綾門優季さん、カゲヤマ気象台さん、額田大志さんが企画プロデュースするフェスティバル「これは演劇ではない」の計6演目のうちの1つを拝見しました。「これは演劇ではない」という企画名は挑発的で、潔くて良いですね。観客にとって受けとめやすい提案だと思います。
新聞家は演劇作家の村社祐太朗さんの作品を上演する団体(?)です。本編『遺影』は男女二人芝居で、上演時間は約25分。その後のトークが40分ほどでした。トークのゲストは評論家の渋革まろんさん。渋革さんの正直かつ率直で、観客に伝わりやすい言葉選びのおかげで、充実の時間を過ごせました。
舞台中央に丸い座面で白色の、一人掛けのベンチ椅子が2脚あるのみ。カジュアルな服装の若い女性と男性が登場して椅子に座り、台詞を語ります。当日パンフレットに「新聞家『遺影』「席次表」」という絵図が挟まれており、題名が『遺影』ですので、2人がいるのはお葬式の場なのかな、という想像はできました。
【『遺影』アフタートーク】の実施が決定しました。新聞家『遺影』1/8(火)12:30開演回にて、上演後に批評家の渋革まろんさんをお招きして場を設けます。テーマは「死と想起について」です。#これは演劇ではない 前半組では唯一の公式なアフタートークになります。ぜひこぞってお足運びください。 pic.twitter.com/Nfyxl2wz0c
— 新聞家 (@_sinbunka) 2019年1月4日
ここからネタバレします。
セリフは現代口語の日本語で、しかつめらしい議論などではなく、散文と言えるものだったと思います。まずは女性から話し始め、終わったら次は男性。二人とも椅子に座って客席の方向を眺めてしゃべります。2人が会話を交わすことはありません。視線の先は特に定まってはいないようでした。男性が話し終わった時に終幕しました。音楽、音響、照明の変化はありませんでした。
セリフの文章の途中で、頻繁に発語を途切れさせていました。たとえば文章中の「、(読点)」がありそうな場所で、しゃべるのを少しだけ中断するのです。次のセリフを思い出しているのかな…という邪推も可能な状態でした。「プロンプター:内田涼」というクレジットがあるので、敢えて俳優にセリフを覚えさせないようにして、劇場内のどこかにいるプロンプターが活躍するのかな~と考えましたが、そういうことは起こりませんでした。
女性の言葉は明晰で、観客との意識のコミュニケーションも感じ取れて、耳に入ってきましたが、発語者(登場人物)の気持ちや描写される情景が、私に中に像として結ばれることはほとんどありませんでした。男性の言葉は流れ去っていきました。きっと言葉の意味をはっきりと伝えるつもりがない上演なのだろうなと感じ、劇場の中を見まわして、照明を見上げたりしながら、耳を澄まして過ごしました。
俳優がチューブ型のハンドクリームを手に塗る演技がありました。最初に男性が手に持って出てきて、女性がしゃべっている最中に彼女の手に少し塗り付け、自分の手にも塗って、のばします。女性も手の甲に塗られたクリームを両手でのばしていました。女性の次には男性がしゃべり始め、女性は男性に手渡されたクリームを自分で手に塗ります。あら、男性は二度目は塗らなかったのかな…忘れました。振付(予定された動作)と思われる演技は私が観た限りはそれだけでした。
私は異様なほど俳優重視の観客なので、演技の精度の低さが気になりました。俳優二人の語りで作られた作品ですので、どうしても俳優を中心に鑑賞してしまうというのもあると思います。女性が頻繁に瞬きをするのが気になったので、トークで村社さんに質問をしたところ、演出ではなく俳優に任せているそうです。セリフの文章を寸断することも、特に演出として指示をしているわけではないとのことでした。
≪終演後のトーク≫
出演:村社祐太朗、渋革まろん
渋革さんが開口一番に「何が起こったか覚えていない」という意味の発言をされて、ホっとしました。その後、忘却をテーマに話してくださり、本編を題材にした実のあるお話を聞けました。
神社にお参りする際、多くの人は参道を通りますが、神社にたどり着く道はそれだけではなく、もしかしたら脇道があるかもしれません。自分の作品はどちらかというと、その脇道かもしれないという村社さんの発言に納得しました。
