稽古場レポートを書かせていただいた公演の初日に伺いました。初日と2日目の昼(2/3の14時)がチケット代3700円とお得なせいか、超満員。上演時間は約1時間40分。
出演者18人全員が新国立劇場演劇研修所の修了生(1期生から9期生まで)で、主催者をはじめ翻訳、衣装なども修了生という、気心の知れた劇団のような座組みです。
『リリオム』はブロードウェイミュージカル『回転木馬』の原作として有名な、約100年前のハンガリー戯曲です。はぁ…やっぱり面白いお話だった~…。ご存じない方はあらすじなどを調べずに、ご覧になることをお勧めします♪
女にモテるダメ男リリオムと女中ユリの“愛”のお話。中盤以降はまさかの展開(笑)。約100年前から生き残っている作品が、私に何を届けてくれたのかと、色んな想像ができました。お涙頂戴にせずストイックに徹して…https://t.co/OBnMMEhssg #リリオム #舞台 #演劇
— 高野しのぶ (@shinorev) 2017年2月3日
≪あらすじ≫ 公式サイトより。俳優の名前を追加。
リリオム(野口俊丞)は、女たちが放っておかない色男。
女主人ムシュカート(日沼さくら)のもと、回転木馬の客引きとして毎日を気楽に暮らしていた。
そんなある日、女中のユリ(山﨑薫)と木馬に乗ったことでムシュカートを嫉妬させてしまい、リリオムはクビになる。
それを知ったユリは、自分も仕事を捨てて彼と残ることを決める。
≪ここまで≫
複数の木製の台が建て込まれた、けっこうな段差のあるシンプルな抽象美術です。木目がそのまま見える状態で、色は塗られていないようです。アコーディオンの生演奏と歌、踊りがありますが、基本的に会話劇メインで進行します。衣装、髪型はメルヘンチック。
密度の高い会話で物語を厚く立体化してくれるのが嬉しいです。ただ、観客に向かうエネルギーが小さかった気も。初日の緊張と硬さゆえかしらと思います。大きな舞台の出演経験がある方や、頻繁に舞台出演されている方の演技が、安定感があって見やすかったです。
ユリのキャラクターがとても面白かったです。彼女は自分をかばってクビになったリリオムのそばにいると決心し、ただそれを貫徹しただけなのだなと思いました。先に愛があるのではなくて、決心と行動がやがて愛という形になっていくというか。行動は目に見えるから、周囲の人からすると、ユリは明らかにリリオムを愛しているのだけれど、ユリ自身はそれが愛なのかどうかはわからないし、愛であろうがなかろうが関係ないんですよね。さらには、相手(リリオム)が自分を愛しているかどうかにも、興味がない。ただ、決めた。それだけじゃないかと。
「自分(個人)が決めたことを貫く」ということを、親子、恋人、友人・知人同士の間で共有できるような人間関係は、シンプルで美しい気がします。実のところ人間は、誰もがそのように生きているのに、色んな誤解や装飾をして、過剰に干渉して、複雑にしているだけなのかも。
ここからネタバレします。セリフ等は正確ではありません。
・詳しい目のあらすじ
遊び人で女にもてる回転木馬の客引きのリリオム(野口俊丞)が、木馬に乗っていた女中のユリ(山﨑薫)の腰に手をまわしたのを、回転木馬の持ち主である女主人のムシュカート(日沼さくら)が目撃する。ムシュカートはユリに「今後の出入り禁止」ときつく言い渡すが、リリオムは反発し、その場でクビになる。ユリの親友マリ(横山友香)は、ユリとリリオムが恋に落ちたことを察知して、リリオムが荷物を取りに行っている間に、ユリに自分の恋人ユゴー(田部圭祐)ののろけ話をする。
夜までに帰らないとユリもまた女中をクビになるのだが、彼女は動こうとしない。マリが帰った後、ユリとリリオムは2人きりになり、リリオムは「お前は他に恋人がいるんだろう?」「なぜ帰らないんだ?」「俺を愛してるのか?」などと話しかけるが、ユリはただ「あなたをひとりぼっちにしない」と返事をして、そばに居続ける。
2人は結婚し、リリオムの叔母で写真店を営むホルンデル(渡辺樹里)の家にすっかりやっかいになっている。リリオムは回転木馬にも戻らないし、日雇いの仕事もせず、無職のままブラブラしており、ユリのことを殴ったりもした。「でも全然痛くなかったの」というユリに、マリは「家を出たらいいのに」と促すが、ユリは聞かない。マリはポーターのユゴーとの仲がうまくっており、本当の愛について夢中になって語る。ユリはというと、2人の子持ちでやもめのろくろ細工屋(峰﨑亮介)が自分に気があるのを知っているが、頑なに拒否している。
