今月のメルマガでNo.1お薦め公演としてご紹介した、庭劇団ペニノ『「笑顔の砦」RE-CREATION』。初日の上演時間は約1時間55分弱(19時から5分押しの開演で、21時前に終演)。公式では約1時間45分です。
兵庫県の城崎とおぼしき海辺の街の、小さなアパートでの些細な営みを静かに観察する時間。みんながヒーローでした。
庭劇団ペニノさん『笑顔の砦』横浜KAAT公演初日
スタッフ、キャスト全員での総力戦
城崎アートセンターで生まれ大阪公演を経ての今日
同じ作品に長く取り組める喜びを感じる
本当に沢山の人に観て欲しい
小さな漁師町での日常
庭劇団ペニノ版人情喜劇
宜しくお願い致しますhttps://t.co/mRMv9j2azJ pic.twitter.com/kIgyhMmucv— 緒方 晋 (@susumuogata4713) September 19, 2019
↓こりっちでカンタン予約!
≪あらすじ≫ http://niwagekidan.org/performance_jp/804
日本海に面した小さな漁港町。
漁師たちが住むアパートに、ある家族が引っ越してくる。
兄弟のように仲良く、笑いの絶えない日々を送る漁師。
認知症の母親を持つ家族。
まるで違う二つの部屋、二つの時間。
しかし、次第に影響し合い、何気ない日常は変化していく。
本当はただ笑って生きていたいだけなのに。
2008年に岸田國士戯曲賞にノミネートされたタニノクロウの物語作品の原点。
≪ここまで≫
大阪で生まれ育った私は、緒方晋さんの関西弁が懐かしく、嬉しかったです。関東でも関西弁に遭遇することは多いのですが、緒方さんの「大阪のおっさん」ならではの方言は、とても柔らかいし温かいです。
ここからネタバレします。正確性は保証できません。
下手側が漁師の部屋、上手側は認知症の母を介護する家族の部屋。隣接する1階の二部屋で、間取りはほぼ同じ。真ん中には2つの部屋を区切る薄い壁がある設定だが、舞台美術のなかには何もない。
35年間漁師一筋の53歳、蘆田が暮らすポロアパートにはいつも、42歳の沖本、35歳の佐藤という二人の若手漁師が集う。繁忙期に短期バイトとして雇った大学生も加わり、全員で食事をする。
蘆田の隣りの部屋に誰かが引っ越してきた。挨拶にやってきたのは80代の認知症の母を持つ公務員の藤田だ。彼には21歳の専門学校生の娘さくらがいるが、離婚して妻はいない。さくらは深夜もアルバイトをしており、介護にはあからさまに非協力だ。母の症状が悪化し、実の息子・藤田の顔もわからなくなった。下の世話も含め、二人掛かりの介護は困難を増していく。海が好きだという母の望みを叶えて引っ越してきたのに、「帰りたい」と叫ばれてしまう。
肉体労働に従事する男ばかりの所帯と、家族による老人介護の現場は対照的だ。下手側ではバラエティー番組を見ながらの賑やかな食事や、賭けマージャンが行われ、上手側では認知症の母がお粥をさくらの服にぶちまけ、尿を畳に垂れ流す。深夜の対比も面白い。蘆田はテレビでアメリカの西部劇映画を見ており、藤田は難しそうな小説を読んでいる。
夜遅くに廊下で漁師たちが殴り合いのケンカをしたので、蘆田は藤田に、お詫びの印として釣れたばかりの生きた蟹を持参する。箱の中の蟹がたてるカサカサという音で、認知症の母が目覚め、三味線で蟹を叩いて砕いてしまった。恐ろしいし可笑しい。
沖本が蘆田に、母親が癌になって余命半年なので仕事を辞めると言ってきた。「自分には兄弟がいないし、父が大変なので」「20年間、ありがとうございました。後輩の佐藤を頼みます」とも。少々太っていてガタイのいい佐藤は、女性をもの扱いしたり、けんかっ早かったりして、漁師たちのなかでは最も素行が悪いのだ。彼らの間には兄弟愛、親子愛のようなものが育まれていた。
