ナショナル・シアター・ライヴ2019「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」03/01-07ヒューマントラストシネマ有楽町

 欠かさず拝見しているナショナル・シアター・ライヴ(前回は「マクベス」を拝見)。『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』は米国劇作家エドワード・オールビー(1923年生~2016年没)の1962年初演作です。パンフレット(800円)によると1964年までのロングランで、664ステージも上演されたとのこと。

 1966年にマイク・ニコルズ監督によって映画化↓され、主演のエリザベス・テイラー(当時34歳)が米国アカデミー賞主演女優賞を受賞しています。

バージニア・ウルフなんかこわくない
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 上演時間は途中休憩15分を含む約3時間。上演前に専門家によるオールビーについての解説があり、第2幕と第3幕の間に5分休憩がありました。※私が観た映画館では、上映前の宣伝など込みで「16:05-19:40」という尺でした。

 劇場でたくさんの演劇関係者に会いました。NTLive、どんどん浸透していますね♪ 3/17(日)に「NTLive 語る会 vol.2」がありますよ!

≪作品概要≫ 公式サイト(https://www.ntlive.jp/blank-22)より
ピュリツァー賞に3度輝いたアメリカの劇作家エドワード・オールビー(1928―2016)の1962年初演作。ある晩、大学教授のジョージと学長の娘マーサという中年夫婦のいがみ合いに、客人である若い新任教授とその妻が巻き込まれ……。イメルダ・ストウントン(『フォリーズ』)ら実力派キャスト4人が、激しい言葉の応酬を通し“夫婦”の赤裸々な姿を描き出す。『夜中に犬に起こった奇妙な事件』のルーク・トレッダウェイも出演。
≪ここまで≫

 めちゃくちゃ面白い戯曲だな、そして俳優がすごいな…と、いつも通りの衝撃と感動がありました。先日、見学した俳優ワークショップでこの戯曲が使われていたのですが、俳優が演じるからこそ伝わることって、すごく多いですね(今更ですが)。俳優や演出が変わるとまた違うものになることも、容易に想像できます。これぐらい振り切れた、それでいて計算されている、勇敢な演技合戦が観たいと常々思っています。

 想像を超える荒々しさの、ハレンチでみっともない大人の言い争いが繰り広げられます。こんな喧嘩、超イヤだ(笑)。よく言われることですが、現実よりもフィクションの方が真実をあらわにできる可能性はあるんですよね。この苛烈なフィクションを味わって学ぶことができれば、実際の人生ではこんな愚かな過ちを犯さなくて済むかもしれません。今作の演出家ジェームズ・マクドナルドさんが冒頭の解説で、そのようにおっしゃっていたように思います。賛同します。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 舞台はある中年夫婦の家の居間。古いけど上等そうな家財道具がちらばる具象美術で、4人が集うリビング中央はボクシングのリングを模した正方形になっており、格闘技、死闘と言える夫婦喧嘩が繰り広げられます(後述のニックがボクサーでもあるためですね)。

 妻マーサは大学の学長の娘、夫ジョージはその大学にいるうだつの上がらない歴史学の教授です。お察しの通り、ジョージはマーサの尻に敷かれています。ジョージは小説を書いたり、架空の物語をでっちあげたり、文学的創作が得意な人物のようです。歴史学には想像力が必要だろうけれど、ねつ造はしてはいけないはずですから、そのあたりはオールビーの皮肉が効いているのかしら。

 マーサの父のパーティーの後、深夜2時に彼らの家に招待されたのは若い新任教授ニックとその妻ハネー。2人は幼少期からの幼なじみで、生物学教授のニックはハネーが想像妊娠したために結婚しました。生物学者だけれど女性の身体の神秘性は解明できないんですね。これも皮肉と言えるのかもしれません。

 マーサとジョージは彼らが長年の夫婦生活で築いてきたルールにのっとって、壮絶な(会話の)ゲームに興じます。お互いの秘密を暴露したり、ののしり合ったりして、常に勝ち負けを競っているのです。それに巻き込まれた若夫婦は散々な目に遭います。酔いが進んだハネーは「私に黙れと言わないで!」「私は踊りたい、一人で好きに踊らせて!」と、本音を漏らしはじめます。ニックがハネーを子供扱いしているという、若夫婦の力関係も暴かれていくんですね。年寄りと若者の対立構造も描かれていました。

 中年夫婦には一人息子がいますが、「息子が家に帰って来ないのはマーサ/ジョージのせいだ」などと夫婦で喧嘩のネタにしています。終盤でジョージは「マーサとニックが台所でいちゃいちゃしている間に郵便配達員が来て、息子の交通事故死を伝える電報を持ってきた」と伝えます。マーサは大きなショックを受けて取り乱し、客人の二人も同様に狼狽しますが、それは嘘でした。事故死だけではなく息子の存在も。子供ができなかった彼らは、息子の存在をでっちあげて、その架空の物語を共有して暮らしてきた…というのが真相でした。客人を帰し、朝日が差し始めるなか、静かに寄り添う中年夫婦の姿を見せて終幕。

 ゲームにはルールが必要です。ルールがあるから勝ち負けも決められます。「夫婦」というルールを守ると決めた中年男女は、不毛なゲーム(戦争)をし続けることで、ともに生きてこられたんでしょうね。マーサのあまりの身勝手と強情に耐えられなくなったジョージは、2人の創作物(クリエイション、作品)である“一人息子”を殺してしまいました。

 この“子殺し”は『ヘッダ・ガーブレル』の引用なのかなと思いました。処女小説をマーサの父に酷評されたジョージは、原稿をリビングの暖炉に放り込んで燃やしてしまっています。ヘッダはレーヴボルグが命より大事にしていた論文を暖炉で燃やしましたし、妊娠したまま自死したヘッダと、暖炉で自分の小説を燃やしたジョージは重なりますよね。

 マーサはジョージに“息子を殺されて”、とどめを刺されました。そういえば彼女は「なぜ父に立ち向かわなかったのか(小説を書き続けるべきだった)」と、ジョージに怒りを見せていましたね。小説や(一人息子という)物語などの創作物、あるいは創作という行為が、人間が生きる糧になるんだと思います。ハネーが「子供が欲しい」と言って泣き崩れる場面もありましたが、「子供がいない人生は困難である」といった一方的な決めつけになっていないのもいいですね。

 ↓題名の引用元です。

原題:Who’s Afraid of Virginia Woolf?
上演劇場:ハロルド・ピンター劇場(ロンドン)
収録日:2017/5/18 
180分(休憩含む)
【出演】
マーサ:イメルダ・ストウントン
ジョージ:コンレス・ヒル、
ハネー:イモジェン・プーツ
ニック:ルーク・トレッダウェイ
作:エドワード・オールビー
演出:ジェームズ・マクドナルド
美術:トム・パイ
照明:チャールズ・バルフォア
音響&音楽:アダム・コーク
ヘアー、ウィッグ&メイクアップ:キャロル・ハンコック
キャスティング:エイミー・ホール
演出助手:ジョン・ハイダー
アクション:ブレット・ヤント
発音&発声:エンー・ダイヤー
振付:イモジェン・ナイト
一般3000円 学生2500円
https://www.ntlive.jp/blank-22
※3/22(金)よりNTLive『マクベス』が吉祥寺オデヲンで上映スタート
http://cinemaodeon.jp/soon/post-143.html

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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