リリオムは盗人のログジート(※)(扇田森也)とつるんでおり、ユリと結婚して2か月の間に2度も警察に捕まったりしていた。女主人のムシュカートに回転木馬に戻ってくるように言われ、少し心が動いたリリオムだったが、ユリに妊娠を告白されて、思いとどまる。父親になる未来を想像し、ログジートの儲け話に乗ることにしたのだ。大勢の工員の給料を持って歩く会計係を襲って金を奪い、半年後にアメリカに亡命するという計画だ。ログジードに煽られて台所からナイフを盗んだリリオムは、必死で止めるユリを振り切って外出する。
ログジートとリリオムは待ち伏せ中にトランプでブラックジャックをして、リリオムはこれから手に入れる予定の大金も全部賭けて、ボロ負けしてしまう。やがて2人は、予定通りにやってきた会計係のリンツマン(遠山悠介)に襲い掛かるが、ピストルを持っていたリンツマンに、逆に、取り押さえられる。また、リンツマンは既に給料を渡した後だったため、鞄の中身は空だった。すぐに馬に乗った警察(薄平広樹、原一登)がやってきて、ログジートは逃走。追い詰められたリリオムは持っていたナイフで自分を刺してしまう。
担架で家に運ばれ、死を待つのみのリリオムはユリに静かに話しかける。「俺が死んだらろくろ細工屋と結婚しろ」など。ユリは素直に彼の言うことを聞いている。医者(宇井晴雄)が来た時には、すでにリリオムは息絶えていた。ろくろ細工屋がやってきて、あらためてユリに求婚の態度を見せるが、ユリはやはり断る。動かないリリオムを抱いて、ユリは「今なら言える、私はあなたを愛してた」とつぶやく。
白い服を着た男女(峰﨑亮介、菊池夏野)が現れた。なんと天からの使いだ! リリオムが2人に付いていくと、そこは自殺した者たち(借金を苦にピストル自殺した弁護士:薄平広樹、13年煉獄で焼かれた大工(?):林田航平)が集められ、裁かれる場だっだ。天の判事(宇井晴雄)はリリオムに「自分は妻と子を捨てた悪い父親だと思うか?」などと尋ねるが、リリオムは素直になれない。判事はリリオムに「16年後、1日だけ娘に会える。その時に娘にいいことをしなさい。それで天国に行けるか地獄に行けるかが決まる。それまでは業火に焼かれるのだ」と言い渡す。
16年後、ユリは未亡人のまま、一人娘(宇田川はるか)を立派に育てていた。マリとユーゴには7人の子供がおり、ユーゴの事業もうまくいっている。ユリはジュート工場で働いていたが、ユーゴの紹介でカーテンを作る職場に移ることになった。ユリは給与もいいと喜ぶ。マリとユーゴが去り、母娘でスープとパンを食べていると、リリオムが物乞いの姿で現れた。快くパンとスープを分けてくれた娘に、リリオムはひたむきに話しかける。3人が一緒に食事をする時間が流れ、最初で最後の一家団欒という幸福な場面になっている。
娘はユリから「父親はアメリカに行って死んだ」と聞かされている。リリオムが娘に「お前の父親は歌も歌えるし面白い話もできる奴だったが、お前の母親を殴ったりした」などと昔の自分の話をすると、ユリは「私は殴られたことはない、彼はとてもいい人だった」と即座に否定し、リリオムに出て行くよう促す。慌てたリリオムは「何かお前(娘)にいいことをしなきゃ、させてくれ」と言うが、娘からも優しく「もう出て行ってください」と拒否される。どうしたらいいのかわからなくなったリリオムは、とっさに娘を殴ってしまった。
肩を落として去るリリオムを、天の使い2人が迎え、退場する。娘は「叩かれたのに、全然痛くなかった」と幸せそうに言い、ユリは「そういうことが、あるのよ」と返答。2人で食事を続ける。終幕。
・感想
死後の裁きの場面から一気に面白くなりますね~、なんたって、意外! まさか天使が現れるとは!!(笑)
愛のあらわし方、感じ方は人それぞれ。リリオムのように愛ゆえに殴って、殴られらたユリ(そして娘)も痛くなかった時は、お互いに愛を確認できていたんでしょうね。DVはもちろんだめですが。
