東京グローブ座『WILD』04/28-05/25東京グローブ座

 1980年生まれの英国劇作家マイク・バートレットさんの2016年初演戯曲『WILD』を、小川絵梨子さんが演出されます。翻訳は髙田曜子さん。日本だと2013年に青年座が『LOVE,LOVE,LOVE(https://stage.corich.jp/stage/47073)』を上演していたんですね。私は “Not Talking”のリーディング公演(https://shinobutakano.com/2015/11/29/765/)を拝見していました。

 すごく面白かった!!少人数のストレート・プレイにどっぷり入り込み、必死で頭を回転させ続ける刺激的な観劇になりました。私が観た回の上演時間は約1時間30分。公式では100分というアナウンスなので、かなり短くなっているみたい。

≪あらすじ≫ https://www.wild-stage.jp/about
主人公アンドリューは、モスクワの「特徴のないごくありふれた」ホテルの一室に身を潜めている。
すると、アンドリューを助けに来たと言って、見知らぬ男と女が順番に訪ねてくる。 1人目の訪問者の「女」は自らを「ミス・プリズム」と名乗り、アンドリューのガールフレンドのこと、両親のこと、 すべての情報を握っている。そして2人目に訪ねて来た「男」は、その「女」のことは一切知らないという。自分こそがアンドリューを助けに来たのだ、と。 しかし次第に、アンドリューはこの世界のすべてが不確かであることに気がついていく。確かだと思っていたこと、人、物、すべてが崩れていく。 個人のアイデンティティから、「特徴のない」ホテルの一室まで……。
≪ここまで≫

 幕開けのひとこと、ふたことで、「ああ、これはいいお芝居だ」と思いました。舞台上で俳優が生き生きと交流し、観客に向けた説明をしていない。それでいて芝居を立ち上げてきた稽古場での工夫、鍛錬の積み重ね(作為とも言える)も見て取れる。登場人物でありながら、俳優自身でもある状態がみずみずしくキープされている…。あ~幸せだ~~~。

 俳優3人ともが素直で、率直で、意識も心も開いた状態でその場に生きて、挑戦もしている。観客一人ひとりに対して、一人の人間として、自身をさらしてくれている。そういう時に私は、彼らがつむぎだす物語に没頭できると同時に、自分自身の自意識もはっきりさせたままでいられる(自分を見失わない)のだと思います。“異化効果”って俳優の演技で成立させられるんですよね。

 太田緑ロランスさんは相手役に対して常に積極的に自分から仕掛けていく“女”役で、セリフ量が膨大でした。彼女の(役が計画的に)漏らすひとことが主役アンドリュー(中島裕翔)を翻弄し、長いセリフに巧妙にちりばめられたヒントが、物語の枠組みを少しずつあらわにしていきます。言葉も頭脳も明晰で遊びもじゃんじゃか盛り込んで、美しいだけでなく可愛らしい! 見惚れたわ~♪ Kawai Project『お気に召すまま』、東京芸術劇場『Le Père 父』でも素晴らしかったですが、今回も期待以上でした。欲を言えば、序盤はほんの少しスピードダウンして、自分のセリフを自分が受け止める間(ま)を持つのもアリではないかな~と思いました。

 情報がとにかく盛りだくさんで、暗転がある度に一息付けました。暗転前と明転後でくっきり変化しているのも楽しいです。こういう暗転なら必要だと思えますね。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 アメリカの軍事機密をネット上に公開して、一時的に世界中で最も有名なおたずね者になってしまった、ごく普通の青年アンドリュー(28歳だったかな)。17歳の時からつきあっている恋人をわざと振って祖国アメリカを脱出し、ロシアのホテルの一室に閉じこもっています。「あの人の指示で来た」という謎の男女がかわるがわる部屋を訪れ、「仲間になれ」と半ば脅迫してきますが、二人の正体が全くわからないので、アンドリューは同意できません(女はミス・ジョージ・プリズムと偽名を名乗り、男も自分の名前はジョージだと言う)。

 正義と善意を信じたワンクリックが彼の人生を一変させたことが、序盤で事細かに明かされます。大国間のパワーバランスにどんな危機的な変化が起きたたのか、「あの人」とは誰なのかなど、現代の社会問題やこの物語の芯にある謎の解明に引き込まれます。くるくると立場が逆転する会話や、予想外の展開(女と男は同じ組織のメンバーで、「あの人」とは関係ない等)についていくのが大変なのですが(笑)、すっごくわくわくしました。でも、それが主軸ではなかったのです。
 
