ワタナベエンターテインメント『Rock Musical 5DAYS 辺境のロミオとジュリエット』04/03-23神奈川芸術劇場・中スタジオ

 石丸さち子さんが脚本・作詞・演出を手掛け、和田俊輔さんが音楽を担当する新作ミュージカルを拝見。シェイクスピア作『ロミオとジュリエット』を下地にしていますが、創作部分がとても多く、結末にも驚かされました。上演時間は約2時間、休憩なし。

 小劇場のミュージカルは贅沢ですね~。通路も演技スペースとしてよく使われます。手が届く距離で俳優の演技が観られますし、走り抜ける風も届きました♪

≪あらすじ≫ 公式サイトより 
2018年、辺境のための経済復興特別区【グラント】に“ライン”が引かれた。

【デルヒ】と【ゼムリャ】に分かれた二つの街の対立は、驚くべき速さで激化していく。

【デルヒ】のハワル(東啓介)はある日、友人のポドフ(柳下大)、ナウチ(中山義紘)らと、ゼムリャの祭りにもぐり込めることになった。“ライン”上に暮らす女・ドゥーシャ(マルシア)の導きで。

そこで、リェータ(豊原江理佳)とハワルは瞬く間に恋に落ちる。しかし、リェータの兄シーラ(大山真志)は、ゼムリャの血と種を守る民族運動の若きリーダーだった。

転がるように恋しあうハワルとリェータであったが、血気にはやるシーラとポドフが衝突し、二人は引き裂かれていく。街の争い、人々の争いの中、愛を知った二つの命が選ぶ道は……。
≪ここまで≫

 原作通り若い男女が突然、熱い恋に落ち、出自や環境のせいで引き裂かれる物語ですが、人種、信仰の違いや対立する民族同士の紛争など、今に通じる設定が施されています。

 石丸さち子さんの舞台といえば、ポジティブでパワフルで、人間にあふれんばかりの愛情が注がれるという印象でして、今作もまた石丸さんらしさがストレートに表されているように思いました。

 登場人物は目的と行動(動くにしても留まるにしても)がはっきりしていて、自分の信ずる道を邁進していきます。特に、ヒロインのリェータ役を演じた豊原江理佳さんに目が釘付けでした! 観客ともコミュニケーションをしながら、舞台ではつらつと生きていらしたように思います。素直で無邪気で無鉄砲な若い命が、この上ない喜びと幸せ、そして、それらと同じぐらい大きな焦燥感、絶望を体験してしまいます。豊原さんの舞台上での反応がとても鮮やかだったので、15歳にして心も体も焼き尽くす恋に落ちてしまった、少女の運命を信じられました。

 セリフで語られる人名と地名の区別がつかず、しばらくカタカナが頭の中をぐるぐると回っている状態でしたが、私が拝見したのは初日だったので、改善されてくることと思います。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 デルヒに暮らす少年ハワルがゼムリャに住むリェータと出会い、互いに一目惚れします。「信仰も、肌の色も違うけれど」と彼らは歌い、“境界線”を越えた愛が示されます。俳優は特に肌の色を変えるメイクをしておらず、役人物の人種が特定されないため、どんな人種にも当てはまる広がりがありました。

 リェータの兄シーラはゼムリャの民族運動のリーダーで、ハワルとその親友たちに真っ向から対立します。「純血」を重視するシーラは、3年後には半分血のつながっているリェータと結婚するとも公言しています。原作のティボルトとパリスを兼ねた人物といえるでしょうか。武力をいとわない国粋主義者やISIS(ダーイシュ、「イスラム国」)などを想起させます。

 デルヒとゼムリャのちょうど境界にある家に住む女性ドゥーシャは、リェータの育ての母親のような存在ですが、シーラからは「混血」「売女」などと罵られます。彼女が境界線上から立ち退きを命じられないのは、デルヒとゼムリャの両方の地域の実力者に愛される売春婦だから…という理由だったと思います。ドゥーシャはさまざまな“境界線”の上に居る存在なんですね。

 ハワルの親友ナウチは教会の息子で、気が弱くて繊細で大胆な決断ができないあたり、いまどきの“草食系男子”を思わせます。
 同じく親友のポドフはゲイで、ハワルを愛していました。アメリカから帰国したのもハワルに会うためだったのでしょうけれど、思いは届きません。彼はシーラに刺されて病院で死に、霊魂となって地上にとどまります。

 リェータもハワルの身代わりになる格好でシーラに刺されて死んでしまい、ポドフとともにハワルを見守る霊魂となります。ハワルはドゥーシャから借りた護身用の銃で、シーラを射殺。自分もその銃で自殺しようとしますが、弾切れでした。シーラの手に残るナイフを自分に向けますが、とうとうハワルは自殺をやり遂げられず…。彼のそばでリェータとポドフが「生きて」と歌っていたのです。

 舞台の上下(かみしも)に置かれたイスに座って待機する俳優たちは、数多くの死者を表しているようにも見えてきました。さまざまな“境界線”を超える物語で、最後には生死の境をも飛び越えたんですね。

 原作とは違い主人公を行き残らせる結末で、最後には6人全員が「人は誰かを愛することができる」と希望を歌いあげます。シーラについては、死ぬ直前に改心したり、悟りが訪れたりして欲しかったなぁという気もしましたが、「死ぬな、生きろ」という直球のメッセージに、飾らない愛情と優しさを感じました。

 最初の衝突でリェータの兄シーラを傷つけてしまい落胆しきっているハワルに対して、ドゥーシャが「光り輝くリェータをつくったのはあなたよ」と励ます場面がありました。リェータはハワルと出会って劇的に変化したんですよね。恋の奇跡であり、人と人の間で起こるものです。私もそれを信じて人とかかわっていきたいと思います。

【出演】ハワル(=ロミオ):東啓介、リェータ(=ジュリエット):豊原江理佳、ポドフ(=マキューシオ、アメリカ帰り、ハワルを愛している):柳下大、ナウチ(=ベンヴォーリオ、教会の息子):中山義紘、シーラ(=テイボルト、リェータの兄):大山真志、ドゥーシャ(リェータの育ての親、混血、境界線上の家に住んでいる高級娼婦?):マルシア
脚本・作詞・演出:石丸さち子
音楽:和田俊輔
振付:木下菜津子
歌唱指導:大嶋吾郎
美術:伊藤雅子
照明:吉川ひろ子
音響:清水麻理子
衣裳:西原梨恵
ヘアメイク:伊藤こず恵
演出助手:落石明憲
舞台監督:山本圭太/弘中勲
舞台製作:加賀谷吉之輔
宣伝美術:木庭貴信+川名亜実
宣伝写真:森豊
宣伝衣裳:ゴウダアツコ
宣伝ヘアメイク:大宝みゆき
衣裳協力:フレディ
票券:東京音協
宣伝:櫻井麻綾
制作:渡部隆/加藤美秋
制作デスク:西川陽子/渡辺 葵
プロデューサー:渡辺ミキ/江口剛史
協賛:レック株式会社
提携:KAAT神奈川芸術劇場
主催:ワタナベエンターテインメント/シーエイティプロデュース/ぴあ
【発売日】2018/02/03 6,800円 未就学児入場不可
http://5days.westage.jp/
http://stage.corich.jp/stage/89588

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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