沖本は後輩の佐藤に辞めることを言ってなかった。蘆田から佐藤に伝えようとするが、言えない。そのかわりに、マカロニウエスタンの映画の話をする。「ピストル一丁で戦う孤独なガンマンはカッコいい」「でも寂しいんじゃないか」と。「1人は寂しいに決まってるやんけ!」と蘆田が声をあらげ、佐藤はこっそり涙ぐむ。その後はクリント・イーストウッドの笑い話になり、結局、沖本の話は出なかった。
上手側では、朝になってさくらが(認知症の母が割った)蟹で味噌汁を作った。藤田はあまりの美味しさに笑顔になる。さくらが「私、(介護のために)休学しようか」と持ち出し、父と娘の間に会話が生まれる。藤田が読んでいた小説も話題にのぼった。陰鬱さが目立っていた上手側の部屋に、朝日とともに、明るい光が差してきた。
仕事仲間の男たちの共同生活と、血のつながりのある家族の支え合いが同時並行で描かれたが、蘆田と藤田が実際に接触したのは、藤田が引っ越しの挨拶をしに来た時と、蘆田が蟹を持って行った時だけだ。蘆田は藤田一家が引っ越してきた時も、出て行った時も、気づかなかった。
舞台美術が中央で割れて、隣り合う部屋が離れる瞬間があった。こんなに近くに居て、知り合いにもなったのに、隣人が何をしているのか、何を考え、何を望んでいるのかを知らないまま、私たちは別れていく。
蘆田は親も兄弟もいない独り者だが、多くの命を助けている。隣の藤田が挨拶に来た時、朝食と酒を振る舞った。野良猫に餌もやっている。世間では落ちこぼれ扱いされるであろう若者たちに、漁師の仕事と居場所を与えている。プレゼントした蟹は、藤田家に幸せをもたらした。沖本はこれから両親を助けるし、大学生は蘆田のためにおでんを作った。佐藤は孤独な蘆田のもとに居るだろう(最後の場面では蘆田、佐藤、大学生が揃いのジャンパーを着て大漁を祝っていた)。
母を介護する藤田、苦しむ藤田を支えるさくらも同じだ。実は、蟹を割った母もかなりかっこいい。西部劇に登場するガンマンや、小説で巨大魚と戦った老人と同様に、漁師たちも、介護をする/される家族も、名も無きヒーローだと思った。
以上が主なあらすじなどです。間違いがあったらすみません。
クリント・イーストウッド主演のマカロニウエスタンといえば、下記のような映画でしょうか。
売り上げランキング: 10,542
売り上げランキング: 29,035
藤田が読んでいた文庫本は表紙でヘミングウェイ作「老人と海」↓だとわかりました(音読時はわからなかった)。藤田とさくらの会話には笑ったな~。
新潮社
売り上げランキング: 549,783
あ、でも一番ウケたのは、蘆田が佐藤に言った「黒毛和牛」かな(笑)。
≪東京都、愛知県≫
【出演】
蘆田剛史(53歳、漁師):緒方晋
沖本亮太(42歳、漁師):井上和也
佐藤健二(35歳、漁師):野村眞人
山下大吾(22歳、大学生):FOペレイラ宏一朗
藤田勉(55歳、町役場勤務:たなべ勝也
藤田さくら(21歳、専門学校生):坂井初音
藤田瀧子(86歳、認知症):百元夏繪
作・演出:タニノクロウ
美術:カミイケタクヤ 照明:阿部将之(LICHT-ER) 音響:椎名晃嗣
演出助手:北方こだち 演出部:さかいまお 映像:松沢拓延
舞台監督:夏目雅也 ニシノトシヒロ(BS-Ⅱ)
宣伝美術:山下浩介 製作助手:柿木初美 制作:小野塚央
提携:KAAT神奈川芸術劇場
助成金:芸術文化振興基金(東京公演)
共同製作:城崎国際アートセンター(豊岡市)
企画:庭劇団ペニノ
主催:合同会社アルシュ
【発売日】2019/07/14
前売り4,500円・当日券5,000円・学生3,800円(要学生証提示・枚数限定)
※日時指定/全席自由/入場整理番号付き。未就学児入場不可。
※受付は開演の45分前、開場は開演の30分前より開始。
http://niwagekidan.org/performance_jp/804
https://stage.corich.jp/stage/100847
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
便利な無料メルマガ↓も発行しております♪