プロンプターについては、最初は舞台上に登場させる案もあったけれど、それはやめて、劇場内のどこかにスタンバイしているそうです。プロンプターの内田涼さんはセリフを全て記憶しているとのこと。
■2019/01/12加筆
「俳優重視の観客」が「演技の精度の低さ」を『遺影』の上演からみてとったとのこと。失礼な言い方。こういう局所で「実況」を装うレビューが悪さをしないといいのだけど。「ホっと」するための劇場ですか。残念。 https://t.co/106BCo36Xl
— 村社祐太朗 (@Murakoso06) 2019年1月11日
「演技の精度の低さ」。これ、新聞家の方法の場合に限って言えば、俳優の能力の高低ではなく、俳優によって遂行された上演の(ひいては演出の)精度、というふうにも取れる。乱暴に言うと、2人の出演俳優もフツーの演劇(これも乱暴な言い方だけど)だったら「精度が高い」ように見えるかもしれない。 https://t.co/7PMEG4JT4i
— 桜井圭介 (@sakuraikeisuke) 2019年1月11日
演技の精度の低さという批判の仕方を、自分の作品でも他人の作品でもこれまでに何度も聞いているのだけれど、そもそも演技についての価値観が多様化している今、演技の固定の基準というものが己の身の内にあって、そこから外れるものを剪定するような盆栽的なことであるならば、観劇の幸福は低くなる。
— 綾門優季 (@ayatoyuuki) 2019年1月11日
その通り!なんだけど、僕も別の部分では細かなことが気になって「素直」に楽しめないという性分は自覚しているからなー。人はそんなに自由に物を見れない。年季が入ってくると特に。 https://t.co/6p041L0fJy
— 桜井圭介 (@sakuraikeisuke) 2019年1月11日
身の内に固まってしまった基準/規範さえも揺さぶる、打ち砕くような舞台というはあり得る、というか、ある。で、そうした舞台には相当の強度、あるいは「固定観念」を強制解除する何らかの仕掛けがあるはず。価値観の多様化→わかる人にはわかる→わからなくてお気の毒、となるのは避けたいところ。
— 桜井圭介 (@sakuraikeisuke) 2019年1月11日
新聞家『遺影』
作・演出:村社祐太朗
出演:花井瑠奈、横田僚平
プロンプター:内田涼
舞台監督:原口佳子、鳥養友美
照明:松本永(eimatsumoto Co.Ltd.)、安江和希(ACoRD)
音響:櫻内憧海(無隣館/お布団)、牛川紀政
宣伝美術:タカラマハヤ
制作:「これは演劇ではない」実行委員会
票券・当日運営:有上麻衣、河野遥、谷陽歩
芸術総監督:平田オリザ
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)
技術協力:鈴木健介(アゴラ企画)
チケット発売日 2018年11月24日(土)10:00-
1演目券(一般)=3,000円 *前売・予約・当日共
1演目券(U26)=2,000円 *前売・予約・当日共
3演目セット券(前半or後半)=8,000円 *前売・予約・枚数限定
6演目セット券=14,000円 *前売・予約・枚数限定
パトロネージュ・セット券=30,000円 *全日程フリーパス(要予約)、そのほか特典付! 詳細は近日公開!
*日時指定・全席自由席・整理番号付
*26歳以下の方は、ご観劇当日、受付にて年齢を確認できる証明書をご提示ください。
*未就学児童はご入場いただけません。
●2019年1月3日[木] – 1月20日[日]
フェスティバル「これは演劇ではない」
企画プロデュース:綾門優季/カゲヤマ気象台/額田大志
オフィスマウンテン『海底で履く靴には紐がない ダブバージョン』
カゲヤマ気象台『幸福な島の誕生』
新聞家『遺影』
青年団リンク キュイ『プライベート』
ヌトミック『ネバーマインド』
モメラス『28時01分』
http://www.komaba-agora.com/play/6528
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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