公益社団法人国際演劇協会日本センターが企画・制作し、東京芸術劇場が主催する「高校生・学生のための劇評をめぐる3つのプログラム」の、「『リチャード三世』劇評ワークショップ」、「『One Green Bottle』観劇カフェ」に続く第3弾として、トークイベント「劇評と演劇ジャーナリズム」が開催されました。
ゲストは日本経済新聞記者で文化ジャーナリストの内田洋一さん。毎年、圧巻の演劇回顧を執筆されています。関係者も合わせて約50名は集まる盛況でした。
【芸】不寛容・虚妄の連鎖と闘う言葉 2017年演劇回顧 (NIKKEI STYLE) https://t.co/FQpSAtujBt
— 芸能ニュース (@twinews4) 2017年12月25日
≪概要≫ 公式サイトより
高校生・学生のための 劇評をめぐる3つのプログラム
演劇を観て、感じたことを語り合う観劇カフェから出発してみるのもよし、劇評として言葉に書き起こしてみる劇評ワークショップに挑戦してみるのもあり。
そしてトークイベントで劇評とは何かを考える。
観劇の楽しさが何倍にもなる
劇評をめぐる3つのプログラム。
≪ここまで≫
≪第3回概要≫
文化ジャーナリストとして演劇評論でも第一線で活躍する内田洋一さんを講師を迎え、「演劇ジャーナリズム」とは
なにか、演劇ジャーナリストになるために、今すべきことやできることはなにかをわかりやすく解説します。聞き手は、ワンダーランド(小劇場レビューマガジン)代表の北嶋孝さん。ジャーナリストを目指す人はお聞き逃しなく!
≪ここまで≫
1983年に日経新聞に新卒で入社し、政治部希望だったけれど社会部に配属され、産休を取った女性社員の代わりに文化部に入ったという内田さんは、34歳の時に神戸で阪神・淡路大震災を体験されています。
内田さんが2016年に上梓された書籍「危機と劇場」には、東日本大震災について書かれた原稿も多数採録されています。各劇場、各劇団、できれば高校演劇部の本棚にも、常備していただきたい本です。
以下、特に印象に残ったことです。メモ程度ですので正確性は保証できません。非公式のレポートです。
■日経新聞の劇評欄
・日経は経済新聞なので文芸部の人数は少ない。若い頃は目が回る忙しさだった。朝はアイドル、昼は指揮者(小澤征爾)のインタビュー、夜はザ・スズナリで観劇。家に帰ったら23時。早朝に起きて準備をしていたので睡眠時間がとても少なかった。
・今の日経の演劇評は月3~4本、夕刊に掲載される。文字数は約700文字。電子版は文字数が自由。
・舞台には解説が必要。たとえば昨年の東京芸術劇場『リチャード三世』は素晴らしい舞台だったが、原作を知らない人には難しかっただろう。劇評が解説を担っている面もある。ただし解説をするのに700字では足りない。
・劇評は読み物として面白くなければいけない。たとえばアーティストの以前の仕事をふまえて書かないと面白味がない。アーティストも書かれた甲斐がないだろう。それを救えるのではないかと思って、電子版で長文を書いている。
■阪神・淡路大震災
・34歳の時に阪神・淡路大震災に遭った。敗戦後の焼け野原を目にして書かれた太宰治や坂口安吾の小説を、自分は読めていなかったと気づいた。廃墟を前にして彼らの言葉がようやくわかったから。
・多くの死に直面した人間は鬱状態になる。震災後、街は半年ぐらい、トンネルの中の暗闇のようになる。そんな時は、いたわり合いの上にしか会話が成り立たない。いたわり合いの言葉を聴く行為が非常に大切。演劇は、人対人の、生(なま)の、身体を通した言葉のやりとりを、とらえ返すことができるだろうと思った。本質的に人と人とが向き合う時間になる。それが自分の中の覚醒だった。
■演劇の根っこ
・東日本大震災の時も被災地に何度も入った。自分はそれが演劇記者の仕事だと思っているから。東北の被災地で人々がお祭りをやり始めた。芸能の始まりを見ているのではないかと思った。
・東北では食べ物の次に芸能が来る(神楽のお道具である獅子頭を、何度も海中に潜って探している人たちがいた)。素晴らしい。沖縄もそう。第二次世界大戦で沖縄の人々は強制収容所に入れられた。そこで米軍の空き缶を使った三線が作られた。カンカラ三線(さんしん)という。今はそれが博物館に展示されている。沖縄の人は芸能を大切にしている。
・もちろん深刻な演劇だけが求められるわけではない。自分は娯楽も大好きだし、あっていい。しかし災害の時は、毎日が深刻になる(そのことは心に留めておく)。
・演劇の現場は本当に大切なものを手放してはいけない。演劇がただの商売になりきってはいけない。大切なものは神棚にしまって、おいておけばいい。
・今や、芸能プロダクションの時代。経済合理性を高めて、株主に配当できないとダメ。歌舞伎座も上場した。「儲かる演劇だけやってる人」が増えた印象はある。
【1/8(月祝)】トークイベント『劇評と演劇ジャーナリズム』のゲストは、日本経済新聞記者であり、日本の演劇人「野田秀樹」(白水社)の編者でもある内田洋一さんです。参加無料。どなたでもご参加いただけます。https://t.co/pxp8diPB3F pic.twitter.com/JzJUwNWEXd
— 高校生劇評グランプリ (@hs_trgp) 2017年12月21日
■劇評とは/劇評の今後
・自分のささやかな人生において感じたこと、思ったことを書くのは感想。「いいな」と思った経験を、「なぜそう思ったか」と問い、言葉という道具を使って彫り上げていくことが批評。大笹芳雄さんや渡辺保さんの劇評を読めば苦闘の跡が見えてくる。言葉遣いはマニュアル化できない。10人いれば10通りの方法がある。
・言葉にしなければ伝わらない。何をどう面白かったのかを言葉にしてみる努力はいいことだ。ある経験を言葉にするために、深いところまで観る決意が必要。観劇とは、舞台で起きることと自分とコミュニケートすることだから。
・演劇とメディアの関係は今、一番重要だと感じている。演劇雑誌は大変な苦境。活字媒体が減り、書く場所もどんどんなくなっている。書き手も作り手も知恵を出し合う時期に来ている。利害は一致するはず。
・バックボーンがない若い演劇人が世に出てくるときに言葉が必要。その言葉を大事にしていきたい。
劇評のこと、考えてみよう 2018年1月8日 トークイベント『劇評と演劇ジャーナリズム』
実施日時 2018年1月8日(月・祝) 14:00~15:30
会場:東京芸術劇場 ギャラリー2 (5F)
講師:内田洋一 聞き手:北嶋孝
※高萩宏さん(東京芸術劇場副館長)からも発言あり。
定員:60名 ※先着順 ※要事前申込み
高校生、学生、 一般の方も参加可能
参加料無料
企画・制作:公益社団法人国際演劇協会日本センター
主催:東京芸術劇場 (公益財団法人東京都歴史文化財団)
共催:高校生劇評グランプリ実行委員会
https://gekipro.localinfo.jp/posts/3111859
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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