 ホテルの部屋の正面奥の壁には、大きな抽象画が飾られており、色使いも構図もモダンでありながらクラシックな趣もある素敵なものでした。「いい絵だな~、トレンツ・リャドみたいだ~、これが現代のモスクワらしさなのかしら~ん」と思っていたら…絵じゃなかった!
 女のトレンチ・コートは前身ごろの中央部分がキャメルで袖と背中が黒というハっとするような色使いで、背中のセンターベント部分からはプリーツ折りのフレアーが覗きます。わ~こういう攻めのコート、いいな~、欲しいな~と思ってたら、最後に仕掛けが! もうね、私はいつも作り手側の“思う壺”ですよ(笑)。

 舞台全体が緑色に染まり、下手の床が上がって斜めに傾き、空間が崩れるという大がかりな演出に、目が点状態(笑)。うっげ~~!今までのは何だったの?!と、私はもう一度振り返らざるを得なくなりました。やがて男も女も去り、がらんとした空虚な舞台にアンドリューだけが残されて、暗転。街の喧騒の効果音が流れて終幕しました。

 Facebook、Twitter、InstagramなどのSNSや、NetflixやSpotifyなどのコンテンツ配信サービス、またはGmail、Google Mapなどの便利な道具は、使えば使うほど個人情報がさらされ、個人が他者に管理・誘導されるようになります。携帯電話も奪われパスポートもないアンドリューに、闖入者の男女は「仲間になれ」「協力しろ」と言ってくることからわかるのは、どこかに所属してある集団の一員にならないと、この世界では生きていけない…ということなんですよね。たとえば日本では子供が生まれたら出生届を出しますし、身分証明書がない生活は非常に不自由です。そもそも命が先にあって、その後に社会、国、世界があるはずなのにね。アンドリューはまさに、人間が人間を互いに監視し、支配し合う枠組みの外にある荒野に、(自ら)放たれた人間なのかもしれません。彼がやり遂げた(しでかした)乱暴なことも含め、題名の『Wild』につながるのかなと想像しました。

 アンドリューは「真実を暴露すれば、誰もが目覚めて、自分を支持し、ついてきてくれる」と思っていた。でもそれは見当違いで、ほんの数日経てば彼は既に“過去の人”。自国の大罪だって知らんぷり。誰もが皆、飼いならされることに慣れてしまったのだ…という、女のセリフに説得力があってショックでした。日本の現状にぴったりと当てはまります。きっと世界中でそうなっているんでしょうね。

 ※アンドリューがいた部屋はモスクワのホテルではなく、ある組織が用意した一時的な収容施設でした。壁も絵も本物ではなく、破かれて崩壊します。そういえば鏡やベッドが偽物であることの伏線は、序盤から少しずつ敷かれていましたね。
 ※女は本気を示すために手の親指と人差し指の間の肉に針を刺し、流れた血をアンドリューに見せましたが、マジック(手品)でした。彼女は最後にはコートの中に沈むように消えてしまいます。

Wild
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 ※このお芝居の最後のセリフは女の「Utterly wild.」です。直訳だと「完全に野生的」。「全部メチャクチャ」とも言い換えられるかもしれません。上演では「人知を超えた(世界)」といった日本語訳だったように記憶しています。けっこう踏み込んだ意訳ですよね(2019/05/26加筆)。

■ありがとうございます♪(2019/05/25加筆)

≪東京都、大阪府≫ Mike Bartlett “Wild”
出演:中島裕翔(Hey! Say! JUMP) 太田緑ロランス 斉藤直樹
作:マイク・バートレット 翻訳:髙田曜子 演出:小川絵梨子
美術:土岐研一
照明:松本大介
音響:加藤温
スタイリスト:伊島れいか
ヘアメイク:新井健生
演出助手:渡邊千穂
舞台監督:二瓶剛雄
宣伝美術:永瀬祐一
宣伝カメラマン:西村淳
宣伝スタイリスト:九
宣伝ヘアメイク:二宮紀代子 KEIKO
宣伝製作:エム。シィオー。
宣伝PR:ディップス・プラネット
制作協力:ゴーチ・ブラザーズ
運営協力:キョードー大阪(大阪公演)
制作:時田曜子 高橋ゆうき
キャスティング:明石真弓
票券:後藤まどか
制作助手:横田梓水
アシスタントプロデューサー:古川友莉
プロデューサー:堂本奈緒美 大西規世子 伊藤達哉
エグゼクティブプロデューサー:藤島ジュリーK.
制作協力:ゴーチ・ブラザーズ
運営協力:キョードー大阪(大阪公演)
主催・企画製作 東京グローブ座
前売り開始:2019.4.6 sat 10:00a.m.
S席¥8,800 
A席¥7,800 
B席¥5,800
(全席指定・税込)
※未就学児童入場不可 ※営利目的の転売禁止
https://www.wild-stage.jp/
https://stage.corich.jp/stage/98895

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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