天の判事の前で自殺者たちの告白を聴いていると、人間の究極の願いは「他者の役に立ちたい(それを確かめることが自己肯定感につながる)」というシンプルなことなのかなと思います。
1日だけ地上に戻ってきたリリオムは、ユリとその娘ルイザと親子水入らずで食事することができました。一緒に、食べながら、おしゃべりをすることこそ、人間の幸福なのだなと思います。
そうなると、具体的に役に立たなくても、他者が自分を認識して、反応してくれるだけでも幸せなのかもしれないですね。もちろんその行為には心が通っていないといけないですが。
シーンの変わり目には暗転(ブルー転)が挟まれていたんですが、なくてもいいんじゃないかなぁ~と思いました。抽象美術で歌も群舞もあって、時間も場所も大胆に変化するので、前の場面と次の場面が同時に進んだり、目に見える状態で道具を運んでも、違和感なくできるのではないかと。また、1人の俳優が複数役を演じてるのも目に見えてよくわかるので、もっと演劇的な遊びや飛躍を盛り込んでいいんじゃないかなぁとも思いました。たとえば、観客に向かって話しかけるような演技があっても楽しいんじゃないか、など、勝手に考えました。
あと、音響(音楽)の鳴るタイミング、消えるタイミングが、演技と場面にぴったりとフィットしていない瞬間が、何度か気になりました。出ハケの場所が謎でしたね~。「なぜそこから去って、ここから出てくるの?」と、考えてしまうことが多々ありました。きっと意図があるのでしょうけど、私は受け取りきれなかったです。
最初の歌とアコーディオン演奏(香織)がとてもきれいだったので、もっと歌の場面が欲しかったですね。転換時に歌と演奏がずっとあるのでも嬉しい。
■個人的にとても共感した感想
超超今更だけど、同じ研究所出身の方々だったのか……!どうりで空気がきれい。わたしは林田さんの持つ空気感が好きなのだけど全体に感じたの、これか。それぞれ個性は違うから彩度とか明度とかまったく違うんだけど同系色、みたいな、澄んだ空気のお芝居はきもちよかったー
— 🎅 (@97ko) 2017年2月4日
ログジードのあの感じはあの感じとしか言い表せないけど素敵だったーーー
— 🎅 (@97ko) 2017年2月4日
ここの人たちのお芝居好きだなーって思ったのめちゃくちゃ楽しい 舞台にこういう見方もあるんだな
— 🎅 (@97ko) 2017年2月4日
※当日パンフレット(無料)ではログジードでしたが、台本のロクジートに習いました。
【出演】
野口俊丞(有限会社グルー)
山﨑薫(ワタナベエンターテインメント)
横山友香(テアトル・エコー放送映画部)
扇田森也
田部圭祐
遠山悠介(Me&Herコーポレーション)
日沼さくら(ドッグシュガー)
宇田川はるか(アイティ企画)
渡辺樹里(ワンダー・プロダクション)
池田朋子
宇井晴雄(アイミーマイン)
薄平広樹(プリッシマ)
峰﨑亮介
原一登
林田航平(スペースクラフト)
菊池夏野
香織(スターダス・21)
南名弥(バイ・ザ・ウェイ)
アコーディオン演奏:香織
作:モルナール・フェレンツ
翻訳:池田朋子
演出:田中麻衣子(Theatre MUIBO)
美術:香坂奈奈
照明:北島千尋(舞台照明劇光社)
音楽:国広和毅
音響:宮崎裕之(predawn)
衣装:南名弥
宣伝美術:荒巻まりの
演出助手:竹内香織
舞台監督:村田明(クロスオーバー)
票券:翠-sui-
当日運営:吉乃ルナ
制作:荒巻まりの
制作補佐:窪田壮史
企画:ユマクトプロデュース
後援 駐日ハンガリー大使館
チケット発売開始2016年12月1日
一般 4000円 割引DAY 3700円〈全席自由〉
※当日券は各回500円増
※割引DAYは2日19:30/3日14:00の回
入場は当日ご来場順となります。開演の45分前より受付にて入場整理番号を配布致します。開場時は整理番号順にご入場、その後は受付順でのご入場になります。
http://www.yumact.com/play
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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