東京芸術劇場/マームとジプシー『BOAT』07/16-26東京芸術劇場プレイハウス

 マームとジプシーの藤田貴大さんが東京芸術劇場プレイハウスで演出されるのは、『小指の思い出』『ロミオとジュリエット』に続いて3度目ですが、今回はご自身の新作戯曲です。上演時間は約1時間50分。

 藤田さんの舞台は音楽が前面に出て活躍しますよね。今回もそうで、やはりミュージック・ビデオを観ているような感触でした。ジュークボックスから次々に雄弁な、メッセージ性の強い曲が流れてくるようでもあります。
 

 ≪あらすじ≫
 ある街にボートが漂着し、浜辺の住人が乗っていた青年を保護する。その街には“よそ者”に対して不寛容な空気が蔓延していた。
 ≪ここまで≫

 「chapter 1」、「chapter 2」と字幕で章タイトルが出て、短編が連続するような構成です。時系列どおりに進むわけではありません。序盤は俳優さんが遠くに感じて没入できなかったのですが、舞台となる街に大事件が起こり、突然不穏な空気が支配するようになってからは、集中できました。

 やっぱり青柳いづみさんの声、言葉には色も景色もあって、存在が分厚いなぁと思います。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 白くて平たい、長細いパネルを移動させて場面転換します。左右にスライドさせるのは予想の範疇ですが、縦に回す(って意味わかりませんよね…)のには驚きました。マームとジプシーの男優さんは肉体派ですね。

 故郷から船で脱出するシリアの人々のことが、常に頭にありました。題名のBOATはすなわち船で、舞台上にずらりと並べられ、または宙づりにされて、大きな存在感を示していました。BOATが、攻撃を受けている街からの唯一の脱出手段なのですが、襲って来たのもまたBOATなんですね。江戸時代に日本にやってきたペリーの黒船が思い浮かびます。そういえばボートって暴徒と同じ音ですね。

 “よそ者”を乱暴に排斥していく狭い共同体の中で、自らを“よそ者”と自覚する人々(宮沢氷魚、青柳いづみ)は、「誰もがよそ者なのに」ともらします。日本にも渡来人の歴史がありますよね。煙に覆われた街を後にして、 “よそ者”たちもBOATで逃げます。しかし男性(宮沢氷魚)は人種差別主義者で殺人犯の男(尾野島慎太朗)に背後から撃たれ、ひん死の状態に。今後、真っ暗な海に漂流する彼らのBOATが無事である保障もありません。

 “よそ者”たちは逃げる前に、街のど真ん中にある劇場にガソリンを撒き、火を付けて燃やしていました。舞台中央面のボートに乗った3人だけを残して、赤い緞帳が降りてきて舞台全体を隠します。このプレイハウスに火が付き、今、まさに燃えているのだなと想像できました。観客も戦争の当事者にしてくれたんですね。青柳さんの「繰り返さない。これは祈りではない」というセリフが特に印象に残りました。

 カーテンコールの後、舞台上手上部に吊り下げられたパネルに、キャスト、スタッフのクレジットが英語字幕で映写されました。これは映画っぽいような…。何のためなのかよくわかりませんでしたが、日本語も併記してあると良かったのではと思いました。

※公式サイトのTEXTより引用

●prologue /海岸

海岸から始まって
海岸で終わるのは
だれもがはじめから、知っている

この海岸には、船着き場があって
つまりボートが停まっている
かつて誰かが乗っていた、ボート

●chapter 1 /漂着

いくつも流れ着く
見慣れない文字と
誰も乗っていないボートについて

海岸に漂着するそれらのこと
わたしたちはほどんど関心がない
無関係だとおもっているから

●chapter 2 /上空

なんともない日の
日のたかい時刻に
あの日を境に、なにもかもすべて

上空が、ボートで埋め尽くされた
それは単純にいって脅威だったし
ここの人々の生活が、まるで

●chapter 3 /市街

あの日から市街は
まるで、変わった
あたかもそれは当然のことのよう

こうなってみたときにわかるのは
そもそもひとってこうだった
ということなのかもしれない

●chapter 4 /水葬

死んでしまったら
海へ流してしまう
この土地ではそうなっているのだ

海の向こう側、見えなくなるまで
沖へ流されていくボートを見送る
それは、妙に静かな時間だった

●chapter 5 /灯台

放たれる、灯りで
いまがいつなのか
ここがどこなのか迷わないように

灯台には灯台守がひとりだけいる
彼はどこへ向けて灯しているのか
その一点の灯りを、どこへ?

●epilogue /海原

わかってはいたが
なんにも見えない
暗闇のなかに、ただ浮かんでいる

わたしたちはなんなのだろう
どこからやってきて
どこへいくのだろう
なんにもわかっていなかった

もともとこの土地の人間ではない
彼は
つまり、よそものだった
彼が
どこから
どうして、やってきたのか
誰も知らないし、知ろうともしない
彼に
誰も関心がない
だって、よそものだから

誰もがわたしのことを
うとましくおもっている
わたしがあなたのことを
うとましくおもっているように
けれども、それ以上に
誰もがわたしのことを
うとましくおもっている
その理由は
わかるでしょう
この土地にとって、わたしとは

家という空間に
ひとりでいるのには理由があった
外側で
なにが起こっているか
知らないわけではない
だけれどひとりでいるしかない
ここで
誰かを待っているわけではない
ただ
そのときを待っている

遠くを眺めるその視線の先には
なにが
鏡のようなその瞳には
なにが
映っていたか
この地に
残るか
逃げるか
どうしてそれを選んだか
わたしたちにはわからなかった

※TEXTより引用終わり。

出演:宮沢氷魚、青柳いづみ、豊田エリー、川崎ゆり子、佐々木美奈、長谷川洋子、石井亮介、尾野島慎太朗、辻本達也、中島広隆、波佐谷聡、船津健太、山本直寛、中嶋朋子
脚本・演出:藤田貴大
照明:富山貴之
音響:田鹿充
映像:召田実子
衣裳:suzuki takayuki
ヘアメイク:大宝みゆき
舞台監督:森山香緒梨
宣伝美術:名久井直子
宣伝写真:井上佐由紀
企画制作:東京芸術劇場/マームとジプシー 
主催:東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)/東京都/アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)/文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)/独立行政法人日本芸術文化振興会
【発売日】2018/05/19
S席5,500円
A席4,500円
65歳以上(S席)5,000円
25歳以下(A席)3,000円
高校生以下1,000円
※未就学児はご入場いただけません。
※65歳以上、25歳以下、高校生以下チケットは、劇場ボックスオフィスのみ取扱い。(枚数限定・要証明書)
※障害をお持ちの方は、割引料金でご観劇いただけます。
詳しくは劇場ボックスオフィス、または劇場HP(チケット→鑑賞のサポート)にてご確認ください。
※公演情報等につきましては、変更が生じる場合がございますので、あらかじめご了承ください。
http://geigeki-fujita2018.com/
http://stage.corich.jp/stage/92165

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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