世田谷パブリックシアター『管理人』11/26-12/17世田谷パブリックシアター

 森新太郎さんがノーベル文学賞受賞者である英国劇作家ピンターの男性3人芝居を演出されます。ピンター戯曲といえば私はNTLive「誰もいない国 No Man’s Land」を見たばかり。難解だ、不条理劇だと言わることが多く、『管理人』もその1つかもしれません。でも象徴するものをはっきりと示す森さんの演出のおかげで、ストンと腑に落ちる感覚が得られました。上演時間は約2時間10分。

≪あらすじ≫ 公式サイトより
舞台はロンドン西部にある家の一室。
住み込みで働いていたレストランを首になったデーヴィス(温水洋一)は、偶然知り合ったアストン(忍成修吾)に自分の家に来ないかと誘われ、これ幸いとついていく。だが翌朝、いきなり現れたアストンの弟ミック(溝端淳平)に不審者扱いされ激しく責め立てられる。デーヴィスの前に交互に現れる、切れ者のミックと無口で謎めいたアストン。彼らはそれぞれ、この家の「管理人」にならないかとデーヴィスに提案してくるのだが――。
≪ここまで≫

 舞台美術(香坂奈奈)はガラクタだらけの古びた部屋で、中央奥に向かって細く、狭くなる遠近法になっています。

写真左から:温水洋一、溝端淳平、忍成修吾 撮影:細野晋司
写真左から:温水洋一、溝端淳平、忍成修吾 撮影:細野晋司

 若い兄弟と年老いたホームレスという3人の男性が、くっきり、鮮やかに対比されます。人物造形が面白く、分かりやすいです。最後の最後に「ああ、そういうことか!(勘違いかもだけど)」と気づきがあるのは、2014年の『幽霊』(演出:森新太郎)と似ているように思いました。

 演じるのはすごく大変そうです。行動と感情が常に一致するわけではなく、役人物に独特の癖や特徴が与えられていて、動きも細かく決まっているように見えます。

 勝手な妄想だと思いますが、私は教訓めいたものを沢山受け取りました。じっくり考える帰り道が楽しかったです。

 ここからネタバレします。

 デーヴィスは“ならず者の浮浪者”らしい仕草がリアル。兄アストンはとぼとぼとした歩き方が独特で、弟ミックは大きく体を動かし、格好をつけたポーズをいくつも繰り出します。個性がはっきりした男性3人の役割というか、彼らが象徴するものが、じわじわとわかるようになっている演出だと思いました。

 終盤になって舞台奥の小さな窓に向かって立ち、シルエットになる兄アストンは“神(=世界の管理人、番人)”に見えたんです。青白い照明が当たり、神々しさを感じました。アストンは街からガラクタ(=デーヴィスもそのひとつ)を拾ってきて、家の中に保管します。それは既に見捨てられたものたちを助ける行為ですよね。

写真:溝端淳平 撮影:細野晋司
写真:溝端淳平 撮影:細野晋司

 “神(精神病院で脳を傷つけられたアストン=障碍者)”に助けてもらったのに、デーヴィスはミックにおだてられてすっかりつけ上がり、アストン(=神)を蹴落とそうとします。彼は愚かな“人間”というわけです。聖書に出てくるバベルの塔や、芥川龍之介作「蜘蛛の糸」を連想しました。『管理人』の原題は”The Caretaker”です。アストンこそが”The Caretaker”であり、“人間(=デーヴィス)”がその立場を乗っ取ることはできないんですね。

 そうなると、冒頭に真っ暗闇の中で上手のベッドに座っていた弟ミックは“悪魔”だったんだな~と思います。屁理屈をこねて、他者(デーヴィス)に大声で罵声を浴びせて、無理やり言うことを聞かせるミックは、橋下徹氏みたい。権利、仕事、経済効率などを最重視し、“兄を管理する”といった考えも資本主義的で、つまり“悪魔的”だとも思いました。そういえばミックは、アストンが拾って来てオーブンの上に置いてあった仏像を、床に投げつけて割ってましたね。

写真左から:温水洋一、溝端淳平 撮影:細野晋司
写真左から:温水洋一、溝端淳平 撮影:細野晋司

 俳優がピタリと静止する時間が意図的に設けられているようで、感情も動かさず、ただ静止しているよう見える時はほんの少々退屈しました。私の勘違いかもしれませんが、予定されている動き(=振付)どおりにこなしているように見えることがありました。膨大なセリフ量で、同時にいくつものことをこなさないといけないから、演じるのはとても大変だろうと思います。

※舞台写真は主催者よりご提供いただきました。

≪東京、兵庫≫
“The Caretaker” by Harold Pinter
出演:溝端淳平、忍成修吾、温水洋一
脚本:ハロルド・ピンター
翻訳:徐賀世子
演出:森新太郎
【美術】 香坂奈奈 【照明】 大迫浩二 【音響】 高橋巖
【衣裳】 西原梨恵  【ヘアメイク】 柴崎尚子  
【演出助手】 五戸真理枝 【舞台監督】 瀬﨑将孝
宣伝美術:小松清一 宣伝写真:細野晋司
【発売日】2017/09/17
一般:6,500円
高校生以下:3,250円 
U24※2 3,250円
友の会会員割引:6,000円
せたがやアーツカード会員割引:6,300円
※未就学のお子様はご入場いただけません
https://setagaya-pt.jp/performances/201711kanrinin.html
http://stage.corich.jp/stage/86735

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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