劇団では1987年初演)、2011年には蜷川幸雄さんも演出されていましたね。私は初見です。

 9年にわたる東北の珍道中を描く、江戸時代末期が舞台の3時間超えのお芝居ですが、パンフレットのラサールさんの言葉通りテンポよく進みます。暗転が多いのは私好みではありませんでしたが、急展開が連続し、パワフルかつコミカルな歌と踊りもあって飽きさせない演出でした。

 初期の井上作品らしい助平なエピソード満載です。ノリのいい音楽に合わせて歌い踊りながら、卑猥な言葉遊びが炸裂(笑)。清々しいほどあけっぴろげで健康的です。可愛らしくてちょっと笑いを誘う着ぐるみと、愛嬌たっぷりの元気な振付に、ソウルフルな歌唱(新良エツ子さんですね)も加わります。お笑いあり、お色気あり、批評精神ありの時代もので、方言を含む長い語りもしっかり聴かせるエンターテインメントでした。“新しいこまつ座”を観せていただいた気がします。

舞台写真左より、あめくみちこ、柳家喬太郎、江端英久 撮影:宮川舞子
舞台写真左より、あめくみちこ、柳家喬太郎、江端英久 撮影:宮川舞子

 こまつ座作品の演出といえばベテランの蜷川幸雄さん、木村光一さん、栗山民也さん、鵜山仁さんがすぐに思い浮かびますが、東憲司さんら、新たに手掛ける方々も増えています(丹野郁弓さん、長塚圭史さん、青木豪さんも演出なさっています)。今回、ラサール石井さんが加わり、こまつ座初出演の俳優さんも増えて、井上戯曲が継承されていく道筋がまたひとつ具体的に示されたようで、嬉しくなりました。

 私が幼い頃は、テレビをつけるとどこかのチャンネルで必ずと言っていいほど時代劇が放送されていました。今はめっきり減って、長寿番組「水戸黄門」もずっと前に終わりましたよね。着物を着る人の人口は減っていく一方でしょうし、こうやって文化は消えていくのだなぁと感じています。昔の日本ならではの風俗、慣習などを学び、言葉遣いや着物の所作を身につけて、舞台に立ってくださる現代演劇の俳優さんがいること、そして若い俳優さんがそれを受け継いでくださることを、ありがたく思います。

 ※ラサールさんはこまつ座『てんぷくトリオのコント』で脚本と監修を担当、こまつ座『円生と志ん生』では出演をされていました。こまつ座での演出は今作が初めてとのこと。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 薩摩の志士たちと一悶着あって、品川の海に飛び込んだ若旦那・清之助(江端英久)とたいこもちの桃八(柳家喬太郎)は、海賊に襲われたり、庶民に騙されて炭鉱で3年間も重労働するはめになったり(ただし桃八のみ・原発の被曝労働を想像しました)、山賊につかまったり…。何度も“女”に惑わされるのは自業自得とはいえ、あまりに踏んだり蹴ったりの旅路です。清之助は梅毒を病み、桃八は右足を切られて松葉杖が離せない体に。物乞いにまで身を落とした末、清之助のアイデアで佐渡島の金粉を集めて船賃を稼ぎ、2人はとうとう江戸への帰還を果たします。しかし江戸は明治維新で東京(とうけい)になっており、清之助の実家は消えていました。

舞台写真左より、武者真由、俵木藤汰、酒井瞳、新良エツ子、小林美江、森山栄治、野添義弘、あめくみちこ、木村靖司、有薗芳記 撮影:宮川舞子
舞台写真左より、武者真由、俵木藤汰、酒井瞳、新良エツ子、小林美江、森山栄治、野添義弘、あめくみちこ、木村靖司、有薗芳記 撮影:宮川舞子

 オープニングの群舞では蛇の目傘を使っていましたが、エンディングは黒いこうもり傘になっていました。最後の衣装には洋装や軍服がお目見えし、「西洋に追いつけ追い越せ」と歌われます。個人は弱く、周囲に流されがちですから、「世間がどうなろうと、時代が変わろうと、今までどおりに生きるのだ」と言う桃八が頼もしいです。頑固になって閉じこもるのは本末転倒ですが、私自身を鼓舞したい気持ちになりました。

 清之助を狂わすあまたの女性役をあめくみちこさんが演じます。ちょっとどうかと思うほどエッチなのですが(笑)、サバサバしていてきっぷがよくて、貪欲で健康的で、包容力があって艶やかで…惚れ惚れします。

 柳家喬太郎さんは本当にセリフが膨大です。「烏賊(いか)づくめの秋」など、ダジャレ尽くしの語りをしっかり届けてくださいました。

※写真は主催者よりご提供いただきました。
出演:柳家喬太郎、江端英久、有薗芳記、木村靖司、俵木藤汰、野添義弘、森山栄治、小林美江、酒井瞳、新良エツ子、武者真由、あめくみちこ
清之助役で出演予定の窪塚俊介が急病にて降板。代役は江端英久。
脚本:井上ひさし
演出:ラサール石井
音楽:宇野誠一郎、玉麻尚一
美術:島次郎
照明:沢田祐二
音響:遠藤宏志
衣装:前田文子
メイク:西川直子
歌唱指導:亜久里夏代
富本節(とみもとぶし)指導:富本豊前
三味線指導:有働智章
アクション指導:野添義弘
所作指導:花柳けい
振付:川崎悦子
宣伝美術:安野光雅
演出助手:藤原理恵
舞台監督:酒井健
制作統括:井上麻矢
制作:若林潤 遠山ちあき 嶋拓哉
江戸弁指導:益田愛子
鹿児島弁指導:坂元貞美
秋田弁指導:小柳ふよう
岩手弁指導:若尾義昭
宮城弁指導:小山かつひろ
新潟便指導:東海林梨紗
【発売日】2018/03/03
<全席指定>
一般:8,500円
U-30(30歳以下: 5,000円
http://www.komatsuza.co.jp/program/index.html#301
https://www.kinokuniya.co.jp/c/label/20180128170500.html
http://stage.corich.jp/stage/91517
『たいこどんどん』出演者変更
https://twitter.com/komatsuza/status/989295532827803648
https://twitter.com/komatsuza/status/989295582073114624
https://twitter.com/komatsuza/status/989295763757789186

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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