ナイロン100℃『睾丸』07/06-29東京芸術劇場シアターイースト

 ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが作・演出されるナイロン100℃の46th SESSION『睾丸』は、今から数十年前の日本が舞台のストレートプレイ。上演時間はカーテンコール込みで約3時間5分、途中休憩15分を含む。当日パンフレットは巨大サイズで1800円。

 舞台となる1993年といえば私はほぼ20代で、時代の空気は覚えていました。そこに、さらに25年前の1968年のものものしい風が吹き込みます。不穏さを常にかもしながら、カラっとした笑いもふんだんでした。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 ナイロン100℃、25周年記念公演の第2弾をお贈りする。だからというわけでもないが、25年前=1993年を時代設定にしたいと、今のところ考えている。

 1993年に25年ぶりに再会した二人の男と、彼らの家族の物語。
 1993年の25年前が1968年だと気づいたのは好都合だった。
 1968年。この年の5月、フランスはパリの衛星都市ナンテールに端を発した若者たちの反乱が、程なく日本にも飛び火した。支配・管理の構造を解体しようとする運動と、これを維持し温存しようとする体制との攻防の中で、若き二人は青春を燃やしていたのではないか。
 ならば68年を描いてはどうだ。否、その領域には、すでに先人達が数々の名作を遺している。私なんぞが今さら出る幕じゃない。
 1968年と2018年を結ぶ半世紀のきっかり中間地点。バブル経済が弾け、浮かれた日々を突然封じられた1993年の日本。
 「男なら我慢せい!金玉がついてるなら耐え抜かんか!」
 厳格な父親の叱咤を浴びながら育った男が、かつての盟友に会ってたいそう幻滅するお話だ。こちらの方がずっと興味深い。
 主宰 ケラリーノ・サンドロヴィッチ(本チラシより)
 ≪ここまで≫

 時代は今から25年前の1993年、場所は赤本健三(三宅弘城)の家。1968年に学生運動をしていた赤本のもとに、当時のリーダー・七ツ森豊(安井順平)についてのある情報が届きます。赤本の仲間だった立石伸高(みのすけ)とも再会し、25年前の1968年の回想が始まります。

 赤本の妻・亜子役の坂井真紀さんのすさみ具合、かまととっぷりが痛快でした。
 赤本の会社の社員・江戸一役と、学生カンバラ役の大石将弘さんは、私が今までに観たことのない姿、仕草をされていて、セクシーで良かったです。言葉もはっきりと伝わるし、演じ分け方も鋭いと思います。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 亜子(坂井真紀)は赤本と離婚して新しい恋人・霧島作郎(廣川三憲)がいますが、赤本の家にまだ居座っています。また亜子はなにかと包丁を持ち出し、ふざけて人を脅します。赤本宅に転がり込んでいる亜子の弟で元タクシー運転手の光吉(赤堀雅秋)は、元妻(新谷真弓)と堂々とセックスをして、赤本と亜子の年頃の娘・桃子(根本宗子)への悪影響など気にもかけません。桃子は桃子で、江戸(大石将弘)と組んで若い女性たちから金を巻き上げており、母娘で議員(吉増裕士)をゆすったりもしていました。赤本家は倫理観が欠如しています。

 立石(みのすけ)は赤本よりも過激で、25年ぶりにばったり会った赤本の家にやっかいになると決め込み、息子に自宅に放火させ、火災保険の保険金3000万円を手に入れようとします。実はパスポートの偽造もお茶の子さいさい。案の定(?)、息子(森田甘路)はおかしな考えに取りつかれていました。

 常識を軽く凌駕するアウトローな人たちの行動は、見ていて小気味よいですし、「人間たるもの、生まれたからには他人にかまわず、好きなことをやり遂げろ」という勇ましい気分にもなるのですが、七ツ森がセクトの資金集めのために亜子に売春をさせていた事実が、重くのしかかります。私が女性だからかもしれませんが、植物状態から約25年ぶりに生き返って、赤本宅にやって来た七ツ森に、亜子が包丁を向けるのは当然だと思いました。DV被害者が自分の被害を自覚するには、長い年月がかかるものなんですよね。

 暴君だった七ツ森を、亜子だけでなく赤本と立石も束になって糾弾するのにスカっとしました。それを認めて謝罪し、許してほしいと素直に泣きつく七ツ森も愛らしいと感じました。今の国会と違ってちゃんとしてるよ!! 「キンタマついてんだから、なんとかしろ!」という、女性(亜子)から七ツ森を含む男性たちに対する叱咤激励は、今を生きる私にも向けられていると思います。私には『睾丸』はないですが(笑)、肉体は持っているので。

 亜子の恋人の霧島が下着泥棒の常習犯だったという微笑ましい展開にほっこりした後、江戸(大石将弘)にもてあそばれた愛美(菊池明明)が、亜子が台所に出したままにしていた包丁で江戸を刺します。最終的には、赤本家によく出入りしている不真面目な巡査(喜安浩平)が、とっさに何度も発砲して、江戸と愛美を殺してしまいました。巡査はあまりに頼りなく、事件をなかったことにしようとするので、桃子が電話で110番。血の海になった台所を見た立石の妻(長田奈麻)が静かに驚いたところで、終幕。
 因果応報というのか…「この親にしてこの子あり」ですし、団塊の世代(私の親の世代です)は今も子々孫々に影響を及ぼし続けていると思います。

 「シアターアプルに鴻上尚史の芝居を観に行ったら、話がチンプンカンプンで、なぜか突然踊り出すんだ」という赤本のセリフに爆笑しました。

46th SESSION
≪東京、新潟、宮城、福島≫
出演:三宅弘城、みのすけ、新谷真弓、廣川三憲、長田奈麻、喜安浩平、吉増裕士、眼鏡太郎、皆戸麻衣、菊池明明、森田甘路、大石将弘、坂井真紀、根本宗子、安井順平、赤堀雅秋
声の出演:小松利昌
脚本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
音楽:鈴木光介(時々自動)
美術:香坂奈奈
照明:関口裕二 
音響:水越佳一
映像:上田大樹
衣装:前田文子
ヘアメイク:宮内宏明
擬闘:明樂哲典
演出助手:山田美紀
舞台監督:竹井祐樹
宣伝美術:チャーハン・ラモーン
制作:川上雄一郎 杉上紀子 桑澤恵 仲谷正資
票券:北里美織子
広報宣伝:米田律子
プロデューサー:高橋典子
製作:北牧裕幸
企画・製作:シリーウォーク キューブ
【発売日】2018/05/26
全席指定・税込 6,900 円 学生割引券 3,400 円
※学生割引券 チケットぴあ前売のみ取扱
※学生割引券は当日指定席引換券となります。
 当日、劇場受付にて開演30分前より指定席券とお引き換え致します。
 その際、必ず学生証 をご提示ください。学生証のご提示がない場合は一般料金との差額をいただきます。
http://cubeinc.co.jp/stage/info/nylon46th.html
http://stage.corich.jp/stage/92475

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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