モダンスイマーズ『死ンデ、イル。(再演)』07/20-29東京芸術劇場シアターイースト

 蓬莱竜太さんが作・演出などを手掛ける劇団モダンスイマーズの、句読点三部作(『嗚呼いま、だから愛』『悲しみよ、消えないでくれ』『死ンデ、イル。』)連続上演の第三弾です。上演時間は約1時間55分弱。

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 ≪あらすじ≫
 東日本大震災が発生し、東京電力福島第一原発事故が起きた後。浪江町から二本松市に避難した女子高生・七海(片山友希)が失踪し、2週間が経った。記者の古賀幸広(古山憲太郎)は七海の家族や親しい人々に、手掛かりになることはないかとインタビューをする。
 ≪ここまで≫

 椅子とテーブル以外何もないと言っていいプロセニアムの舞台で、奥のシンプルな壁には映像や文字が映されます。舞台の上下(かみしも)両方に、物語とは別の時間が流れていそうな通路があります。

 原発事故の放射能汚染のせいで家も故郷も失った家族の証言と回想シーンから、七海の失踪の原因を探っていきます。記者の質問への家族たちの回答と、回想シーンとのギャップが面白いですね。家族の暴力や共同体の閉塞感が、平易な日常会話から浮かび上がり、精神的、肉体的な逃げ場のなさがリアルに伝わります。

 オーディション(⇒)で出演が決まったのが七海役の片山友希さん、七海の彼氏役の松尾潤さん、そして謎の男ピーマン役の野口卓磨さんです。野口さんの演技および立ち姿は、観客に対して開いているように感じました。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。
 
 七海の父は17年前にパラグライダーの事故で(森に突っ込んで)死に、母は5年前に病死。姉の咲は4年前に幹男と結婚し、幹男が咲の実家に入る形で、七海を含めた3人で暮らしていました。原発事故のせいで3人は二本松市にある母の姉・ユウおばさんの家に避難しますが、ユウおばさんが気難しい上に、広くはない家なので、急な共同生活は問題含みです。

 家族、彼氏、信用していた教師らによって、七海は家出をするしかなくなるほど追い詰められていきます。セクハラ、パワハラ、DVの詰め合わせ状態で、醜悪極まりないです。どこをどう見ても反面教師にしたい材料だらけ。でも同時に、そうなっても仕方がないとも思えるんですよね…。

 楽しみにしていた長崎への修学旅行が中止になり(大阪に修学旅行に行った福島の高校生らが嫌がらせを受けたから)、七海が真面目に餌をやっていたユウおばさんの白い蛇も消えて、東京に住んでいるユウおばさんの弟(=おじ)も頼りにならず、彼氏はこっそり新しい恋人を作り…七海を引き留める要素が次々になくなっていくのは残酷です。ユウおばさんの部屋に居づらくなって、七海がドラえもんのように押し入れに寝るようになるのも辛い。ただ、追い詰められ方が少々都合が良すぎるかな~という気はしました。

 「お母さんに会いたい」と思った七海は自分のスマホをホームレスのピーマンに渡し、三十数キロの道のりを一人で歩いて、浪江町の実家に到着。すると大雨のため勝手に家に入り込んで雨宿りをしている不審な男がいました。記者の古賀でした。七海と古賀は激しい言い合いをして、やがて乱闘へ。暗転から徐々に明るくなると、古賀は倒れており、七海の顔には血がついています。七海は2011年から日記のように絵や文章を描き留めていたスケッチブックを置いて、立ち去ります。スケッチブックは彼女から死んだ母宛ての手紙でした。
 
 以上から、七海のスケッチブックを持ち帰った古賀が、彼女の親類たちに取材をしているのだとわかります。でも、古賀が取材中にスケッチブックを取り出したあたりからは、劇中の事実ではなく、フィクションなのではないかな~と思いました。取材拒否して出て行った家族たちが一斉に戻ってくるのも不思議でしたし。古賀も七海も実在はせず、インタビューの時間もすべては架空の出来事で、私たちが考える材料として表されたのではないかと(そもそも演劇は虚構ですが)。
 実家からかなり遠い海辺にたどり着いた七海が、走り、ジャンプする間に、字幕が「死ンデ、イル。」から「生キテ、イル」に変わり、終幕。

 七海の姉・咲は、七海が「海に行きます」という書き置きをしていたことを黙っていました。理由は「それが七海が消えた理由だとしたら、きれいすぎるから」。嫉妬、ひがみ、恨み、怒りなどが充満しているよう…。一番好きなセリフだったかもしれません。

出演:
七海(浪江町から二本松市に避難した女子高生):片山友希、古賀幸広(記者):古山憲太郎、君塚幹男(七海の姉・咲の夫。七海にセクハラする):津村知与支、セイタにいちゃん(ユウおばさんの弟、東京在住):小椋毅、丸山正也(浪江町の高校で七海を教えていた体育教師。既婚であることをずっと隠しており、ユウおばさんと男女の関係になりかける)西條義将、土田翔(七海の浪江町時代からの彼氏):松尾潤、咲(七海の姉):成田亜佑美、ピーマン(ホームレスの男性):野口卓磨、ユウおばさん(七海の母の妹。二本松市在住の公務員):千葉雅子
※古賀幸広とセイタにいちゃんはダブルキャスト
脚本・演出:蓬莱竜太 美術:伊達一成 照明:沖野隆一 音響:今西工 衣裳:坂東智代 舞台監督:清水スミカ 宣伝美術:金子裕美 プロダクションスタッフ:中村優衣・中尾友也 制作:ヨルノハテ
【発売日】2018/06/03
全席指定・税込
一般 3,000円
U25 2,500円(引換券・25才以下対象・要証明書・東京芸術劇場ボックスオフィスにて前売りのみ取扱い)
高校生割引 1,000円(引換券・要証明書・東京芸術劇場ボックスオフィスにて前売りのみ取扱い)
三部作セット券 8,100円(引換券・税込・東京芸術劇場ボックスオフィスにて前売りのみ取扱い・3/4~31までの販売)
※営利目的の転売禁止
※未就学児童の入場不可
※受付開始は開演の1時間前/開場は開演の30分前
※U25、高校生割引、三部作セット券は引換券となります。
開演60分前から劇場受付にて、座席指定席券とお引換えの上、ご入場下さい。
ご来場順にお引換え致します。席位置をお選び頂くことはできません。
連番でご用意できない場合がございます。
※U25、高校生割引は、公演当日年齢の確認出来る証明書もしくは学生証をご提示ください。
※「三部作セット券」は、3枚同時購入で9,000円のところ、10%引きの8,100円となります!(3公演同時購入。1公演2,700円)
http://www.geigeki.jp/performance/theater174/
http://stage.corich.jp/stage/92167

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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